北米/南米関連

米大統領が再びカナダ併合に言及、カナダは主権を守ると強く反発

駐カナダ米国大使は「もう大統領は併合について何も言っていない」と発言していたが、トランプ大統領は「独立したままならGolden Domeへの参加費用は610億ドルだ」「もし51番目の州になるなら費用は0だ」と述べ、カナダ議員らは「これは併合のための賄賂で絶対に受け取らない」と反発した。

参考:‘Easier ways to send messages’ to Trump than bringing in the King: U.S. ambassador
参考:Minister defends Canada’s sovereignty as Trump says Golden Dome would cost ‘zero dollars’ for 51st state

もし日本も参加を要請されたら「米国人でも実現性を疑うGolden Domeの不確実性とコスト」を良く考えなければならない

カナダ人は選挙を通じて「決して米国には加わらない」という意思を明確し、カーニー首相はトランプ大統領との会談でも「カナダは売り物ではない」「今後も売りに出されることはない」とハッキリ伝えたが、トランプ大統領は「絶対にないとは言えない」と食い下がって「カナダ併合を諦めない姿勢」を強調したが、カーニー首相は「失礼ながら、この件についてカナダ人の見解は変わらない」と断言。

出典:The White House

この件について駐カナダ米国大使は22日「もう(米国とカナダの関係を)先に進めるべきだ。もし併合問題について議論を続けたいのであれば、それはカナダ人の自由だが、私は何も喋らないし、これについて大統領も何も言っていない。我々は米国の繁栄、安全、そしてセキュリティの向上に全力を尽くしている。両国が前進するためにはやるべきことが山積みだ」と述べてカナダ人の不満を宥めようとしたが、チャールズ国王がオワタを訪問してカナダのアイデンティティと主権を再確認し、カーニー首相が欧州再軍備計画への参加見通しに言及するとトランプ大統領も直ぐに反応。

トランプ大統領はTruth Socialで「私はGolden Domeに参加することを強く望んでいるカナダに『彼らが独立したまま、不平等な国家のままであれば610億ドルの参加費用がかかるが、我々の51番目の州になれば費用は0になる』と伝えた」「彼らはこの提案を検討している」と投稿し、再び「米国の一部になることがカナダにとって最善だ」を訴えてきたため、カナダメディアは「話と違う」と駐カナダ米国大使に怒り、マクギンティ国防相も「対外関係においてコントロール可能なものしか制御できないことを随分前に学んだ」「我々がコントロールできるものは主権、安全保障に関する決定、国防支出だ」と言及。

出典:Truth Social

与党議員らも「言語道断だ」「これは51番目の州になるための賄賂で絶対に受け取らない」「トランプが小さい子供で家族にどれだけ迷惑を掛けられるか見たいだけなんだ」と反応、カーニー首相はトランプ大統領の発言に反応せず「公の場を介した交渉はしない」と述べ、マクギンティ国防相は「国民にとって正しいことを続けていく。そこには我々の主権と安全の確保が含まれ、首相が昨日述べたように米国だけでなく欧州との関係もコントロールしていくつもりだ」と述べた。

因みにトランプ大統領はGolden Domeのコストを1,750億ドルと見積もっているため、今回の費用負担は「カナダが独立したままGolden Domeに参加したいのなら1,750億ドルの内610億ドルを負担しなければならない」という意味になるが、米議会予算局は「大統領が要求するGolden Dome実現のためには今後20年間で5,000億ドル以上の費用がかかる」と見積もっており、そもそもGolden Domeを構成するシステム要件が決まっていないため、トランプ大統領と予算局の見積もり額は空想上の産物に過ぎない。

出典:The White House

仮にトランプ大統領がGolden Domeへの参加に3割負担を求め、もし5,000億ドルの費用がかかるならカナダの負担は1,500億ドル=21兆円以上になり、こんな金額はカナダの手に終えないだろう。もし日本も参加を要請されたら「米国人でも実現性を疑うGolden Domeの不確実性とコスト」を良く考えなければならない。

関連記事:カナダは欧州再軍備計画に参加、米大統領は51番目の州になるよう呼びかけ
関連記事:米国との統合に否定的なカナダ、利益が見込めればGolden Domeに協力
関連記事:トランプ大統領がGolden Domeの概要を発表、任期満了前までに完全稼働
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関連記事:カナダが対米関係を根本的に見直し、米国は信頼できるパートナーでない

 

※アイキャッチ画像の出典:Donald J. Trump

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コメント

  • コメント (20)

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    • nk
    • 2025年 5月 29日

    「米国の一部になることがカナダにとって最善だ」
    「ロシアの一部になることがウクライナにとって最善だ」
    「イスラエルの一部になることがパレスチナにとって最善だ」
    「中国の一部になることが台湾にとって最善だ」
    アメリカは定期的に対外戦争してるけどトランプは直球で来るから判りやすいだけで特にやってることの大小あれアメリカは変わってない様な気はする、今世紀も引き続き戦争の時代になりそうですね。

    53
      • たむごん
      • 2025年 5月 29日

      アフガニスタン戦争・イラク戦争も、直接統治=間接統治の違いはあっても同じような感じだったんでしょうね。

      グチャグチャになったり紆余曲折あるわけですが、持て囃すだけ持て囃して、何事もなかったかのように、もう知らん顔なわけですよ。
      アラブの春=カラー革命なんて、西側マスコミも絶賛して盛り上げてましたが、ウクライナ・イラク・レバノン・アルメニアなどはどうなってる?思ってしまいます。

      自分も仰る点に同意で、アメリカが何か変わったわけではなくて、分かりやすくなっただけの気がしています。

      24
      • k.ziro
      • 2025年 5月 30日

      「アメリカがカナダを取り込んだらカナダ人がアメリカ大統領になるぞ」
      とまでは言えないか…

      しかし、トランプ爺さんも成果が出てないせいかしつこいね。
      カナダに向けて弾道弾打ち込むような国は少ないと思うんだけどなあ、
      あー割と衛星とか宇宙ステーションとかは落ちてくるけどね。

      1
      • 名無し
      • 2025年 5月 30日

      イスラエル右派は「パレスチナやパレスチナ人は存在しない。アラブ人が存在しないものを名乗り
      イスラエル領の一部を不当に占拠している。許せない」って立場だぞ

      1
    • MQ31A
    • 2025年 5月 29日

    無茶苦茶言ってくる相手に毅然と反論するだけで支持を得られるんですから、カーニー政権にとってはある意味ありがたいですね

    40
    • hogehoge
    • 2025年 5月 29日

    ゴールデンドームとかいうラベルの空気の缶詰め:610億ドル
    独立と主権:プライスレス

    22
    • ゲストさん
    • 2025年 5月 29日

    実態としてはカナダがアメリカに自ら加わることはありえないわけですが、それでも併合されろと言い続けるのは、どういう意図によるものなんでしょうね?
    歴史的に見てこの手の発言は侵略戦争の前段階なのですが、カナダ侵攻をアメリカ国民が支持するのは、流石に現時点ででは考えにくい…。

    それとも、日本人には分からないだけで、カナダを挑発すると共和党内でのトランプ支持が強くなったりしてるんだろか?

    26
      • 黒丸
      • 2025年 5月 29日

      地域再開発するときの不動産の地上げの手法をそのまま使っているだけのような気がします。
      同じ条件・セリフを繰り返しながら地権者の中から賛同するのが出るのを待つ。
      賛同者が出たらその人を大げさにほめながら次の賛同者が出るのを待つ
      こうして過半数を握るまで同じことを続ける。
      過半数を握ったら、今度は強気になり残りの地権者に脅しをかけ続ける。

      侵略戦争の前段階というより、金と条件さえ合えばクレムリンでも引っ張ってこられる 
      と考えてそうな気がします。

      23
      • ななし
      • 2025年 5月 30日

      トランプ大統領は、19世紀末~20世紀初年に大統領だったマッキンリー元大統領の事を憧れてるみたい。
      ちなみに、大統領就任演説でマッキンリー元大統領の事を触れた一節は次の通りです。

      >マッキンリー元大統領は、関税と才能を通じて米国を非常に豊かにした。彼は生まれながらのビジネスマンで、彼がもたらした資金によりテディ(セオドア)・ルーズベルト元大統領は多くの偉業を成し遂げることができた。その中にはパナマ運河も含まれるが、愚かにも米国からパナマの手に渡ってしまった。

      マッキンリー元大統領は、元祖関税男とも呼ばれている様で、その成果をトランプ大統領はパナマ運河とセットで認識している様です。

      あとマッキンリー元大統領は、時代に即した面もあるのでしょうが帝国主義者でもあった様で、
      米西戦争やハワイ併合を成した大統領です。
      マッキンリー元大統領が併合したハワイは50番目の州で、
      それに続く51番目の州併合を成して、マッキンリー元大統領とセットで歴史に名を残したいとの願望がトランプ大統領にはあるのかも。
      そして、南北にあるアメリカの隣国を眺めて、南側のメキシコには壁を設ける事を考えているので論外で、
      消去法で北側のカナダがターゲットになったのかな?
      などとトランプ大統領の動機を個人的に妄想しています。

      5
    • L
    • 2025年 5月 29日

    こんな狂った方針の政権が続くとは思えないので、トランプの任期終わったら絶対反動くるわ

    11
      • kitty
      • 2025年 5月 29日

      ヴァンスになったらなったで、もっと理詰めでおかしな事をしそう。

      16
    • たら
    • 2025年 5月 29日

    カリフォルニアが独立すれば,カナダは喜んで新・合衆国を作るんじゃないかな?

    7
    • たむごん
    • 2025年 5月 29日

    ウクライナ戦争でも明らかですが、結局、防衛側が不利ですからね。

    日本が同じ予算を投じるならば、今のように、攻撃力を付加していく方が効率的かなと感じています。

    11
    • NIVEA万能論
    • 2025年 5月 29日

    プーチンですら「ウクライナはロシアに併合されるべきだ」などとは言ってないのに何を妄言垂れてるんですかねこのボケ老人は…

    ところで失礼ながら管理人樣、チャールズ国王が~のところでオタワがオワタになっております…

    15
    • DEEPBLUE
    • 2025年 5月 29日

    NORADはもう駄目かも知れませんね

    4
    • バーナーキング
    • 2025年 5月 29日

    「北風と太陽」でも読んでもろて…

    2
    • イーロンマスク
    • 2025年 5月 29日

    トランプってもしかして意識的にアメリカ衰退させてないか?

    6
      • DEEPBLUE
      • 2025年 5月 29日

      グリーンランド購入はまだ理解できなくもないが、これはフェンタニル規制にも逆効果だろうにと。むしろ向こうの中国コミュニティに肩入れしそう

      2
    • メロン
    • 2025年 5月 29日

    結局力の弱い奴が食われて行くという、基本的原理がアメリカーカナダ間で再現されて行くだけじゃねーかな
    カナダもそれが分かって居るから強くなろうとしているのは読み取れる
    力が弱いのは罪ではないけど、弱いままでいるのは確実に罪だと思う
    隣に戦闘経験や格闘経験豊富なマッチョが居るのに、運動すら拒否するようなメンタリティだけはダメだと思ってる
    ただ、ここまで明け透けなのは逆にトランプおじさんをますます好きになってしまう

    5
    • 航空太郎
    • 2025年 5月 29日

    カナダって、先進国ですって顔をしているけど、資源輸出頼りな国であり、国内産業育成が上手く行ってないんですよね。今後のカナダは、ロシア弱体化により、①アメリカの北の防壁としての価値が激減し、②2030年代にはグリーンアンモニアの世界中での生産開始によって、温室効果ガスの出る天然ガスは取引量、価格ともに永遠の右肩下がりが確定ですから、実は「今が一番の高値」だったりします。
    でもカナダはきっと、茹で蛙状態のまま、先進国から転落する二番目の国になるでしょう。そうなってからアメリカに救済される頃には、もう51番目の州なら多く得られた優遇も選択肢も何もかも失せているのです。哀れ。だが、自分達が選ぶ末路です。

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