ロシア政府は認知領域に対する情報戦、心理戦、世論戦の観点から秘匿性が高く管理できないTelegramからMAXへの移行を推し進めている。そのため「国内でのTelegram使用を完全ブロックする」と噂されていたが、露メディアのКоммерсантъは16日「Telegramのブロックは既に始まっている」と報じた。
参考:Telegram ставят блок
参考:Пользователи Telegram в России сообщили о новом сбое Telegram в России сообщили о новом сбое
ロシアは秘匿性が高く管理できないTelegramからMAXへの移行を推し進めることで認知領域の優位性を高めている
これまでの安全保障領域は陸、海、空に限定されていたが、ここに宇宙、サイバー、電磁領域が加わった。中でも認知領域に対する情報戦、心理戦、世論戦は社会的な回復力を侵食し、意思決定や認識の形成に影響を及ぼすため「直接的な敵対行為」と定義されることが多い。ここで重要なのは「真実」ではなく「都合のいい物語を定着させられるかどうか」で、そのための手段としてソーシャルメディアが活用されているのだ。

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Breaking Defenseも「米国人の半数以上がソーシャルメディアから情報を得ている現在、ディスインフォメーション(意図的な偽情報)は直接的な敵対的影響だ。この脅威に対抗するため国防総省は偽情報への対処を優先事項とし、本土防衛の一環として専門知識と権限をもつ米北方軍およびサイバー軍を活用すべきだ」「偽情報は社会的な回復力を侵食し、米国の意思決定や認識の形成に影響を及ぼすため、本土防衛を妨害する極めて効果的な手段だ」「社会的信頼が乏しい現代において、軍は外国の偽情報工作に直接立ち向かう必要がある」と指摘。
“情報空間は信念や認識の形成が争われる「認知の戦場」であり、本土防衛の極めて重要な領域だ。敵対者はこれを利用して虚偽のナラティブを拡散して意思決定に影響を与え、回復力を侵食する。偽情報は摩擦点を悪用して制度への信頼を損なわせる。本土防衛とはミサイルを迎撃して国境を警備することだけではない。米国人の認知領域である情報空間に侵入してくる敵対者に対抗することも含まれる”

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“ロシアの偽情報キャンペーンは「偽情報の洪水=firehose of falsehoods」と呼ばれるモデルに従っている。これはソーシャルメディアを通じて虚偽情報を絶え間なく流し続け、対策を圧倒するほど蔓延させる手法である。2020年にはロシアのトロールファーム(情報空間で偽情報をバラまく専門集団や企業)が毎月1億4,000万人の米国人ユーザーに到達し、プラットフォームのアルゴリズムがニュースフィード内でロシアの偽情報を増幅させた。これらの投稿はロシアの目的を果たすため国内の対立を煽り、不満を抱く層を標的にしている”
“中国のアプローチは多少異なる。北京はアナリストが「情報パイプ=information pipes」と呼ぶものを積極的に追求しており、AP通信やロイターなどの主要メディアにおける影響力を獲得し、米国人に中国のプロパガンダを流し込んでいる。中国は「環球時報=Global Times」のような国営メディアの記事を「公式のプロパガンダ」と気づかれないよう「正しいニュースとして解釈してしまうかもしれないユーザー」に届けようとしている。BBCがウイグル族のムスリムに対する人権侵害を報じた際、中国共産党は組織化されたトロールネットワークと57の偽ニュースサイトを展開し、BBCの信頼性に挑戦することで応戦した”

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“さらにAIは偽情報の脅威を飛躍的に増大させている。ディープフェイクも粗雑な偽造から政府高官を欺くレベルに進化しており、AIが生成した音声は国務長官の声になりすますことにも成功している。ロシアと中国は現在、AIを使用して前例のない規模でコンテンツを生成しており、影響を最大化するためにリアルタイムで適応する「高度にターゲット化されパーソナライズされた偽情報」を作成している”
中国の偽情報キャンペーンは情報パイプが主流というだけで、ロシアと同じようにソーシャルメディアを通じた虚偽情報の拡散も行っている。さらに西側製のソーシャルメディアはアカウント作成の条件や制限が緩く、匿名でのアカウント作成も可能で通信内容の秘匿性も高いため、西側諸国の認知領域における最大の弱点になっている。

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逆にロシアや中国はソーシャルメディアを統制し、国家の管理が行き届いたスーパーアプリを普及させることで「ソーシャルメディアへの偽情報流入や拡散」を抑制し、認知領域に対する攻撃を未然に防ごうとしており、ロシアはTelegramの代替手段として開発したスーパーアプリ=MAX(テキストメッセージ、音声メッセージ、ビデオ通話、決済オプション、行政サービス、デジタル署名など)の普及を推進。
MAXのユーザー登録にはロシアかベラルーシで発行されたSIMが必要で、Telegramと異なり通信の秘匿性は皆無に近くカメラ、マイク、位置情報、連絡先、ファイルへのアクセスも要求されるが、既に5,500万人のユーザー数を獲得し、ロシア政府は秘匿性が高く管理できないTelegramからMAXへの移行を推し進めるため「国内でのTelegram使用を完全ブロックする」と噂されてきたが、露メディアのКоммерсантъは16日「我々が取材した専門家によればTelegramのブロックは既に始まっているという」と報じた。

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“過去24時間、ロシアのIPアドレスに関する限り、家庭用プロバイダー経由の接続においてTelegramは事実上機能していない。メッセージは送信されず、受信したメッセージも読み込まれない。更新ステータスは頻繁に接続中ステータスへと切り替わり、チャット履歴を読み込むために数分待機しなければならないこともある。モバイルインターネット経由でのTelegramの稼働については実質的に絶望的だ。最近のモスクワと同様に、もし自身の居住する都市で限定的な『ホワイトリスト』に登録されたサイトしかアクセスできない状態にあれば、大半のVPNもTelegramへのアクセスには無力だ”
“これらの状況は「まだTelegramが公式にブロックされていない」という状況下で発生している。2025年にTelegram内の通話機能が無効化され、2026年初頭には一部のユーザー間でメディアファイルの読み込みと送信に関する問題が発生し始めた。2月にロスコムナドゾール(連邦通信・情報技術・マスコミ分野監督庁)はTelegramの部分的な帯域制限を認め、ここ数日でTelegramの稼働状況はさらに悪化し、完全なブロックに移行しているのかもしれない”

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“RBC(ロシアン・ビジネス・コンサルティング)は「Telegramが4月初旬に完全にブロックされる」「Telegramがサービスを継続するには法令を遵守する義務がある」と報じた。主な要求事項は禁止コンテンツの削除、ロシア人ユーザーのデータを国内にのみ保存することなどで、下院も先週「6か月以内にロシア国内のVPNはブロックされる可能性がある」「ブロック措置を実行後はVPNを経由してもTelegramは機能しなくなる」と発表した”
Коммерсантъは17日も「Telegramのロシア人ユーザーからサービス障害の報告が相次いでいる」と報じ、ロシア国内から西側製ソーシャルメディア(X、Facebook、Instagram)への接続もVPN経由のみ有効だったため、ロシアは国内でのソーシャルメディア利用をMAXに1本化するつもりなのだろう。

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ただし、ロシア国内からTelegram、X、Facebook、Instagramへの接続は「特定のユーザーのみ」に許される可能性が高く、この特定のユーザーとは情報戦、心理戦、世論戦に従事するロシア人のことで、ロシアは西側諸国に対する認知領域の優位性を高めている格好だ。
追記:MAXのユーザー登録には現在、ロシア、ベラルーシ、アフガニスタン、アルメニア、アゼルバイジャン、ボリビア、カンボジア、コロンビア、コンゴ共和国、コンゴ民主共和国、キューバ、ガンビア、ジョージア、グレナダ、インド、インドネシア、イラク、カザフスタン、クウェート、キルギス、ラオス、レバノン、マレーシア、モルドバ、ミャンマー、ニカラグア、パキスタン、パラオ、カタール、セントクリストファー・ネービス、タジキスタン、タンザニア、タイ、トルクメニスタン、トルコ、UAE、ウズベキスタン、ベネズエラ、ベトナムで発行されたSIMが必要らしい。
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西側諸国が偽情報の脅威から自国を守り認知戦で中露に対抗するには最早中露と同じ土俵に立つしかない。
皆様、ジョージ・オーウェルの『1984』という小説を読んだことがありますか?
自分は中学生の頃だったか? 読んで非常に重苦しい印象を感じました。今は2026年だけれど、今を予言してるように思えてちょっと怖い。読んだことないなら是非読んでみてください。
Big Brother is watching you
ロシアにはザミャーチンの「われら」という同系統の1920年代の小説もあるのでそちらも是非
ディストピアものとしては、リベリオンをオススメします。
ガンカタも、ああ、これが元ネタかと合点がいきます。
戦争という有事だからなのか分かりませんが、SNSも厳しくなる流れなのでしょうね。
UAEは、ドバイ空港に無人機が着弾した映像が流れたり騒然としましたが、UAEでもSNS投稿により逮捕者が続出したという話しがでています。
日本でも、X(中国国内は使用禁止)において中国政府による工作活動が行われている事が報道されていますから、どうなっていくのか見守りたいと思います。
MAXのユーザー登録にパラオのSIMが対応しているのが気になります。
ユーザー登録可能国の中で米ドルが法廷通貨な唯一の国のような
国家の統制、権力が及ばない通信手段といえば聞こえは良いですがそうなると犯罪の温床になる訳で。未成年SNS禁止と同様に世界の潮流としてその手のSNSは排除されていくのでしょう。知られて困る会話って誰かにとって不利益や犯罪的なもの以外には無いような気がしますから。ただ隣の国に行った知り合いが向こうのSNSで「検閲」などのワード入れた途端に弾かれて数時間使えなくなったそうなので露骨に監視されるのはちょっと嫌ですね。
> 知られて困る会話って誰かにとって不利益や犯罪的なもの以外には無いような気がしますから。
さすがに極論すぎるのではないでしょうか?一般市民でも懐事情や夫婦仲、メンタルな問題など第三者には知られたくありませんし、企業同士が付き合う際にまず締結するのは秘密保持契約です。
独裁的な国家が国民のプライバシーを取り上げる時に「何か聞かれてまずいことでもしてるのか?」と脅すのは常套手段です。あれほど自由を金科玉条にしていたアメリカでも極端に振れた政経が誕生するわけですし、もし政権が国民の情報をすべて把握して統制下に置いていたら、民意に基づく揺り戻しも困難になってしまうと思います。
独裁国家が情報統制を厳しくすることで海外からの認知戦に優位に立てるっていうよりは、党や政府に近い人間の特権階級化、経済格差、貧弱な社会保障、経済政策の失敗、政治参加出来ない等の国民の不満を統制する為にやらざる得ない事のように思われます。結果的に海外からの情報操作は出来づらくなっていますが。
ソ連が崩壊したようにアラブの春が起きたように情報統制した独裁国家が必ずしも優位に立ってるんでしょうか?情報統制が反転した場合は国家が崩壊しかねません。
中国、ロシアは今の所上手くやってますがこれだって永続するとは限りません。
民主国家の場合、情報統制を厳しくし過ぎると逆に政府の信頼を失う事になって認知戦おいて逆効果になるのではと思います。
結局、ツールばかりが進化して人間の方が追いつかんなと。規制し過ぎる方も野放し過ぎる方も。
どうにも情報戦という名目で無能なロシア軍高官への批判を抑える為のものに思えちゃうのが・・・
ゲラシモフ批判をする露ミルブロガーが以前より増えた気がする。
米のイラン攻撃初期の時に、
X上ではイラン攻撃の正当性を繰り返しアピールしたり、
女子学校誤爆に対してイランの誤射だと怪しいソースからの主張が異様に目についたが、
あれも認知戦なんだろうな。
今思うと、映画「トップガン・マーヴェリック」に登場したどう見てもイランとしか思えない敵国も、仕込みだったのかも知れませんね。