カナダが進めている新型潜水艦調達の最終候補は「ドイツの212CD」と「韓国のKSS-III」に絞られ、ドイツのピストリウス国防相もカナダを訪問して「潜水艦契約を受注できればカナダ製の戦闘管理システムやBombardier製のビジネスジェットを購入する」とアピールした。
参考:Submarine Partnership Pitched By Germany And Norway To Canada
参考:Pistorius wirbt in Kanada für Einstieg in deutsch-norwegisches U-Boot-Projekt
カナダがどちらの潜水艦を選ぶにせよ、この入札は勝利した企業に経済的恩恵をもたらすだけは済まない
カナダのブレア国防相は2024年7月「最大12隻の通常動力型潜水艦の取得手続きを正式に開始した」「正式な情報提供依頼書(RFI)を秋に発行する」と発言し、待望のRFIが9月に発行され「魚雷、対艦ミサイル、陸上攻撃用の長距離攻撃兵器搭載」「契約締結は2028年」「1番艦引き渡しは2035年」「海外建造=完成品の輸入」「サポート、訓練、インフラ分野へのカナダ企業参入=技術移転」を要求していることが判明。

出典:海上自衛隊
この入札にはフランス、ドイツ、スペイン、スウェーデン、韓国、日本で争われると噂され、日本メディアも「カナダが計画する次期潜水艦の有力候補にたいげい型潜水艦が浮上している。有望視される日本の潜水艦輸出を実現するには政府や企業が一丸となることが求められ、日本国内での建造にカナダの理解を得る外交努力を重ねることも不可欠だ」と盛り上がっていたが、The Hill Timesは11月「RFIの回答期限前、我々の取材に日本大使館は『カナダ海軍向けの潜水艦入札に日本企業は参加しない』と回答し、複数の関係筋も『三菱重工業はたいげい型潜水艦をカナダに提案する予定はない』と述べた」と報じていた。
カーニー首相も今年8月にTKMSの造船所を視察した際「潜水艦入札のShort List=適格候補をドイツと韓国に絞った」「公正で透明な競争に尽力する」「秋にはHanwha Oceanの造船所も訪問する予定だ」と発表、カナダ国営放送のCBCも「ドイツと韓国の競争は熾烈だった」「メルツ首相はカナダをドイツとノルウェーの共同調達関係に引き込みたいと考えている」「スペインとスウェーデンも情報提供に応じたが要件に基づく徹底的な評価で排除された」「カナダは2027年までに最終決定を下す予定だ」と報じている。

出典:Hanwha Aerospace Europe
Hanwha Oceanも「我々とTKMSは潜水艦入札の決勝チケットを手に入れた」と表明し、カーニー首相は今月24日からマレーシア、シンガポール、韓国を訪問する予定で「その際にHanwha Oceanの造船所を視察する」と発表したが、ドイツのピストリウス国防相もノルウェーのサンドヴィク国防相と共にカナダを訪問し、マクギンティ国防相を含む政府関係者や議会関係者と会談して「212CDプログラムへのカナダ参加」を訴えた。
独ディフェンスメディアのhartpunktは22日「韓国は費用対効果の高いKSS-IIIの迅速な納入に加え、非常に広範なオフセットまで提供すると申し出いている。カナダは潜水艦契約にオフセットの提供を要求しており、ピストリウス国防相もオタワの会見でオフセット交渉を進めていると明かし、ドイツ海軍向けにLockheed Martin Canadaが開発した戦闘管理システム=CMS330を購入する可能性に言及した。さらに今後数年以内に最低でもBombardier製のビジネスジェットを18機購入する予定で、もしGlobalEyeの調達が決まればさらに多くのビジネスジェットを調達する可能性がある」と言及。

出典:Bundeswehr
ドイツ海軍向けのCMS330購入は新型フリゲート艦=ミサイル防衛に対応したF127向け、Bombardier製のビジネスジェット=Globalシリーズ購入は電子戦や信号情報収集など特殊任務向けを想定している可能性が高く、GlobalEye調達もスウェーデンのジョンソン国防相と会談したピストリウス国防相が「ドイツはAWACSの取得を検討中でGlobalEyeは選択肢の1つだ」「控えめに言ってもGlobalEyeは最有力候補だ」と発言したことに起因している。
サンドヴィク国防相も「ノルウェーはカナダのAIソリューションに関心がある」「ベルゲンに建設している潜水艦整備拠点と同じものをカナダに建設できる」と、さらにピストリウス国防相は「カナダが望めば潜水艦の構成部品生産やカナダ国内での潜水艦建造にも対応できる」「韓国は優秀な潜水艦を建造しているが我々はもっと優秀な潜水艦を建造している」「212CD建造はコスト超過もなく予定された時間枠で順調に推移している」と付け加えた。
因みにWar Zoneは「カナダがどちらの潜水艦を選ぶにせよ、この入札は勝利した企業に経済的恩恵をもたらすだけは済まない」「新しい潜水艦を手に入れたカナダ海軍は復活しつつあるロシア海軍の潜水艦と北極圏で対峙し、ますます戦略性が高まっている北極圏の哨戒で重要な役割を果たすだろう」と指摘している。
追記:TKMSのウェブサイトは情報を発信する気があるのか疑うレベルのクソデザインだったのだが、非常にオシャレで必要な情報にアクセスしやすいデザインに最近変更され、この傾向はTKMSに限った話ではなく世界中の防衛企業に共通する傾向で、管理人が世界一のクソデザインと勝手に認定していたヒンドスタン航空機のウェブサイトサイトも最近新しいデザイン(まだ不具合が多い、、、)に変更されており、積極的な情報提供が自社製品の宣伝やイメージの構築に役立つと気づき始めているのだろう。

出典:TKMS
さらに防衛分野に参入した新興企業になるとプレスリリースとは別に「当該製品の画像」をバンバン用意してくれるため「記事を書くのに使ってね感」が強烈に伝わってくる。
追記:潜水艦入札の適格候補に残った時点で212CDとKSS-IIIは共に「カナダ海軍の要求要件を満たしている」と判断されているため、今後の重点は潜水艦の性能よりも、潜水艦契約の中身=各構成要素に対する提案の内容や質が問われることになり、オフセットの内容も非常に重要な要素になる。
関連記事:カナダの潜水艦調達を巡る戦い、最終候補をドイツと韓国に絞ったと発表
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※アイキャッチ画像の出典:TKMS





















ドイツ人を筆頭に欧州人の放漫さを日々見せつけられてるから私念で言うが、韓国が勝って欲しい。
細かな改修や利用時の横槍は明らかに韓国の方が融通が効くだろうし、そもそも最近のドイツ製兵器はカタログスペックは立派だが整備に手間がかかり、コストも高く頻繁にドイツから横槍が入っていいイメージがない。
韓国は中国やロシアに対して及び腰になる場合があるからイマイチ頼りにならんのですよ
カナダがロシアとの間で緊張が高まった時にきちんとサポートしてくれるの?という疑問があるのです
韓国のやつも系統的には、ドイツ系よ。
なんでまだアフター的には、ドイツの方がまし疑惑がある。(NATOで色々と融通聞く可能性もあるし)
放漫さで言うと韓国人の方が感じるけどなぁ。
最近の兵器産業の頑張りようはともかく。
追記部分の対極にあるのが、防衛省のポンチ絵なんですよね…
シールド構想のイメージイラストとか、もうちょっと凝ってと言うか、X-BATのCGアニメぐらいやれとは言わないので、伝える気合をもう少し入れて欲しい
お抱え絵師とか居ないんですかね?
おまねこの絵は自衛官が描いたというし、人材は居そうなんだが……
まあアレは国民様議員様にA4用紙一枚で説明する為に図ですからね…
分かりやすいっちゃ分かりやすいんですが
まあ、ドイツ製を選べば、オフセットでボンバルディアの機体をお買い上げというのはポジティブ要素なんでしょうけど、だったら韓国製潜水艦を選んだから、ドイツの選択肢からGlobalEyeが消えるという話にはならないだろう。
韓国は既にGlobalEye購入決定済みか。買い増し?
ドイツの勝るところって「U-boat時代から高性能な潜水艦を作ってる」という認識ぐらいじゃないかな。
実機で比較すると、「既に実物が存在する(KSS-3はつい最近4隻目が進水)」、「より大きい(水中 4,000t vs 2,800t)」、「対地攻撃能力がある」など、212CDの優位性が見当たらない。
更に、ドイツが韓国より大胆な提案ができるとも思えない。契約のオフセットで韓国に劣るはず。
韓国の近代潜水艦はまさしくドイツ製の系譜であるが
まさか性能においてもドイツと肩を並べるまでの商売敵に成長するとはねー
技術提供等の韓国のなりふり構わない商売は同じ様にライバルを育てる可能性はあるけど
3大国の様にモンキーモデルを売りつけるよりは好感は持てるけどね
横合いから失礼。
「軒先貸して母屋を取られる」とはこの事ですよね。
韓国の新しい3000t級も、214型の拡大版にしか見えませんから……
>韓国の新しい3000t級も
韓国の 3,000t級は、4年前の2021年に就役した島山安昌浩ですね。今月進水したのは、3,600t級の蔣英実です。3,000t級は、前級なので、もはや新しいとは言えなくなりました。
実は、韓国も日本に負けず劣らないペースで潜水艦を作っています。
ドイツの勝るところって「U-boat時代から高性能な潜水艦を作ってる」という認識ぐらいじゃないかな。
実機で比較すると、「既に実物が存在する(KSS-3はつい最近4隻目が進水)」、「より大きい(水中 4,000t vs 2,800t)」、「対地攻撃能力がある」など、212CDの優位性が見当たらない。
更に、ドイツが韓国より大胆な提案ができるとも思えない。契約のオフセットで韓国に劣るはず。
オフセット以外の政治的な思惑はさほど影響を与えないのかな?
日本だと直ぐ「当て馬だ」と勘ぐりますが、基本的に欧米の入札はガチンコで、機密に触れない範囲で選定結果やその理由も公開され、政府は提出された評価結果に基づいて勝者を発表するため、出来レースや政治的思惑のみで勝者を決めることはないというか、選定結果を無視して勝者を決めれば最終入札に参加した企業は確実に訴訟を起こして地獄絵図になります。
但し例外も存在し、ノルウェー軍の調達部門はレオパルト2A7とK2をテストし、提案された契約内容やオフセット内容も比較した上で「K2を採用すべき」と政府に勧告したものの、入札を開始後にウクライナ侵攻が勃発して安全保証環境が激変し、政治的にドイツとの安全保障協力を優先する必要が生じたため、ノルウェー政府は勧告に逆らってレオパルト2A7の調達を発表し注目を集めたことがあります。
この件について現代ロテムの現地代理企業=Military Equipment Denmarkは「現代ロテムはFMAの買収プロセスにはとても満足している」「他国での経験と比較してもノルウェーの買収プロセスは非常に熟成されていると思う」「政治的な要因でドイツから戦車を購入するのが最も望ましいと考える政治家が現れるまでFMAの買収プロセスにとても満足していた」「今回の件を通じてノルウェーの政治体制は調達部門の客観的な評価を無視する用意があることを示した」「次の大規模調達では戦略的パートナー(ドイツ、英国、米国など)からの購入が買収プロセスの評価より優先されるのかどうかを事前に明かしておいて欲しい」と皮肉るに留め、現代ロテムは入札結果を受け入れました。
欧米の入札は「訴訟を起こす権利」が認められているため、本来なら訴訟に発展してもおかしくはないのですが、当時の状況はウクライナ侵攻が勃発した直後だったので仕方ない判断だったという側面もあります。
なるほど、詳しい解説ありがとうございます
改善される前の世界一のくそデザインってどんなものだったか俄然興味がわきました
ちょっとしたテクニックですが、Internet Archiveにアクセスして、WaybackMachineのページで、この場合、
リンク
を入力します。クロールに失敗していることも少なくありませんが、データ量が多そうな部分をクリックすると在りし日のページを見ることができます。
なんというかカナダ潜水艦の仕様がよく分からん。ラブラドル湾やバンクーバー島沖からミサイル撃つ運用なら韓国潜水艦のが優位なのか?
北極海や北大西洋、太平洋でロシア原潜とファイトするなら英米原潜一択になりそうだが。
北極圏の過酷な環境下での運用ノウハウという点ではドイツ・ノルウェー組に優位性がありそうですし、オフセット提案も魅力的でしょう。
カナダからの技術移転要求などは特に無茶なものではありませんし(技術移転の提案でがんばってもあまり得点にならない感触)、
ドイツ有利という印象を受けます。
「高温地域で運用すると発電能力が大幅に低下する」の逆バージョンはあるんでしょうかね。
ナセルでの砕氷能力のノウハウとかはありそうだけど。
日本の軍オタはドイツブランドを特別視するのがデフォルトとなっているけども、ドイツの製造力がしょぼくなっている現実を見た方が良いと思う。冷戦終結以降になってドイツで建造された潜水艦はそれ程信頼性の高いものではない。韓国の工業製品は20年前はパチものレベルだったが経年的に改善を積み重ねた結果、現在は先進工業国レベルに達している。潜水艦も10年前は欠陥品だったが、建造と運用経験を蓄積することで停滞していたドイツ潜水艦製造力に追いついたと評価すべきだろう
韓国製潜水艦が実戦でその能力を発揮すれば良いのです。
ドイツに関してはイスラエルのドルフィン級が実戦投入されていますからね。
>冷戦終結以降になってドイツで建造された潜水艦はそれ程信頼性の高いものではない
209型とその派生は潜水艦のベストセラーと言えるくらい優れた製品なのですが。
別にドイツ、韓国を持ち上げも、貶しもする気は無いが、カナダのよく分からない潜水艦運用に振り回されるじゃないかなと。
優れていると言っても大きな差ではないだろうし
発注してどのくらいで納品されるか、要望やアフターをどのくらいサポートしてくれるかのような…