ロシア関連

ロシア、S-550はS-500の廉価モデルではなく世界初の移動式ICBM迎撃システム

ロシアの防空システム「S-550」は基本機能を絞ったS-500の廉価モデルではなく、世界初となる大陸間弾道ミサイル迎撃用の移動式防空システムだとロシアの防衛産業関係者が明かした。

参考:Источники раскрыли особенности новой зенитной ракетной системы С-550

S-550はA-135クラスのICBM迎撃能力を備えた移動式の防空システムか?

ロシアが新たに開発したS-500はS-400の後継バージョンではなく、どちらかと言うと弾道ミサイル、地球低軌道上の衛星、極超音速兵器、戦線よりも後方に位置する早期警戒機や空中給油機といった価値の高い空中目標を迎撃するのに特化した防空システム(最大600km~800kmの範囲で作動)でS-400を補完する存在=パトリオットとサードの関係に似ていると言われており、一部の専門家の間では「宇宙空間における弾道ミサイルの迎撃や極超音速兵器に対応できる第1世代の防空システムだ」と指摘されているが、肝心のS-500に関する詳細なデータほとんど公表されていないので事実かどうかは分からない。

このS-500は量産タイプの引き渡しが始まったばかりなのだが、ロシアのショイグ国防相は「プーチン大統領が防空システムS-350、S-500、S-550を軍に供給するための重要性を説いた」と語り、何の前触れもなく登場した「謎の新型防空システムS-550とは何なのか?」について注目が集まっている。

露メディアは専門家の話を引用して「S-550は基本機能を絞ったS-500の廉価モデルではないか」と報じていたが、どうやらS-550は移動式としては世界初となる「大陸間弾道ミサイルをミッドコース・フェイズで迎撃可能な防空システム」だとロシアの防衛産業関係者が明かした。

出典:U.S. Army photo THAADミサイル

弾道ミサイルの迎撃はブースト・フェイズ(上昇段階=ロケットに点火して大気圏外に到達するまでの過程)、ミッドコース・フェイズ(中間段階=大気圏外を周回して目標付近まで接近する過程)、ターミナル・フェイズ(終末段階=大気圏外を飛行する高度が下がり目標に向けて降下を始め着弾するまでの過程)の3つの分かれており、最も技術的な難易度が低く迎撃が容易なのはブースト・フェイズなのだが発射されるタイミングで射点に限りなく近づいておく必要があるため現実的な迎撃手段として成立していない。

そのため弾道ミサイルの迎撃は主にミッドコース・フェイズかターミナル・フェイズで実行されることが多く、SM-3はミッドコース・フェイズでの迎撃を担当、サードはターミナル・フェイズの上層をパトリオットPAC-3は下層を担当している。

出典:米ミサイル防衛局 SM-3Block2AによるICBMの迎撃実験(イメージ)

ただ米国(GBI)やロシア(A135)には大陸間弾道ミサイルをミッドコース・フェイズでの迎撃するための専用迎撃システムが存在しており、同じミッドコース・フェイズの迎撃を担当するSM-3の初期型はMRBM(準中距離弾道ミサイル)の迎撃能力しか備えていなかったものの本体の直径を34cm→53cmに大型化(SM-3Block2A)したため昨年末に初めてICBMの迎撃実験に成功、そのためSM-3が「ICBMをミッドコース・フェイズで迎撃できる世界初の移動式防空システム」と見ることも出来なくはない。

問題は艦艇の垂直発射管に収まるサイズで作られたSM-3Block2A(全長6.55m×直径0.53m)と、ICBM迎撃を専用で行うため開発され地上の固定サイロで運用されるGBI(全長16.61m×直径1.28m)とではブースターサイズが圧倒的に異なり、米国はSM-3がICBMの迎撃に成功したにも関わらずGBIの後継機開発を進めているため「SM-3Block2AでGBIがカバーしている迎撃高度や迎撃距離を完全に代行するのは不可能で、目標に近づき高度の下がった一部のICBMを迎撃可能」というのが現時点での評価(予想)だ。

つまりロシアが「S-550は移動式としては世界初となる大陸間弾道ミサイルをミッドコース・フェイズで迎撃可能な防空システム」と言及しているのは「S-550はA135クラス(もしくは後継のA235)のICBM迎撃能力を備えた移動式の防空システム」と言いたいのだろう。

余談だが国営通信のRIAノーボスチによれば「S-550の開発は進んだ段階にある」と報じているので、S-550は構想段階ではなく実際に開発中で実用化の目処がついたためプーチン大統領やショイグ国防相が存在を明かしたのかもしれない。

センサーと迎撃弾を任意の地域や方角に移動展開できるS-550の開発意義は?

因みにICBMを迎撃できる防空システムを移動式するメリットは「最近中国が実験を行い米国を驚かせた部分軌道爆撃システム(FOBS)を活用した攻撃にも対応できる点」ではないだろうか?

出典:HAA / CC BY-SA 4.0 部分軌道爆撃システムの原理

米国やロシアはICBMを迎撃できる地上配備型の防空システム(センサーや迎撃ミサイルの配備)を最も飛行距離が短い=相手側の対処時間が短くなる北極ルートに集中して配備しているのだが、仮にFOBSを活用したICBMを米国が実用化すればモスクワは北極ルート以外からの攻撃にも晒されるため、センサーと迎撃弾を任意の地域や方角に移動展開できるS-550を開発しているのかもしれない。

関連記事:S-500の廉価モデル? ロシアが新しい防空システム「S-550」の存在に初めて言及
関連記事:米軍ナンバー2の警告、極超音速兵器のテストを過去5年間で米国は9回VS中国は数百回

 

※アイキャッチ画像の出典:vitaly kuzmin / CC BY-SA 4.0 S-400

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コメント

    • 匿名
    • 2021年 11月 13日

    面白いもん作ってんだなあと。THHADの射程を伸ばしたようなものなのかな。
    とはいえS-400が過大広告だったとロシア自身も認めているから、実際に輸出されて評価されるまで話半分で聞いておくのが懸命な気がするが。

    9
      • 匿名
      • 2021年 11月 13日

      対航空機としては射程が長いだろうけど、弾道ミサイルにはそこまで優位じゃないと思う

    • 匿名
    • 2021年 11月 13日

    覗き見るつもりはなかっけど、さっき電車に乗ってて隣の方のスマホ画面に航空万能のトップページが映ってたので危うく抱きしめそうになった。

    記事と関係無い話題ですまん

    33
    • 匿名
    • 2021年 11月 13日

    東側は誇張が激しいから話半分で見ておくべきか
    これにあわせて軍拡するって手もあるが
    日本政府はどっちを選ぶ?

    2
    • 匿名
    • 2021年 11月 13日

    日本やイギリス、アメリカと違う大陸国家に合うシステムやな

    1
    • 匿名
    • 2021年 11月 14日

    露の場合米国との戦略バランスの維持に躍起なのは当然として、東部地方で国境を接している上かつての自分の庭である中央アジアで勢力圏が重複している中国という大問題があるしなぁ。対西側戦力増強の傍らで何とか中国に戦略レベルでの独立性を見出したいというところなんじゃないか。このまま中露蜜月でイエスマンしてたら次の10年20年では中華帝国のいち地方、モンゴルや何かと同列に北狄の辺境国扱いされるのは目に見えてるしな。
    経済力と通常戦力のギャップが既に手遅れレベルなので、今更戦略兵器積み増ししたところで大中華に飲み込まれるのは必然のような気もするけど。

    2
    • 匿名
    • 2021年 11月 14日

    つまり結局「廉価版ではない」はマーケティングの方便に過ぎないのでは?
    フルスペックのS-500が同じことが出来ないという確証が取れない限りS-550が廉価版かどうかなど分からないわけで、実質は廉価版なのでは?

    • 匿名
    • 2021年 11月 14日

    S-550は固定されたサイロ使わずに撃てるってのはメリットだと思う。交通インフラもしくはAn-124とかで輸送さえ何とかなるならば本国の外周部分に配置してSLBMブーストフェイズ最終段階も狙うとかあるかもしれない。同盟国に設置は出来るってのは大きい気がする。ロシア本国において防衛してもよし、需要がある国が防衛に使っても良いしロシアを守る盾として外国に配置してもよしって感じじゃ無いだろうか。

    S-550が廉価版と言うのはTELに乗った姿が出てからの話では。これでS-550が大型TELに一基だけ搭載とかなら間違いなくICBM迎撃に特化した奴。出回っている2基搭載のS-500でもカバー範囲は広いだろうけど、それでもカバーする範囲は狭いと思う。

    それにしてもかなり昔だとS-500はS-400を改善しコンパクトで使い勝手が増した物とかロシアの将軍だか行ってた気がするけどサイズを見るにデカくなっているようだし変わったのかな。

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