ロシアはウクライナ侵攻を「特別軍事作戦」と呼んで「主権国家同士の戦争状態」を否定しているものの、平時を装えば「ウクライナ軍の長距離攻撃に対する国内防衛への動員が出来ない」という矛盾を生み出し、ロシア下院は28日「平時任務に予備役を動員する法案」を可決した。
参考:Минобороны России
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優れた解決策の発表と「その解決を現実に実装することの苦労」は完全に別ものなのだろう
ロシア国防省が10月1日~31日までに発表したウクライナ軍無人機の撃墜数は過去最高となる2,674機で、ロシア下院は深刻化するウクライナ軍の長距離攻撃に対処するため28日「平時任務に予備役を動員する法案」を可決した。
| ロシア国防省が2024年10月から2025年9月までに発表した自爆型無人機(固定翼のみ)の撃墜数 | |||
| 2024年 | 10月 | 731機 | |
| 11月 | 727機 | ||
| 12月 | 670機 | ||
| 2025年 | 1月 | 814機 | |
| 2月 | 758機 | ||
| 3月 | 1,284機 | 10日夜~11日未明に337機を撃墜 | |
| 4月 | 811機 | ||
| 5月 | 858機 | ||
| 6月 | 669機 | ||
| 7月 | 1,824機 | ||
| 8月 | 1,495機 | ||
| 9月 | 1,308機 | ||
| 10月 | 2,674機 | 1ヶ月間の撃墜数として過去最高値 | |
ロシアでは1年間の義務的兵役を終えた若者は「予備役」として登録され、60歳の予備役解除を迎えるため最大54日間の年次訓練に招集される可能性があるものの、戦闘任務を伴う招集は戦時に限られ、戦争を宣言していない特別軍事作戦に予備役を動員するには現行法で対応できないため、2022年9月の部分的動員は大統領令によって実行された。
ロシア下院が今回可決した「平時任務に予備役を動員する法案」は、戦争を宣言していない状況で予備役を国内の重要インフラ防衛=防空任務に招集するためのもので、本法案が招集する対象も予備役ではなく「自発的に契約を締結している動員予備役(一定の報酬を受け取ることで定期的な訓練な軍事演習に参加することが義務付けられる積極的な予備役)」だ。
さらにウクライナ軍の長距離攻撃が集中するニジニ・ノヴゴロド州などでは「重要インフラを防衛するボランティア部隊の設立」が提案されており、プーチン大統領も各州が独自にボランティア部隊を設立することを支持しているが、まだ「平時任務に予備役を動員する法案」も「重要インフラを防衛するボランティア部隊の設立」も実行には移されておらず、ロシア国内は戦時法ではなく平時の法律で動いているためボランティアが無人機を迎撃することも多くの問題を引き起こしているらしい。
ロシア人ミルブロガーのДва майора(Two Majors)は「国内の防空問題は改善に向けて徐々に動きだしているものの、勇敢なボランティアが無人機を撃墜し、もし残骸が落下して民家が燃えたり誰が死亡すれば逮捕され罪を償うことになるかもしれない。私の理解ではロシア軍による撃墜を含む「無人機が引き起こす損害」の全ては国家負担だと思っているがボランティアは違う。結局のところ我々は戦争状態なのでボランティアの行為=戦闘行為への参加について何らかの法的正当性が必要になっている」と指摘した。
つまり特別軍事作戦という枠組みは「主権国家同士の戦争状態」ではなく「一方的に戦闘が国外で行われること」を前提にしており、ウクライナ軍のクルスク侵攻を経験しても「戦争状態」ではなく「テロ攻撃」と処理して国内に戦争が持ち込まれる状況を回避してきたが、ロシア連邦領に対する無人機攻撃は「平時を装えば大規模な国内防衛への動員が出来ない」という矛盾を生み出し、戦争状態を認めないため平時の法律で処理するとボランティアの行為が犯罪になってしまい、Two Majorsは「戦争状態なのに平時を装うのはもう無理だ」と言っているのだ。
因みにウクライナでも迎撃ドローンの問題が浮上しており、多くの人々は「迎撃ドローンが自律的にShahed型無人機を撃墜してくれる」「これを沢山配備すれば無人機攻撃の影響を緩和できる」と思っているものの、kyiv Independentは「迎撃ドローンの大量生産は難しくないものの、これを実際に運用する体制の構築は別問題だ」「迎撃ドローンの誘導はFPV技術に依存しているため1機毎の運用にオペレーターが必要だ」「さらに迎撃ドローンを効果的に運用するには支援チームやレーダーの整備が必要で膨大な人的・資金的リソースが必要になる」と報じている。

出典:ODIN
ゼレンスキー大統領も「迎撃ドローンにはオペレーターを準備する必要だ」「そのプロセスも複雑だ」と述べ、結局のところ現在の迎撃ドローンは目標を自律的に発見して交戦する自律性が備わっておらず、FPVドローンと同じようにオペレーターが目標まで迎撃ドローンを誘導しなければならないため、量産よりも運用面での課題が問題になっているという意味だ。
ロシアでも迎撃ドローンの開発と量産が行われているものの、恐らく同じ問題に直面している可能性が高く、優れた解決策の発表と「その解決を現実に実装することの苦労」は完全に別ものなのだろう。
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※アイキャッチ画像の出典:Минобороны России





















MSFSのドローン版みたいなのがSwitch2で出たら一気にオペレーター訓練問題解消しそう
民間のドローン迎撃ボランティアは、かなり前から既にウクライナでは普及していましたね
心理的なハードルは動員よりも遥かに低いし、意外とすぐに定員埋まりそうな気がします
結局は、数の力で何とかするしかにのでしょうね。
攻撃がより多くなればになれば、防御側もより多く国内資源を割く必要がでて負担を強要されるというのが、一貫した戦訓かなと感じています。
ドローン相手なら力はいらんだろう
女性老人含めて根こそぎ動員すればいい
仰る通りですね。
男ばかりに、負担をかける必要はありません。
戦争である事を認めていないから動員が出来ずにボランティア頼りになるのが問題という話で、論点がズレ過ぎでは?
ウクライナ側の話だよ
ロシアの場合だと徴兵されて1年間の訓練で軍紀や銃の扱いに慣れた男達が大勢いますから。
ソ連の機関砲ならまだ備蓄があるはずですしそれを撃つだけで迎撃率は高まるかと。
それはそうなんで、徴兵された人は銃の扱いになれていますね。
しかし、ロシアの徴兵は韓国などのように全員じゃないのです。「クジ」に当たった人だけなんです。
しかも、管理人さんがきちんと書いていますが、
第1に、対象は予備役の中でも契約をしてお金をもらっている人なんです。
第2に、法的に可能になっただけで、実施が今決まっているわけでもないのです。
力が要る要らないって単純な話では無く老人と女性が遊んでいるって証拠があるので?戦場に行っている年の若い男性の代わりが女性や老人だとしたら、そこさえも削減して国家が回るのかとも思う。二次大戦の英国なんて女性とか関係無くガッツリ長時間国家に奉仕させたし、日本だって女子挺身隊や学徒勤労動員やって足りない労働力補っているのに。
国家維持に全力が必要なら10歳以上の子供を動員する方を考えた方が良いのでは?
サムネの小銃はAK-12ですかね?…スコープも無いけどドローン墜とせるのかな…
>勇敢なボランティアが無人機を撃墜し、もし残骸が落下して
>民家が燃えたり誰が死亡すれば逮捕され罪を償うことになるかもしれない。
ロシアでもそんな馬鹿みたいな話ってあるの???
そりゃ向こうではこの戦争は「戦争」ではなく「特別軍事作戦」ですからね。バカな話もまかり通るのでは?
対ドローン防御の為にクソデカ燃料タンクを金網で囲って防御しようとしたら消防法に違反するとか言われて止められる国・・・それがロシアだ。
ボランティアどころか市の要請でヒグマ駆除したのに書類送検の上、銃所持の許可を取り消されたりするどこぞのお役所国家の体質も今の内になんとかして欲しいところです。
日本のクマ対策はともかく、ここで出てる銃所持がまさに問題でして。
官僚的な管理を徹底できないと国内に武器が氾濫する危険性があります。政府首長が方針を定めてもすぐに改革できない部分はここにあるかと。
まあタレットの配置みたいな地形固定のものならそのハードルも下がりそうですが。
ボランティア部隊←
もしかしてコサックが復活するのかな?
ロシア連邦では登録コサック制度があって、グルジア侵攻やクリミア併合で義勇兵として参加してたから、ウクライナ戦争でも活躍するかも!
個人的な妄想です
戦争でもなくてもこの問題って色々な作品に描かれるほど根深いのですよね
ウルトラマンじゃないですが、権力の後ろ盾がないボランティアがテロに対抗したときに生じる被害…安易にそれを認めていっても、それを裏手に取った自作自演とかになりますし
そもそも民兵を認める時のリスク…正規軍への権威的な問題とかエスカレーションとか武装流出とかと同じでしょうし…安易にはできず官僚的な厳格な管理が必要になるでしょう
クマ問題の構造に似てますな。
自衛隊をクマ対策に使おうと法律をこねくり回しているようですが無理筋なんだよな。
新たな問題を引き起こすことでしか
それまでの問題を解決できなかったって
どっかで聞いた文言だなぁ
ボランティアによる対ドローン向けの対空網の整備というのはウクライナ軍で実施済みかつある程度の効果が実証されているので、これはこれでアリなのでしょう
>ロシア軍による撃墜を含む「無人機が引き起こす損害」の全ては国家負担だと思っているがボランティアは違う
これの法的建て付けはどうなるんでしょうね?
「予備役による軍への奉仕活動」と位置づけるなら軍務の一環として免責とする事ができるでしょうけど、それはそれでボランティアが間違いや故意で人・建物に向けて銃撃しちゃった時に大問題でしょうし
義務教育でドローン操縦を教えるべきですね
ロシアと同等では無いにせよウクライナ側のドローン生産・調達体制がある程度充実してきたのであれば、泥縄的対策では対処出来無いでしょうから、“特別軍事作戦”の矛盾がある限りロシアは苦しくなる一方かも知れません。只効果が高いのは確かですが、ロシア国内の奥深くへのドローン・無人機攻撃は再利用不可能な片道切符なので、ウクライナ側も乏しい軍事資源の消耗を強いられ苦しい可能性もありますので、早い段階で戦況を左右する程の効果が出なければ○期を早めてしまうかも。「ロシア攻撃に行くのと都市防衛の前線で使うのとでは、全然機種も機体も違うんだよ」という事なら別ですが、各都市の苦戦・苦境を見ると“空のクルスク”になるのでは?という疑問も浮かびます。