米国関連

対地攻撃の視界外化、米露で進む攻撃ヘリへの長距離精密誘導ミサイル採用

ロシアが攻撃ヘリに射程が100kmもある新型巡航ミサイル「item305」の搭載を進めていると報じられたが、米国も同様に攻撃ヘリに視界外の目標を破壊可能な「長距離精密誘導ミサイル」を搭載する方向で動いているらしい。

参考:US Army plans long-range missile fly-offs for future helicopters

近接航空支援が主任務の攻撃ヘリに何故、視界外の目標を破壊可能な「長距離精密誘導ミサイル」を搭載するのか?

米陸軍は24日、現在開発中の将来攻撃偵察航空機(Future Attack Reconaissance Aircraft:FARA)やAH-64E アパッチ・ガーディアン等の回転翼機(無人航空機も含む)に視界外の目標を破壊可能な「長距離精密誘導ミサイル」を搭載して運用する計画を進めていると明らかにした。

これは今年1月に暫定的に採用を決定したイスラエル製の長射程精密誘導ミサイル「スパイクNLOS(最大射程30km)」とは別物であり、恐らくスパイクNLOSよりも長い射程距離を備えた新型の精密誘導ミサイルである可能性が高く、ロシアも開発中の攻撃ヘリ「Ka-52M」に長射程の新型巡航ミサイル「item305(最大射程100km)」を搭載する予定だ。

そもそも攻撃ヘリの主任務は「有視界」で地上部隊に対する近接航空支援だったのだが、新たな役割として「視界外」の目標に対する攻撃能力を付与する戦術採用は、もはや「奇抜」なアイデアではなく標準化していると言っていいだろう。

では、なぜ攻撃ヘリに「視界外」の目標に対する攻撃能力を付与して何を破壊しようとしているのか?

地上戦で猛威を振るう無人機航空機(UAV)の普及で存在が見直され、急速に進化を始めた「近距離対空防御システム」を射程圏外から安全に破壊することが目的だ。

出典:A.Savin / CC BY-SA 3.0 トラックに搭載されたパーンツィリC-1

パトリオットなどの機動に劣る大規模な防空システムは固定された戦場や地域をカバーする用途に向いているが、移動が伴う最前線の部隊に随伴して防空を提供するようには出来ていない。さらに低高度を飛行する小型の無人機航空機を何十キロも離れた防空システムで探知して迎撃するのは技術的に難しく、この問題を解決して前線の部隊を無人機航空機による攻撃から守るのが「近距離対空防御システム」だ。

この種の兵器で最も有名なのがロシア製の「パーンツィリ」で捜索用レーダーと赤外線捜索追尾システムを組み合わせた火器管制装置を備え、30mm連装機関砲2門と短距離対空ミサイルで接近する航空機や無人機航空機を迎撃するのだが、無人機航空機+精密誘導兵器の組み合わせによる射程圏外からの攻撃にやられてしまい「近距離対空防御システム」も迎撃を範囲を拡張する流れが主流だ。

出典:UMKH77R / CC BY-SA 2.5 パーンツィリの火器管制装置と兵装部分

パーンツィリの交戦距離は当初10km前後だったのだが、現在使用されているパーンツィリSMの交戦距離は最大40kmで目標の検出範囲も75kmまで拡張されており、今年6月の対独戦勝軍事パレードに姿を見せた最新型の交戦距離は更に拡張されているらしい。

要するに戦場の最前線に敵の「近距離対空防御システム」が鎮座していると味方の無人機航空機や攻撃ヘリの安全が確保出来なくなるので、攻撃ヘリに長射程の精密誘導ミサイルを搭載することで直接「近距離対空防御システム」を破壊して安全を確保するか、近距離対空防御システムの手が届かない距離から地上部隊に火力支援を届ける発想なのだろう。

ここで問題になるのが、どうやって攻撃ヘリが長射程の精密誘導ミサイルを目標まで誘導するのかだ。

ロシアの新型巡航ミサイル「item305」をどのように誘導するのかは知らないが、米陸軍の攻撃ヘリに搭載された長射程精密誘導ミサイルは恐らく米軍が進めている「マルチドメイン作戦」に対応して、目標までの誘導を分散させてくることが考えられる。

以上のように、あらゆる攻撃兵器の射程長延長は今後も加速していくことになるだろう。

関連記事:防空システムの天敵? 露攻撃ヘリ「Ka-52M」に長射程巡航ミサイルを搭載

 

※アイキャッチ画像の出典:Defence Images / CC BY-SA 2.0

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コメント

    • 匿名
    • 2020年 7月 25日

    視界外で射程100kmだと、ヘリから発射する意義すら微妙で、行き着くところ、地対地ミサイル積んだカエサルみたいな非装甲トラックに収斂しそう気もする。

    • 匿名
    • 2020年 7月 25日

    近接航空支援という航空作戦は有人機ではもはや致死的でやってられないと。
    欧米側は安価なロークラスUAVについては完全に出遅れ感がありますね。
    UAVを落とすにはミサイルは高価すぎるので対UAVなECMも次々と出現しそうです。

    • 匿名
    • 2020年 7月 25日

    戦闘ヘリの価値がますます下がっていってるような気がする

    1
    • 匿名
    • 2020年 7月 25日

    もうハイドラからロケット連射する時代じゃないんだろうな、カッコいいから好きだったけど…

      • 匿名
      • 2020年 7月 25日

      ハイドラロケットはレーザー誘導シーカーを搭載し
      安価なミニミサイルとしてまた別の進化を遂げていますよ。

    • 匿名
    • 2020年 7月 25日

    記事にある通りとにかく何でも長射程化が世界のトレンドの様ですね。その内個人携行ミサイルも射程数十キロくらいになりそう。

    • 匿名
    • 2020年 7月 25日

    日本だと87式自走高射機関砲+11式短距離地対空誘導弾?

    • 匿名
    • 2020年 7月 25日

    関係者の方々、コメント数の増加おめでとうございます。
    毎日このペースで記事を上げるには海外のニュースを常にチェックしていないと不可能だと思います。

    P-1をベースに対潜装備を全部降ろし代わりに超強力な全周囲AESAレーダーとそれに連動するCIWSを機首と腹部に装備する。
    接近する戦闘機はAAM4Bで防御し、ミサイルには小型の対ミサイルミサイルを使う、撃ち漏らした場合はCIWSとAESAを使って電磁攻撃して相手の電子機器を破壊する。
    地上の小型目標にはレーダー誘導の滑空爆弾を使い大型目標には地対地ミサイルの誘導簿機となる。当然電子戦機としても使う。
    撃墜不可能な空中戦艦が出来上がる、今のところAESA技術で最先端を行ってる日本にしか作れない機体になる。

    • 匿名
    • 2020年 7月 25日

    50㎞超のミサイルで視界外戦闘するのであれば、わざわざ専用の攻撃ヘリ造らんでも、UAVや輸送ヘリで代用できないものか。
    視界外戦闘も視界内戦闘も両方こなせる機体がほしいから、専用の攻撃ヘリは必要ってことなんですかね。

    • 匿名
    • 2020年 7月 25日

    にわかなのでわかりませんが、アメリカはA10ではだめなんですか?

      • 匿名
      • 2020年 7月 25日

      文章を読む限りでは、発射母機は何でもいい気がしますね。当然データリンク用の機器はいるでしょうが。
      確かにペイロードが限られるヘリで運用する意味はあまり感じられません

      1
        • 匿名
        • 2020年 7月 26日

        お役所なので、縄張り的な理由もあるのでしょう。
        特に米国では攻撃ヘリは米陸軍の管轄なので、いらないといえばその分、陸軍の予算やポストが減ってしまうし。

    • 匿名
    • 2020年 7月 25日

    ヘリの強みは陸軍が保有できることだからね
    固定翼機のほうが安全に任務こなせるとしても空軍の管轄だから
    陸軍の身内で完結するヘリと比べると相対的に使い勝手が劣る
    じゃあ固定翼機を陸軍にもってなると陸軍も空軍もいい顔しないのが面倒なところ

      • 匿名
      • 2020年 7月 25日

      M9ラインバッカーとか、なんならその辺のトラックが母機でもいいじゃない

    • 匿名
    • 2020年 7月 25日

    レーザーじゃだめなんか?
    破壊はできなくてもUAVの電子機器を無力化するぐらいまでには実用化されてなかったっけ?

    • 匿名
    • 2020年 7月 25日

    外部からデータを受け取って攻撃する長射程ミサイルキャリアなら戦闘ヘリで有る必要は無さそう。

    かつては対戦車に無敵を誇った戦闘ヘリも役割の変化を求められている。

    • 匿名
    • 2020年 7月 25日

    こりゃあ、陸自がAH-1SやAH-64D後継の戦闘ヘリの選定をやらないのも理解出来るわ
    陸自の場合、地対地で長射程では無いけれど“中距離多目的誘導弾”と言う、手頃な「精密誘導ミサイル」が既に存在するし、予算面を考慮したら特科火力(極超音速誘導弾や島嶼防衛用高速滑空弾の研究等)や高射特科(中SAM改修によるMD能力付与の研究等)が持つ各種ミサイルの更新・開発を優先した方が効果的
    実際、陸自のOH-6DとOH-1観測ヘリは事実上スキャンイーグル等の小型UAVで代替される公算なので、今の陸自では戦闘ヘリの居場所自体が無くなってしまっているのかも

      • 匿名
      • 2020年 7月 25日

      必要なのは、ヘリボーン地点を制圧するガンシップ程度でしょうね
      一周回って、ハインド路線が現実的な攻撃ヘリの在り方と
      ティルトローターや高速ヘリ技術でのフラッシュアップは必要でしょうが

      1
        • 匿名
        • 2020年 7月 25日

        >必要なのは、ヘリボーン地点を制圧するガンシップ程度でしょうね
        →実際、陸自の次期戦闘ヘリ選定の候補に「UH-60JAの武装ヘリ化」を提案する人が居る理由がそこなんだよね

        >一周回って、ハインド路線が現実的な攻撃ヘリの在り方と
        ティルトローターや高速ヘリ技術でのフラッシュアップは必要でしょうが
        →ハインドに関しては作ったロシア自身が兵員輸送兼攻撃ヘリとしては運用していない為、何とも言えない(胴体の輸送スペースは予備弾薬や斥候の輸送、撃墜された味方搭乗員の救助等に活用されているが)
        ティルトローターや高速ヘリ技術に関しては、現在米軍がJMR/FVL計画で色々とトライしているから、その結果を待ちましょう

    • 匿名
    • 2020年 7月 25日

    どうでもいいけど、そのbellの動画、テールローターが垂直じゃなくて角度ついてるのが気になった

      • 匿名
      • 2020年 7月 25日

      近年の軍用ヘリのテールローターやフェネストロンも、角度をつけて取り付けられている機種は珍しくないですよ
      アンチトルクだけでなく若干揚力も発生させて機体のピッチコントロールにも活かしたり、騒音やRCS削減とかを意図しているのではと

    • 匿名
    • 2020年 7月 25日

    データリンク技術の進化でAHの重要性はますます増しそうですね
    機動力と火力に優れた騎兵隊としては回転翼機以上は存在しませんからね

    • 匿名
    • 2020年 7月 25日

    これは対米兵器の類いでは無く、国境紛争地帯で対人、対ゲリラ戦特化といった類い
    国境紛争地帯では驚異になるだろう
    インドも人ごとでは無いので対策が必要になる

    • 匿名
    • 2020年 7月 25日

    視界外戦闘するならホバリングの必要なくなるからヘリである必要無くね?
    戦闘ヘリっていう存在自体が必要ないものになりつつある
    と、俺は思うのだが正反対の意見の人もいるし洗車不要論に続いて今後の論争の的になりそうだなこれ

    • 匿名
    • 2020年 7月 25日

    米海兵隊も戦車にお荷物だと三下り半突き付けましたが攻撃ヘリは減った地上部隊分は削減されつつも大部隊が存続
    これが時代、ですかね

    • 匿名
    • 2020年 7月 26日

    海兵隊は戦車が必要になったら陸軍に要請する事にしたのであって、戦車が要らないと言ってる訳じゃない。
    海兵隊が島嶼戦(上陸作戦と防衛)に特化した存在に戻る為に、限りあるリソースを最分配してる。

    1
    • 匿名
    • 2020年 7月 26日

    テクノロジーの進歩と既存兵器が噛み合ってないから迷走してるだけかも
    来年には全然ちがうプランが立ち上がりそう

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