ロシアの国営企業「ロステック(英:Rostec / 露:Ростех)」は海外の潜在的な顧客を招待して自走砲「ムスタ-S」と偵察・監視タイプの無人航空機「オルラン-10」の共同交戦能力を披露した。
参考:Rostec Demonstrates Coordination of 155mm Msta-S Howitzer with Recon UAV to a Foreign Customer
海外市場に供給され始めた自律的に連携可能なUAVと自走砲の組わせ
152mm榴弾砲搭載の自走砲「ムスタ-S/2S19」は旧ソ連時代に開発されものだが改良型の開発が続けられており、ロシア陸軍が採用する現行の2S19M2は旧型に比べ射撃速度が向上(7~8発/分→10発/分)しており、複数の目標に対する同時攻撃能力(1輌の2S19M2から複数の砲弾を発射、異なる位置に存在する目標に同着で砲弾を着弾させる能力)や敵の精密誘導兵器による攻撃から車輌を保護ためレーダーや赤外線センサーによる検出を阻害(※1)する保護キットも採用されている。

出典:Mil.ru / CC BY 4.0 ロシア軍の2S19M1
※1補足:合成断熱材と電波吸収材で構成された保護キットは装甲車輌がレーダーで検出される可能性を最大6割程度、赤外線センサーで検出される可能性を最大3割程度軽減することが出来ると主張しており、米国の対地版早期警戒管制機E-8の車輌識別距離を180km→30~40kmまで短くする効果があるらしい。因みに2005年時点での調達コストは2,675ドル(約29万円)でナゴルノ・カラバフ紛争で敗北したアルメニア軍が購入している。
ただ今回披露されたムスタ-Sは旧型2S19M1に西側標準の155mm榴弾砲を搭載した「ムスタ-S/2S19M1-155」と呼ばれている輸出専用輌なので、ロシア軍向けに採用されている射撃システムや現行の2S19M2に付与された能力が備わっているのかは不明(ロステックは「近代化された2S19M1-155」と表現しているので2013年頃に登場したものよりも性能が向上している可能性が高い)だが、海外の潜在的な顧客に披露されたオルラン-10との共同交戦能力は中々興味深いものがある。
ロステックによれば無人航空機「オルラン-10」は取得したターゲットの座標データをムスタ-Sの射撃システムに直接転送(※2)することが可能で、ムスタ-Sを操作する兵士は転送された座標データを基づいて155mm榴弾砲をターゲットに向けて発砲すると説明して「ムスタ-SとUAVは自律的に連携することが可能」と主張しているのが印象的だ。
※2補足:ムスタ-Sの射撃システムに直接転送とはいっても実際にはオルラン-10→地上の管制装置→ムスタ-Sの射撃システムというデータの流れになるので、オルラン-10から本当に直接ムスタ-Sにデータが転送される訳ではない。
ウクライナ軍は2014年のクリミア危機やウクライナ東部紛争でUAVを使用した自走砲の運用を実際に行っており、英国のウォレス国防相は「ウクライナはロシア製(旧ソ連製)の榴弾砲や自走砲による遠距離攻撃にUAVを使用した前方観測を組み合わせて効率的で致死性が高い縦深射撃効果を生み出している」と評価して英国軍もUAVを活用した自走砲を主張している。
恐らく2014年にウクライナ軍が使用した戦術は前方観測にUAVを用いただけで、ロステックが披露したUAVの取得データを瞬時に自走砲の直接射撃システムへ転送できるような高度なものではなかったはずなので自走砲とUAVが自律的に連携し始めるとクリミア危機やウクライナ東部紛争で観測された以上の効率的で致死性が高い縦深射撃効果が生まれるかもしれない。
しかも海外市場にこの様なシステムが供給され始めているので陸戦が予想される国は前提部隊のカウンタードローン対策(近距離防空システムの充実や電子妨害装置の配備など)が急務と言える。
因みにフランス、ベルギー、キプロスの3ヶ国は「センサーとシューターの分離」を実現して視界外の交戦能力を備えた次世代の地対地/空対地ミサイルを開発することを目的にしたプログラム「EU BEYOND LINE OF SIGHT LAND BATTLEFIELD MISSILE SYSTEMS(EU BLOS)」を進めており、Novadem製のマイクロドローン「NX70」を使用して視界外の敵装甲車輌を対戦車ミサイル「MMP」で破壊する実証実験(NX70が収集した敵装甲車輌の座標データをMMPの発射装置に直接転送する方式)を成功させている。
要するに歩兵が携帯可能な対戦車ミサイもですら今後は長射程していくことが予想されるため、戦場でUAVやドローンを発見すれば直ぐに砲弾やミサイルが飛んでくることを覚悟しなければならないのだろう。
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※アイキャッチ画像の出典: CC BY-SA 4.0
砲兵自体が時代遅れじゃないの
UAVに爆弾やミサイル乗せて直接攻撃したほうが的確で早いし
最終的には徘徊型の自爆ドローンを巡回させようって事になるのでは
アメリカ以外の国では戦争継続が不可能になる程、コスパが悪い。
徘徊型が狙うのは、SAMとレーダーだけ。ただ、アメリカならわからない。
投射量が違いすぎるでしょ
UAVはピンポイント攻撃、大砲は範囲攻撃
安いから陸軍国には必要なんじゃね?
射程が長いし。
UAV+その弾薬、燃料が大量生産でアホほど仕入れても安いか砲弾一発と変わらない位になったら解らんけど。
「センサーとシューターの分離」のシューター役って、ある意味間接射撃で砲兵が100年以上前から担っていた分野。
それを携帯ミサイルとかでも一部担えるようになるので、砲兵の役割は縮小するとは思います。
でも砲兵の役割縮小は、航空の台頭とか携帯兵器の発達でも起きていることで、
砲兵はそれらと棲み分けして生き残っているし、今回も同様だと思います。
ナゴルノ・カラバフ戦争でのバイラクタルは、当初は搭載していたMAMで積極的に攻撃していたが、
地上部隊が追いついてからは、出来る限りMAMは使わず砲撃管制で攻撃しようとしていたな。砲撃管制だと弾切れしないから。
あと砲弾の方が安いから?
砲兵がより遠距離から狙えるようになるだけでは
UAVとかミサイルって、その戦場で使う数量で、弾薬何百トン投射できるんでしたっけ。
他の人も言ってるけど投射量とそれが可能なUAVが高コストな事考えると一長一短かなと思う
砲兵使える状況なら投射量なくていいからセンサーとデータリンク使える低コストの無人機大量に飛ばしてセンサー・シューターで役割分担した方がUAVロストした時のデメリットも踏まえると安定だと思う
砲兵使えない状況ならまさにそういうUAVの出番だろうと思うけど
毎度同じになると思うので、
自衛隊も遠隔操縦観測システムFFOS)というUAVを持ってて、自走砲との連携はしてます。性能は秘密です。(やっぱり人の判断を介してるよね)
3年前にFFOSで敵艦隊を観測できるか試験してたら、墜落してマスコミに叩かれました。
5年前にスキャンイーグルを買いましたが、テレビ朝日に叩かれました。
去年から尖閣でスキャンイーグルが飛んでるはずです。
詳しく知らないので質問なんだが、自衛隊の自走砲とUAVの連携はどのレベルなの?
記事で出てきたみたいに自走砲の射撃管制システムにUAVの収集したデータを直接転送出来るレベルなのか、自走砲とUAVの連携に人間の介入が必要なレベルのかのご存知なら教えて頂きたい。
19式装輪自走155mmりゅう弾砲は、火力戦闘指揮統制システムや観測ヘリからネットワーク経由で得た目標情報などを、タブレット端末でタッチパネル入力するとの事なので、人の手を介していますね。
ただしタブレット端末入手なので、自動化はソフト改修で済むかも?
なるほど、貴重な情報をありがとうございました。
車両 艦船 航空機 UAVまで
管理人さんの守備範囲広すぎる(もちろんいい意味で)
いつもありがとう
頑張りすぎないで
「航空機の下位互換」でなくて「攻撃ヘリの上位互換」がUAVの正解なのかな
UAVは、航空機やヘリに被る領域はあるものの、それぞれ独立した集合で、上位下位の関係には無いと思います。
それぞれ異なるモノなので、得意領域も異なり、補完な関係にあるとも。
ただし、偵察ヘリはUAVに置き換わるかな。
まだUAVで兵員輸送できないしね。運ぶのも運ばれるのも無人機のSF世界はまだ時間かかりそうではある
01式軽MATは配備20年経つけど、新型やバージョンアップは無いんだろうか
砲兵と着弾観測の鉄板コンビだね。
自走砲の射程は40kmある。
東京駅から、川越市庁舎や八景島や木更津インターを狙撃できるわけで、ちゃんと当ててくる砲兵は脅威でしかない。
それ、射程短くね…?
ロケットやミサイルと比べられてもねぇ。継続的に威力の高い砲弾を撃つのが存在意義だし。
アメリカ軍ですら36だか38km先の目標に当てたのが最長記録らしいから、短いとは思えない。他の軍の記録は知らんが。
中国も「UAV+攻撃ヘリ/自走砲」を自律的に連携させて、悪天候でも水平線外の海上標的にミサイルや砲弾を命中させていますな。
UAVが標的を捜索・探知後に即座に伝達し、レーザー誘導まで行うので、自走砲やヘリは安全地帯から的確な攻撃ができる。
UAVのコントローラーはPS4かXBOXかのどちら?
セガサターンです
ピピンアットマークというのがありましてなぁ。
UAV推しの人って良い所だけしか見ていないで、榴弾砲はオワコンとか言っている感じがしてならない。そもそも運用者がお金がある国の正規軍とか小国~ゲリラレベルとかでも変わってくるし、攻撃対象が何なのかUAV対策されるかされないかでも変わる。それぞれを適切に組み合わせて戦果を上げる程度に考えるべき話ではないのかな。
UAV
・ピンポイント攻撃特化
・徘徊タイミングで発見したらなすぐに攻撃可能
・離れた場所に爆弾攻撃するなら移動に時間が掛かる
・小型UAVは射程が20km以下と短い
・天候等でとべなければ攻撃が出来ない
・高い火力を発揮出来る機体は大型になって高価で継続した攻撃をするなら数を揃える必要がある
・ハードキル/ソフトキルで攻撃困難になる恐れ