北米/南米関連

目先の利益は優先事項でない? 中国がアルゼンチンの軍事力強化を後押しする理由

経済状態の良くないアルゼンチンの軍事力強化を中国が後押ししている理由について「南米における主要な武器供給国としての地位を得るためだ」とラテンアメリカのディフェンスメディア「ミリタリーゾーン/ZonaMilitar」が報じている。

参考:Por qué China quiere impulsar la modernización de la Fuerza Aérea Argentina

果たして中国は計画通りアルゼンチンを落とすことは出来るだろうか?

アルゼンチンは老朽化した攻撃機「A-4AR ファイティングホーク」を更新するため韓国航空宇宙産業が開発した軽戦闘攻撃機「FA-50 ファイティングイーグル」を8機~10機程度調達することを予定していたが、同機に採用されていたマーチンベーカー製の射出座席などが英国の武器禁輸措置(フォークランド紛争以降に英国がアルゼンチンに課した禁輸措置は現在も有効)に抵触するため輸出許可が得られなかった。

出典:Photo by ROKAF(2013)/ CC BY 2.0 FA-50 ファイティングイーグル

この問題についてアルゼンチンのロッシ国防相は「帝国的な傲慢さの現れだ」と英国を非難、韓国側は「今後も輸出許可問題を解決するための努力を行う」と述べたがアルゼンチンはA-4ARの後継機としてロシアにMiG-35導入(単座10機+複座2機)に関する見積もり依頼を正式、ここに中国が割り込みパキスタンと共同開発した戦闘機JF-17を提案してきたため多くの海外メディアが注目していたが、ミリタリーゾーンは「中国とアルゼンチンの取引が成立すれば米国の裏庭と表現されることが多い「南米」に主要な武器供給国として食い込める」と興味深い指摘を行っている。

中国は既に反米を掲げるベネズエラに対艦ミサイル「YJ-83/C-802」を供給して南米進出に成功しているが、同国はロシアやイランが主要な武器供給国としての地域を獲得しているため英国の武器禁輸措置(フォークランド紛争以降に英国がアルゼンチンに課した禁輸措置は現在も有効)によって軍事力の近代化に行き詰まっているアルゼンチンに目を付け、クリスティーナ・フェルナンデス・デ・キルチネ政権(2007年~2015年)に接近して大規模な武器取引(総額10億ドル規模)を成立させるもの後任のマウリシオ・マクリ政権が取引を中止してしまう。

出典:Aldo Bidini / GFDL 1.2

しかしアルベルト・フェルナンデス政権の副大統領としてクリスティーナ・フェルナンデス・デ・キルチネ氏が返り咲いたため、中国は再びベネズエラに主要な武器供給国として食い込むことを画策しており、それが形として現れたのが戦闘機JF-17を提案という訳だ。

要するにアルゼンチンにJF-17を売却して得られる目先の利益は中国の優先事項ではなく、長期的に引き出せる政治的(主要な武器供給国としての影響力)+経済的(石油やリチウムなどの天然資源に関する利権や農作物など)利益が目的なのでアルゼンチンが重視する技術移転や現地生産にも応じる可能性が高い。

アルゼンチンの政治家や軍の関係者の一部は中国との取引に難色を占めているものの経済状況が良くなく英国の武器禁輸措置の影響で選択肢が限られているため、利益に拘らない中国の甘い提案(柔軟な支払い条件や天然資源や農作物等による相殺など)を拒否するのは難しいだろうとミリタリーゾーンは予想している。

果たして中国は計画通りアルゼンチンを落とすことは出来るだろうか?

仮にアルゼンチンが中国に取り込まれれば米国は裏庭の南米にも不安を抱えることになるため、これを無視するとは思えないが英国との関係があるのでアルゼンチンの悩み=軍の近代化を表立って解決するのは厳しいのかもしれない。

関連記事:韓国、武器禁輸措置に引っ掛りアルゼンチンへのFA-50輸出が頓挫
関連記事:アルゼンチン空軍、製造から50年が経つ攻撃機「A-4」の継続使用を決断
関連記事:JF-17対MiG-35、中国とロシアがアルゼンチンの戦闘機需要を巡って激突か
関連記事:韓国と同じ運命? アルゼンチンへの中国製戦闘機「JF-17」輸出を英国が阻止か

 

※アイキャッチ画像の出典:Public domain パキスタン空軍のJF-17

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コメント

    • 匿名
    • 2021年 7月 13日

    将来アルゼンチンが中国の食糧庫とか呼ばれてそう

    13
      • 匿名
      • 2021年 7月 13日

      それだけじゃなくて、現在でも英国との間で領有権を争っているフォークランド諸島には海底油田が見付かっているし、同諸島の場所がこれまた手付かずの資源が眠る南極(現在、南極環境保護条約の議定書によって2048年までは経済的な採掘が一切禁止されている)に近いと言う事も有るから、中国がこれらの資源を狙っている可能性は高い

      29
      • HY
      • 2021年 7月 14日

      記事本文では「武器供給国」と表現されてるが、これは相手国の武器体系を握る「支配国」に等しい。もし相手国が言いなりにならない、もしくは脅威になる場合、何時でも供給を止めて干すことができる(記事本文中でも英国が射出座席を通してやっている)つまり、アルゼンチンは中国の属国になるかどうかの選択を迫られている。

      5
    • 匿名
    • 2021年 7月 13日

    最新鋭の装備じゃないショボい戦闘機更新すら認められないんならそらロシアか中国頼るしかないでしょ
    干渉されそうだから嫌とか言ってる場合ではない

    18
    • 匿名
    • 2021年 7月 13日

    アルゼンチンを強化してフォークランド侵攻をチラつかさせてイギリスを牽制させる気かねぇ

    7
      • 匿名
      • 2021年 7月 13日

      上手くいったら、他の中南米諸国も転ぶかも。

      1
        • 匿名
        • 2021年 7月 13日

        本気で反米をやってるとベネズエラやキューバのように苦しい経済を強いられる、それが南米がアメリカの縄張りである所以
        その牙城に中国がどこまで食い込めるのか、ペロンやアジェンダみたくアメリカの謀略で政権崩壊させられた例もあるんて

        2
      • 匿名
      • 2021年 7月 13日

      JF-17でイギリスのF-35と戦おうなんてアルゼンチンだって思っていないでしょ…。

        • 匿名
        • 2021年 7月 13日

        中華の長距離ミサイルで、エグゾゼの再来を狙う。

        3
        • 匿名
        • 2021年 7月 14日

        アルゼンチンの裏に中国の影がちらつくようになったらイギリスもやるにくくなるでしょ
        下手にもめて昔の米ソ代理戦争みたいな状態になったら中国よりイギリスのほうが人目を気にする分、苦労することになるのは目に見えているし

        8
    • 匿名
    • 2021年 7月 13日

    中国の財力は凄いよなぁ
    無限なのかと疑いたくなるレベル

      • 匿名
      • 2021年 7月 14日

      コッソリ金刷れば無限

      4
      • 匿名
      • 2021年 7月 14日

      アルゼンチンの財政の緩さもすごいぞ
      キングボンビーとかいうレベルじゃないものなあ

      2
    • 匿名
    • 2021年 7月 13日

    これも債務漬けへの布石かのぉ?

    14
      • 匿名
      • 2021年 7月 13日

      アヘン戦争とか香港の件で中国はイギリスを日本の次ぐらいに恨んでいそうだからアルゼンチンに手を貸す可能性は十分にあるなぁ

      5
    • 匿名
    • 2021年 7月 13日

    アルゼンチンに加担するとブラジルが黙ってないと思う。
    それこそ南米での中国の立場が無くなるのでは?

    1
      • 匿名
      • 2021年 7月 13日

      アルゼンチンとブラジルは友好国ですよ。
      1980年代より前は政治・軍事・経済的にも対立していましたが、1982年のフォークランド(マルビナス)紛争以来は友好化しています。

      14
    • 匿名
    • 2021年 7月 13日

    一応共同開発だし、技術移転と現地生産はパキスタンが嫌がりそう。
    射出座席は中国製に交換するだろうけど、エンジンはどうするかな。

      • 匿名
      • 2021年 7月 13日

      いや今時JF-17の技術やワークシェアなんか惜しくないだろ。
      売れる方が絶対嬉しいんじゃね?

      16
      • 匿名
      • 2021年 7月 13日

      射出座席中国製か…
      パイロット可哀想

      5
      • 匿名
      • 2021年 7月 15日

      パキは其処まで発言力あるかなぁ。今度J-10C売って貰う事になったらしいしあんまり怒らせられないでしょう。

    • 匿名
    • 2021年 7月 14日

    少しでもパワーアップさせてイギリスに対する牽制に使う気だな
    デフォルトしても支払いは農作物とかの天然資源で交換すればいいし、デフォルト繰り返して民衆の不満が溜まって再度フォークランド侵攻してくれれば儲けもん
    流石中国、とう転んでも損はしない1手やね

    6
      • 匿名
      • 2021年 7月 14日

      中国に武器供与など肩入れされても
      今一度フォークランド紛争やる力があるのかね‥

        • 匿名
        • 2021年 7月 14日

        無理やろ、中国は武器売りつけても手は貸さない

        1
        • 匿名
        • 2021年 7月 14日

        海洋版ナゴルノ・カラバフに持ち込めれば、勝機はあるでしょ。このプランが成功すれば、尖閣防衛にとって脅威になるけど…

      • 匿名
      • 2021年 7月 14日

      中国は影響力拡大による米に代わる覇権が国策なんでその機会は逃したくないてことでしょ。
      そのために遠好策をとり欧州を味方に付けたいのが本音で積極的対立は望んでないかと。
      アルゼンチンがフォークランド諸島侵攻を立案するほどの軍事支援を中国が行えば、英が今以上に強く反発するのは必至です。南米諸国も警戒することになり得策ではないと思えます。
      ですからアルゼンチンに対する軍事協力は外交バランスを見た限定的なものになるんじゃないでしょうか。

      2
    • 匿名
    • 2021年 7月 14日

    政治的利益(米国への圧力)+経済的利益(石油やリチウムなどの天然資源取引き)
    を狙っているとすれば、両国にとってはウィンウィンなんでしょうね

    2
    • 匿名
    • 2021年 7月 14日

    しかし未だにA-4を使っているところがすごい。
    まあ、レーダーFCSと最新ミサイルを装備すればそこそこ戦力にはなりそうですね。

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