ロシア関連

米国の航空優位を突き崩すか? ロシアが狙う「早期警戒管制機」の無力化

巨大なレーダーを空中に浮かべ、広範囲な空域を監視し、友軍機はもちろん、正体不明な空中目標を探知・追跡し航空管制を行う早期警戒管制機(早期警戒機を含む)を使用した米国の航空戦術を、ロシアが無力化しつつある。

参考:Russia’s Answer to American AWACS Superiority: A-100 Jets and Hypersonic ‘AWACS Killer’ Missiles

もはや大型の早期警戒管制機による航空管制は時代遅れか?

米国が他国に対し絶対的な「航空優位」を確保している背景には、航空戦力のステルス化以外にも、巨大なレーダーを搭載した早期警戒管制機(早期警戒機を含む)の存在がある。

地上からの支援が全く届かない空域で作戦機(戦闘機や爆撃機等)が能力を十分に発揮できるのは、米空軍の早期警戒管制機「E-3 セントリー」や米海軍の早期警戒機「E-2 ホークアイ」の存在によるところが大きいが、運用に掛かるコストも非常に大きなものになる。

機体価格も高価な上、導入後も性能維持向上のため搭載レーダーや機器のアップグレードにかかるコストは、電子機器の「塊」だと呼ばれるだけあって高額だ。

出典:public domain アメリカ空軍のE-3

このように手間とコストが掛かる早期警戒管制機(早期警戒機を含む)を大規模に運用している国や組織は、米国とNATOぐらいしかなく、質と量においてロシアや中国を圧倒している分野だが、この絶対的な「航空優位」を突き崩す兵器が、次々とロシアから現れ始めた。

ロシアは、米国やNATOに対して著しく不均衡な早期警戒管制戦力の差を埋めるため、新型の早期警戒管制機「A-100」の開発を進めており、近い将来、質のおいて米国やNATOに追いつくことは可能だが、この機体は非常に高価で調達できる数に限りがあるため、量においての劣勢を埋めることは難しいと言われている。

そのためロシアは、欧州における米国やNATOの早期警戒管制戦力を近づけない=アクセス拒否を実現することで不均衡な現実を打破しようと目論んでおり、そのために開発されたのが超長距離迎撃ミサイル「40N6」や極超音速空対空ミサイル「R-37M」だ。

超長距離迎撃ミサイル「40N6」は、ロシアの防空システム「S-300V4」や「S-400」、来年には実戦配備に就く最新型の「S-500」に接続して運用するよう設計されており、射程距離は最大で400km以上、マッハ12以上(マッハ14という説もあり)で飛翔し、水平線下の目標を迎撃するための自律的センサーやデーターリンクを備えている。

出典:Vitaly V. Kuzmin / CC BY-SA 4.0 ロシアの空対空ミサイルR-37

さらに最高速度マッハ6、使い捨てのロケットブースターと連結し発射すれば射程を300km~400km程度まで延長可能な極超音速空対空ミサイル「R-37M」を、戦闘機に搭載し運用した場合、影響を与える範囲は優に1,000kmを超える。

もし、40N6が欧州にあるロシア領の飛地である「カリーニングラード」と、ウクライナから奪った「クリミア半島」に配備され、R-37Mを搭載した戦闘機が欧州との国境沿いを彷徨くようなことになれば、消耗することを前提にしていない米国とNATOの早期警戒管制機(早期警戒機を含む)は、このミサイルの影響圏外へ後退すること余儀なくされる。

そうなれば、米国の絶対的な「航空優位」を支える2つの柱の内、早期警戒管制戦力を排除=無力化することができ、バックアップが受けられないステルス化された航空戦力の効果や威力が落ちるという寸法だ。

米国が現在、F-35や無人機のセンサーが取得した情報を、リアルタイムで軍全体が共有することを進めているのは、大型で高価なため狙われやすい早期警戒管制機が役に立たなくなることを想定し、センサーを分散させ得られた情報を統合し、後方から管制を行う=擬似的な早期警戒管制網を構築することが狙いなのだろう。

大型のレーダーと管制要員を機体のせ、空中で広範囲な空域を監視し、友軍機はもちろん、正体不明な空中目標を探知・追跡し航空管制を行う早期警戒管制機は、もはや高価な的で兵器の進化に対応できない機種なのかもしれない。

 

※アイキャッチ画像の出典:U.S. Air Force photo by Staff Sgt. Michael Battles

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コメント

    • 匿名
    • 2019年 9月 28日

    こういうのはイタチごっこだからなぁ
    これでAWACSの優位性が失われるなら防御用に対空レーザー装備するとか
    ステルス機をベースにして対空ミサイルが飛んできたら管制止めて消えるとか色々やり方はある
    それ以前の問題として平面的にしか動かないうえに40ノット以下の艦艇目標と違って
    機動性ろくに無いとはいえ飛行機に超々音速ミサイル当てられるのかね?

      • 匿名
      • 2019年 9月 29日

      当てられる可能性がある、ことが問題なのかと。
      迎撃レーザーとて100%打ち落とせるわけでも無し

    • oominoomi
    • 2019年 9月 29日

    極超音速ミサイルには懐疑的です。
    千数百度に達する空力加熱からシーカーを保護し、電離プラズマに包まれながら長距離誘導制御を行う技術が、本当に開発できたのか?
    技術的な問題をクリア出来たとしても、非常に高価なミサイルになるのではないか?
    やはりロシアお得意のはったり、いや心理戦ではないでしょうか?
    この様な極超音速迎撃ミサイルをロシアが持っている「かも知れない」という可能性だけでNATOがAWACS・AEWの使用を躊躇すれば、充分に有効な「口撃兵器」となるわけです。

    1
      • 匿名
      • 2019年 9月 29日

      この辺りはアメリカが開発を進めているので、それで答え合わせになるでしょう。ロシアのみが独自技術で可能にしたということはまず考えられませんから。

    • 匿名
    • 2019年 10月 01日

    相手の嫌がるモノを持つ
    日本も見習いたいね

    2
    • 黒足袋
    • 2023年 1月 04日

    この記事から約2年半後に起きた戦争では、ロシアはこのような技術的チャレンジの基礎になる、半導体などの電子部品を輸入に頼っていたという弱点を露呈して、イランや北朝鮮からミサイルを調達せざるを得ない状況に陥っている。将来を見通すことはホントに難しいですね。

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