北米/南米関連

カナダ政府、CF-18A/Bの後継機争いからF/A-18E/Fが脱落したことを正式に発表

カナダのトロント・スター紙は「CF-18A/B後継機選定プログラム(FFCP)の入札に参加しているボーイング提案のF/A-18E/Fが競争から脱落した」と報じていたが、カナダ政府は今月1日にF/A-18E/Fが競争から脱落したことを正式に発表した。

参考:Government of Canada announces key milestone in process to replace Canada’s fighter jets
参考:It’s Official, Canada Has Rejected The F/A-18 Super Hornet As Its Next Fighter

F/A-18E/Fが選考から外されたのはF-35AとグリペンEがもたらす経済効果に挟まれボーイングの提案が色褪せて見えたからかもしれない

カナダ公共事業・調達省が発表したプレスリリースによると「戦闘機の能力(60%)、調達コスト(20%)、カナダ産業界への再投資やオフセット契約(20%)の3要素で評価が行われているCF-18A/B後継機選定プログラム(FFCP)でカナダの要求を満たすのはロッキード・マーティン提案のF-35Aとサーブが提案したグリペンEのみで、今後数週間の内にFFCPの最終ステップを開始して勝者を決定し調達に向けた交渉を行う」と説明している。

この発表を受けて米メディアは「恐らくF/A-18E/Fが競争から脱落した原因はカナダ産業界に対する経済効果が他の案によりも劣っていたのだろう」と報じているのが興味深い。

出典:Public Domain カナダ空軍のCF-18A

ボーイングはF/A-18E/Fの経済性について「CF-18A/Bを運用しているカナダ空軍のインフラをF/A-18E/F向けに転用することができ、同社は今後40年間で数十億ドルの投資を行いカナダ国内で数十万人もの雇用を創出する」と述べていたが、同機最大の顧客である米海軍のF/A-18E/F運用はF/A-XXへの移行(2030年代中)が確実視されているため終わりが見えており海外輸出も順調とは言えないため、今更F/A-18E/Fのサプライチェーンに参加しても旨味=ビジネス的な広がりが限定されてる。

一方のF-35Aはすでにカナダ産業界に大きな利益をもたらし始めており、この経済効果は今後加速度的に増加していくとロッキード・マーティンはカナダにアピールしている。

F-35プログラムに参加したカナダ政府は累計6億1,300万ドル/約690億円(1997年以降に投資した合計額)を出資しているが、この見返りとしてカナダ企業110社は合計20億ドル以上のF-35製造に関連する契約を確保して15万人分の雇用を生み出しており、ロッキード・マーティンは「F-35プログラムが完全に終了を迎える(運用が終わるという意味)までにカナダ産業界は132億ドル/1.5兆円以上の利益を得ることになる」と説明しているため、恐らくカナダ産業界に対する経済効果という点ではF/A-18E/Fを凌駕している可能性が高い。

グリペンEを提案しているサーブはブラジルと同じようにカナダ国内での完全な現地製造を提案しているため、部分的な製造参加に留まるF/A-18E/FやF-35Aとは異なる経済効果をカナダ産業界にもたらすと期待されており、F/A-18E/Fが選考から外されたのは「同機がもたらす経済効果が両機の提案に挟まれ色褪せて見えた」という部分に原因があるのだろう。

ただF-35AとグリペンEのどちらが勝利するのかについて米メディアは「分からない」と述べており、仮に調達コストやカナダ産業界への再投資やオフセット契約の部分で両機の評価が拮抗しても戦闘機の能力評価でF-35AがグリペンEを下回るということは考えられないため、戦闘機の能力評価以外の要素でコケなければF-35Aの勝利は堅いと言える。

出典:U.S. Air Force photo by Staff Sgt. Kate Thornton

しかしカナダのトルドー政権は保守党政権が決定していたF-35A導入を白紙撤回してF/A-18E/F導入を進めた経緯(これも諸問題で頓挫)があり、正式な競争入札のプロセスを経てF-35Aが後継機に選ばれるとトルドー政権の政治的な立場が苦しくなるため、競争入札の評価に政治的な意向が介入すればグリペンE勝利もありえるという意味だ。

まぁ戦闘機の能力評価でF-35Aはオーバースペックだという評価もあり得るため、政治的な助けがなければグリペンEが勝利できないという訳ではない。

関連記事:カナダの要求を満たしていない? 次期戦闘機選定からボーイングのF/A-18E/Fが脱落か

 

※アイキャッチ画像の出典:Boeing Canada

現地メディアの警告、ナゴカラ紛争を理解していないポーランド軍はアゼル軍にすら敗北する前のページ

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コメント

    • 匿名
    • 2021年 12月 02日

    結局振り出しに戻っただけか。
    時間だけが過ぎたのね。
    しかし、トルドーさんが選ばれたのは、F35撤回だけではないんじゃない?
    いつも思うけど、選挙(特に二大政党だと特に)この公約は支持だけど別の公約は不支持とか、投票時に困るよね。でも、当選したら全ての公約が支持されたていで行動されて、困るよね。ほんと、。

    29
      • 匿名
      • 2021年 12月 02日

      細かい公約の支持、不支持を表にしてキメラできるのが一番いいんだろうね。

      1
        • 匿名
        • 2021年 12月 03日

        f-35導入、辺野古移転を決定した民主党政権を支持します!!
        消費税増税、復興増税決めといて、減税を公約にすんなやと。

        3
    • 匿名
    • 2021年 12月 02日

    オフセット契約からしても、F-35が有利か。
    まあ、価格も下がったし、いい頃合いでしょうね。
    でも、最後は保守部品を国産化して、F/A-18A/Bの延命になったりして。

    12
    • 匿名
    • 2021年 12月 02日

    カナダの隣国はあのロシアで北極圏でもめてるらしいからステルス機は欲しいだろうな。

    10
    • 匿名
    • 2021年 12月 02日

    しかしこれはカナダの話で開発参加してないスイスが総額の半額を国内受注しろって話はやはり荒唐無稽にしか思えない

    1
      • 匿名
      • 2021年 12月 02日

      オフセットは貿易収支のバランスを取るためのもので、カナダがF-35サプライチェーンに参加して収益を挙げているのは投資した見返り。

      だからカナダもオフセットを要求してるし、これを買ってやった見返りとゴチャ混ぜに考えてると間違った答えに行き着くよ。

      10
    • 匿名
    • 2021年 12月 03日

    政治家個人のプライドのためだけに、要求された能力を満たさない戦闘機を導入したら
    それこそカナダの政治の劣化際回れりだよなぁ

    4
      • 匿名
      • 2021年 12月 03日

      大概の国は政治家のプライドや打算、個人の利益によって動いているだろう。
      カナダ政治の劣化ではなく、人間という存在が如何に愚かしい存在であるかだろう。

      この国にもあるだろう。P-3C導入時にまつわるエピソードが(ほぼほぼ時期が悪かっただけだが)

      3
        • 匿名
        • 2021年 12月 03日

        人間の愚かさが如実に反映されてる政治を「劣化してる」と評してるんじゃね?
        切り口違うだけで言ってることは大して違わんと思うぞ。

        6
    • 匿名
    • 2021年 12月 03日

    もはや昔とは環境が変わったからf35にしますって言い訳すると思う。

      • 匿名
      • 2021年 12月 03日

      言い訳っていうか、概ね事実なのでは
      この時代に至っても、軍事力で領土を獲得する国が存在する(主にロシア)というのがウクライナ侵攻で明らかになり
      当時は立ちまくってたF-35の大失敗フラグも何とか解消し

      政治家にやる気があるなら、国民に向けて説明可能な程度には前提が変わっているかと

      7
      • 匿名
      • 2021年 12月 03日

      言い訳と言ってしまえばそれまでだけど、オーストラリアも似たような理由で通常動力潜から原潜に方針変更してるから、下手にゴニョゴニョせずにそう言い切ってくれた方がまだいいと思う。
      政治家ならそれぐらいの胆力は見せてほしい。
      それは本邦の政治家にも言えることだけど。

      9
    • L
    • 2021年 12月 03日

    いいよなぁ呑気な国はさぁ
    (我が国が呑気でないとは言ってない)

    4
    • 匿名
    • 2021年 12月 03日

    グリペンとF-35両方導入は駄目なのかな?
    2機種体制の方が良さそうな気もするが。

    2
      • 匿名
      • 2021年 12月 03日

      グリペンいれるぐらいならホーネットのレストアした方が安くなる。

      1
        • 匿名
        • 2021年 12月 03日

        レガホのレストアなんぞ今後どんどん維持費が跳ね上がるだろ。

      • 匿名
      • 2021年 12月 03日

      F35に何かトラブルあった時、全機飛行停止とか、シャレにならんしね。
      予算(または手間)はかかるが、複数機種導入に1票。

        • 匿名
        • 2021年 12月 03日

        複数機種のメリットはそれなりにあるだろうが、
        今まで1機種だったのを増やすとなると相当な政治的決断が要るような…
        流石にそこまでの緊迫感はカナダには無いのではないかな。

        機種的にも棲み分けができる感じではないし。

        1
      • 匿名
      • 2021年 12月 03日

      カナダは、同じエンジン使用の双発機から、単発機にする気なのか?

      • 匿名
      • 2021年 12月 03日

      2機種にする目的は何なのかな?コストなのか冗長性の話なのか。

      グリペンはランニングコストは安いだろうが機体価格はお安くもない。割り当てを仮に半分にするなら機体や部品購入とかのスケールメリットがなくなり国内への投資に関しても悪くなる方向に見直しになるだろう。後は整備の煩雑さも増える、冗長性は増えるがその分のコストをどう見るかだよなぁ。

    • 匿名
    • 2021年 12月 03日

    カナダがF35買ったら日本の購入価格が下がる?
    そうなら是非そちらに

    • 匿名
    • 2021年 12月 03日

    カナダの場合、グリペンでも不都合はないだろう。
    北極圏では、まずアラスカの米空軍が対応するから、カナダ空軍は神経質になる状況にない。
    カナダ空軍の出番は、飛来するロシア偵察機の出迎えと潜水艦の監視くらいだ。

    5
      • 匿名
      • 2021年 12月 03日

      ロシアと戦う気がないならグリペンで事足りるだろうね。
      どちらを選ぶかによってカナダの本気度がわかる。

      5
    • 匿名
    • 2021年 12月 03日

    カナダの国土にグリペンだと航続距離足りるのか?と思ったけど、一応カタログスペック的には1300㎞の戦闘行動半径+30分の戦闘(空対空パッケージかな?)だから
    F-35Aの同1400㎞前後と比べても遜色はないのかな

    3
      • 匿名
      • 2021年 12月 03日

      グリペンはE型以降の再設計で航続距離が伸びた
      それに伴い金額も上昇したためF-16Vにセールスで勝てなくなった

      4
      • 匿名
      • 2021年 12月 03日

      むしろレガホの性能でなんとかなっているなら、最新のグリペンでも同等以上にはなる。

    • 匿名
    • 2021年 12月 03日

    このブログでも過去に扱われてましたけど、2017年ごろにボーイングとカナダって揉めてましたね。
    そりゃ喧嘩売られた相手を選ぶモチベなんてあるわけない。
    北米スクランブルがメイン業務のカナダ空軍さんなんで、グリペンでもとは思いますけど、グリペンE自体も単価自体は高いらしいですし、ランニングコスト的にメリットなかったらF-35で決めちゃう気がしますねー。

    3
      • 匿名
      • 2021年 12月 05日

      LMが35推してるだけで別に16Vでもええやろって思う
      最後の最後で比較検討される二機種に階級違いのグリペンでは全く意味が無い
      16Vに比べて35の費用面と能力面での優位性を明確にして国民納得させないとダメな事案だろこれ

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