ロシア関連

ロシア軍が投入した新型自爆無人機、特筆すべき特性は見当たらない

ウクライナ国防省情報総局(GUR)はGeran-4の構造解析結果を25日に公開し、この中で「Geran-4は新設計の機体を採用して強力なターボジェットエンジンを搭載している」と明かしたが、Geran-3と比べて航続距離(約1000km→450km)が大きく減少し、強化された特性もいまいちだ。

参考:War&Sanctions: ГУР розкриває будову нового російського реактивного ударного БпЛА “ґєрань-4”
参考:Geran-4 – neue russische Jet-Einwegdrohne „verliert“ über 80 Prozent der Reichweite

現在、ロシア軍の前進やウクライナ軍の反撃など戦線の状況を事細かに取り上げないのは特筆するような大した動きではないから

ウクライナのミハイロ・フェドロフ国防相は4月9日「迎撃ドローンはウクライナの発明品であり、既に我が国の防空にとって重要な要素になっている」「ウクライナ軍は迎撃ドローンを使用してShahed、Gerbera、Molniya、Zala(恐らくLancetのこと)、Orlanなど各種ドローンを3月に3万3,000機以上も撃墜した」「この戦果は2月と比べて2倍以上に相当する」と明かし、ロシア人ミルブロガーが運営するRYBARも「迎撃ドローンによってGeran-2が迎撃されるようになり、ターボジェットエンジンを備えたGeran-3を開発したものの、もうGeran-3の速度にもウクライナが対応してきた」と指摘。

ロシア軍が運用するShahed型無人機
最大速度最大到達距離弾頭重量
Geran-1/Shahed-131約180km/h約900km約15kg
Geran-2/Shahed-136約185km/h約1,000km~2,500km約40kg~50kg
Geran-3/Shahed-238約350km/h~500km/h約1,000km約50kg~90kg
Geran-4約500km/h約450km約50kg~90kg
Geran-5約450km/h~600km/h約950km~1,000km約90kg

ロシア軍が運用するShahed型無人機はShahed-131=Geran-1、Shahed-136=Geran-2、Shahed-238=Geran-3、Geran-4、Geran-5が確認されており、攻撃の主力は現在も継続的な改良が続けられるGeran-2だが、安価な迎撃ドローンの登場で攻撃コストと迎撃コストの交換比が逆転した可能性が高く、大量生産も容易な迎撃ドローンの供給量はGeran-2の投入量を上回っているため攻撃効果はどんどん低下している。

Geran-2にターボジェットエンジンを搭載して飛行速度の高速化を図ったGeran-3も「後方から迎撃ドローンに迎撃される様子」が何度も確認されており、RYBARは「ウクライナ軍の迎撃ドローンはGeran-3よりも高速で飛行でき、後方からGeran-3に追いつくことができる」と指摘。

Geran-5はShahed型=デルタ翼型ではなく、イラン製標的ドローン=Karrarに類似したミニ巡航ミサイルで、ロシアのディフェンスメディア=Военное обозрениеも「形状はドローンというよりもミサイルに近い」「このドローンは最大90kgの弾頭を搭載でき、弾頭を50kgに抑えれば射程を1,500kmまで伸ばすことができる」「Geran-5の最大速度は600km/hだ」「Geran-5は本質的に低コスト巡航ミサイルで実戦投入は4月4日に初めて確認された」と報告したが、結局のところ速度を巡る戦いは矛と盾の競争にすぎない。

RYBARも「迎撃ドローンの高速化に対するロシアの回答はGeran-5で、まだ敵の迎撃ドローンはこの速度には追いつけていないが、ウクライナはいずれGeran-5の速度に対応してくるだろう」「そうなれば新しいGeranの登場を促すことになる」と述べ、技術的に自爆型無人機の速度を引き上げることが可能なら迎撃ドローンの速度を引き上げることも可能で、性能の上限は技術的限界ではなく「手頃な価格で調達価格に収まるかどうか」であり、速度を上げるには他の要素とのトレードオフが必要になる。

ウクライナ国防省情報総局(GUR)は謎に包まれていたGeran-4の構造解析結果を25日に公開し、この中で「ロシアはGeran-4量産開始に向けた準備の一環としてロシア領オリョール州と旧ドネツク空港跡地で試験飛行が行われた」「2026年5月に本格的な実戦投入が始まった」「Geran-2にターボジェットエンジンを搭載したGeran-3は機体強度が高速飛行や高G(重力加速度)を伴う機動に耐えられなかった」「Geran-4は空力特性と機体強度を向上させた新設計の機体を採用し、分離式だった主翼と胴体を一体化させ、機体のメンテナンスハッチも大幅に削減し、Geran-3よりも強力なターボジェットエンジンを搭載している」と言及。

GURはGeran-4の性能について「寸法はGeran-2と同じ」「最高速度500km/h、最大到達距離約450km、弾頭重量約50kg~90kg」「300km/h~400km/hの速度で高G下の激しい回避機動が行える」「飛行制御システムや電子コンポーネントはアラブガ経済特区で製造されたものを使用し、これまでのGeranシリーズと完全に同一だ」と説明し、独ディフェンスメディアのhartpunktも「Geran-4は迎撃ドローンによる迎撃を回避することを目的にした新型ドローンだが物理の法則に逆らうことはできない」と指摘している。

出典:Головне управління розвідки Міністерства оборони України

“Geran-4は巡航速度や回避機動中の速度を引き上げて防空網突破能力を強化した代償として機体製造が複雑化し、従来型に比べて航続距離は激減した。Geran-4運用に必要な発射インフラや発射準備に要する時間、激減した航続距離を少しでも補うため前線付近での運用を余儀なくされ、それに伴い発射準備中に攻撃を受けて破壊される可能性も加味すれば、Geran-4のウクライナ領侵入深度は350km程度になるだろう。従来型のようにウクライナ西部は届かないものの、射点次第で首都キーウを含むドニエプル川左岸はGeran-4の射程内だ”

Geran-3と比べてGeran-4の飛行速度は大して変化しておらず、高G下の激しい回避機動といっても事前入力のプログラム飛行なので、迎撃ドローンの接近を察知して自由に回避機動が行えるわけではないため「Geran-4の防空網突破能力が劇的に向上した」「Geran-3の速度に追いつける迎撃ドローンでの対処を著しく困難にさせる」と呼べるシロモノではない。

ウクライナ戦争における技術革新は迎撃ドローン登場で一段落した感があり、こういうと不謹慎かもしれないが戦場からのインパクトも減少傾向が続いている。そしてロシア軍が今年や来年にドネツク州を完全占領することもほぼ不可能で、現在の前進にかかるコスト交換比率でドネツク州全体を占領するには4年~5年はかかるかもしれない。

現在、ロシア軍の前進やウクライナ軍の反撃など戦線の状況を事細かに取り上げないのも、特筆するような大した動きではないからで、ロシア軍がやらかしたクピャンスクを巡る戦いについては非常に興味深い話もあるのだが、ロシアを過度に応援する恐ろしく面倒くさい人々が押し寄せてくるのでリンクのみの紹介に留めておく。

関連記事:ウクライナが独自の滑空爆弾を公開、まもなく敵目標への攻撃に投入
関連記事:ウクライナの自爆型無人機による月間攻撃量がロシアを上回る、1回1,000機超えも
関連記事:ウクライナ向け長距離攻撃兵器、10月納入に向けてF-16との統合作業が順調
関連記事:ウクライナの迎撃ドローンはGeran-3の速度に対応、Geran-5も時間の問題
関連記事:迎撃ドローンの市場形成とシェア争い、西側企業の投資スピードは強烈

 

※アイキャッチ画像の出典:Wild Hornets

NATO加盟国から拒否されるE-7、カナダもグローバルアイ購入交渉を開始前のページ

防衛省、レーダーサイト防衛用に撃ち放し運用が可能な迎撃ドローンを要求次のページ

関連記事

  1. ロシア関連

    ロシア軍のサンシェードが教訓を取り入れて進化、今度は爆発反応装甲付き

    ロシア国防省公開の映像に爆発反応装甲が取り付けられたサンシェード(上部…

  2. ロシア関連

    ロシア、トラブルが解消した主力戦車「T-14」の大規模量産を開始

    ロシア国営のタス通信は3日、次期主力戦車「T-14」と次期歩兵戦闘車「…

  3. ロシア関連

    高まる侵攻リスク、ロシア大使館スタッフもウクライナからの脱出を開始

    露国営メディアは12日、外交筋の話を引用して「首都キエフからロシア大使…

  4. ロシア関連

    急遽招集されたロシア軍兵士5,000人、ウクライナ派遣を拒否して暴動?

    ウクライナメディアのObozrevatelは27日、招集された約5,0…

  5. ロシア関連

    ウクライナ軍総参謀本部、オデッサへのロシア軍上陸は真実ではない

    ロシアのインテルファクス通信は「ロシア軍が黒海に面したオデッサとアゾフ…

  6. ロシア関連

    努力するロシア軍、地上拠点をUAVによる攻撃から保護する新戦術をテスト

    ロシア国防省は25日、敵の無人航空機から地上拠点を保護するため新しい戦…

コメント

  • コメント (22)

  • トラックバックは利用できません。

    • たむごん
    • 2026年 5月 28日

    延々、地味な消耗戦が続きながら、イタチごっこが続いていますからね…。

    日本目線でみて、イラン戦争(ホルムズ海峡)の方が日常への影響が甚大なので、世間の関心がそちらに向いていくのも仕方ないだろうなと。

    23
    • 幽霊
    • 2026年 5月 28日

    現状ウクライナがロシア国境まで戦線を押し戻すのも現実的では無いですし、ロシアがウクライナを屈服させるのも現実的ではありませんからね
    このままダラダラと戦争は続いていくのでしょう。

    39
    • 古銭
    • 2026年 5月 28日

    双方の政経の乱れを眺める分には動きは少なくないですが、戦場に限れば現状で気になるのはロシア側が迎撃ドローンの大規模な導入(と防空等の指揮系統改善)を出来るのかぐらいですからね。

    8
    • リンゴ
    • 2026年 5月 28日

    戦争が多すぎて色々と感覚麻痺しているよな、と感じる

    45
    • せい
    • 2026年 5月 28日

    いくら低コストと言っても、数mの機体を月に数万機も作るのは物資的にキツくなるよなぁ
    資源があっても人は有限だし、止まるサービスも多いだろう
    いかなプーチン政権でもそろそろ止まらないと保たないように思うが、いつまで続けるのかねぇ

    18
    • ななし
    • 2026年 5月 28日

    負けてる軍隊って良兵器生み出すから期待してる
    五式戦とか松型駆逐艦とか

    3
    • kitty
    • 2026年 5月 28日

    農作物くらいしか売るものが無かったウクライナの戦後の輸出品になりそう。
    まあすぐ各国で生産されるようにはなるだろうけど、戦闘実績がな。

    15
      • せい
      • 2026年 5月 28日

      ソフトメーカーになるかもしれん

      9
    • Mr.R
    • 2026年 5月 28日

    最後の方の文章で草生えますわ。
    どんな物事にせよ原理主義者は厄介ですね。反面教師にしなくちゃ
    今年に入ってから気になる動きとして、ロシア領内のタガンログ〜国境間に大きめの橋があるのですが、そこがどうにも拡張されたようです。衛星画像で橋が2本に増えたっぽい事を確認しました。

    21
    • Kaeru
    • 2026年 5月 28日

    押し寄せてきてもいいから書いてほしい

    10
      • アレ
      • 2026年 5月 29日

      関係ない記事にまで押し寄せてくるから厄介なのよ

      19
    • YF
    • 2026年 5月 28日

    去年までは地上戦でもロシアが押してて時間はロシアに味方しているなんて言われてましたが、すっかりステージ変わりましたね。
    最近の発表では死者も50万人超えて、地上戦でも押されウクライナの長距離打撃能力獲得により国内の被害馬鹿に出来なくなって、戦争継続がマイナスしか生み出さない状況です。

    そろそろ本格的にロシアも停戦考えて欲しいですね。負けを確定させない為にダラダラ戦争やってるようにしか見えないですからね。

    30
    • クラスノヤルスク
    • 2026年 5月 28日

    仮にロシア軍がクラマトルスクスラビャンスクに肉薄できたとしても、人口50万の都市圏をロシア軍が占領するのは絶望的だろうね。今のウクライナ戦争は防衛側が圧倒的に有利だし、これ以上の戦争はロシアにとって不利益しかないと思う。

    16
    • ラボーチキン
    • 2026年 5月 28日

    >>ロシアを過度に応援する恐ろしく面倒くさい人々が押し寄せてくるので

    けしからん人間もいるもんですな

    15
    • レプタリアン
    • 2026年 5月 28日

    迎撃ドローンが速度対応を極めれば友人戦闘機の存在出来る空域は無くなるんだろうなぁ
    次は護衛ドローンの登場かな?

    2
    • 2026年 5月 28日

    時速600キロのターボジェット、、
    最初のジェット機みたい
    次は、ターボファンが付けられなければ
    プロップファンなのかなぁ

    4
    • たら
    • 2026年 5月 29日

    リンク
    ここ2か月はロシアによる占領地が減っているようですね。今後の傾向がどっちに触れるのかは全くわかりませんが。

    2
    • いそきち丸
    • 2026年 5月 29日

    確かにここ数カ月はdeepstateの更新も、ほんのちょびっとロシアが前進したり、ほんのちょっとウクライナが奪還したりでほとんど変わってない。更新が無い日もちらほらある。
    興味深いことはラトビア近辺の領空侵犯と、ロシアのタンカーをNATOが拿捕して回ってるぐらいしかない

    8
    • ただのミリタリー通
    • 2026年 5月 30日

    deepstateとiswの戦況報告がかなり乖離していますがどちらが正しいのでしょうか

    2
    • 774RR
    • 2026年 5月 30日

    LIMAの報道が急に増えた印象があるのですがEWも仕上がってきているということなのでしょうか。分野を問わずイタチごっこなのでしょうが頑張って欲しいものですね

    • PC好き
    • 2026年 5月 30日

    シャヘドタイプの攻撃ドローンの限界が見えてきたようですね
    簡易ジェット搭載以上の高速化を望めばもはやミサイルですので同じ安価な技術を使用したドローンであれば射程が短い迎撃ドローンがコスト面では有利になります

    4
    • ras
    • 2026年 5月 31日

    個人としてDeepStateとかのGeojsonや画像面積比較の進退記録は確認するようになったのですがどっちも喧伝するような大きな動きがないのは確実ですね
    Geojsonからの面積確認は簡単に作れるので気になる人はどうぞ

    2

ポチって応援してくれると頑張れます!

にほんブログ村 その他趣味ブログ ミリタリーへ

最近の記事

関連コンテンツ

  1. 軍事的雑学

    4/28更新|西側諸国がウクライナに提供を約束した重装備のリスト
  2. 欧州関連

    トルコのBAYKAR、KızılelmaとAkinciによる編隊飛行を飛行を披露…
  3. 中国関連

    中国、量産中の052DL型駆逐艦が進水間近、055型駆逐艦7番艦が初期作戦能力を…
  4. 米国関連

    F-35の設計は根本的に冷却要件を見誤り、エンジン寿命に問題を抱えている
  5. 北米/南米関連

    カナダ海軍は最大12隻の新型潜水艦を調達したい、乗組員はどうするの?
PAGE TOP