ロシア軍のゲラシモフ参謀総長は26日「ポクロウシクを包囲した」と報告したが、RYBARは「包囲を報告するのは時期尚早」「ポクロウシク方面の状況は厳しいままだ」と指摘し、Two Majorsはウクライナ軍の長距離攻撃と特別軍事作戦を支援する寄付に関する問題に言及した。
参考:Что происходит на Покровско-Мирноградском направлении?
参考:Минобороны России
参考:Обзорная Сводка на 26 октября 2025 года
参考:Начало выше
参考:More than Tomahawks: what Ukraine’s soldiers say they actually need
再びゲラシモフ参謀総長がポクロウシク包囲を報告、RYBARは包囲を報告するのは時期尚早だ指摘
ロシア軍のゲラシモフ参謀総長は8月末の夏季攻勢総括で「ポクロウシクとディミトロフは包囲され封鎖されている」「ロシア軍支配地域はノヴォレクサンドリヴカ、ゾロティ・コロディアズ、フルズケ、ヴェセレ、ステピー、ルビジュネまで達している」と報告し、ロシア人からも「美しい報告者」「実際の状況からかけ離れすぎている」と批判され、ロシア人ミルブロガーのДва майора(Two Majors)も9月24日「ロシア国防省の発表は美しい報告書に過ぎなかった」と批判したことがある。

出典:Минобороны России ロシア国防省が公式に発表した8月30日時点での戦況マップ
“敵がノヴォトレツケへの突破に注力しており、集落内で敵部隊とロシア軍部隊が銃撃戦を繰り広げる映像が公開された。敵は我が軍の突出部を切り落とそうとしている。現地部隊からは数週間にわたり美しい報告書が続いており、この中には以前に『占領』した集落の支配状況に関するものが含まれている。RYBARと国防省の戦況図を比較すると『楽観的な見解』を一般向けに提示たものと結論づけられる。これは敵のみを欺く目的で行われたものであると確信している。勿論、一般向けに提示したものと政治・軍事的指導者に報告される戦況図は異なるはずだ。何故なら、幾つかの集落は控えめに言っても解放されておらずグレーゾーンだからだ”
Two Majorsが言及した戦況図とは「ゲラシモフ参謀総長が8月末に発表した夏季攻勢の結果を示す戦況図」のことで、これを「敵のみを欺く目的で行われたものである」と表現したのは「ロシア人すら信じないものにウクライナ人が騙されるはずがない」という皮肉に過ぎず、RYBARも「T-0515やT-0514を超える位置までロシア軍が前進したという国防省発表」と「戦場の現実」の整合性をとるためロシア軍支配地域やグレーゾーンとは異なる第三の領域=浸透地域という新概念を導入したものの、現在はグレーゾーンに組み込まれている。
RYBARはポクロウシク方面について26日夜「ロシア軍がルシン・ヤール北郊外で前進した」「ロシア軍がウクライナ軍の反撃でノヴェ・シャホヴェ北東地域から安定した足場を失った」「ロシア軍がウクライナ軍の反撃でスへツケ集落と周辺地域から安定した足場を失った」と報告し、視覚的証拠が登場したノヴェ・シャホヴェ北東地域とスへツケ集落からロシア軍支配地域を後退させたが、ゾロティ・コロディアズまで伸びた広大なグレーゾーンは維持しており、ノヴェ・シャホヴェ北東地域とスへツケ集落も「ウクライナ軍が奪還したのではなくロシア軍が支配的でなくなっただけ=グレーゾーンだ」という意味だ。
さらにゲラシモフ参謀総長は26日、プーチン大統領へ戦況を報告する中で「ポクロウシクとディミトロフで包囲した」と報告し、これについてRYBARは「これは物理的包囲を意味するものではない」「ポクロウシク方面の状況は厳しいままだ」「ウクライナ軍はロディンスケ方向の突出部に対して継続的な反撃を実施している」「この地域での前進が安定的で定着したものになるかどうかはまだ分からないが、敵はロディンスケ方向の戦場で主導権を握ろうとしている」「恐らくウクライナ軍はロディンスケ方向の突出部を切り落とそうと目論んでいる」と指摘し、楽観的な見方に異議を唱えている。

出典:Минобороны России
Two Majorsも前線の状況について「全体的に厳しい」「楽観視できる状況ではない」と述べ、ウクライナ軍の長距離攻撃と特別軍事作戦を支援する寄付について以下のように言及した。
“スームィ方面やハルキウ方面ボルチャンスクでは激しい戦闘が続いているものの、ロシア軍は連邦領と国境接するスームィ州とハルキウ州に緩衝地帯を作り出せなかったため、ベルゴロドでは電力供給が安定的でなくなって街灯の明かりも消され、住民は発電機の購入を強いられている。さらにHIMARSの攻撃でベルゴロド近郊のダムが損傷(ボルチャンスク方向に移動するためドネツ川を渡るのが困難になったという意味)した。ウクライナは米国製兵器でベルゴロド州のエネルギーインフラを破壊し、無人機で製油所や発電所など重要施設を破壊し、我が国の社会的安定を積極的に壊そうとしている”
Over the weekend, Ukrainian forces repeatedly targeted the dam on Russia’s Belgorod Reservoir, and early this morning, the dam began to release a massive amount of water.
Downstream, the flooding Siverskyi Donets River is reportedly threatening Russian logistics near Vovchansk. pic.twitter.com/TLEkR5kmfr
— OSINTtechnical (@Osinttechnical) October 26, 2025
“独裁的な将軍の問題や補給問題も解決したとは言い難く、政府高官の責任は平時の法律に基づいているため、将軍の頭の中には「戦争での勝利が全てを帳消しにする」という危険なアイデアが浮かんでいる。補給問題も徐々に改善を見せているが、前線部隊では依然として電子装備、装甲車両、通信システム、ドローン、消耗品の調達資金をボランティア組織の支援に頼っている。それなのにジャーナリストやクソ軍事ブロガーの努力のお陰で国民からの寄付は低迷し、テレビは「立ち上がれ、広大な国よ」ではなく「すべて順調です、美しい侯爵夫人」を垂れ流している”
ロシアはウクライナ中央や西部への長距離攻撃とは別に「ハルキウ破壊を目的にした都市攻撃」を行っているものの、ウクライナも報復として長距離攻撃によるエネルギーインフラ破壊とは別に「ベルゴロド破壊を目的にした都市攻撃」を行っており、発電所、変電所、産業施設を激しく攻撃されたベルゴロド州当局は住民に「発電機の購入」を促している。
さらに「ジャーナリストやクソ軍事ブロガーの努力のお陰で国民からの寄付が低迷している」という言及は、特別軍事作戦を支持する軍事ブロガーのポズドニャコフ氏がクレムリンのプロパガンダを牽引するTV司会者=ウラジミール・ソロビヨフ氏の不正を暴いて問題になっていることを指しており、ソロビヨフ氏が設立した個人財団は特別軍事作戦を支援するという目的で1億ルーブル以上の寄付を集めたものの、大半の資金はソロビヨフ氏の口座に残ったままで、僅かの資金で特別軍事作戦向けに開発した戦闘用バギーは「まるで粗末なゴルフカートだ」と呼ばれ、前線部隊も戦闘に耐えられないため使用を拒否しているらしい。
ソロビヨフ氏の不正は「クレムリンと繋がりのあるTV司会者が愛国的な募金キャンペーンを利用して自らのイメージを高め、さらに集めた寄付金の使用用途に関する説明責任からも逃れようとしている」と受け取られ、国内メディアはクレムリンと繋がりのあるソロビヨフ氏について沈黙を保っているものの、Telegram上では大きな批判に発展しており、Two Majorsは「前線部隊はボランティア組織の支援を必要としているのに、寄付に対する国民のモチベーションを壊すようなマネは止めろ」と言っているのだ。

出典:Telegram経由 ソロビヨフ氏が前線に自称“戦闘用バギー”
但し、今年に入ってTelegram上で見かける寄付の呼びかけは苦戦が目立ち、国民の寄付低迷は4年目に突入した戦争への疲れが表面化していることを示唆し、ソロビヨフ氏の不正はこの流れを後押ししたに過ぎないのかもしれない。
因みにkyiv Independentは「ウクライナ政府は米国からのトマホーク供給を待ち望んでいるものの、前線の将兵らは基本的なニーズの不足がより切迫した問題だと考えている」と報じ、現在の戦場において装甲車輌は最優先の破壊対象で、さらに重量とサイズの問題でFPVドローンの攻撃を回避するも困難なためピックアップトラックが重宝されているものの、それでも2週間から1ヶ月程度しか保たないため追加車輌が必要なのに国民からの寄付が減少しているため調達がままならないらしい。

出典:93-тя ОМБр Холодний Яр
kyiv Independentの取材に応じた第59独立強襲旅団の兵士も「戦車と砲弾は十分あるのに陣地へ移動する車輌が殆ない」と、ウクライナ軍を支援するボランティア組織のCome Back Aliveも「歩兵中隊は兵士を陣地に移動させるのと食料や武器を輸送するのに車を1台しか持っていないことが多い」と述べたが、歩兵不足をカバーするドローン供給(前線では1日9,000機を消耗)も上手くいっておらず、逆にドローンを沢山持っていてもドローンオペレーターが不足する場合もあり、前線の将兵らはトマホークよりも基本的なニーズを満たすことの方が重要だと考えている。
補足:頻繁に「自分が見ている戦況マップと違う」というコメントを頂くのですが、コメント主が何を信じるのも自由で「それが間違っている」と言う気もさらさらないのですが、強いていうなら大半の観測者が提供している戦況マップは「登場した視覚的証拠の内容不問でロシア軍がその地点を占領している」という前提で線を引き、しかも視覚的証拠が登場した位置と位置を直線で結んだ範囲を「ロシア軍が占領した」と主張するため、同じ視覚的証拠の登場でも「現地の兵士から得た情報」と組み合わせて前線を評価するDEEP STATEやRYBARと異なるのだと思います。

出典:Сливочный каприз 登場した視覚的証拠の位置のみで線を引くタイプの例
自分が見ている戦況マップと違うと感じる気持ちが「どの辺りから来るのか」は想像がつきますし、DEEP STATEやRYBARの報告が唯一の正解だなんて思ってもいないし、両者の評価を比較して個人的に導き出した解釈を押し付ける気もないので、互いに「これが事実に近いんじゃないか」と思うものを見ればいいのではないでしょうか?
因みにDEEP STATEやRYBARも今のところ「ポクロウシク中心部にロシア軍の安定的な足場=ロシア軍支配地域を確認できない」という立場を維持しています。
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※アイキャッチ画像の出典:Минобороны России






















現状でポクロウシクが包囲されてるとは考えづらいのは、前提としてポクロウシク南郊外でもロシア軍の支配地域が拡大しつつあるのが要注目だと思います
ロディンスケが天王山になるというのはロディンスケにドローン攻撃拠点を設けられた場合、唯一機能している補給路O-0525がドローン監視下に置かれ安全に使用できなくなる為とされていますが同じ事は、ポクロウシク南郊外の標高75mのテリコンでも可能と考えられます
新しい形の「戦場の霧」なんでしょうね。
あとそもそも寄付で成り立つ補給体制がどちらの軍でも未だ重要だというのは、どっちも旧ソ連軍以前の諸侯軍による中世の軍隊かよと。
しかし、パイプラインの中用のカートと、ゴルフカートと揶揄された安物のATVwの安っぽさよ…。
「戦場の霧」と仰るが、そもそもこんなに詳細な戦況を、第3者が・・・というか素人が・・・観測・予想していた戦争って、これまでにあったのでしょうか。
情報の量が増えすぎたり、秒単位で情勢が変化するようになると情報の不確実性は、増すのですよ。
私の仕事でも機械の進歩で処理する情報量が1万倍くらいに増えた時に対応できるようになるのに10年くらいかかりました。
流石にこれは百歩譲って情報戦だとしてもガバガバというか、現場の兵士が聞いたらむしろ反発するんじゃないですかね。
停戦交渉・米露会談など、政治・外交マターになっていますからね。
ゲラシモフ参謀総長の発表、今回のものは、さすがに聞き流すのが無難に感じます。
追記です。
ここからどうなるのか、1週間程度見守れば、いろいろと分かる事が増えそうですね。
ロシア側は前線や国境以外はドローンが飛んできてエネルギーインフラを破壊するぐらいなんで、殆どの国民は他人事でさすがに4年も経つと無関心になって寄付が減るのはわかるんですが、侵攻されてるウクライナ側の寄付が減ってるってのは驚きですね。
ロシア側と違って危機感もあるだろうにそれでも寄付が減るのか。。。。
私はウクライナの勝機は西側の支援に支えられた長期戦しかないと考えてましたが、思った以上にウクライナ国民に厭戦気運が出てるみたいで驚きました。これだと長期戦は厳しいのではないか。
最近になって急にウクライナ政府が若年層の出国を認めた事も国民の不満を逸らす狙いがあると思いますよ(というかそれ以外に理由が思い浮かびません)。
一般市民にとっては戦争なんて負担でしかない訳で、「4年もやったんだからそろそろ終わらせろ」という感情は双方ともにあるんじゃないですかね。
『いつまでやってるんだ』これが正直な感想かもしれませんね。
日本も過去は世論が盛り上がりましたが、『インフレで貧乏になってそれどころではない』貧乏に転落すれば世間は冷たいですから、自分の生活に一所懸命なのかなと。
ゲラシモフ参謀総長、明らかに功を焦ってますね。
プーチン大統領閣下から何かしらのタイムリミットを設けられたのでしょうか?
包囲はしていると思いますが完全占領はまだまだだと思います。
制圧もそんなに時間は掛からないと思いますが、それでもそんなに簡単では無いはず。
ISWの方の戦況図を見るとロシア側がペースを上げているのはよくわかるのですが。
??「ゲルァシモォフ!! 正確な発表はどこだ!!」
後半に出ていたバギーらしき物体、あまりにもと言うか···流石にコレに乗せられるのはロシア兵といえど同情しますね。個人的に過去イチ可哀想だったのは野外でトイレ中にドローンに突っ込まれたロシア兵ですが。