米国関連

米陸軍参謀総長、国防予算が削減されれば能力的な成長は見込めないと警告

米メディアのDefense Newsは「もし国防予算が削減されると陸軍は最も優先すべき能力(恐らく兵力規模や即応性)を維持するため近代化の優先順位を下げるかもしれない」と報じて注目を集めている。

参考:US Army chief says end strength will stay flat in upcoming budgets

国防予算が削減されれば表面上の規模や戦力構造が維持出来ても能力的な成長は見込めない

米陸軍参謀総長のジェイムス・C・マッコンビル大将は陸軍協会のシンポジウムで陸軍の将来について興味深い発言を行い注目を集めている。

彼の話を要約すると陸軍の現役正規兵は48万6,000人(州兵と予備役を合わせると約100万人)だが2028年までに50万人以上へと成長させことを計画しており、さらに40年毎に訪れる変革期にも入っているので装備の近代化も急務だが国防予算が本年度と同額もしくは削減されれば陸軍の総兵力の規模や戦力構造に大きな変化が起こらないと指摘した。

出典:U.S. Army photo by Jerome Aliotta 無人化されたM113装甲兵員輸送車をテスト中の米陸軍

これは国防予算が増額されなくても現状維持が可能という意味ではなく、現在の兵力や装備を維持するのに精一杯で装備の開発や更新に資金をまわす余裕がないため成長がないという意味で、つまり表面上の規模や戦力構造が維持出来ても能力的な成長がなく維持する装備が劣化してくだけなので成長ラインを維持する敵勢力と比較すると相対的な差が縮まるか追い抜かれると言っているのだ。

特に陸軍は2019年から国家の国防方針や近代化計画に一致しない分野の支出を優先順位の高いプログラムに予算を付け替える「ナイトコート」という手法で予算削減を実施してきたため、陸軍の予算には余裕(自助努力で足りない予算を捻出できるだけの無駄がない状態)がなく仮に予算削減が行われれば直ぐに影響が出るだろう。

因みにこの問題は陸軍だけの話ではなく米軍全体の問題なので事態は深刻だ。

とにかく米軍は現在の兵力規模や装備の維持、進めている兵器開発、新規の装備調達などを維持するためには最低でもインフレ影響分を相殺可能な2%~3%程度増額された7,220億ドル(約78.3兆円)の国防予算が必要なのだが、国防総省は増額は絶望的と見て本年度の国防予算7,050億ドルと同額で翌会計年度の予算案編成を進めているため最低でも220億ドル(約2.4兆円)ほど予算が不足すると言われている。

しかも民主党議員達はバイデン大統領に「本年度の国防予算額から10%以上の削減」を主張し始めているため、もし翌年度の国防予算が6,370億ドル(約69.5兆円)まで削減されると陸海空軍の装備の開発や更新に大きな影響が出ることは避けられない。

補足:仮に国防予算が6,370億ドルに削減された場合、米軍という組織を維持するのに必要な経費4,810億ドル(2021会計年度実績による人件費や基地・装備の維持コスト等)を差し引くと新規の装備調達や研究開発費に回せる資金が1,560億ドル/17兆円(本年度は2,470億ドル/27兆円)しか残らない計算で、これにインフレの影響を加味すると新規の装備調達や研究開発費に回せる資金が前年度と比較して12兆円以上少なくなる。

米メディアのDefense Newsは「もし国防予算が削減されると陸軍は最も優先すべき能力(恐らく兵力規模や即応性)を維持するため近代化の優先順位を下げるかもしれない」と指摘している。

関連記事:米国防総省、増額が見込めない国防予算を節約するため空母の廃止を検討
関連記事:削減額は10兆円以上、民主党議員が10%以上の国防予算削減を大統領に要請

次はもっと良いものが出来るはずだという憶測で失敗を繰り返してきた教訓から何も学んでいない

余談だが米海軍は無人機や無人艦艇に関する総合的な計画書「Unmanned Campaign Plan」を今月16日に発表したのだが大炎中だ。

参考:US Navy’s new unmanned plan has ‘buzzwords and platitudes’ but few answers

米海軍の提出した計画書は多額の資金を投資して無人機や無人艦艇を開発すると何が得られるのか?有人プラットホームと比較して何が優れているのか?これまでの装備調達で犯してきたミスを回避するための対策は何なのか?などの重要な項目が抜けて落ちており、この報告書を受け取った下院軍事委員会は「流行語や決まり文句で埋め尽くされた内容のない計画書に失望した」とこき下ろされた。

ハドソン研究所でシニア研究員を務めるジョナサン・グリーナート元海軍作戦本部長も「米海軍が提出した計画書は説明が不十分で無人システムの魅力が理解できない」と指摘して「とても説明責任を果たせる内容ではない」と辛辣に古巣を批判するなど散々な目に合っている。

出典:Public Domainフリーダム級

具体的に駄目だった部分を1つ挙げるとすれば米海軍は掃海任務から乗組員を解放するため水中無人機を活用すると説明したが、このアプローチは開発に失敗した沿海域戦闘艦のミッションパッケージと同一で前回の失敗と今回とでは何が異なるのか説明がないため下院軍事委員会のロブ・ウィットマン議員に「次はもっと良いものが出来るはずだという憶測で失敗を繰り返してきた教訓から何も学んでいない」と怒られる始末で、相当な時間をかけて練られた計画書としては相当レベルが低い。

果たして海軍の無人機計画は今後どうなるのかは不明だが、今回の失態で米海軍へ向けられる議会の目は一層厳しくなったことだけは確かだ。

 

アイキャッチ画像の出典:U.S. Army photo by Spc. Sidney Perry

現実味を増してきた英国の空母技術輸出、軽空母プログラムを進める韓国と協議を開始前のページ

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コメント

    • 匿名
    • 2021年 3月 22日

    しかし陸軍はなんでそんなに戦力増強を急ぐのだろうか?中国相手にしても少し急すぎる気がするが。
    海軍は…頑張ってくださいお願いします。

    13
      • A
      • 2021年 3月 23日

      海と空がダメダメなんでお鉢が回ってくるって感じているんじゃない?

      2
    • 匿名
    • 2021年 3月 22日

    この調子だと、NGSWなんかも水子になりそうですね

    3
    • 匿名
    • 2021年 3月 22日

    >今回の失態で米海軍へ向けられる議会の目は一層厳しくなったことだけは確かだ

    F/A-XXの予算がちゃんと降りればいいのだが

    4
      • 匿名
      • 2021年 3月 22日

      ズムウォルトくんとスパホの失敗を挽回できるくらいきちんとしたプランじゃないと予算降りないだろうな

      12
        • 匿名
        • 2021年 3月 22日

        LCSとフォード級の分もな!
        あかん臭がますますするような気がするが
        ついでにこの中ではスパホはまだましな気がしてきたぞ

        8
          • 匿名
          • 2021年 3月 22日

          >この中ではスパホはまだましな気がしてきたぞ
          ブロック3は兎も角、今までに作って配備されている分に関しては実戦に供用できますからね……

          2
      • 匿名
      • 2021年 3月 22日

      必要性をアピールした上で根強く説得しないとF-35Cとスパホ使えとなりそうだな

      12
      • 匿名
      • 2021年 3月 22日

      前例に倣ってスーパーライトニングⅡでも作ればいいかと
      一から作り上げるよりよっぽど現実的でしょう。

    • 匿名
    • 2021年 3月 22日

    日本も似たようなもんだね
    成長や更新を軍拡や侵略と勘違いしている人が一部いるし

    22
    • 匿名
    • 2021年 3月 22日

    米国の仮想敵国たる中国のがよっぽどまともな兵器調達してる。いつから米国の兵器調達はこんなことになってしまったんだ?
    これにバイデンの軍事費節約も重なってもうめちゃくちゃだよ。

    5
      • 匿名
      • 2021年 3月 22日

      それは過大評価な匂いがする
      かの国は不都合不行き届きは公表しないから、本当のとこは判らない

      21
        • 匿名
        • 2021年 3月 22日

        あまたの不都合・不行き届きを隠ぺいしたのち成功物がでてくるなら中国が一枚上手ってことでは
        いまのアメリカは成功物がないんだから

        1
          • 匿名
          • 2021年 3月 22日

          今出てきているものが成功物とは限らないという話だろ
          052C型のレーダーは冷却に問題を抱えてて長時間レーダーを使えないって噂がある(演習中にレーダーを切っていて迎撃戦闘ができず撃沈判定を食らったことがあるそうだ)
          中国海軍の潜水艦は静寂性が低く出港直後から日米に監視・追跡される体たらく
          空母の艦載機は性能不足でAAMしか積めない

          あと米の成功物が無いというが多少ごたついてるとはいえF-35は成功してると言っていいと思うぞ

          13
            • 匿名
            • 2021年 3月 23日

            052C型は10年以上前に建造された過渡期の艦艇。
            052C型の経験を踏まえて052D型や055型を大量生産している。
            中国海軍は新技術の採用に慎重なほうで、1つずつステップアップしながら艦艇を建造しているよ。
            あと、中国海軍の潜水艦の静寂性はちゃんと向上しているし、空母の艦載機はASMも搭載できる(YJ-83の発射動画あり)。

            4
            • 匿名
            • 2021年 3月 23日

            > 演習中にレーダーを切っていて迎撃戦闘ができず撃沈判定を食らったことがあるそうだ

            安西先生……!!ソースが知りたいです………

            2
              • 匿名
              • 2021年 3月 23日

              ソースは大艦巨砲しy(ry

              1
        • 匿名
        • 2021年 3月 24日

        この10年で海軍がスゴい勢いで戦力拡充させてるけど、あれだけの数の船に必要な大量の操艦人員の確保と訓練をどうやったのかはめちゃくちゃ気になる

      • 匿名
      • 2021年 3月 23日

      だ、大丈夫!
      バイデン政権は「デジタルデモクラシー」で中国に打ち勝つ作戦だから!(震え声)

      6
        • 匿名
        • 2021年 3月 23日

        笑えないんだよな
        今だって各国の都合で中国に先端技術渡してるのにデジタルデモクラシー(笑)とかのイデオロギーでそしできるのならばとっくに成功してるんだよな
        でもできていないってことは成功しないんだよ

        7
    • 匿名
    • 2021年 3月 22日

    兵員規模を維持するために技術革新を止めるって何?
    今は中国も含むどの軍でも人員縮小のトレードオフとして無人機やAIの開発を行ってるんじゃないの?

    4
      • 匿名
      • 2021年 3月 22日

      今と同じ水準の即応性を担保しようとしたら人間にやらせるしかないみたいな意味じゃなかろうか
      完全自立型で万単位が連携できる人型戦闘ドローンが用意できるならともかくできないだろうし、米軍の宿命として敵国ないし同盟国の勢力下に出張らないといけない縛りもあるから自国の勢力圏で守り抜けばいい中国と比べると条件が悪い

      6
      • 匿名
      • 2021年 3月 22日

      中国って縮小してんのか?アメリカが外征考えなくて国内にこもるって話なら陸軍の装備は過剰だとは思う。現状で世界のあちこちにちょっかい掛けたりするなら、M1のアップグレードやUAVとかNGSWみたいな新規装備の更新は損害抑える為には必要だけどどうしていくんだろうな。現状装備の更新も必要だし新規開発に予算回せないなら首切るしか無いけど、それはそれで雇用に関して問題でてきそう。

    • 匿名
    • 2021年 3月 22日

    現状維持にしか出来ないとは言うものの、昨今の開発計画とかを見ると、戦略から間違っているんじゃないかと思われているんだろうな。
    新しい技術を使った兵器は、使ってない兵器に比べて必ず優位に立てる。という謎の自信も見える。

    10
    • 匿名
    • 2021年 3月 22日

    海軍は悪い方向にベンチャースピリット発揮してるね

    5
    • 匿名
    • 2021年 3月 22日

    予算面で押されぎみな陸軍のブラフを感じるけどな。
    ステルス爆撃機や戦略原潜だの、目立つ高額兵器の目玉に欠けてる陸軍なりに必死なんだろう

    2
    • 匿名
    • 2021年 3月 22日

    ここ20年四軍の主張通り予算与えてマトモに形になったものが幾つあったかを数えると
    財務の財布が緩まないのも仕方ない気もします。

    9
    •  
    • 2021年 3月 23日

    米軍を擁護するなら、先駆者は常に失敗を重ねる宿命にあるということだ。

    1
      • 匿名
      • 2021年 3月 23日

      その失敗に注ぎ込んだ金額が大きすぎた

      7
    • 2021年 3月 23日

    海軍は特に意味の分からない失敗を結構してるからなぁ…
    フォード級のエレベータ周りとか。

    空はまあ遅延と予算超過はありつつも何とかものになってるし
    陸はM1A3どこいった?以外にこれといったものがない

    1
      • 匿名
      • 2021年 3月 23日

      3つに1つ失敗で、たまに2連続で失敗、くらいならまだしも
      ほぼ連敗でなんとか物になった例を思い出す方が難しい、みたいな状況ですからねぇ。

      1
    • 匿名
    • 2021年 3月 23日

    連邦議会は、一方的に軍事予算を減らしてやろうと考えているわけではないでしょう。
    陸軍の変革期、というより無人兵器時代の到来という変革期に、そのための開発・装備予算が、
    米国にどれだけの軍事優位性を担保したり、軍隊の運用を効率化させたりするかを、
    明示させたいだけでしょう。国防総省は、まだ次代の包括的軍事戦略を構築途上なのかも。

    7
    • 匿名
    • 2021年 3月 23日

    こういう記事載せてくれる管理人さんに感謝。

    まあ、新技術をものにするって大変だよね。

    8
    • 匿名
    • 2021年 3月 23日

    ズムウォルト的なのんきさが見えるとさすがにただの金食い虫に予算を付けない判断をされるよね 一部の天才も埋もれるくらいに美辞麗句と出来もしないCGモリモリなプレゼンや政治的な駆け引きだけ長けてて 豊かな米国人にはもう無理なのかも やれば凄いはずなのに

    • 匿名
    • 2021年 3月 23日

    >優先すべき能力(恐らく兵力規模や即応性)を維持するため近代化の優先順位を下げるかもしれない
     陸軍で言うならM1アプデと拡張射程カノン砲(ERCA)位は直近の脅威と代替手段で延期しても良い気はする。歩兵戦力に大きくプラスになる大小のUAVやNGSWは歩兵や大型装備の損害低減に繋がるから止めるべきでは無いと思う。少なくとも現状維持する為に既存兵力の損害に繋がるような選択肢をとるのは本末転倒なので進めるべき物は進めて新旧含め優先順位が低い物は延期か切り捨てる選択肢は必要。

    実際、ミッションパッケージのその後ってはっきりしてない気がするんだけどどうなのかね。もがみ型に積む無人機雷排除システム用水上無人機ってまだ物になっていないよな?

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