ロシア関連

極超音速兵器の実用化で先行するロシア、原潜から極超音速ミサイル「ジルコン」の試射に成功

ロシア国防省は4日、ヤーセン型原子力潜水艦1番艦のセヴェロドヴィンスクから極超音速ミサイル「ジルコン」の試射に成功したと発表した。

参考:В России впервые испытали гиперзвуковую ракету “Циркон” с атомной подлодки

ロシア国防省は極超音速ミサイル「ジルコン」の原潜からの試射に成功したと発表

ロシアが開発した極超音速ミサイル「3M22ジルコン」は個体燃料のブースターで超音速まで加速、その後はミサイル本体のスクラムジェットに点火してマッハ5.0以上の極超音速域まで加速するのだが、ジルコンの最大到達速度はマッハ8~9と言われている。

ジルコンの航続距離は空気の密度の濃い高度(低高度)を飛行する場合250km~500km、空気の密度の薄い高度(高高度)を飛行する場合460km~740kmだと推定されていたが、新しく開発された燃料を使用したジルコンの最大射程は1,000kmとも2,000km(飛行高度は不明)とも言われており、空気との摩擦によって発生するプラズマシース(強い電場が生じている状態)がレーダーの照射する電波を吸収してしまうため検出が難しいらしい。

出典:Vitaly V. Kuzmin / CC BY-SA 4.0 3S-14U

米海軍が開発中の極超音速兵器は垂直発射装置「MK.41(+Mk.57)」や原潜が採用している水中発射型のトマホーク発射装置(バージニア級原潜ブロックIII以降が採用するバージニア・ペイロード・チューブやブロックVが採用するバージニア・ペイロード・モジュールではユニットを交換することで対応可能らしい)には収まらないため改造が必要だが、ジルコンはロシア海軍が採用する汎用型の垂直発射装置「3S-14」に収まるため無改造で極超音速ミサイルを搭載することができる。

そのため欧米の軍事アナリスト達はジルコンのことを「世界で最も非常識な兵器」と呼んでいるのだが、ロシア国防省は艦艇からの試射成功に続き「原潜からの試射にも成功した」と発表した。

ヤーセン型原子力潜水艦1番艦のセヴェロドヴィンスクはバレンツ海で水中発射に対応したジルコンを発射、ロシア国防省はジルコンの制御データを分析して「バレンツ海に予め設定された地点にジルコンが着弾したと判断されるため今回の試射は成功した」と主張している。

依然としてジルコンの性能については謎が多いので何とも言えないが、少なくとも艦艇や潜水艦からの発射に対応した極超音速兵器の実用化に成功しているのはロシアのみなので、米海軍としては一刻も早く同等の兵器を実用化してロシアとの軍事的バランスを修正しなければならない。

関連記事:世界で最も非常識な兵器、ロシアが極超音速ミサイル「ジルコン」の大規模量産を開始
関連記事:米国、スクラムジェットを使用した極超音速巡航ミサイル「HAWC」の試射に初成功
関連記事:低空から接近してくる極超音速巡航ミサイルの検出ギャップ、米議会が国防総省に対策を要求

 

※アイキャッチ画像の出典:Mil.ru / CC BY 4.0

F-35の運用・維持を左右する4つの整備、国際的なサプライチェーンに依存したコンポーネント整備前のページ

ギリシャとフランスと締結した相互防衛協定、トルコと対立しているEEZ問題には非対応次のページ

関連記事

  1. ロシア関連

    プロトタイプから改良されたSu-75、正面方向のステルス性能が向上

    露国営メディアのタス通信は17日「新たに公開されたSu-75のデザイン…

  2. ロシア関連

    21日にプーチン大統領が演説予定、ロシア人は国を離れる方法に関心を示す

    まもなくプーチン大統領がドネツク、ルガンスク、ザポリージャ、ヘルソンで…

  3. ロシア関連

    露ワグネルが「ソレダル制圧」を発表、大釜にウクライナ軍を捉えた?

    ワグネルのプリゴジン氏は11日「ソレダル全体をワグネルが支配している、…

  4. ロシア関連

    ロシアが占領下のウクライナ地域で国民投票を実施、総動員に向けた布石?

    露国営メディアは20日、ドネツク人民共和国、ルガンスク人民共和国、ロシ…

  5. ロシア関連

    ロシア軍元大佐によるウクライナ作戦の展望、西地域はポーランドに譲渡可

    露コムソモリスカヤ・プラウダ紙のヴィクトル・バラネッツ(ロシア軍元大佐…

  6. ロシア関連

    トルコのNATO離脱を誘う?ロシア、トルコの第5世代戦闘機「TFX」開発を支援

    ロシア連邦軍事技術協力局のドミトリー・シュガエフ局長は「ロシアはトルコ…

コメント

    • 匿名
    • 2021年 10月 04日

    ブラモスミサイルはどこいったの

      • 匿名
      • 2021年 10月 04日

      インド軍が配備してて今は空中発射型とか射程延伸型の開発やってんじゃなかったか?

      4
    • 匿名
    • 2021年 10月 04日

    旧東側は技術的に遅れてる、なんて幻想なんだよな

    15
      • 匿名
      • 2021年 10月 04日

      東側のテクノロジーってロマンを感じる

      8
    • 匿名
    • 2021年 10月 04日

    P-800が運用できる3S14セルは元々でかいですし、元々射程1000kmを謳っていたので性能に不思議はないですが、小型ロケット艦から発射できる小型版の開発が進められているのでこちらも興味深い。

    13
    • 匿名
    • 2021年 10月 04日

    福祉やインフラ整備を後回しにしても軍備に邁進するロシア
    軍ヲタの理想郷かw
    プーチン以後がまったく見えないのが不安定材料なんだけど、核大国の混乱だけはカンベン

    19
      • 匿名
      • 2021年 10月 04日

      プーチンの後は、中華の餌食。

      9
        • 匿名
        • 2021年 10月 04日

        いちばん不愉快な展開だな、これ以上大きくならなくていい

        7
      • 匿名
      • 2021年 10月 05日

      ロシアはインフラ整備を後回しにしてるんじゃない。
      国土の広さと柔すぎる土壌と寒すぎる環境で物理的にやってられないだけだ。

      4
        • 匿名
        • 2021年 10月 05日

        言い訳だよ
        だから地方人口が減少してモスクワに人口が集中するという国土の不均衡と歪みが生じてる
        長期的に見れば国家を衰退させる遠因となる

        11
      • 匿名
      • 2021年 10月 05日

      プーチンの後継者は、国防相のショイグだろう。
      毎年、ふたりでシベリアの夏休暇を過ごしているのは、ふたりで国家戦略を練っている
      からと言われている。

      2
        • 匿名
        • 2021年 10月 05日

        あの二人がつるんでるのをやたら国民に公表してるのが、
        最初はロシアってそっち系かと(笑)
        元首と国防相の緊密アピールこそ軍国の面目ってことか

        4
    • 匿名
    • 2021年 10月 04日

    リンク
    なんかSukhoi S-70 Okhotnik UCAV and Su-57 jet fighterっての出てるけどこれご存じの方いらっしゃる?
    オホトーニクはここでも記事がちょいちょい出てた気がするけど

      • 匿名
      • 2021年 10月 05日

      ??
      s-70&su-57ってタイトル付けられた動画に両機が並んで映ってるだけにしか見えない…

    • 匿名
    • 2021年 10月 04日

    水上艦からも潜水艦からも撃てる汎用性が素晴らしい。

    11
      • 匿名
      • 2021年 10月 04日

      ロシアは野砲を改装して戦車砲にしたり軍艦に乗せたり、使い回しの名人
      というか、ミサイルは使い回しがわりと多いから
      ハープーンなんか軍艦潜水艦に飛行機にも積めるし
      搭載プラットフォームに余裕を持たせて置くほうが重要と思うよ

      5
    • 匿名
    • 2021年 10月 04日

    速い(マッハ5~以上)
    遠く飛ぶ(500km以上)
    見つかりにくい(プラズマがレーダーを吸収)

    こんなスペック何も知らない人に言っても信じないでしょ
    将来はこんなミサイルがビシバシ飛び交うのか…

    9
    • 匿名
    • 2021年 10月 04日

    プラズマシースが発生するほどの高速性で誘導装置の精度が落ちないか、移動目標に対する追尾性能(機動力)はどの程度なのか、そのあたりがきになるところ

    5
      • 匿名
      • 2021年 10月 05日

      誘導さえできてれば避けられることはないと思う。時速10000kmのミサイルからしたら時速50km程度で動いてる船なんて止まってようが動いてようが旋回してようが大差ない。ミサイル側はほんの0.数度の角度を変えるだけで済む
      ソースは脳内

      5
        • 匿名
        • 2021年 10月 05日

        旋回半径の問題があるだろ
        無人とはいえミサイル程度じゃ高Gに耐えられるような構造じゃないし

        2
        • 匿名
        • 2021年 10月 05日

        というか高速であるほどほんの少しフィンの角度変えるだけでも大きく進路が変わってしまうからそのあたりの微調整が難しそうな気がする

        あと直進性が高すぎて進路欺瞞行動をろくにとれなさそうなのと、目標との進路上に弾幕張られたらろくに回避行動をとれず自身の速度も相まって撃墜されやすくないのかなとか色々気になる点がある

        6
      • 匿名
      • 2021年 10月 05日

      >「バレンツ海に予め設定された地点にジルコンが着弾したと判断されるため今回の試射は成功した」と主張している

      なんか言い方が微妙ですよね。終末誘導はやってない感。

      11
    • 匿名
    • 2021年 10月 04日

    なんでジルコンなんだろう?

    • 匿名
    • 2021年 10月 04日

    公開された映像では、潜水艦のシルエットが見えているように思うのですが
    これって、完全に浮上した状態で発射していますよね?

    以前、スプートニクで見た、ロシア原潜からの弾道ミサイル発射映像では
    深度45メートルというフレーズが繰り返されてて
    実際に発射された深度は不明だけれども、水上艦からのコールドローンチに類する感があったのだけれど

    1
      • 匿名
      • 2021年 10月 04日

      浮上した原潜に戦略的戦術的意味なんてない
      となると、まだ初期のテスト段階なのか、あるいは水中発射システムが未完成なのかと疑われる
      ロシアの目指すのが水中発射なのは間違いないから、早晩実用化するだろうがな

      3
      • 匿名
      • 2021年 10月 05日

      弾道ミサイルにせよ巡航ミサイル(対艦ミサイル)にせよ、露の潜水艦発射型ミサイルのシチュエーションは2種類あって、前者は潜在的に危険な海域(例えば北海や米国の沿岸)に進出して発射する場合、もう一つは比較的安全な露の内海(バレンツ海や白海や黒海、そしてオホーツク海)で発射する場合。
      どちらのとき必ずどっちとも言えないんですが、被探知から攻撃をうけるまでの時間的余裕がある場合は浮上して攻撃して潜航、というフローをとる場合もあります。これでもトータルで20分とかなので、敵航空機はもちろんミサイルでも間に合わない可能性が高く、ソ連時代は上記の内海に潜水艦隊の聖域を設けて長距離対艦ミサイルや弾道弾の発射母機として、最も秘匿性/生存性の高い核戦力という位置づけで運用してました。
      冷戦後も西側海軍の艦隊防空能力は少しずつ向上しているのでソ連時代の対艦ミサイルによる攻撃は少しずつ陳腐化して、それはロシア海軍の陳腐化と同意でしたが、ここに来て主力兵器の上位互換を導入して一気に盛り返すということなのだと思います。

      9
        • 匿名
        • 2021年 10月 05日

        貴重な情報どうも。
        でも別の感触を得たね、いかに安全圏からの発射といっても西側潜水艦が作戦中にわざわざ浮上するのはあり得まい
        となると、ロシア艦にはそれなりの事情があるはず。
        水中発射後のメンテナンスが手間取るか、あるいは西側よりも事故確率が高いかのいずれかを予想するよ

      • 匿名
      • 2021年 10月 05日

      潜水艦から発射するミサイルは最初の試験は安全を考慮して浮上状態から発射して
      成功したら潜航状態で発射と段階的に試験するのがセオリー

      1
    • 匿名
    • 2021年 10月 05日

    最大射程2,000kmならバレンツ海からバルト三国や北欧諸国が射程に収まるのはもちろんのこと、オホーツク海の聖域から安全に東京を狙える距離だな…。ただ通常弾頭なら威力は限られるし、どちらかといえばソ連海軍の伝統的な戦術だった水上/潜水艦発射型の長距離巡航ミサイルの上位互換なんだろう。
    北太平洋で見てもロシアは未だに米国のロシア近海への進出を警戒しているし、これと内海に隠匿されたミサイル原潜があれば横須賀より北での第7艦隊の活動を制限できる。
    同時に海自や東日本の日本人が軍事的圧力に晒される訳だけど、ソ連時代を知ってる政治家はソ連は例外だから核ミサイルを向けてきてもOKくらいにしか思ってなさそうだしな…

    3
    • 匿名
    • 2021年 10月 05日

    いつも思うけど本当に出来てるのかな?
    ロシアとか中国って性能未達でもプロパガンダ兼ねて過大に言うことの常習犯だし
    ただそれでも防御側は対応しなきゃいけない辛さがあるけど
    結局のところ使ってるのを自国で分析してみないと相手国兵器の性能なんてわからんわけで

    10
      • 匿名
      • 2021年 10月 05日

      同意ですね。
      西側も時に効果的なブラフが打てればだけど、民主主義って奴は見方にも敵にもオープンになってしまうのがジレンマ.
      (元コメと論点ズレたか)

      3
    • 匿名
    • 2021年 10月 05日

    ロシアは材料工学や流体力学がロシア帝国時代から異様に進んでた国なので
    西側にとってオーバースペックのミサイル兵器が出てきても特に驚きませんね。

    3
  1. この記事へのトラックバックはありません。

  1. 米国関連

    米空軍の2023年調達コスト、F-35Aは1.06億ドル、F-15EXは1.01…
  2. 米国関連

    米海軍の2023年調達コスト、MQ-25Aは1.7億ドル、アーレイ・バーク級は1…
  3. 欧州関連

    BAYKAR、TB2に搭載可能なジェットエンジン駆動の徘徊型弾薬を発表
  4. 欧州関連

    トルコのBAYKAR、KızılelmaとAkinciによる編隊飛行を飛行を披露…
  5. インド太平洋関連

    米英豪が豪州の原潜取得に関する合意を発表、米戦闘システムを採用するAUKUS級を…
PAGE TOP