ロシア関連

米国が整備する地上配備型ミサイル、プーチン大統領も対応兵器の生産を指示

プーチン大統領は「中距離核戦力全廃条約の失効によって米国の地上配備型攻撃能力が現実のものになった」と判断し「地上配備型の短距離及び中距離ミサイルの生産」を指示、中国を追いかける形で米露も地上配備型ミサイルの拡張に本腰を入れる格好だ。

参考:Совещание с постоянными членами Совета Безопасности
参考:U.S. Navy Readies New Compact Agile Interceptor For Propulsion Flight Tests

先行する中国を追いかける形で米露も地上配備型のミサイル戦力拡張に本腰を入れる格好

米国は旧ソ連と締結した中距離核戦力全廃条約(INF)によって射程500km~5,500kmまでの地上配備型ミサイルを保有出来なくなったが、中国はINFに参加していないため地上配備型ミサイルの保有に制約がなく、この範囲をカバーするミサイル戦力を接近阻止・領域拒否(A2/AD)戦略に活用してきた。この不均衡な戦力バランスを問題視したトランプ前大統領はINFの破棄を2019年2月に通告したが、ロシアは「これらのシステムを米国が配備しない限り当該兵器を生産しない」と発表。

出典:Lockheed Martin PrSM

米陸軍はINF失効を受けて射程500km以上の攻撃能力を開発に着手、この能力はDark Eagleを運用する「Long-Range Hypersonic Weapon=LRHW」、トマホークとSM-6を運用する「Typhon Weapon System=別名:Mid-Range Capability long-range launcher」、HIMARSで運用する「Precision Strike Missile=PrSM」の3つで構成され、Tomahawk、SM-6、K.41を流用するTyphon Weapon Systemは最も技術的ハードルが低く、インド太平洋地域への2024年配備が決まっている。

PrSMも開発途中でINFが失効したため射程が500km以上に変更されており、プーチン大統領は「米国の地上配備型攻撃能力が現実のものになった」と判断し「地上配備型の短距離及び中距離ミサイルの生産を開始して、これを状況に応じて配備する必要性がある」と発表、先行する中国を追いかける形で米露も地上配備型ミサイルの拡張に本腰を入れる格好だ。

因みにINFは射程500km~5,500kmまでの空中発射式や艦艇発射式のミサイルは制限しておらず、この種の兵器は高価で限られた国しか保有できないと考えられてきたが、長距攻撃能力の導入や調達のハードルが下がって拡散し、空中発射式や艦艇発射式と比較して地上配備型は再装填が容易で運用コストも安価なため、自爆型無人機と合わせて爆発的に普及する可能性がある。

これは対処しなければならない空中の脅威が飛躍的に増加することを意味し、VLSのセル数に迎撃能力が制限される水上艦艇にとって致命的な問題で、米海軍はSM-6よりも小型なPAC-3MSEのVLS統合=Compact Agile Interceptor計画を進めている最中だ。

出典:Lockheed Martin

どちらにしても従来の高価で高性能な防空システムでは量に対抗できないため、安価な迎撃システムの大量配備が防衛市場のトレンドになるかもしれない。

関連記事:移動目標を弾道ミサイルで攻撃可能、PrSMが海上を移動する目標に命中
関連記事:HIMARSで500km先の目標を攻撃可能、米陸軍へのPrSM納入が始まる
関連記事:米陸軍のタイフォン・システム、訓練目的で一時的に日本へ移送される可能性
関連記事:米陸軍、2024年にタイフォン・システムをインド太平洋地域に配備予定
関連記事:LM、米陸軍にMK.41を流用したタイフォン・ウェポン・システムを納品
関連記事:米陸軍、トマホークとSM-6を流用してロングレンジウェポン開発に着手
関連記事:ロッキード・マーティン、精密ストライクミサイル射程延長版のイメージを公開
関連記事:豪州がHIMARSとNSMの購入契約を締結、将来的に1,000km先の目標を攻撃可能
関連記事:米陸軍の極超音速兵器「LRHW」は2,776km先の目標と交戦可能、日本配備も視野に

 

※アイキャッチ画像の出典:Mil.ru/CC BY 4.0

ロシア軍も補充兵の供給に問題、契約軍人を募集するコストが跳ね上がる前のページ

侵攻856日目、ロシア軍がトレツク方向のアルテーモヴェ市内に侵入次のページ

関連記事

  1. ロシア関連

    機体に描かれた「75」の意味、ロシアの新しい第5世代戦闘機は本当に「Su-75」になるのか?

    ロシアが発表した第5世代戦闘機「チェックメイト」は設計を担当したスホー…

  2. ロシア関連

    極超音速兵器が検出可能? ロシアが発表した輸出用レーダー「59N6-TE」の実力

    ロシアが売りに出した極超音速兵器を含む航空機を効果的に検出可能な輸出用…

  3. ロシア関連

    クリミアのケルチ上空で防空システムが作動、ロシア領でも弾薬庫が爆発

    露国営メディアのRIAノーボスチは18日「クリミアのケルチ上空でロシア…

  4. ロシア関連

    ウクライナ軍総参謀本部、オデッサへのロシア軍上陸は真実ではない

    ロシアのインテルファクス通信は「ロシア軍が黒海に面したオデッサとアゾフ…

  5. ロシア関連

    ロシアのプロパガンダ、ドイツが最大射程499kmのJFS-Mをウクライナに提供

    露メディアは3日「ドイツがHIMARで使用できる最大射程499kmのJ…

  6. ロシア関連

    ロシアによる傭兵募集は苦戦、楽な戦いではないためシリア側が難色か

    ウクライナ国防省情報総局は23日、多くのシリア人兵士は傭兵としてウクラ…

コメント

    • 樺太
    • 2024年 6月 29日

    米国の中距離戦力は核戦力と解釈され得るため、日本が独自の中距離戦力整備を進めているのは非常に的確な方針である
    願わくば中共が中距離戦力の優位を失ったところで軍拡が落ち着くことを祈りたい

    25
    • Ard
    • 2024年 6月 29日

    うん?勿論対中を念頭に置いたINF条約破棄だったとは思うけど直接的なきっかけはロシアだったような…
    白々しいと言うか何と言うか…

    5
      • T.T
      • 2024年 6月 29日

      イスカンデル-Mで使用する9M729がRK-55の派生型で条約違反だって主張でしょ。
      証明されてない主張だし、正直無理がないかな。

      12
    • 58式素人
    • 2024年 6月 29日

    敵のSRBM対策にPAC-3の増産が必要なのでしょうね。
    イージスよりは安価なのだろうし。
    日本の場合、やっぱりフネが良いのでしょうか。
    陸上配備型だと、移動に手間暇かかるけれど、海上なら、
    フネが24時間体制で30ktで突っ走れば良いので。
    24時間で約1,300km移動出来るし。
    陸上トレーラー輸送なら、平均30km/hで倍ほどかかります。
    燃料はそのうちに空中からの給油になったりして(笑)?。
    給油艦は脚が遅いですから。
    VLSは米軍のMK70があると思います。
    40ftコンテナにMk41VLSのものを2基分納めた物ですね。
    イージス艦以外では、発射管制は別に必要でしょうけれど。
    これをイージス艦以外で、載せられるフネに載せては?。
    甲板に40ftコンテナを固定出来れば良いので。

    2
      • 事実
      • 2024年 6月 29日


      継戦能力において、海は陸に太刀打ちできないと言う話
      陸に分散配置が最新のトレンド
      海は継戦能力だけでなく脆弱性も高くなってきており、何よりも艦と乗組員のコストがバカ高い
      防空エリアが数十kmでは内陸部はカバーできない

      空自には弾道弾中心に対応してもらって、陸で数に対応する
      陸なら中SAM改、中SAM改能力向上型、近SAM系、新近SAM系など、数でも対応出来る
      移動速度は高速使えば100km/h以上
      各地に分散配置されているので1,000kmも移動する必要すらない

      34
        • kitty
        • 2024年 6月 30日

        「イージス・システム搭載艦」・・・
        (いわゆる代替艦の方ね)

        1
          • 事実
          • 2024年 6月 30日

          日本では唯一のミッドコース担当だからSM3は必要
          PAC3や中SAM改とは担当段階も防空エリアも異なる

          アショアだとしても脆弱性は同等、シーカーなしの兵器で撃破されうるのでそれ以下
          今やアショアでも分散配置が必要
          まあレーダーやられたら同じか。。。

          7
      • nachteule
      • 2024年 7月 01日

       PAC-3専用艦を作れって話ですか?艦自体安いわけでも無いしPAC-3のサイズだとクアッドパックは不可能。お手軽なMk70がいくつ積めるかあるでしょうが1基たかだか4セル分で、ミサイル防衛とか共同交戦能力とかが無い艦であるならミサイル以外に誘導回りとか電源絡んだサブシステムの構築が必要でしょうから、そこまでお手軽とも思えない。

       30ノット時の燃費なんて知りませんが普通に速度の3乗とか言われているし、おぼろげな数値ですが20ノット超えてからの1ノット分の馬力で12ノットぐらい出せるとか速度を上げるほど燃費が悪くなる要因は色々あるのに30ノットで24時間とか冗談でしょう。ダッシュかけるまえに燃料補給しとかないととでもじゃないが無理です、空中給油と言いますが低速な艦に対してそんな芸当が出来る機体に積める燃料なんてたかがしれていますよ。

       陸上移動の速度も具体的な根拠を出してください30km/hと言うのは妄想では無いですよね?PAC-3とかの機動展開訓練とかで具体的な数値出ていたんですか?ガチに迎撃するなら道路封鎖なりしてより高速で移動すべき話でしかないし、空自のパトリオット構成車両のスペックを考えるとそこまで低速だとは思えない。

       最後に陸上より簡単に早く移動出来ると言いますが仮に貴方が言ったとおりの陸上速度だとして本州の日本海↔太平洋への移動とか普通に道を使った方が早い可能性だってあるだろうし、出来るのがポイントディフェンスでしかないから海から遠く離れた場所の迎撃はどうするんですか?陸上配備だと展開に関しては車両が通るだけのスペックがある道があれば何処にでも行けるんですよ。

      • 58式素人
      • 2024年 7月 01日

      道路上の平均移動速度ですが、素人の見た範囲で。
      国土交通省のもので、
      ”一般道路の平均旅行速度は約34km/h、高速道路では約79km/h”
      某民間業のもので、
      ”一般道では、法定速度の制限や信号待ちなどによって、
      平均的な走行速度は時速20km~30km程度となります。”
      陸運管理委員会のもので、
      ”上半期、都内の主要道路9カ所で実施した調査によると、都内を走る
      自動車の平均速度が昨年の時速19.3キロから20.8キロにやや加速した。”
      とあります。
      素人が業務上で予想をするときは、一般道路で30km/h、
      高速道路(除く首都高・etc)で60km/hを使います。
      高速道路は、意外と、使われていないようです。

        • 事実
        • 2024年 7月 01日

        自ら1,300kmを具体例として示しておきながらそれはない
        民間だろうが自衛隊だろうが、1,300kmを下道で行くことはない
        中距離なら夜間に高速代をケチって下道を爆走するトラックもいるが、それは道路が空いてて爆走出来るからであって、30km/hしか出せないような道路状況なら高速使う

        1
    • 無印
    • 2024年 6月 29日

    >VLSのセル数に迎撃能力が制限される水上艦艇
    これからの艦艇は、VLSの数が多いほど良い、みたいな感じになるんですかね
    かつての戦艦が「巨大な砲を載せるのが正義」だったみたいに

    5
      • バーナーキング
      • 2024年 6月 29日

      やはりA-SAMを直巻きロケットモーターで小径化してブースターも新造してQuadまたはDualパック対応して欲しいなぁ。

      1
      • トーリスガーリン
      • 2024年 6月 29日

      それかアーセナル・シップコンセプトを復活させるかですね
      長射程化とCECの発展で以前ほど特定の艦のセンサーに頼り切ることも無くなってきてますし、クラウドシューティング前提の弾薬庫担当艦の整備はありなんじゃないかと思います

      12
        • 戦闘機
        • 2024年 6月 30日

        正直言うと、艦船の持ってるVLSのセル数から考えると、ミサイルとかの数の方が足りてないのが現状ですけどね。
        日本の例えば現役護衛艦のVLSの数の合計が1440セル前後で将来的には更に700前後プラスされるのですがsm-3、sm-6、トマホークの発注数をたしても全然セルが埋まってないのが現状ですし。

        7
          • 名無し
          • 2024年 7月 01日

          SM2とVLAとESSMも足しておくれ

          1
    • kitty
    • 2024年 6月 29日

    アニメの板野サーカスのマイクロミサイルが理想なんでしょうね。
    ビーム兵器並みに実現難易度高そう。

    3
    • 鼻毛
    • 2024年 6月 29日

    迎撃レーザーはよ

    2
    • れんちゃ
    • 2024年 6月 30日

    ロシアが北朝鮮に技術を渡して弾道弾作らせてる時点でどの道この話は終わってる気もするが…自分の側だけ増やして相手だけ制限させたかったんだろうかね?

    1
      • 通りがかりさん
      • 2024年 6月 30日

      それは何処でもそう

      4
  1. この記事へのトラックバックはありません。

  1. 中国関連

    中国は3つの新型エンジン開発を完了、サプライチェーン問題を解決すれば量産開始
  2. 日本関連

    防衛装備庁、日英が共同で進めていた新型空対空ミサイルの研究終了を発表
  3. 米国関連

    米空軍の2023年調達コスト、F-35Aは1.06億ドル、F-15EXは1.01…
  4. 欧州関連

    BAYKAR、TB2に搭載可能なジェットエンジン駆動の徘徊型弾薬を発表
  5. 欧州関連

    アルメニア首相、ナゴルノ・カラバフはアゼル領と認識しながら口を噤んだ
PAGE TOP