ロシア関連

ロシア、制裁の影響下で弾道ミサイルや精密誘導ミサイルを288発製造

ウクライナのレズニコフ国防相は「ロシア軍の弾道ミサイルや精密誘導ミサイルの備蓄量」と「ロシアが2月23日以降に生産したミサイルの量」を公開、制裁の影響下でIskander、Kalibr、Kh-101を計288発も製造している。

参考:Oleksii Reznikov

制裁の影響を受けている中でIskander、Kalibr、Kh-101を計288発も製造できるというのはマイクロチップやコンポーネントの備蓄があるという意味だ

ロシア軍の弾道ミサイルや精密誘導ミサイルの備蓄量についてウクライナ国防省情報総局は8月末「侵攻前と比較して45%以下まで減っている」と言及、レズニコフ国防相も10月「侵攻前と比較して1/3以下に備蓄量(1,844発→609発)が低下した」と主張、ウクライナも西側諸国も「制裁の影響で補充が難しくロシア軍のミサイル備蓄は何れ尽きる」と繰り返し主張してきたが、今月15日の大規模攻撃を受けてニューヨーク・タイムズ(NYT)紙は「ロシア軍は備蓄を回復させているのではないか?」と指摘した。

出典:Oleksii Reznikov

ロシア軍が今月15日に実施したミサイル攻撃は100発以上という過去最大規模で、ウクライナ軍はKalibr、Kh-101、Kh-555、Kh-59を計77発、イラン製無人機のShahed-136を10機、ロシア製無人機のオリオンとオルラン-10を1機づつ撃墜したと発表したのだが、この攻撃の主体は安価なShahed-136ではなく「備蓄量が急減している」と主張していた精密誘導兵器が大量に使用されているため「ロシアにはマイクロチップの備蓄がありミサイルの生産量引き上げている可能性」と「ロシアはNATOとの戦争に極秘の備蓄分があったという可能性」をNYT紙は指摘している。

ただロシア軍の主要な弾道ミサイルや精密誘導ミサイルの備蓄量は推測に過ぎず、NYT紙の指摘の根拠もジェーンズの分析を引用したものなので検証されたものではないが、レズニコフ国防相はロシア軍の主要な弾道ミサイルや精密誘導ミサイルの備蓄量に加え「2月23日以降に生産された数量」を22日に公開した。

出典:Oleksii Reznikov

注目すべきは2月23日以降に生産された弾道ミサイルや精密誘導ミサイルの量で、個人的な感覚で言えば「ウクライナでの消耗分をカバーできるほどではないにしても生産量は多い」と感じている。

平時の調達量に関するデータを持ち合わせていないため「制裁下でロシアが生産している弾道ミサイルや精密誘導ミサイルの数量」が多いのか少ないのか判断することは難しいが、2022年に米軍が調達したトマホークの数が154発だったことを踏まえると「9ヶ月間でKalibrを120発生産した」というのは結構凄いと考えて良いだろう。

出典:Ministry of Defense of Russia

そもそも複雑で高価な弾道ミサイルや精密誘導ミサイルを1ヶ月で何百発も製造するのはどの国にも不可能であり、制裁の影響を受けている中でIskander、Kalibr、Kh-101を計288発も製造できるというのはマイクロチップやコンポーネントの備蓄があるという意味で、今後も現在のペースで製造できるなら「米国の制裁を招くリスクを厭わない国家や民間組織を通じて必要な部品を入手している=制裁の抜け穴が存在する」ということになる。

まぁレズニコフ国防相の公開した数字が正しいとは限らないため管理人の指摘も推論に過ぎないが、個人的にロシアの生産量は「この半分ぐらい」だと思っていた。

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※アイキャッチ画像の出典:Vitalykuzmin.net/CC BY SA 4.0

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コメント

    • ブルーピーコック
    • 2022年 11月 23日

    実態はロシアの『中の人』のリーク待ちだな。まだ生きてるかは知らんが。

    16
    • 折口
    • 2022年 11月 23日

    度重なる(核実験やミサイル発射への対応で作られた)制裁で兵器および関連物資の輸入が完全に禁止されている北朝鮮でも国策で携行地対空ミサイルが大量に配備されているんですよね。一国の通商を完全に封鎖しようと思ったら海上封鎖でもしない限り簡単ではないし、まして国内生産は戦略爆撃をやったとて完全には断てないんですよね。
    上の統計は信憑性に疑義が呈されている場面も見るので実態はわからんですが、ロシア連邦の最高意思であるプーチン大統領が総力を上げてこの戦争に取り組んでいる以上、国内の大学研究機関の生産設備だろうが輸入中古家電の制御部だろうが何だって使って全部兵器に変えられる可能性はあると思います。

    19
      • 匿名11号
      • 2022年 11月 23日

      そんな毛沢東大躍進政策下の鉄鋼生産的発想で製造を増やしたところで、すぐ頭打ちになるし、他へひどいしわ寄せが生じるだけでしょう。

      本邦も敗戦直前ですら、新型も含め戦車・航空機の生産を額面上は続けられていたけれど、部品の品質不良あるいは欠品による未装備でまともに動かせるものは少なくなってましたからねえ。自動車の新規製造もできないレベルの機械工業・電気工業の壊滅はそんな形で残酷に反映してきます。

      6
    • perorin
    • 2022年 11月 23日

    半導体の輸出規制は、戦闘機のアビオニクスとかレーダーの製造阻止には効果があるだろうけど
    巡航ミサイルだと、そもそもトマホークが開発されたのは約40年前なわけで
    今どき最新の半導体なんか使わなくても
    中国のパーツ問屋で買える汎用品でも回路は作れるから輸出規制では止められないと思う

    29
      • TDNトーシロ
      • 2022年 11月 23日

      此処では取り上げて無かったと思うけど、侵攻前の去年だったかウクライナ国内で盗電で偶々見つかった某家庭用ゲーム機を使ったマイニング工場が摘発されてたけど、ロシアだったらもっと大規模にやってても不思議じゃないよーな。マイニング規制されて使い道の無くなったP○4が分解されて軍用に使われてるとか?
      あと国内販売台数が200万台超えたP○5はヨド○シカメラとかで買ったその脚で買取専門店で売ってそのまま中国に逆輸出されてるなんて話もあるけど、まさかそのまま地球の反対側まで行ってドンパチに使われてたりして…。

      6
    • 成層圏
    • 2022年 11月 23日

    制裁下て288発の誘導弾を作れるってことは、ウクライナ侵攻計画はかなり前から準備してたんだろうね。3日で制圧する時の使用量以上を生産準備していたのだろう。あと、隠していたミサイルもあるだろうし。

    とはいえ、結構派手につかっているから、在庫はだいぶ減ってきてるね。日本ぬとってはラッキーだな。

    23
      • G
      • 2022年 11月 24日

      近年ロシア軍は近代化計画を立てており、ウクライナ侵攻後その中止が決まったため、本来戦闘機や船舶、極超音速ミサイルなどを新型にアップデートするために用意していたパーツを流用しているのかもしれません

      8
        • 成層圏
        • 2022年 11月 24日

        それは考えられますね。
        よく家電や中古ゲームの半導体を使ってミサイルを作るって話がありますが、
        不可能ではないでしょうが、めちゃくちゃ手間がかかって、その上中古品でリユースなので性能も保証できない
        ものしか作れないと思うんです。
        不可能では無いけど、非常に効率が悪い。
        これ、普段の時ならそれでもいいけど、戦時下だったら、時間ってとても大事なリソースですよね。

        4
    • 名無し
    • 2022年 11月 23日

    結局普段は大量に余るS-300を適当に打ち込んで民間人を殺すだけ。テロリズム。
    第一次世界大戦の終盤、ドイツ軍がパリ砲を乱射してパリ市民へのテロを行ったようなものか。打ち込む弾数はそれよりずっと多いが。

    7
    • STIH
    • 2022年 11月 23日

    だから何だと、という気もしますね。そこそこの量の誘導ミサイルを生産したところで、その用途が嫌がらせで散発的に使っているだけ。戦争に勝つって言ったらある程度集中運用しないと意味がないんじゃないかと思うのですが。
    まあ来年の2月あたりに再反抗でも考えてミサイルを備蓄しているのかもしれない。最近ウクライナ側がごたついていてから、そのタイミングでロシア側の残存兵力で再度攻勢に出るのかもしれない。

    18
    • 猫鉈
    • 2022年 11月 23日

    これ本来ならちゃちゃっとウクライナを制圧し、その後も着々と勢力を広げ、NATOと全面対決だ!となった段階で使うはずだったものですよね。

    17
      • 無題
      • 2022年 11月 23日

      本来NATOにぶつけるはずだった戦力がウクライナとかいう格下(ロシア基準)相手にゴリゴリ削られてると思うと感慨深いものがある

      12
    • トーリスガーリン
    • 2022年 11月 23日

    思ったより生産出来てはいるんだけど消耗分に全然追いついていないのでそんなもんかと言う印象
    ただしアメリカですら1機種辺りの年間生産数は100とかそういうオーダーなので、生産のボトルネックが生産ラインの限界にあるならば時間経過とともに生産量はどんどん増えるかもしれない

    12
      • STIH
      • 2022年 11月 23日

      どうでしょうね。半導体の入手が廃品や民生品からの回収と怪しげな流通品ぐらいの現状だと、どんなにラインが最適化されても手詰まりになるとは思いたいですが。
      ただ東側のテクノロジーというのは西側の人間からは思いもよらないことも多いですからね。精密誘導ミサイルといっても想像を絶するくらい簡単な技術で作られているとか、半導体周りもディスクリートで作れるよう設計されていたら無尽蔵に作れますね。無重力下のボールペンの話じゃないですが、最先端の技術は問題を解決手段として最良とは限らないですから。

      11
        • 2022年 11月 23日

        以前何かで読んだ記憶がある程度で具体的なソースは忘れましたが…
        ロシアは欧米と在庫の概念が異なっていて、ミサイルの保有数は軍の所持数で製造工場にはパーツの在庫が相応に存在している
        そのため比較的短期間で使用したミサイルを再入手出来るらしいです。
        どこまで信じて良いかは不明ですが、西側感覚で在庫数を考えるのはミスリードを有無のは間違いなさそうです

        4
    • ななし
    • 2022年 11月 23日

    戦況有利な側が残弾の心配を始めた時に、不利な側が残弾沢山アピールする狙いを考えれば、
    このニュースをどう受け取ればいいかは自明だよね

    継戦能力は工業力にも依存するし、世界の工場を中国に集約した現況で西側が打てる手は限られてるけど、
    やるべきことはやらなきゃね

    12
      • ぬるぽ
      • 2022年 11月 23日

      >不利な側が残弾沢山アピール
      記事を読むにロシアのミサイル製造数を公開したのはウクライナ側のレズニコフ国防相なんだが…

      要するに西側はもっと武器作って弾寄越せってか?(いつもの催促)

      2
    • たまねぎ
    • 2022年 11月 23日

    西側↔ロシア間ですら完全な禁輸・国境封鎖してないし、ミサイルそのものならまだしも民生品の汎用半導体なら、かさばるものでもないし、中国インド経由でいくらでもロシア国内に持ち込めるのでは。
    クリミア半島併合の経済制裁以降、精密誘導ミサイルの構成部品を可能な限り民生品に代替する時間ならあっただろうし…

    5
      • perorin
      • 2022年 11月 23日

      本当に半導体だけでいいなら、手荷物検査なしの外交官がバッグに入れて中国から直通で毎日運べる。

      6
        • 名無し三等兵
        • 2022年 11月 23日

        半導体・電子部品も今はもう、たいていの部品が市場在庫からネット通販で
        買える時代ですからね
        規制のない海外のダミー法人で購入して、税関フリーパスな外交機密品扱いで
        ロシア国内へ持ち込むぐらいは造作も無いでしょう
        リールやトレイ品ってもさしたる大きさじゃありません小箱一つに入ります。

        1
          • STIH
          • 2022年 11月 23日

          市中在庫は趣味ならともかく、量産に使うには当てにはなんないですけどね。日本の企業ですら公式代理店以外からの調達でパチモノをつかまされた、という話が昔っからありますからね。
          まあ今のロシアでの用途はある意味趣味みたいなもんだから関係ないでしょうけど。

          5
            • 名無し三等兵
            • 2022年 11月 26日

            市場医子ってもMouserやDigi-Keyや、その他、ネット販売の商社は
            名が通っているところはそれなりに信頼出来ます
            てかもう、正規品の納期が糞過ぎて市場在庫漁らないと製造もままらない
            のが実状って感じ

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