ロシア関連

期限を切ってきたロシア、新しい安全保障条約に関するNATOとの交渉は1月開始

ロシアのラブロフ外相は22日、先週提案した新しい安全保障条約について「米国やNATOとの交渉が1月に開始される」と明かし注目を集めている。

参考:Russia says security talks with US, NATO to begin in January

もしロシア側が一方的に「交渉の1月開始」を発表しているなら、NATOに加盟国間の調整のヒマを与えたくない意図があるのかもしれない

プーチン大統領はウクライナ国境地帯に展開させているロシア軍10万人を撤収させる代わりに「法的拘束力のある安全保障条約」をロシアとNATO間で締結することを要求、仮にロシアが公開した要求リストの中身を全て受け入れるとNATOは東への拡大停止=加盟を希望するウクライナやジョージアの加盟を拒否しなければならず、東欧13ヶ国の加盟国(チェコ、ハンガリー、ポーランド、ブルガリア、エストニア、ラトビア、リトアニア、ルーマニア、スロバキア、スロベニア、アルバニア、クロアチア、モンテネグロ)での軍事活動が一切行えなくなる。

出典:Photo by Staff Sgt. Keith Anderson

つまりプーチン大統領はNATOに「冷戦終結直後の勢力圏に戻れ」と言っているに等しく、NATOとしても同盟の決定事項に何の権利も有さないロシアが干渉する事自体容認できないため「非現実的だ」と捉えているがNATOのトルテンベルグ事務総長、米国のバイデン大統領、英国のウォレス国防相が「ロシアによるウクライナ侵攻が発生しても非加盟国の防衛に軍は派遣しない=ウクライナ防衛のため軍事オプションはない」と述べて外交交渉による解決を希望しているためロシアの要求リストを叩き台に外交交渉が始まるのは時間の問題で、ロシアのラブロフ外相は「米国やNATOとの交渉が1月に開始される」と22日に明かした。

米国やNATOは軍事オプションによる対応を早々にテーブルから外してしまったため、非現実的だと言われている新しい安全保障条約の草案を元にロシアと外交交渉を行わなければならず、ここまでは完全にプーチン大統領のペースで状況が推移しているといっていいだろう。

出典:The White House

問題はロシアが突きつけた新しい安全保障条約の草案=要求リストの中身について特に東欧13ヶ国の加盟国間で反応の差があり、1月までにバイデン大統領やトルテンベルグ事務総長が同盟国間の意見を調整してロシアとの交渉に臨めるかで、調整に失敗すればロシアとの交渉は難しいものになりプーチン大統領に「戦争を始めるための大義名分=要求を提示したのにNATOとの交渉は不発に終わり仕方なく軍事力を行使するに至った」という状況に陥るかもしれない。

逆に調整できないままウクライナ侵攻を回避するためバイデン大統領やトルテンベルグ事務総長が安易に譲歩=要求リストの内容を容認すればロシアに売り渡される東欧の加盟国が一斉に反発してNATOそのものが空中分解する危険性があり、1月の交渉開始までにロシアが突きつけた新しい安全保障条約の草案についてNATO加盟国間で調整がつくかが一つの山場だと言える。

すでにポーランドやリトアニアは要求拒否を明言しているが、ブルガリアはウクライナ問題にNATOが関わるべきではないという姿勢を打ち出すなど同盟国間での温度差が出てきており、果たしてこれを1月までに調整できるのだろうか?

出典:President of Russia

もしロシア側が一方的に「交渉の1月開始」を発表しているなら、NATOに加盟国間の調整のヒマを与えたくない意図とゲームの主導権がどちらにあるのかを強烈に認識させてくれる行為だ。

関連記事:ロシアの要求は戦争の口実作り、英諜報機関はクリスマス・イブの侵攻開始を警告
関連記事:非加盟国のウクライナ問題関与を嫌うブルガリア、NATO軍派遣オプションを拒否

 

※アイキャッチ画像の出典:President of Russia

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コメント

    • 匿名
    • 2021年 12月 23日

    演習としてバルト海にNATOを集結させてロシア本土を威嚇しなさいって、ペテルブルグはプーチンの基盤だから緊張させられる
    自慢の極超音速ミサイルだって、まだ手持ちは多くないはず
    ロシア国民も本気の戦争は避けたいから、揺らぐよ

    8
      • 匿名
      • 2021年 12月 23日

      今のNATOにそれ程の艦艇を派遣する余裕は無いよ。
      米国どころか英国が空母を派遣した事で分かる様に米英は対中シフトで手一杯、独仏は下手をすると親露へ傾きかねない状況で他の国は兵力その物が不足と言う始末。
      その結果、ソ連崩壊後の経済難でも出せる限りの国防費は出して来たロシアが、遂にNATOに対する軍事的優勢を部分的にせよ勝ち取る事が出来たのが今の状況なの。
      ハッキリ言えば、今NATOは冷戦終結後に軍事費を削減しまくったツケを一気に支払わないと行けない状況になっているので、下手をするとNATOは対ウクライナ問題の責任を巡って内ゲバをやった挙句崩壊するかもね。

      24
      • 匿名
      • 2021年 12月 23日

      ウクライナでの局地戦ならともかくロシアとの全面戦争を引き起こしかねない行動をNATOやアメリカが取ることはないと思いますよ。

      13
    • 匿名
    • 2021年 12月 23日

    今年中の侵攻の可能性も指摘されていたけど、とりあえずそれは避けられた形か
    実際に侵攻する気だったとしか思えない規模の軍を動かしていたけど国際的な反応と体裁を気にして一方的宣告ではなく、一応話し合いする機会を設けたという名目づくりに切り替えたのかな

    8
      • 匿名
      • 2021年 12月 23日

      恐らく侵攻する準備を整える為の時間確保が目的でしょう。
      あれだけ大規模な軍を動員していると兵站補給等が予定よりも遅れる事は有り得るし、交渉開始を来月と明言した以上、期限の短さを考えると真面目に交渉する気は無いと思いますよ。
      或いは交渉開始の期限を短く切った事でNATOの足並みを乱れさせ、ウクライナ侵攻への対応が出来なくなる効果を狙っているのかも知れないですね。

      13
        • 匿名
        • 2021年 12月 23日

        交渉の期限では無く、あくまで交渉開始なのだが。
        心配するのは交渉自体の期限を切ってきた時だ。
        ロシアに攻め込んで欲しくて頭が回ってないように見えるな。

        4
      • 匿名
      • 2021年 12月 23日

      戦争しながら交渉してはいけないなんてルールはない。

      6
    • 匿名
    • 2021年 12月 23日

    もともとNATOにはロシアと交渉する義務はないはず。ロシアが主張する「要求を提示したのにNATOとの交渉は不発に終わり仕方なく軍事力を行使するに至った」という理論は成り立たないはず。そんな権利など初めから無いにも関わらずロシアが一方的に主張しているに過ぎないのだ。
    だからNATOはロシアの主張を無視すれば良いのだ。
    それでロシアがウクライナに軍事侵攻した場合は「ロシアは侵略国」として国際社会が結束して非難すればいい。
    ロシアを非難し経済制裁する格好の口実になるではないか。
    追い込まれているのはむしろロシアなのだ。

    13
      • 匿名
      • 2021年 12月 23日

      国際社会とは言っても国連単位では無理だし西側単位なら兵器輸出入関連などすでにある程度やっているし、結局のところロシアとしては侵攻して西側から経済制裁強化されたとしても現状とほとんど変わらないと判断したからこその行動では

      そもそもNATOに加盟しちるわけでもないウクライナへの軍事侵攻を理由にどの国がどの程度制裁できるものなのかも疑問

      17
        • 匿名
        • 2021年 12月 24日

        今回の騒動は互いに法的根拠や外交的根拠の薄い要求ばかりで、具体的な結論を出さないままロシアの東欧エリアへの影響力を確認するで終わると思うよ
        関係ないけど、加盟しちるって語感が可愛いw

        1
    • 匿名
    • 2021年 12月 23日

    ロシアにとってウクライナの問題は2点。
    NATO加盟とドンバスのロシア系住民の問題。
    例えNATOとの間でウクライナ加盟について妥協が成立しても、ドンバスの問題が解決する分けではない。
    下手をすると、ウクライナを加盟させないと確約させられた上で、軍事侵攻からのドンバス併合&緩衝地帯の設置、というシナリオもあり得る。

    3
    • 匿名
    • 2021年 12月 23日

    早々にNATO軍事介入しないことを明確にしたから案の定、ペース握られちゃっててまあ。
    ウクライナを守る気は無いにしても、表向きは強気に出てればよかったのに。

    あとはアメリカが大国の意地を通して強気に出てくれれればいいが、正直バイデン大統領にはそんな気力も体力もやる気もなさそう

    16
      • 匿名
      • 2021年 12月 23日

      アフガニスタンの件やAUKUSでフランスを怒らせた件とかも併せて思うと、やっぱりバイデン政権は頭でっかちでリアルの外交が下手としか思えないねぇ。

      8
      • 匿名
      • 2021年 12月 24日

      アメリカにしろイギリスにしろこっちに気を取られている素振りを国際的に見せたらそれはそれで今度は中国軍がアジア方面手薄とみて動き始めるかもしれないからそこは一概に強気が良かったとは思えないかな

      それにウクライナに期待させるだけさせておいて実際はなにもしない、という反応した場合よりウクライナもNATOも現実的な対応できるだろうし

      5
        • 匿名
        • 2021年 12月 24日

        うーむ、難しいですねぇ。。。

      • 匿名
      • 2021年 12月 24日

      下手に支援するぜアピールした結果が南オセチア紛争

      2
    • 匿名
    • 2021年 12月 23日

    ウクライナ情勢の今後を占ってみた

    う、暗いな

    7
      • 匿名
      • 2021年 12月 23日

      ワイは好きやで(ツクテーン

      6
    • 匿名
    • 2021年 12月 23日

    別にそんなに厳しい条件とは思えないが?要するにNATOとの間に干渉地帯が欲しいという話なんだから。
    平時は東欧(ベラルーシ、ウクライナを含む)を干渉地帯とし軍を配備しないとすれば手打ちにできるから受けるべきだろう。元々ソ連との約束はそうだったんだし。

    4
      • 匿名
      • 2021年 12月 23日

      東欧諸国の多くがNATOに加盟している今となっては、その条件で手打ちにしたらNATOは崩壊、西欧は東欧から二度と信頼されなくなるでしょうね。

      18
        • 匿名
        • 2021年 12月 23日

        ?私は最初からそのつもりで言っているが。大体それで困る事はほぼないだろう。ワルシャワ条約機構軍がない以上NATOも必要ないし。ロシアも中立くらいにできる。東欧の我が儘にアメリカが付き合ってやる必要はない。

        2
        • 匿名
        • 2021年 12月 23日

        二度と信頼されないね。その程度のことヨーロッパの歴史上何度もあったでしょうに。
        その理屈だと、例えばミュンヘン会談で国をドイツに売り渡されたチェコが何で今更ドイツもイタリアもイギリスもフランスも加入しているNATOを信用するんですか。
        歴史は何度でも繰り返すんですよ。

        2
          • 匿名
          • 2021年 12月 23日

          ?だから信用されなくとも構わないのではないかと言っているのだが。東欧をNATOに入れ続ける事はリスクでしかない。別に彼らが怒って困る事はないと思うが?どうしてもというならばモスクワを目指す覚悟をするべき。

          4
            • 匿名
            • 2021年 12月 23日

            私もそう思いますね。
            返信先あなたでは無いですから大丈夫ですよ。

      • 匿名
      • 2021年 12月 23日

      条件が厳しいかどうかは関係ないのでは。

      一度軍事力で条件を呑み込ませることができれば、要求はどんどんエスカレートしていく。

      3
        • 匿名
        • 2021年 12月 24日

        その可能性は非常に高いと思う。今回の要求が通ったところで冷戦時代から見ればロシアのボロ負けだし。外交的勝利による根拠のない自信でプーチンがもっと要求してくる事は十分考えられる。ただその場合干渉地帯での利権争いに終始するので全面戦争は避けられる。核を持っている大国とね。このブログを見ている全員が私の事をクソ野郎と思っているだろうし私も否定しないが将来このブログが石と木の棒を紹介する可能性について考えているのはクソ野郎だけだろう。

        2
    • 匿名
    • 2021年 12月 23日

    ウクライナ人の軍事評論家、グレンコ・アンドリー氏は
    ロシア人を狂った帝国主義者と論じてたけど、なんか納得ですわな

    18
      • 匿名
      • 2021年 12月 24日

      あのあたりの歴史を勉強すると頭おかしい国ばかりで、狂ってないほうがおかしいという感じでなあ

      2
    • 匿名
    • 2021年 12月 23日

    別に一方的に発表したわけではないと思うが
    1月にロシアと2国間協議、米国務省高官が見通し
    リンク

    5
    • 匿名
    • 2021年 12月 23日

    こういった交渉は100か0かではないでしょ。ロシア側も「提案」を後退させる余地はあるはず。
    ロシアの提案100に対し妥協ラインを互いに探るために交渉するんで、妥協の余地が無いなら呑むか呑まないか回答を要求するだけで交渉など求めないと思うが。

    6
      • 匿名
      • 2021年 12月 24日

      うむ、ロシアは絶対に戦争するだの言い張るのは子供ぽいさんだけ
      ロシアもまた戦争せずに要求を満たすべく努力してるのだよ
      なんとなれば、戦争とは外交的失敗の続きにすぎないから

      4
      • 匿名
      • 2021年 12月 24日

      日本人は昔から交渉下手だからねぇ、0か100しかないと思ってる人は多そう

      4
    • 匿名
    • 2021年 12月 24日

    今回の事例はともかく、ロシアの軍事戦略は見るべき点が多いですね。
    1980年代のソ連は各年の軍事費推計2000億ドル以上(現代だと4000~6000億ドルくらいの感覚)、対GNP比率12~17%。
    それに比べて現代のロシアの軍事費は650億ドル、対GDP比率4%強程度。
    ところがロシア軍のC4ISR能力は高く、電子戦は世界ダントツとも言われており、AAMやSSMの各種ミサイル能力も世界随一。
    海軍に関しても既に冷戦時代と同等の活動状況と評されてます。
    また、戦略兵器の更新もきちんとしており、ICBMの近代化率は80%程度。 
    これらを支えたのはドクトリンに基づいた20年以上に渡る軍需品増強、工廠・造船所・軍港の維持・改良・増築。
    と、派手さは一見してないがかなり地道なことをし続けたお陰。

    昨今、やたらめったら軍事費増額が叫ばれてる本邦ですが、まずはこうしたロシアの事例を見て、
    自身の足元(過去15年で120社以上の国内軍需企業が撤退し、弾薬備蓄がどんどん貧弱へ)を考慮し、
    大きな戦略・方針を練る方が先だと思いますね。

    10
    • 2021年 12月 25日

    ロシア、NATO入りだったら大笑いだわな。
    ウクライナも自動的にNATOの敵になるわな。(笑)

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