ロシア関連

ロシア外相の挑発、和平交渉再開はゼレンスキーの気分と西側の指示次第

ロシアのラブロフ外相は11日、プーチン大統領が動員発表時に使用したレトリックを使用して「ウクライナが交渉のテーブルに戻るかどうかはゼレンスキー大統領の気分と西側の指示次第だ」と述べ、ウクライナ側を挑発した。

参考:Зеленский как запретил переговоры с Россией, так и разрешит, заявил Лавров

ラブロフ外相はプーチン大統領と同じレトリックを使用して「戦争を望んでいるのはウクライナのほうだ」と非難しているのだろう

プーチン大統領は先月21日、部分的な動員の導入を国民に説明する演説の中で「ロシアの安全保障や国益への要求を満たした提案にキーウ政権は前向きな反応を示していたが、平和的な解決は西側諸国の考えに削ぐわず、一定の妥協後にキーウ政権は合意を破棄するよう命じられ武器の供給量が増加した」と述べていたが、これはキーウ攻略が行き詰まっていた3月中旬頃にトルコで行われていた和平交渉のことを指している。

出典:Kremlin.ru/CC BY 4.0

ロシア代表団は当初、自信満々にウクライナの全面降伏=中立化、非軍事化、クリミアのロシア主権承認、ドネツク・ルガンスク独立承認を要求してきたが、キーウ攻略が行き詰まると態度を軟化させて両国間の争点は「中立化」と「領土問題」の2点に絞られたらしい。

ロシアはウクライナの中立化を実現する方法して「NATO不加盟確約」を考えていたが、ウクライナはクリミアや8年間に及ぶドンバス地域で戦いを通じて「ロシアが約束を守らない」ということを実感していたため、ゼレンスキー大統領は「中立を認めるとプーチンは再び孤立無援のウクライナに領土的野心を見せる」と考え「中立を宣言するための安全保障の提供」を要求。

出典:Podolyak_M

ウクライナの要求は一見矛盾しているように見えるかもしれないが、ロシアは「NATOに加盟したウクライナに極超音速兵器や弾道ミサイルが持ち込まれるのを防ぐ」という建前で中立化を要求しているため、ウクライナはNATO加盟を断念して中立を宣言するので「この中立をロシアを含む複数の国(米国、英国、フランス、中国、ドイツ、イタリア、ポーランド、イスラエル、トルコなど)が保証しろ」という意味で、この枠組に参加する国はNATO第5条に近い義務を負うことになる。

ゼレンスキー大統領は「領土的な野心がなく極超音速兵器や弾道ミサイルが持ち込まれるの防ぐ」という目的だけでウクライナに中立を要求しているのなら「この提案が飲めるだろ?」とプーチン大統領に突きつけた格好で、これを拒否するなら「中立を宣言したウクライナを再び軍事力で切り取る下心がある」と認定されてしまう寸法だ。

出典:President Of Ukraine

さらに「主権と領土(クリミア、ドネツク、ルガンスク)に関して一切の妥協を行わない。我々を抹殺するために戦いを仕掛けてきた国の言葉を簡単に信用しない。ウクライナ人はそこまで甘くないし、具体的な結果でしかロシアを信用できないとこと知っている」とも述べており、両国の交渉が破綻した決定的な要因はブチャでのジェノサイドが発覚したからで、これを「ロシアの安全保障や国益への要求を満たした提案にキーウ政権は前向きな反応を示した」と表現するのは無理がある。

しかしラブロフ外相は「朝の気分次第でゼレンスキー大統領は過去の決定(交渉凍結)を忘れてしまう。あるいはワシントンやロンドンが命じれば交渉を再開するだろう。彼はアーティストだったので面子を潰さない言い訳を探すのが得意だ。結局この戦争はゼレンスキー政権を影から支配するアングロサクソンによって行われており、これにポーランドやバルト三国が加わろうとしている」と述べいるのが興味深い。

出典:Mvs.gov.ua / CC BY 4.0

要するに「西側の支援など役に立たない」と自信満々で始めた特別軍事作戦が行き詰まり、動員を行わなければならないほどロシア軍が追い詰められたのは「NATOとロシアの戦いに発展しているからだ」とプーチン大統領は主張しており、これに忠実なラブロフ外相は同じレトリックを使用して「戦争を望んでいるのはウクライナ(西側諸国)のほうだ」と非難しているのだ。

まぁロシアとしては「ブチャのジェノサイド発覚」で壊れた和平交渉にウクライナが戻ってくれば、これも政治的に利用(ウクライナがブチャの件を誤りだと認めたなど)する腹積もりがあるのかもしれない。

関連記事:プーチン大統領、ロシアの解体を企む者との戦いは我々にとって宿命
関連記事:騙されないゼレンスキー大統領、ロシア人は結果でしか信用できない
関連記事:ウクライナ代表団、ロシアは自分達の方が困った状況にあると自覚している

 

※アイキャッチ画像の出典:Министерство иностранных дел Российской Федерации

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コメント

    • RED
    • 2022年 10月 11日

    ロシア軍が押し返したというのは多分フェイクですね。今のところ親露派しか騒いでませんし、その方面の砲撃がやたら少ないという情報もありますので。

    20
      • class
      • 2022年 10月 11日

      情報ありがとうございます
      そういえばISW様の報告書によるとドネツク州のテルニーが黄色(claimed)表示になってましたね
      まあその日のうちにロシアの砲撃があったので明日には青表示に戻ってると思いますが

      1
      • けい2020
      • 2022年 10月 11日

      むしろあの場所に突出してくれれば、ロシアの弱い防御ラインがさらに弱くなるから
      ウクライナ側が誘い出してる可能性も

      6
      • shkk
      • 2022年 10月 11日

      最近はやりの偽旗作戦の一環なんですかね…?

      2
    • class
    • 2022年 10月 11日

    >>「もしウクライナに対して領土的野心が無く、建前通りミサイルとNATO加盟を防ぐのが目的なら、この提案を呑めるだろ?」
    お見事

    20
    • 2022年 10月 11日

    ロシア人は半年前の出来事すら覚えてられない人種なのかな?
    どこまでいっても攻め込んだのはロシアで有り、和平交渉が破綻したのは民間人への残虐行為を行ったロシアの責任である。

    30
      • 身の終わりをやろう
      • 2022年 10月 11日

      オークどもは精神が分裂しているのか?
      自分で無差別テロ行為をしておきながら、相手をテロリスト呼ばわりできるのは、精神病なんじゃないか

      8
    • 全裸ギター
    • 2022年 10月 11日

    朝の気分次第で過去の決定を忘れる
    彼はアーティストだったので面子を潰さない言い訳を探すのが得意だ
    ラブロフ外相の発言はロシアの事を言ってるようにしか見えない

    23
    • kankan
    • 2022年 10月 11日

    今のロシア、あるいはソ連時代から彼等のやり方は反社会勢力と同じで、
    相手が折れるまで嫌がらせをする、相手のありもしない責任を捏造する、対価を払わず利益だけを得ようとする。
    それらは全て警察(アメリカ)が基本介入してこないラインを引いてコソコソするのも同じ。
    仮に今プーチンがいなくなっても同じかそれ以上に暴力的かつマフィアじみたのが出てくるだけだと思う。
    そういうのしか出世できない社会システムになっちゃてるし。
    最悪なのはこんな連中が核を持ってる事。

    38
      • sss
      • 2022年 10月 11日

      よく日本の政治家と官僚はこんな連中相手に経済協力で領土が帰ってくると思ったよな。
      頭の中のお花畑っぷりは頭Zと同レベルかも知らん。

      22
      • 2022年 10月 12日

      中共への牽制の意味があった様な気もする。
      ムネオはマジだが。
      クリントン、オバマが中共を育てたのは日本にとって痛かった。
      何故かアメリカは宿敵を育てるクセがあるから困る。

      22
    • STIH
    • 2022年 10月 11日

    ラブロフのコメントで喜ぶのは頭Zな人だけだからほっといていいでしょ。どうせ一週間もすりゃ全然違うこと言ってるでしょうから。
    ただこのタイミングで西側が悪いと言い出すのも、当然ミサイル攻撃に付随する情報戦の一環なのは自明。おそらくウクライナ人に向けたコメントなんでしょうけど、ロシアが約束を守らない、言っていることとやってることが全然違うなんてことは、今更ウクライナ人にはわかりきってることでしょ。
    ただこれからありったけのミサイルを撃ち込むんでしょうから、残念ながら被害はまだまだ被害がりそうなのが残念です。

    21
    • 無題
    • 2022年 10月 11日

    はいはい西側西側
    都合が悪くなったら西側のせいにすればいいんだからロシアのトップってのは楽な仕事だよな

    28
    • ムアン
    • 2022年 10月 11日

    素で言ってるのかわかってて言ってるのかとても気になる。

    5
    • イーサンハント
    • 2022年 10月 11日

    リンク先のサイトの他の記事を読んでみましたが、ウクライナの都市をミサイル攻撃したことに対するロシアの国内向けの説明としては、「クリミア大橋への攻撃は民間施設へのテロ攻撃であり、その報復としてウクライナに罰を与えているだけだ、悪いのはアングロサクソンに操られて先に手を出してきたゼレンスキーであり、ボールを握っているのはゼレンスキーだ」みたいな話なんですね
    ロシア政府のこの発表を聞いて怒り心頭の軍国ジイサンがロシアには大勢いそうですが

    7
    • ホテルラウンジ
    • 2022年 10月 11日

    こんだけ押し返されて総崩れになった挙句、橋まで落とされてる一方的に失点しまくりの段階で、交渉の話を持ち出してる動機が分からんな
    不利であってもまずウクライナ側に強烈なパンチが通ってからやろうに。え?昨日のミサイルがパンチのつもり?w
    今の何も良いところが無いタイミングで交渉の話持ち出すにしても「お前今は調子こいてるけどこれから冬になるし半年後にはまた立て直した俺らに押されまくって領土失うねんから今交渉した方がええんちゃう?」みたいな切り口の挑発であればまだわかるけど

    6
    • こな
    • 2022年 10月 11日

    ロシアはいつも西側西側連呼してるけど、日本、欧米のマスコミや報道官も「西側」「東側」という言葉を使うのはもうやめた方が良い。第三陣営というか、一歩引いて利益を確保しようとする国は多いけど、東側陣営というのは実質的に中国と、某核兵器置場しかない。

    西側という表現は、あたかも独裁主義国家群が自由民主主義国家群と外交的・経済的に対等であるかのように思わせ、思想的にも自由民主主義に対するオルタナティブが存在すると思わせてしまう。民主主義の制限は国家が厳しいときには必要かもしれないが、恒常的に是認される思想ではない。

    30年前ならともかく、西側東側という表現は事実に即していない。

    19
    • bbcorn22
    • 2022年 10月 12日

    ロシア人に理論や計算は通じないから
    負けとわかるまで殴り続けるしかない。
    ロシア人とは そういう生き物だ。

    17
    • K(大文字)
    • 2022年 10月 12日

    何でもかんでも全て『西側』の所為にしてばかり。
    統治手法としてはこれほど楽な物も無いけれど、その毒は確実に回る。
    すなわち、国内世論と外交方針の硬直化。
    必要に応じての対話や妥協がどんどん困難になって行く。
    先ごろもラブロフが「アメリカが望むならばG20で米露首脳会談を開催してもよい」などと抜かしていたけれど、つまりはそういう事。
    「お願いだから話し合おう」の一言すら言えなくなって、意味不明な上から目線の独り言をつぶやきながら相手の歩み寄りを待つ他、コミュニケーションが取れないようになってしまう。
    普段から安易な統治をすることの、これが対価。
    まぁロシアに限らず『あの辺の国』は大体皆似たようなもの。日本にとっては、非常によく見知った光景。相手をする立場としては、すげぇウンザリする。

    15
    • yo
    • 2022年 10月 12日

    ロシア領への攻撃が無いからか、上から目線ですねぇ・・・
    これが核保有国の余裕ですか。

    3
    • makumaku
    • 2022年 10月 12日

    ロシア外務省は手札が限られてきたのだろうと。
    ロシアUN代表部は連日つるし上げ状態で、悲鳴を上げているらしいが、いまのところ本国が何かしてやれることはないだろう。イランはロシアによるウクライナ領の併合を承認していないし、中国は今年のプーチン大統領の誕生日にお祝いメッセージを送らなかった。いくつもの旧ソ連諸国がロシアからの兵役忌避者を受け入れている。
    これらがロシアの外交的失策でなくて何なのかと。

    ゼレンスキー大統領と政府要人たちが盗られた領土を取り返すと連呼し、米国政府がウクライナが必要とするものを供給し続けると明言しているのだから、しばらくの間外交(による解決)の出番はないだろう。

    14
      • makumaku
      • 2022年 10月 12日

      ロシア外務省が、今週にプーチン大統領とエルドアン大統領の会談をカザフスタンで行うと発表した由。プーチン大統領は、トルコの仲介で米欧と協議するチャネルを開きたいらしい。
      リンク
      ロシアが10日の大規模ミサイル攻撃により、ウクライナのエネルギー生産の30%を破壊したことで、ウクライナはEUへの電力輸出の中止を発表した。ロシア政府は、冬を前にEUと交渉するチャンスと見ているのかもしれない。

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