カナダ国営放送のCBCは5日「韓国が200億加ドル以上の防衛装備品に関する取引を提案してきた」と報じたが、6日も「現代重工業とHanwha Oceanが潜水艦の売り込みで手を組んだ」「米国製システムへの懸念が高まってるため潜水艦の戦闘管理システムが非米国製なのは重要なポイントだ」と報じた。
参考:5 things to know about South Korea’s military submarine pitch to Canada
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韓国製武器システムの柔軟性と統合技術は高く評価されており、トランプ政権の不確実性まで加わると「非米国製システム」はデメリットではなくなる
カナダ国営放送のCBCは5日「韓国企業3社がカナダに200億加ドル以上の防衛装備品に関する取引を提案してきた」「これはカナダに欧米以外の武器システム購入を促す前例のない外交的・企業的働きかけだ」「韓国は取引が成立すればカナダ防衛産業の能力強化と防衛協力に全力を尽くすと述べた」と報じたが、6日「CBCは現代重工業、Hanwha Ocean、韓国国防当局者への独占的アクセスを許可された」「韓国の造船企業2社は競合関係にあるのにカナダへの提案で手を組んだ」と報じている。

出典:HD Hyundai Heavy Industries FFX-III
現代重工業とHanwha Oceanは韓国海軍向けだけでなく海外輸出でも競合関係にあり、オーストラリアの汎用フリゲート調達でも現代重工業は忠南級フリゲートを、Hanwha Oceaは大邱級フリゲートを提案し、韓国経済新聞も「日本は三菱重工業を中心としたオールジャパンで入札に挑戦する。国防部や防衛事業庁もワンチームで受注戦に参加することを望んでいるが、両社はKDDX事業に関連する機密流出裁判で激しく対立しているため協力関係を構築できる雰囲気ではない。両社の激しい競争関係について防衛産業界の関係者は『豪政府が韓国を代表する企業は一体どこなのかと尋ねるほどだ』と言う」と苦言を呈したほどだ。
両社はカナダの新型潜水艦調達にも別々に参加するつもりで、Hanwha OceanとBabcockは2024年3月「ポーランド海軍やカナダ海軍の潜水艦入札に共同で挑戦する」と、現代重工業も2024年4月「カナダ海軍向け潜水艦事業の協力でL3Harrisと合意した」と発表していたが、CBCは「カナダの潜水艦調達に韓国、ドイツ、ノルウェー、スペインの造船所が手を上げたが、現代重工業とHanwha Oceanは潜水艦の売却だけでなく両岸に保守施設を設置する提案を共同で提出した」と報じ、これまでの激しい競争関係を考えれば非常に異例というしかない。

出典:Hanwha Ocean
さらにCBCは韓国で建造中のKSS-III BatchII=鳥山安昌浩級潜水艦4番艦と5番艦の取材が許され、この潜水艦の特徴について「KSS-IIIは魚雷と弾道ミサイルを発射できる通常型潜水艦で、航続距離は19,000km、海中での最大速度は約20ノット、Samsung SDIが開発したリチウムイオン電池を搭載することで21日間以上の連続潜航が可能だ。この能力は北極圏での運用を考えているカナダ海軍について必要不可欠なものになるだろう」と述べ、最も興味深いのは「KSS-IIIを制御する戦闘管理システムが米国製でない点だ」と指摘しているところだろう。
“Hanwha OceanによればKSS-IIIを制御する戦闘管理システムは全て韓国製で、カナダでは新型フリゲート艦に採用された米国製の戦闘管理システム(CMS330 with AEGIS)への懸念が高まっているため、潜水艦の戦闘管理システムが非米国製なのは重要なポイントだ。さらにHanwha OceanはKSS-IIIを購入すればカナダ製システム、海外製システム、既存の韓国製システムの中から好きなものを統合できると主張しており、米国製や欧州製ではなく韓国製の魚雷やミサイルを購入することも出来る”

出典:Hanwha Aerospace Europe
海外市場で韓国製武器システムが支持される要因の1つは「顧客が希望するサブシステム統合を拒否しない姿勢」で、米国製武器システムは顧客が希望する独自のサブシステム統合に積極的ではなく、仮に容認しても高額な統合費用を要求するため、韓国製武器システムの柔軟性と他社製システムの統合技術は高く評価されており、ここにトランプ政権の不確実性まで加わるとカナダにとって「非米国製システム」はデメリットからメリットに入れ替わるのだろう。
韓国は来年中に契約を締結すれば「2035年までに4隻の潜水艦を引き渡す」「カナダ海軍の要員は建造期間中に韓国で基礎訓練と戦術訓練を受ける」「そのため引き渡しと同時に新型潜水艦は作戦行動を開始できる」と約束しており、提案の中には太平洋側と大西洋側に保守施設を建設する構想も含まれているが、これはカナダ政府の決定に依存するため提示されている契約額=200億加ドル~240億加ドルに関連費用を含まれていない。

出典:Hanwha Ocean Polska
因みに日本経済新聞は2024年3月「カナダが計画する次期潜水艦の有力候補にたいげい型潜水艦が浮上している。有望視される日本の潜水艦輸出を実現するには政府や企業が一丸となることが求められ、日本国内での建造にカナダの理解を得る外交努力を重ねることも不可欠だ」と報じ、カナダ国防省の報道官も「プロジェクトチームがフランス、ドイツ、スペイン、スウェーデン、韓国、日本と連絡を取っている」と明かし、9月に待望の情報提供依頼書(RFI)が発行されたが、カナダメディア=The Hill Timesは11月「日本はカナダ海軍の潜水艦入札に参加しない」と報じている。
“9月に発行したRFIの回答期限(11月18日)の数日前、我々の取材に日本大使館は「カナダ海軍向けの潜水艦入札に日本企業は参加しない」と回答した。複数の関係筋も「三菱重工業はたいげい型潜水艦をカナダに提案する予定はない」と語り、この件について三菱重工業はコメントを控えた”

出典:海上自衛隊
CBCも「カナダの潜水艦調達に韓国、ドイツ、ノルウェー、スペインの造船所が手を上げた」と報じ、もう潜水艦の潜在的な調達先から日本の名前が消えているため、The Hill Timesの報道は事実だった可能性が高い。
追記:現代重工業はペルーで開催された防衛装備品の見本市でペルー国営造船所(SIMA)と「ペルー海軍向けの新型1,500トン級潜水艦=HDS-1500を共同開発する」と発表、これはペルー海軍がHDS-1500を採用するという意味ではなく、ペルー海軍の潜在的な需要を見越してSIMAとHDS-1500ベースの潜水艦設計を共同で開発するという話で、現代重工業の海外輸出向け潜水艦のラインナップ(HDS-3000、HDS-2300、HDS-1800、HDS-1500、HDS-800、HDS-600)を充実させるという側面もある。
現代重工業のHDS-2300とHDS-1500は予備設計止まりなのでモノは存在しないが、潜在的な顧客に提示できる設計プランが存在するというのは売り込みにおいてプラスに作用するのだろう。
追記:カーニー首相がワシントンD.Cに到着、カナダではカーニー首相とトランプ大統領との会談に大きな関心が集まっている。ドイツではメルツ氏が首相指名投票で衝撃的な敗北を喫し、政治的な大混乱が発生したが、午後に行われた2回目の投票でメルツ氏は首相に選出された。
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※アイキャッチ画像の出典:Hanwha Aerospace Europe
日本のFFMの豪州輸出、米国製ミサイルが搭載し易いことから米国の後押しを得てドイツと競うそうですが
豪州もトランプと距離の近い自由党が大敗したとの事、あちらも今や米国製装備との親和性が強みになるかは怪しいですね
安全保障における米豪同盟関係は深く強固なので、日本政府同様に安全保障と貿易不均衡問題は分けて交渉する方針になると思いますよ。
米豪貿易は総合的に米側黒字なんで、豪州からすれば理不尽な対応としか映らないにしてもです。
取り敢えず、たいげい型を1隻貸与して体験してもらうと良い。
新造艦貸し出しとか正気ですか?
売込む良い機会だよ。
そして中国に日本の最新鋭潜水艦の性能情報が洩れるわけですね。
日本がこのおいしい案件を辞退したのは本当に痛恨の極み。
技術供与や相手国での生産の要求が緩い、またとない優良案件だというのに。
本邦の防衛装備品海外移転制度の都合上、条件が整わず対応できなかったのが一つ。
人的リソース面から国内の潜水艦建造・定期点検整備・補修能力に余裕が無いのが一つ。
断らざるを得なかったというのが実相かと思います。
日本としては、無い袖は触れない。(主にリソースの問題)
一方、外需依存の韓国経済が、主力の自動車・半導体が行き詰まっている中で、兵器を第3の主力輸出商品に育てるというのは韓国政府の方針であり、リソースに対する多少の無茶は、黙認されるし政府の支援もある(つまり、白物家電、自動車、半導体でやったことの焼き直しなのだが)。結局はその差。
両社の共闘は、オーストラリアで候補から脱落したことで韓国政府から相当お灸を据えられたんでしょうね。
しかし潜水艦を自国で建造できるようになってまだ20年も経ってないのに、独自の戦闘システムまで構築できるようになったというのは恐れ入ります。(正直、ほんまかいないと思う。)ドイツの輸出型潜水艦をライセンス生産して、ボルトが破断したのなんのと揉めてたことが、つい昨日のことのように鮮明に覚えているのですが。
あとこの記事の写真にあるフリゲート艦、オーストラリアで脱落した理由の一つとして、(おそらく艦首側の)乾舷の低さによる外洋での耐航性が問題視されたという記事を見ました。カナダの主要作戦海域も海象の激しさでは日豪と変わらない筈ですので、どうキャッチアップしてくるんでしょうか。
筈ですが大丈夫なんでしょうかね。
陸上攻撃用の長距離攻撃兵器が要求されてるなら、たいげい型はどの道落とされてたような。現行型に載せれるハープーンは射程240kmでアメリカ製だが、それで満足してくれるのかね。
VLSは昨年末に予算降りたばっかりだし、12式能力向上型を搭載できるようになるにはまだ時間がかかるだろうし(2031年頃の予想とかなんとか)
確か潜水艦発射型誘導弾は量産化が始まってますね。
韓国って最近軍需産業でイケイケだと思ってたけど企業同士で対立とかあったんだね、知らんかったわ
逆に言えば国内企業同士でも市場原理が働くので開発スピードも価格競争も良い影響を受ける。デメリットはパイの食い合いになることだがまぁその辺は韓国は売り方がほんとにうまいのでどちらも今のところ食っていけてるのは強い
韓国では軍事に限らずサムスンとLGなどライバル企業同士の抗争は過熱しがちなので平常運転みたいなもんです。
ただ、今年2月の韓国の毎日経済によると
『現代重工業とハンファ·オーシャンが今後輸出に乗り出す際、それぞれ水上艦と潜水艦に分野を分けて率いることにした』
とあるので、棲み分けで協力し始めた証なんでしょう。特にハンファオーシャンにとって潜水艦事業とLNG船は黒字転換の要因なので殊更受けたいでしょうし。
文章読むとリチウムイオン電池で、連続航行が可能になったような書き方だけど、AIPのおかげであって、電池の種類自体にはあまり関係がないのでは。
もちろん、AIP+リチウムイオン電池はシリーズ式ハイブリッドでAIPの出力の弱さをカバーできるメリットはありますが、いくら3800tでもこれにVLSまで載せて、居住性は大丈夫なんだろうか。
島山安昌浩級潜水艦って、水中排水量が3,800tと “たいげい” よりも数百トンも小さいにもかかわらずVLSを6セルも積んでいますね。”たいげい” ですら艦内は狭いわけで、居住スペースが同じなら何を削っているのか(逆に “たいげい”は何が多い・大きいのか)気になりますね。