カナダのブレア国防相は14日「F-35発注見直し」に言及して注目を集めたが、英国を訪問したカーニー首相も17日「カナダの安全保障が米国に偏りすぎている」「国防予算の約80%が米国製システムの調達に費やされている」「これを多様化する必要がある」と述べた。
参考:Canada reviews fighter deal, says it relies on US too much for security
安全はタダではないと強烈に実感する時代がやって来るだろう
西側諸国の多くは安全保障の基軸に「対米関係」を据え、どれだけ競合より高価でも、どれだけ納期が遅れても、どれだけ技術移転を含むオフセット内容が厳しくしても、米国製システムを選択することが「米国との関係・連携強化に繋がって安全保障に役立つ」と信じ、逆に中東諸国やアジア諸国では安全保障=武器調達を複数の大国・地域に分散させる傾向が強い。

出典:U.S. Army National Guard photo by Spc. Jovi Prevot
特にエジプトは安全保障の後ろ盾をソ連から米国に変更し、米国製システム(M60A1/A3、M1A1、M270、M109、Hawk、F-16、E-2、AH-64D、CH-47C/D、SH-2、UH-60、C-130H/Jなど)を大量に調達したものの、革命でムバラク政権が倒れると対米関係が悪化し、オバマ政権はシナイ半島の過激派=ムスリム同胞団や支援者に対する攻撃を理由にF-16やAH-64Dの引き渡し拒否、さらに米国は政治的な理由でエジプトが要請する装備売却をアップグレードを拒否したり、スペアパーツの供給を制限して圧力を加えたため、エジプトは武器の調達先を英国、フランス、イタリア、ドイツ、中国、韓国などに分散させている。
インドもロシア依存から脱却するため米国を含む西側諸国から武器調達を増やしているものの、この地域におけるロシアの立場が中国に傾くことを何よりも嫌うため、武器やエネルギー資源の取引を通じてロシアとの関係を維持するつもりで、サウジアラビアも対米関係を重視しながら欧州、ロシア、中国、韓国からも武器を購入し、バイデン政権が人権問題を理由に武器輸出を制限したため武器調達の分散はより一層強化されており、米国に依存する西側諸国とは非常に対照的だ。
Canada and the U.K. have a strong partnership rooted in history and focused on the future.
Prime Minister @Keir_Starmer and I spoke today about reinforcing that partnership with new security and economic opportunities. We’re ready to meet this moment together. pic.twitter.com/NHryPGJBy4
— Mark Carney (@MarkJCarney) March 18, 2025
カナダも安全保障を米国に依存してきた西側諸国の1つだが、トランプ政権の不確実性、カナダ合併発言、関税問題に直面したため、ブレア国防相は14日「空軍の要求要件を満たすプラットフォームとしてF-35Aを選定したが、我々は他の選択肢も検討している。全てをF-35Aで更新する必要があるのかどうかだ」と、同国防相の報道官はBreaking Defenseの取材に「首相はF-35Aがカナダにとって最善な投資かどうか、カナダのニーズを満たす他の選択肢があるのかどうかを判断するよう国防相に指示した」「カナダを取り巻く環境の変化を考慮して『現在の契約』が軍と国民にとって最善かどうかを確認しなければならない」と回答。
英国を訪問したカーニー首相も17日「カナダの安全保障が米国に偏りすぎている」「国防予算の約80%が米国製システムの調達に費やされている」「これを多様化する必要がある」「費用対効果の必要性、国内で代替航空機を生産できる可能性を考慮すれば、こうした選択肢(F-35Aの代わりとなる戦闘機)を検討するのは賢明でありカナダの利益にもなる」と述べ、欧州との関係を強化して米国依存を引き下げることを示唆した。

出典:Donald J. Trump
独首相候補のメルツ氏も「段階的に米国からの独立を達成することが優先事項になる」と述べ、これは米国に依存しない自立した(欧州の)安全保障を意味し、米国のBreaking Defenseはトランプ政権の不確実性を理由に「米国製システムは今後の選択肢においてデフォルトではなくなるだろう」「NATOに対するトランプの暴言は『米国が信頼できないパートナーである』と証明するかもしれない」と警告しており、カナダのシンクタンク=Canadian Global Affairs Instituteも「誰もが米国の技術・情報共有をどれだけ信頼できるのか再考しているところだ」と述べている。
西側諸国はウクライナとロシアの戦争を通じて「武器システムの主権確保が如何に重要か」を再認識し、トランプ政権の再登場で「外交・安全保障分野で米国と致命的に対立する現実」を突きつけられ、米国に依存して安全保障を確保する考え方、安全保障への投資は無駄だという風潮は終わりを迎え、安全はタダではないと強烈に実感する時代がやって来るだろう。
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※アイキャッチ画像の出典:Public Domain CF-18A/B
>国防予算の約80%が米国製システムの調達に費やされている
そら距離を置きたくもなるわな
防衛省の概算要求見てみたが自衛隊は割と国産頑張ってる印象
そして24式対空電子戦装置が子供の頃映画で見た奴まんまでワロタ
>24式対空電子戦装置
あれ、絶対ゴジラにレーザーかメーサー撃ちますよね
カナダなんて軍事衝突の可能性がある相手がアメリカに限られてるのにこれまでアメリカ製の装備で固めてた方がおかしいわ
普通に北極海挟んでロシアしかいないでしょ。軍事衝突の危険性がある相手。冷戦期ならカナダは北米防空の要だそい
目の前の北極海にロシアの戦略原潜が無数にいるのに、海軍戦力、ましてや潜水艦隊が弱小な時点で問題外でしょ。
ほんそれ。原潜が真に必要なのは豪州などではなくカナダ。陸軍を海外派遣用に機械化する予算があったら海軍に全振りしてほしい。ちょっと前の日本みたいに
だってその戦略原潜、たぶんカナダを狙ってるやつゼロだし。
攻撃したければ、受益者負担であるべきだ理論。
「いやそのSLBMはカナダ素通りでしょう」と書こうとしたらもう書かれてた。
そのSLBMをアメリカが迎撃したら、核弾頭を含む諸々が降ってくるのはカナダなんだけどね。
カナダが幾ら破片を浴びようが知った事かと言う態度にアメリカが出たら(イマジナリートランプはそういう態度取るんだろ?)、対策どうすんの?
イマジナリートランプと戦うのは自由だけど、もっと首尾一貫した態度取れよ?予算が動くんだろ?西側諸国についての個人的感想です
供給先の多角化とか依存する国とか見てると、日本は滅茶苦茶頑張ってないか?
ただ量産がね……
これは本当に戦争でも起きないと変わらない気がする
「消費」がほぼないものを大量生産しろ、と言われても作る側は困るんですよね。
だからこそ輸出が大事になるし「現に戦闘が行われている国を除外」が邪魔臭い…
色々と頑張っていますし今後は輸出できるようになればコスト面も改善するかもしれませんが、それでもどうにもならないのがエネルギーですね。
この問題がある限り日本の防衛は他国というかアメリカとの同盟は必要不可欠です。
ごくフラットに考えて、カナダ合併発言はどう捉えてもこの上ない侮辱だもんなぁ···そらキレるよ
カナダは空軍を除いても、水上艦、潜水艦と対米依存以前に色々問題だらけなので今更感はあるが、まあやる気出したならいいんじゃ?
何か土地面積広くて米国の友達なのは豪州も同じ筈なのに、豪州の良い所は全部除去して、駄目な所全部集約したような軍隊になってたから幾分改良が進むなら良いんじゃないかな
問題はこれを中長期的に継続してやれるかどうかだと思う。カナダの兵器開発史見てると
カナダは、アメリカに原油8割を、輸出しているんですよね。
パイプラインを通じて、アメリカ国内に直接送っているわけで、アメリカ以外を新規開拓するのかでしょうか。
カナダの石油は、オイルサンドがメインですから損益分岐点が高いことに特徴があります。
自動車等輸送機器・非鉄金属も、トランプ関税でどうなるのかなと…
カナダの財政、なかなか厳しいようですから、安全保障の余力を捻出できるのか今後に注目ですね(日本・カナダGDP比較すれば凄い追いつかれましたね…)。
>(1)輸出 石油・ガス、自動車等輸送機器、石油精製品、非鉄金属、貴金属、航空宇宙製品及び部品等
(カナダ 基礎データ 外務省)
(2025年01月08日 カナダ産原油、政策要因で高まる生産下振れリスク ― トランプ関税引き上げとカナダの環境規制強化が背景 ― 日本総研)
(2024年12月11日 カナダ、財政健全化目標に未達か 財務相が言及避ける ロイター)
カナダの立地で兵器調達先のみを改革の争点としている時点で、安全保障への懸念というより交渉やアピールの一環、最大限好意的に解釈しても政治的自由度の追求でしかないのでは。
カナダや欧州諸国や英国の動きを見ていると「米国は実は西側諸国の盟主では無かった」というだけのことだと思うんです。
トランプ政権も続いて四年なんです。一応は。
でも、カナダや欧州の指導者が口にしているのはもっと長期的なことです。これはちょっとおかしい。中間選挙もありますから、トランプ政権がレームダック化する可能性もあるし、何ならその可能性も別に低くはありません。
でも、それが多分わかっているだろうにこうしてるというのは、むしろ米国を反乱を許さないという「西側諸国総体」の意志だと思うんですね。
トランプが明らかにした事は、実はこういう事だったのではないかと。
盟主だ、指導者だ、最強の超大国だと持ち上げておけば、面倒な事や大変な事を全部米国にぶん投げて自分達はそれに対してああだこうだ言えるという。誘導した通りに動いているうちは、持ち上げるが、そうしなくなるとこんなもの。
こんな状態が実相だったのではないかという風にしか見えません。
それをトランプがわかっていたのなら、むしろこういう事を露呈させるために動いていたとしても驚きは無いので。
米国が盟主だ、世界をリードしていたと思えば、トランプの行動は異常です。
でも、そういう風におだてられて体よく使われていたのでそれが嫌になっただけ、って事ならトランプの行動はある意味もっともです。
どっちなのかはこの先の展開でわかると思いますね。
仰る通りですね。
ヨーロッパを注意深く観察すると。
EUブロック経済圏を作り、ユーロ通貨を作ってドル基軸通貨で対抗。
アメリカ企業には適当な理由をつけて、様々な制約をつけてEU企業育成しようとしたり、罰金で利益没収をしてるんですよね(アップル=スポティファイなど)。
EU圏が東に拡大していっても、アメリカは安全保障の負担を負わされながら旨味は小さいので、損な役回りなんですよね。
挙句の果てに、独仏でさえもロシアとの天然ガス取引拡大だけでなく、兆円単位の巨額出資をしてきたわけで…
とはいえ米バイデンが「おれが支援しまくるからロシアと付き合うな」って動きを嬉々としてやってきたのがウロ戦争だし
ドイツとか最初関わるの嫌々だったのにロシアと分断されたしスイスはロシア資産凍結で喧嘩売らされたし
さんざんアメリカが煽っておいてどういう了見だという気持ちもわからないでもない
イギリスの暗躍が大きそうだけど
まさにどっちもどっち、ですな。まあ、国家間の関係性なんて元来、持ちつ持たれつなんでしょうけど、相互の敬意を欠けば、都合よく利用し合うだけの存在に認識が劣化してしまう。
おなじミンス党の大統領のオバマでも「世界の警察をやめる」とわざわざ発言するほど現実はわかっていたんですが、ホント、バイデンは…。
しかし、自動サイン機械を濫用していたのはビックリ。オバマが初めて法案署名に使ったときは、相当、言い訳していたのに。
”51番目の州になれ”、発言は無礼ですよね。
そんなこと言われないように、自国の経済構造も変えていくのかな。
大変だろうけれど。
他所の記事の孫引きですが、米/加の労働条件の比較がありました。
いわく。
”最低賃金:カナダ1900円~1500円、米国7.25ドル=1078円。
所得税の中央値:カナダ20.5%、米国22%。
健康保険:カナダは税金でカバー、米国は平均7000ドル/年/人。
労働組合の組織率:カナダ30%、米国10%。
有給の育休:カナダで最大78週間。米国で無し。”
これでは、カナダ人は嫌がるのでは。日本人でも嫌がる、と思います。
嫌なら後はもう自分で作るしか無い。インドやトルコみたく
少なくともこの記事翻訳の中ではトランプというより民主党政権時のやらかしでそうなったと読めるんだけど
トランプは最後の後押しみたいなもん
この流れは当然哨戒機についても起こり得る訳だけど、カナダのP-8は14+3機発注済みなんでしたっけ。
ボンバルティア血涙流してそう。