ロシア関連

ロシア、無人機や精密誘導兵器と交戦可能な新しい防空システム「Magistr-SV」を発表

ロシアは無人航空機(UAV)が勝敗に大きく影響を及ぼしたナゴルノ・カラバフ紛争から得た教訓としてUAVに特化した防空能力構築を挙げたが、これに対応したと思われる装備の量産を開始したと報じられている。

参考:«Росэлектроника» начнёт в 2021 году серийное производство новейших комплексов управления ПВО «Магистр-СВ»

独自の迎撃弾を持たない風変わりなロシアの防空システム「Magistr-SV」が登場

ロシアは低空を低速で飛行する低シグネチャーな小型の無人航空機を既存の防空システムで対応するのは技術的に困難で保護する対象も膨大なため装備の数が足りないと言っていた。

出典:Julian Herzog / CC BY 4.0 徘徊型UAV「ハロップ」

この問題を解決するためにはセンサーのアルゴリズムを改良して小型UAVを検出できるようにすること、歩兵戦闘車等に搭載されている大口径の機関砲や遠隔操作に対応したRCWSなどを制御する火器管制システムを改良して空中目標と交戦できるようにすること、改良したセンサーが検出した情報を改良した歩兵戦闘車やRCWSを搭載した車輌とリアルタイムで共有する技術の開発が必要で問題を直ぐに解決するのは難しいと思われていたが、この問題に対応したと思われる装備の量産を開始したと報じられている。

ロシアの国営企業「ロステック(英:Rostec / 露:Ростех)」の傘下企業であるRoselectronicaは自走式の防空自動射撃統制システム「Magistr-SV」の連続生産を開始すると発表、このシステムは搭載された各種センサーを使用して空中目標の検出・認識・追尾に特化しており、Magistr-SVに接続された既存のサブシステムは高精度の座標データを利用して無人航空機や精密誘導兵器と交戦できるようになるとRoselectronicaは説明しているが、既存のサブシステムが何なのかについては言及されていないので不明だ。

出典:Roselectronica Magistr-SV

しかしロシアは車輌等に搭載されている大口径の機関砲や遠隔操作に対応したRCWSなどを制御する火器管制システムを改良して空中目標と交戦することに言及していたことを考慮すると「Magistr-SV」は部隊随伴タイプの防空自動射撃統制システムで、部隊に所属する装甲戦闘車輌に搭載されたデジタル制御の機関砲やRCWSをMagistr-SVに統合して対空戦闘を一括制御することを狙っているのかもしれない。

要するに各装甲戦闘車輌に空中目標を検出して照準を合わせるためのセンサーを追加するのではなく、検出・認識・追尾に特化したセンサーを別に用意してネットワーク化することで無人航空機や精密誘導兵器(※)に対抗するためのコストを安く抑えるつもりなのではないかと管理人は予想している。

※補足:最近の近接防空システムはJDAMやペイブウェイ等の精密誘導兵器と交戦する能力をもたせるのがトレンドで、アラブ首長国連邦の防衛産業企業が発表した防空ミサイル「SkyKnight」も無人航空機や精密誘導兵器の迎撃に対応している。

ロシアの防空システムといえばエリア防空を担当するS-300やS-400が有名だが、近接防空システムへの投資が途切れた西側とは異なりロシアは旧ソ連時代から投資を継続(経済の混乱で一時的に資金の供給が途切れたことはある)してきたため次々とコンセプトの異なる近接防空システムが開発されており非常に興味深い。

出典:Vitaly V. Kuzmin / CC BY-SA 4.0 パーンツィリ

ロシアの近接防空システム「パーンツィリ」などは専用の迎撃弾を開発して使用しているため交戦範囲が広く、上昇ブースター付き迎撃弾「57E6E」はパーンツィリのイルミネーターによって誘導する方式を採用しているため高価なシーカーを必要としない=つまり迎撃弾自体の低コスト化も実現しており、欧米が慌ててスティンガーを転用して開発した近接防空システムとは根本的に性能が別次元だ。

果たして新たに登場した防空自動射撃統制システム「Magistr-SV」がモノになるのかは謎だが、ようやく無人航空機対策に本腰を入れ始めた欧米の関係者はロシアの新たな防空システムに注目していることだろう。

関連記事:ロシア軍関係者の証言、既存の防空システムが無人航空機に対して無力な理由
関連記事:ロシア軍がナゴルノ・カラバフ紛争から学ぶべき教訓とは?

 

※アイキャッチ画像の出典:Roselectronica Magistr-SV

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コメント

    • 匿名
    • 2021年 4月 01日

    複数の機関砲による弾幕射撃を近代化・ネットワーク化させて
    センサーが発見したものを射程距離に収めている複数の車両に指示して
    移動中でも同時射撃して、撃墜確立を高めるということなんだろうか。

    センサー妨害とデコイを使って射撃車両を探すぐらいしか手がなさそうだな

    7
    • 匿名
    • 2021年 4月 01日

    極めて不謹慎な考えだが、実績のあるトルコ製無人機が先進的な装備を持つ大国の正規軍にどこまで通用するか見てみたい。中小国同士の小競り合いや内戦での無人機の有効性は既に十分に立証されたが、軍事強国の正規軍相手に正面から戦えるとなると、本当にこれまでの常識がひっくり返るかもしれない。

    10
      • 匿名
      • 2021年 4月 01日

      シリア空軍との交戦で既にその結果は出ていると思う
      最終的にトルコのF-16が不法行為のような攻撃でシリア空軍機を排除した時点でトルコ側無人機の一方的な敗北

      4
      • 匿名
      • 2021年 4月 01日

      サウジとフーシ派の戦闘ではサウジが一度は油断から痛い目を見たけど防空体制の強化とAWACSとFー15によるCAPを始めて以降はフーシ派のドローンをほぼ封殺してるようだから本格的な制空・防空能力を持つ国には通用しないって結論でいいと思うぞ

      9
        • 匿名
        • 2021年 4月 01日

        封殺は言い過ぎ、サウジは被害を積極的に公表したがらないけど欧米メディアは石油関連施設に連日とまでは言わないが高頻度で被害が出てると報じてる。

        サウジ空軍のF-15がシーフのドローンを低空まで降りてきて迎撃する動画が公開されてるけど、使用されるドローンの調達コストは数千ドルに過ぎないのに、サウジのF-15はAIM-120を使用していて割に合わないと言ってる。

        既存の手段で無人機を防ぐのは難しく費用対効果が見合わないという課題は何も解決されてない。

        15
        • 匿名
        • 2021年 4月 01日

        いい加減に、本格的防空網もってるロシアこそこうやって対策やってる現実を認めて下さいよ
        ホントに疲れるお方だ

        4
        • 匿名
        • 2021年 4月 01日

        早期警戒機や戦闘機で、次々と湧いてくる安価なUAVなんぞに対応してたら誰でも破産しますって(笑)
        根本的な問題を理解できないんですね

        5
          • 匿名
          • 2021年 4月 02日

          フーシ派はイランから武器の供給を受けてるしサウジは能力的の限界からかズルズルと割に合わない防空戦を強いられてるが本気の大国相手じゃ航空優勢を握られた段階で爆撃でドローンの元を絶たれて終わりだよ。
          防空戦の一時的なコスパの悪さは問題にならない。

            • 匿名
            • 2021年 4月 02日

            じゃなぜ大国の米国やロシアが無人機対策に力を入れてるの?爆撃で元を断てば済む問題なんでしょ?

            この理屈なら大国ではない北朝鮮の弾道ミサイルだって爆撃で元を断てば済む話だね?所詮、あなたのような主張は机上の空論って言うんだ。

            3
              • 匿名
              • 2021年 4月 03日

              米露が無人機対策をするのは将来的により効率的に対処できるようにするためでしょ。
              対処能力を高めるのはは大事だけど対策を進めてるからと言って今現在ドローンが米露にとって対処困難な高い脅威を持った存在だとは思わん。
              この議論の発端はドローンを使えば中小国が大国の装備相手に正面からやり合えるようになるのかというもので自分は多少面倒になるだけで大きな脅威にはならないという考えなわけだがドローンを駆使すれば中小国でも本気で正面から米露に対抗できると思ってるのか?

              あと発射後すぐに発射機を退避させられる弾道ミサイルと発射後も200km圏内で通信をしてやらなくちゃいけないドローンじゃ爆撃による無力化の難易度が全然違うわけでそれを一緒くたにするのはおかしい。
              航空優勢を奪われた状態で通信電波を垂れ流して無事でいられると思うのか?

                • 匿名
                • 2021年 4月 03日

                >通信電波を垂れ流して無事でいられると思うのか?

                あたなの通信電波に関する知識って第二次大戦レベルだから話が噛み合わないんだよ。

                1
                • 匿名
                • 2021年 4月 03日

                軍事関係の通信は傍受され難く妨害耐性の高い指向性の通信を利用するから通信電波の垂れ流しというのは、ちょっと違う気がする。

                1
                • 匿名
                • 2021年 4月 03日

                多少面倒になるだけで大きな脅威にはならないって考え方がズレてる。

                もし無人機の脅威がその程度なら米国やロシアを含めた多くの国がこれほど大騒ぎしてない。

                無人機が全ての状況をひっくり返すまでの力はないけど、君が思っているほど世界は無人機のことを過小評価もしていないよ。

                1
            • 匿名
            • 2021年 4月 03日

            あなた笑えるくらいに頑迷だね

            1
      • 匿名
      • 2021年 4月 01日

      トルコ製じゃないけど、サウジが戦闘機で低空飛行するフーシ派のドローンを探知、撃墜に成功してる。
      今のところ費用対効果では負けてるけど、ドローンによる空襲を効果的に行うには、有人機同様まず制空権が必要というのは変わりなさそう。

      8
        • 匿名
        • 2021年 4月 01日

        制空権を掌握する必要がある、とはいっても制空権を制していないはずのフーシ派が石油施設への攻撃に一定の成功を収めてる以上、やはりUAVの脅威は薄れていないかと
        これが完全に完封できているなら話は違うけどね

        5
        • 匿名
        • 2021年 4月 01日

        いやぁ、費用対効果で負けるどころじゃないよ。ドローンの製造は値段もそうだけど、早くそして大量に組みたてやすいから、冗談抜きでコスト差で押し負けつつあるし。

        5
          • 匿名
          • 2021年 4月 04日

          制空権を取らねば真価を発揮できないってことだろ、無人戦闘機(ここで言ってるのはマクロスのゴーストみたいな感じのやつ)が世に多く出回り始めるにはまだ時間がかかりそうだし、まあ、制空権取られてなくても十分(十二分かもしれない)脅威だが。

            • 匿名
            • 2021年 4月 04日

            マクロスのゴーストみたいな奴ってのはそいつらほどのいかれ性能の野郎ってことじゃなくて空対空戦闘ができる無人機って意味ね。

        • 匿名
        • 2021年 4月 01日

        空を飛ぶものは全て制空権の支配下か…
        中々ブレイク・スルーしないね。

    • 匿名
    • 2021年 4月 01日

    日本も無人機と交戦する兵器を早めに調達した方がいいですよ。
    中国や北朝鮮が無人機を使って日本を攻撃を攻撃する可能性は十分にありますから。

    4
      • 匿名
      • 2021年 4月 04日

      何処から取り寄せるんだよ、そもそも揃えられるか、多分このロシアもこの装備を十分な数揃えるのは困難だろう、ロシアの金銭状況を見れば明らか、しかし、我らも防衛費が足りぬので、、、

    • 匿名
    • 2021年 4月 01日

    焦りの表れなんだろうけど流石にフカし過ぎでは?
    たった半年で対策出来るとは思えないんだが

    2
      • 匿名
      • 2021年 4月 01日

      見方を変えれば、フカシ入れるほどにドローン、UAVを相当な脅威と見なして必死になってるんですよ

      3
        • 匿名
        • 2021年 4月 04日

        金がないのにそんなことしても無駄なんだから、もっと違う所に力入れろよ、むしろ無人機の配備や研究に金を投げるべきだと思う。

    • 匿名
    • 2021年 4月 01日

    ロシアは艦艇の対空防御システムでも、センサーと砲が別だものな。
    陸上でも同じことをしてもおかしくはないし、それなら既存の砲システムを転用できるかもしれないから、上手くいくかもしれない

    3
    • 匿名
    • 2021年 4月 01日

    対策に力を入れるという事はその心当たりがあるということだよね。具体的にどこを想定しているのかねえ…
    本当に効果があるのなら1つの回答として日本も参考にして欲しいかな。

    2
      • 匿名
      • 2021年 4月 02日

      ウクライナのトルコ製無人機か、シリアの武装勢力じゃね。

      1
    • 匿名
    • 2021年 4月 01日

    サウジみたいに主に石油関連施設のような固定目標が狙われているなら
    阻塞気球を使うべきかと思うんだが、気象的に厳しいのかな?

      • 匿名
      • 2021年 4月 01日

      V1ロケットみたいな感じ?面白いアイデアだけどドローンはラジコン操作だから避けられるんじゃないのかな

      1
    • 匿名
    • 2021年 4月 02日

    ドローン落とすなら機関砲の近接信管砲弾で撃てば一瞬じゃないのってずっと思ってるんだけどどうなんだろ

    1
      • 匿名
      • 2021年 4月 02日

      建物や木立等の障害物に反応しないで、ドローンのみ感知する信管が開発できればまあ可能ですかね。

    • 匿名
    • 2021年 4月 02日

    バイラクタルクラスだと、高度が全く足らないし、それ以下のクラスだと届いて、撃墜しても、衛星通信で送った画像をもとに長距離攻撃される。
    そもそも既存のレーダーについてるノイズフィルターで検出自体がされない。ので、基本、新製品で対応。徘徊型制空UAVとかがいいと思う。

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