北米/南米関連

カナダにとって防衛はタブーではない、中東欧最大の防衛見本市で積極的な売り込み

ポーランドで開催されている中東欧最大の防衛見本市=MSPOには1200社を超える防衛企業が世界中から集結し、その中でもカナダは地元ポーランドに次規模の企業を送り込んで積極的に取引の機会を模索している。カナダ公共放送のCBCも「もはや防衛はタブーではない」と報じている。

参考:No longer taboo, Canada’s defence industry steps into Europe’s spotlight

急速に変化する防衛市場の常識、積極的に挑戦した者だけが将来の成功を掴み取れる

ポーランドでは中東欧最大の防衛見本市=MSPOが毎年開催されているが、記録的な伸びを見せるポーランドの国防費(2026年538億ドル=約8.3兆円)に加え、EU融資(SAFE)制度において最大の恩恵=437億ユーロ(約509億ドル)を確保することに成功したため、今年のMSPO 2026には世界中から出展企業が殺到し、ポーランド側も追加の出展スペースを設けて対応したものの、11の展示ホールに用意した全ての展示スペース(49,000平方メートル以上)が完売して1,200社を超える防衛関連企業が集結した。

MSPO 2026の公式出展者リストには1,517件が登録されており、トルコやウクライナを含む欧州地域から496社、北米地域から286社、それ以外の地域からも126社、国別で見るとポーランド(589社)、カナダ(198社)、ドイツ(105社)、米国(88社)、オランダ(55社)の順となり、カナダ公共放送のCBCは10日「もはやタブーではない、カナダの防衛産業が欧州の脚光を浴びる。米国との貿易摩擦を懸念して欧州に前例のない売り込み」と報じている。

“カナダは今回初めてポーランドで開催されている欧州最大規模の防衛見本市においてリード・ネーション(主導国)を務めており、会場のカナダパビリオンには230以上の企業や団体が集結している。カナダ政府のロゴが描かれた赤と白の横断幕がカナダの大々的なプレゼンスを引き立てており、時折鳴り響くバグパイプの音色がさらに雰囲気を盛り上げている。欧州は今後3年間で最大8,000億ユーロ=約148兆円の国防費を動員して再軍備を進めるつもりで、カナダは非欧州国としてSecurity Action for Europe=欧州安全保障行動(SAFE)に唯一参加が許可されており、欧州の防衛契約入札に参加することが可能だ”

“カナダは米国との貿易戦争を受けて主要産業の多角化を推し進めており、オタワに拠点を置くRobotics Centre=ロボティクス・センターのチャールズ・バーロウ最高経営責任者は「防衛は忌み嫌われる言葉で連邦政府の貿易委員は手を貸そうともしなかった」「それが突如として防衛産業を積極的に受け入れるように変化した」と驚いている。MSPOに出展したカナダ企業も「カーニー政権による資金援助がなければポーランドへの渡航は不可能だっただろう」と語る”

“政府の統計によればカナダ防衛産業は国内経済に100億カナダドルの貢献をして8万1,000人以上の雇用を支えている。政府の新たな防衛産業戦略は今後10年間で12万5,000人以上の新規雇用創出を目指しており、赤と白の横断幕やメイプルリーフはブランディングの助けになっても欧州市場への参入には重大な困難が伴う。カナダ防衛・安全保障産業協会のクリスティン・チャンファラニ最高経営責任者は「ここは厳しい市場だ。今回参加しているカナダ企業の多くは中小企業で、彼らがカナダ政府の支援なしに欧州諸国へ直接製品を売り込むのは非常に困難だ」という”

出典:TKMS

“例えばカナダが欧州諸国から何かを購入し、その取引にカナダ企業が関与することで欧州のサプライチェーンの一部に参加することができ「ドイツは潜水艦購入に関連してカナダ企業を自国のサプライチェーンに引き入れることを約束しました。これは非常に優れたやり方だ」「それでも世界最大の国防支出国として圧倒的な存在感を放つ米国の引力は依然として強力だ」「カナダ企業にとって市場シェア50%以上を占める米国から軸足を移すことは容易な転換ではない」「米国は地理的にも近くタイムゾーンも同じでNORADの関係性が我々に特権をもたらしてきた」と指摘する”

“ケベック州ブロモンに拠点を置くジール・モーターのデイビッド・ロード氏もポーランドで大きな跳躍を成し遂げようと模索している一人だ。同社はファットトラックとして知られる巨大な全地形対応車を製造している。浮力をもつ巨大なゴムタイヤと柔軟なシャーシを備えたファットトラックは北極圏や過酷な地形での捜索救難活動に高度に対応しており、これまでにカナダ、米国、英国での販売実績はあるが、現在は欧州に照準を合わせているものの、その道のりはファットトラックが走破する過酷な地形と同じくらい困難なものになっている”

出典:FAT TRUCK Zeal Motor

“彼が直面している最大の課題の一つはシンプルに「見込み客に実物を見せること」で、ロード氏は「欧州にソフトウェアを売るなら簡単だが、ファットトラックを売るには2万1,000ポンドもの機材を海を越えて輸送しなければならず、これは多大な投資が必要だが実際に運転して地形を制覇する体験に勝るものはない」という。カナダ企業が進出を試みているのは高額な輸送費や物流上の障害に加え、ウクライナ戦争によって構造が根本的に書き換えられた欧州市場で、もう信じられないぐらい時間のかかる調達方法は通用しないことを痛感している”

“カナダ企業が成功するには早いペースで変化する欧州の現実に適応しなければならない。バーロウ氏は「特に開発サイクルが短く頻繁に改良される装備品調達の変化は本当に早い」「昔のように腰を据えて艦艇を設計し、建造を開始して構想から8年後に実戦配備するようなやり方はもう通用しない。今では8ヶ月以内に完成させなければ生き残れない。そしてそのスピードはどんどん加速している」と指摘する。ドローンを製造するロボティクス・センターのような企業にとって多額の補助金を受ける欧州企業と欧州市場で競争することがハイリスクな新たな日常になっており、バーロウ氏は「これが我々が生きる現在の環境だ」と語った”

出典:Polska Grupa Zbrojeniowa SA

ポーランドは2027年も国防費として1,981億ズウォティ=約534億ドルの拠出を予定している上、EU融資=437億ユーロの大部分が流れ込んでいるポーランド企業には沢山の仕事が溢れており、デービッド・マクギンティ国防相はMSPO 2026のオープニングセレモニーで「我々が欧州への進出を拡大する上で(MSPO 2026への参加は)非常に大きな突破口となる」「我々は多様化を進めながら新しいステップを踏み出している。米国との真剣な交渉にも前向きだが、現在のカナダにとって最優先事項は地域社会、労働者、そして防衛産業におけるより大きな活力を創造することだ」と語った。

カナダ政府がMSPO 2026への出展を支援して230以上の企業や団体をポーランドに送り込んだのも、ポーランドを含む欧州企業や政府関係者と直接接触してビジネス上の機会を探るためであり、オーストラリア企業52社、イスラエル企業21社、台湾企業21社、韓国企業16社、中国企業6社、シンガポール企業3社がMSPO 2026の出展スペースを買ってポーランドに出向いたのも同じ機会を掴むためで、この市場規模がどれぐらいのものか肌感で言えば日本の主要防衛企業が受注を期待する額の10倍以上だ。

出典:航空自衛隊

日本は2022年~2027年の5年間で総額約43兆円を防衛力整備計画に投資するものの、ここには人件費、維持整備費、施設費、燃料費が含まれるため、弾薬やサービスを含む装備調達額は5年間で17兆円~20兆円、単年で見れば1.5兆円~2兆円規模に過ぎず、しかもその一部はF-35、トマホーク、迎撃ミサイルといった米国製装備の調達に費やされるため、日本の防衛企業が国内市場=自衛隊発注に留まればこの規模のパイを奪い合う形になる。

ポーランドの国防費だけで日本の防衛費に匹敵し、そこにSAFEを通じて装備調達に437億ユーロ=約8兆円の上乗せがあり、SAFE全体(ベルギー、ブルガリア、デンマーク、スペイン、クロアチア、キプロス、ポルトガル、ルーマニア、エストニア、ギリシャ、イタリア、ラトビア、リトアニア、ポーランド、スロバキア、フィンランド)で見れば総額1,120億ユーロ=約20兆円の融資計画が承認されており、評価中のフランス、チェコ、ハンガリー申請分が承認されれば総額は約1,460億ユーロ=約26兆円に増加する見込みだ。

出典:KNDS Deutschland

さらにドイツはSAFE融資を申請せず、独力で2026年から2041年までの間に総額4,002億ユーロ=約71兆円を装備品調達に投資予定で、ドイツ議会が2025年に承認した装備調達契約の829.8億ユーロ=14.8兆円、2026年の夏季休会前までに承認した推定130億ユーロ=約2.3兆円だけで日本の5年分、SAFE融資とドイツ分だけで日本の10年分相当になり、ここにドイツ以外の欧州諸国が国防費から拠出する装備調達資金が加わるため、この巨額のパイに食い込むため欧州諸国以外の防衛企業がMSPO 2026に殺到している。

これだけの需要に短期間で応えるためには欧州域内のサプライヤーや防衛に特化したサプライチェーンだけでは到底足りないため、ここに大きなビジネスチャンスがあるのだが、残念ながらMSPO 2026の公式出展者リストに日本企業として登録されている企業は1社もないが、日本企業の子会社・グループ企業まで広げるとパナソニックの欧州販売会社=Panasonic Connect Europe GmbH(ポーランド)、帝人の子会社=TEIJIN Aramid GmbH(ドイツ)、創美工芸の欧州拠点=SOHBI CRAFT POLAND(ポーランド)が含まれる。

出典:SOHBI CRAFT POLAND

日本企業が出資している外国企業まで見ていくと米国企業として出展しているSkydio, IncにはNTTドコモ・ベンチャーズやKDDIが出資しており、ポーランド企業として出展しているICEYE Polskaの親会社ICEYEには東京海上HD、鹿島建設系のKajima Venturesが出資し、Palantir Technologies Polandの親会社Palantirに富士通とSOMPO HDが出資していたものの、現在も富士通とSOMPO HDがPalantirの株式を保有しているのかどうかは不明だ。

さらにポーランド企業として出展しているKAWASAKI POLSKA(Kawasaki Motors Europeの正規輸入代理店)はポーランド人が株主のProbike Sp. z o.o.が所有しており、川崎重工やKawasaki Motorsの子会社ではないため、日本企業の子会社・グループ企業、日本企業が出資している外国企業まで広げれば関連企業が6社参加(Palantir Technologies Polandを含めた場合)している格好だが、日本企業が積極的に欧州の装備調達需要に食い込もうとしているとは見えない。

出典:Dominion Dynamics

もちろんカナダがMSPOに230以上の企業や団体を送り込んだところで直ぐに結果が出るわけでもなく、その大半が中小企業なので何らかの取引に発展しても金額がしれていると言えばそれまでだが、カナダにも元アンドゥリルのエリオット・ペンス氏が祖国の防衛ニーズに対する緊急性を危惧して創設した防衛スタートアップ=ドミニオン・ダイナミクスがあり、今年6月にはシリーズAの資金調達で1億3,900万カナダ・ドル=約155億円を集めることに成功しており、2025年6月に創業してから約1年で企業価値が約4億米ドル=約617億円(民間データベース)まで高まり、カナダ空軍向けの自律型協調プラットフォーム(ACP)開発が進んでいる。

パーマー・ラッキー氏はAIと無人技術に特化した防衛スタートアップ=アンドゥリルを2017年に創業、米空軍が2024年4月にCollaborative Combat Aircraft=協調戦闘機(CCA)の第一弾調達としてボーイング、ロッキード・マーティン、ノースロップ・グラマンではなくアンドゥリル提案のFury(現在のFQ-44A)を選択し、2024年9月には超大規模生産と大量使用を前提にした低コスト巡航ミサイル=バラクーダシリーズを発表し、2026年には防衛省が低コスト巡航ミサイルの検討するところまで来ている。

出典:Helsing

楽天グループが陸上自衛隊に売り込んでいる徘徊型弾薬HX-2もドイツの防衛スタートアップ=ヘルシング製で、同社も2021年3月にミュンヘンで設立されたばかりだが、アンドゥリルと同じようにAIを核にしたソフトウェア定義型兵器を自社資金で次々と開発し、今年7月にはシリーズEの資金調達で18億ドル=約2,700億円の資金調達に成功して企業価値はたった5年で180億ドル=約2.7兆円に達しており、シリーズAの資金調達に成功したドミニオン・ダイナミクスも政府資金に依存せず成長の可能性を追求できるため、数年後にアンドゥリルやヘルシングと同じ景色に到達していても不思議ではない。

バーロウ氏が言うように現在の装備調達は「アイデアを持ち込んで予算を確保してから開発を始める」から「アイデアを自社資金で形にしてから売り込む」に変化し、もう「装備調達にじっくり時間をかける」という従来の常識は通用しなくなっているため、積極的に挑戦した者だけが将来の成功を掴み取れるのだろう。

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※アイキャッチ画像の出典:Victor Fedeli

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コメント

  • コメント (3)

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    • 名無しさん
    • 2026年 9月 11日

    羨ましいですね!日本にとってはタブーだから
    敗戦国であり戦犯国の日本の武装化は日本国民と周辺国の理解を得る必要があります

    1
      • 匿名11号
      • 2026年 9月 12日

      まあ前世紀はそうだったのでしょうね。
      時代は変わりましたなあ。

    • ななしのシロウト
    • 2026年 9月 11日

    わが国の防衛関連企業は民間向けがメインの企業の一部分のケースが多いので、防衛装備品の輸出はその企業にとって優先順位がそれほど高くないと考えられます
     第1優先 安定した需要が見込める民間市場の開拓
     第2優先 わが国防衛省の要求を満足させること
     第3優先 防衛装備品の輸出

    防衛スタートアップ企業が力を付けてくれば、状況は変わると思います

    4

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