ロシアでは「部分的動員（強制動員）の解除を求める声を批判する兵士の動画」が登場したものの、直ぐにフェイク（正教会の祝日を祝福する動画に別の音声データをかぶせたもの）とバレてしまい、都合の悪い事実を隠そうとする試みが多発している。

参考：Паулина /Мобилизация и Люди
参考：МОБИЛИЗАЦИЯ I Новости I Что делать?
参考：ASTRA
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この手の問題の背景にロシア当局が関わっているのはほぼ確実だろう

プーチン大統領は2022年9月21日に部分的動員を発表、ショイグ国防相は10月28日「計画された30万人の動員が完了した」と発表したが、プーチン大統領は動員終了に関する関連法令に署名しておらず、部分的動員に関する関連法令には「動員解除」に関する具体的な期限が定められていない。

出典：Путь Домой

グルリョフ下院副議長も2023年9月「部分的動員で招集された人々の復員は新たな動員が必要になるため実施しない」と、カルタポロフ国防委員長も「部分的動員で招集された人々は特別軍事作戦が完了すれば帰国できる」「彼らの動員解除は想定していない」と言及、部分的動員で夫や息子を招集された妻や母親は「これは事実上の無期限動員だ」と訴えて「2022年に動員された人々の交代」を要求しており、Мобилизация и Люди（動員と人々）の代表を務めるパウリーナ氏は国防省の前でベロウソフ国防相との会談を要求。

こうした運動についてロシア人の一部は「敵の挑発に利用されるので人目のつかない場所でやるべきだ」と苦言を呈しているが、パウリーナ氏は「私達も快適な部屋で問題を解決できれば嬉しいが、その様な会談を実現させるには炎天下の中で懇願し続けなければならない。これまでのところ私達の希望は鼻であしらわれている。だからこそ最高レベルの権限をもつ人物との会談を要求しているのだ」「私達は間違っているのだろうか？」「アフガニスタンでも、チェチェンでも、ベトナムでも無期限動員はなかった」「それが急に普通になったのはロシアだけだ」と主張。

出典：Паулина /Мобилизация и Люди

パウリーナ氏の夫も11日「2022年に動員された人々の復員を要求する妻や母親を（外国人のエージェントと）攻撃しないで欲しい」と戦場から動画を投稿したが、12日「妻や母親の遠吠え、これを支持する人々のアピールや集会の様子を目にしたが、これは本当に恥ずかしいことだ」「我々の士気を下げる挑発者の試みは成功しないし我々も動じない」「勝利は我々のものだ」と訴える第79自動車化狙撃連隊の動画が登場したものの、直ぐにフェイクだとバレしまった。

動員問題を扱うTelegramチャンネル（МОБИЛИЗАЦИЯ I Новости I Что делать?）や露独立系メディアのASTRAは15日「軍人が正教会の祝日を祝福する動画に別の音声データをかぶせたフェイクだ」と指摘し、最も興味深いのは「この手のフェイク動画で都合の悪い事実を隠そうとする試みは初めてではない」と警告している点だろう。

第1009自動車化狙撃連隊の第5中隊に所属する契約兵士は6月3日「ボルチャンスク占領作戦は間違ったタイミングで開始され、最初の夜だけで中隊の半数以上が殺された。殆どが300だったが200も沢山いた。指揮官は無線で『前に進め』と連呼するため後ろに下がる事ができない。我々は機関銃と無人機による挽き肉機の中に送られている。ここからどうやって生還すればいいのか分からない。モスクワの椅子に座って命令を下しているヤツはクソ野郎だ」「100人いた仲間の内で現在も生きているのは12人過ぎない」と訴える動画を投稿。

ウクライナメディアも「ハルキウ方面で第1009連隊は人員の90％以上を失って撤退している」と報じ、ロシア軍は大きな損失を被っていると主張した。

出典：ASTRA

これを受けてロシア人従軍記者のエフゲニー･リシツィン氏は「第1009連隊の兵士自ら損害を否定する動画」を投稿、ロシアメディアは一斉に「ウクライナメディアの報道はフェイクだ」と報じたが、この動画もBARS（ロシア軍の予備役部隊＝日本の即応予備自衛官に近い存在）の兵士が「ドローンを送って欲しい」と訴える動画に別の音声データをかぶせたものだとバレてしまい、逆に第1009連隊の損失を隠す試みだ指摘されている。

さらに第138自動車化狙撃旅団に所属するストーム部隊の指揮官（元ワグネル所属）が「ボルチャンスクでの攻撃で多くの兄弟が殺されたと涙ながらに語る動画」も登場したが、直ぐに「投稿した動画の内容が事実ではなかったと撤回を余儀なくされた」と語る動画を投稿。

ロシア人ミルブロガーのRomanov氏も6月末にボルチャンスク入りし、現地で見聞きしたことを踏まえて「ハルキウ方面の戦いは非常に激しい」「ウクライナ軍によるFPVドローンの使用は活発だが、クラスター砲弾の使用はロボーティネの攻防ほどではない」「ボルチャンスクを巡る戦いの犠牲者はアウディーイウカを巡る戦いの犠牲者（5,000人）の1/3だ」「ボルチャンスク攻略の指揮は大失敗に終わったドネツ川渡河作戦（2022年5月）を指揮したラピン大将だ」と指摘。

さらに「ボルチャンスク方向のロシア軍は部隊間の協調性が欠けており、味方部隊が襲撃して確保した拠点や建物を攻撃して損害を被ることがある」「ロシア軍はベルゴロド州をウクライナ軍の砲撃から保護するため、国境から約15kmほどの範囲を確保する予定だった」「ハルキウ方面に配備されたロシア人兵士の後方にはTikToker（カディロフツィ）がいる」とも述べたが、直ぐに「ロシア人兵士の後方にはTikTokerがいる」という発言を謝罪する動画を公開。

ウクライナ人ジャーナリストのブトゥソフ氏は「カディロフツィの地下室に連行され謝罪動画を撮影させられた。彼の表情と声から察するに動画を撮影する前に十分な仕置を受けたようだ」と指摘し、Romanov氏はその後も「アフマト（カディロフの特殊部隊）のアラウジノフ司令官と会った」「彼は傑出した人物であり、真の指揮官であり、闘志と自信を鼓舞する存在だ」と褒め称えており、この手の問題の背景にロシア当局が関わっているのはほぼ確実だろう。

因みにパウリーナ氏は「夫と連絡が取れなくなっていたが、動画を撮影したためスマホを没収されていただけで現在は連絡が取れている」と述べている。

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※アイキャッチ画像の出典：МОБИЛИЗАЦИЯ I Новости I Что делать?