米空軍は将来の爆撃機戦力を構成するB-52Hのアップグレードを進めているが、米政府説明責任局は17日に公開したレポートの中で「計画遅延とコスト増大でB-52JのIOC宣言は3年遅れの2033年以降になる」と報告した。さらにDark Eagleの実戦配備も2025年度にずれ込むらしい。
参考:B-52s With New Rolls Royce Engines Won’t Fly Operational Missions Until 2033
参考:Pay Raise for Junior Enlisted Faces White House Opposition, High Cost Estimates
参考:White House ‘Strongly Opposes’ Proposed 19.5% Pay Hike for Junior Enlisted Troops
参考:Delays push Army’s hypersonic missile to fiscal 2025
米軍の計画は何もかもが遅れ、2026年度には深刻な予算不足に直面し、さらなる遅れが生じるかもしれない
米空軍の爆撃機戦力はB-52H、B-1B、B-2Aで構成されているが、B-1BとB-2Aは開発中の新型ステルス爆撃機「B-21」で更新され、B-52Hはエンジンとレーダーの換装を実施してB-52Jに生まれ変わり、この両機で将来の爆撃機戦力を構成することが決まっている。
B-52HはTF33-P-3からF130(BR700ベースのミリタリーバージョン)へ、AN/APQ-166からAESAレーダー(AN/APG-82ベース)への換装作業が進められており、米空軍は2030年までにB-52Jの初期運用能力(IOC)を宣言する予定だったのだが、米政府説明責任局(GAO)は17日に公開したレポートの中で「計画遅延とコスト増大でB-52JのIOC宣言は3年遅れの2033年以降になる」と報告した。
“B-52HのエンジンをF130に換装するCommercial Engine Replacement Program=B-52 CERPの遅延は詳細設計を完了させるための資金レベルを過小評価した結果で、空軍はCERPにかかる正式なコスト見積もり(空軍は2025年予算の中でCERPのコストが大凡80億ドルから90億ドルに増加したと言及)を作成していない。米空軍は請負業者と協力して2025年8月までに設計レビューを完了させ、2033会計年度半ばにIOCを達成するための資金を要求している”
“B-52Hのレーダーを新しいものに換装するRadar Modernization Program=B-52 RMPもディスプレイとセンサープロセッサーが設計通り作動せず、2023年9月にコスト違反(当初見積もり23.4億ドルから25.8億ドルに増加=12.6%増)を宣言した。最終的なRMPのコストは2025年3月まで確定しない可能性があるが、IOCの遅延に与える影響はCERPほど深刻ではない”
財政責任法導入の影響を受けて米国の国防予算は横ばいになることが確定しており、米空軍のアルヴィン参謀総長も今後の見通しについて「予算が増えない中でコストギャップ、インフレ、二桁の賃金上昇など財政的な津波が押し寄せるだろう。さらにSentinelの実行には400~500億ドルが必要で、この資金を空軍は限られた予算から捻出しなければならない」と述べ、2026年度予算がどの様になるのか、厳しい予算状況の中でNGADは実行できるのかという質問に「効果的な空軍戦力とは何なのか根本的に問い直さなければならない」「2026年度予算は非常に薄いものになる」と回答した。
下院軍事委員会は「民間職の賃金上昇」を理由に「兵士給与の15%引き上げ」を2025会計年度の国防権限法に盛り込んでくる可能性が非常に高く、これはバイデン政権が予算の中で要請した「年4.5%の昇給」を置き換えるものではなく「加算」されるため、政府は陸軍、海軍、空軍、宇宙軍、沿岸警備隊に所属するE-1~E-4ランクの兵士給与を19.5%も引き上げなければならなくなり、2025年~2029年に244億ドルもの追加支出を強制してくる。
この数字は同時期に支出するB-21調達資金を上回る額で、しかも給与引き上げの財源は横ばいになることが確定している国防予算から捻出しなければならないため、その分だけ米軍全体の研究・開発・調達資金が削られることになり、アルヴィン参謀総長が「財政的な津波が押し寄せて2026年度予算は非常に薄いものになる」と言及したものそのためだ。
ホワイトハウスは下院軍事委員会の提案に反対しており、仮に下院案の国防権限法に「兵士給与の15%引き上げ」が盛り込まれても上院案とのすり合わせ過程で生き残れない可能性がある。そのため19.5%もの給与引き上げが実現するかどうかは不明だが、これが実現すると財政責任法の影響を受ける2026年度の国防権限法は各プログラムへの予算配分が削減されるため、B-52 CERPやB-52 RMPも影響を受ける可能性が高く、WAE ZONEも「B-52Hのアップグレードが今後数年の間にどのように進展するか、さらなる計画の遅延や追加コストが発生するかは不明だ」と述べている。
因みに陸軍と海軍は極超音速兵器「Dark Eagle(Long-Range Hypersonic Weapon=LRHWとも呼ばれている)」の開発を進めており、陸軍はLRHWランチャーのプロトタイプを受け取って運用部隊を創設済み、海軍はDark Eagleを「Intermediate-Range Conventional Prompt Strike=IRCPS」としてズムウォルト級駆逐艦とバージニア級原潜に採用予定で、ズムウォルト級駆逐艦にIRCPSを挿入するための改修工事も開始しているが、GAOは17日のレポートの中で「LRHWの実戦配備は2025年度にずれ込む」と指摘している。
陸軍はLRHWの実戦配備を2023年に予定していたものの、空軍が実用化を断念したARRWと同じように技術的な問題に直面、昨年実施されたIRCPSの試射は飛行中の異常でデータの一部が収集できず、昨年3月と9月に予定されていたLRHWも試射直前で中止されたため「年内のDark Eagle実戦配備は怪しくなってきた」と報じられていたが、海軍は問題を解決してIRCPSの試射を2024年第4四半期までに行う予定だ。
陸軍当局者はGAOに対して「IRCPSの発射が成功しても飛行中の性能が想定を下回れば計画がさらに遅れるかもしれない」と語り、仮に第4四半期のテストが成功に終わって実戦配備が決定されても、ランチャーにLRHWが届くのは11ヶ月以内になるらしい。
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※アイキャッチ画像の出典:U.S. Air Force Airman 1st Class William Pugh
米軍は、完全にインフレ負けしてますね。
世界各地に、抑止力低下のシワ寄せが行きますから、米軍・米国が関わる地域に注目したいと思います。
>財政責任法導入の影響を受けて米国の国防予算は横ばいになることが確定
物価高に伴うインフレがキツ過ぎる
途中で送信してしまいました…。やっぱりエネルギー資源はすべての産業の根幹なので、ウクライナ戦争の影響はやはり大きいですね。NATOの加盟にこだわらなければ中立的な外交で一番得をしつつ社会基盤や人口ピラミッドが修復不可能な事態にも陥らず、西側の経済が斜陽になるのはもっと先だったろうし中国やインドの影響力の増加も抑えられたはずなのに…と愚痴ってしまいたくなります。
まさに仰る通りです。
結局、石油や天然ガスは効率が良すぎて、全ての産業を下支えしてるんですよね。
ウクライナは仰る通り、もっと強かに立ち回る事もできたと思います。
西側・グローバルサウスの同情を集めて産業振興、ロシアからは(昔のように)格安の天然ガスを人道名目で分捕り・パイプライン収入も得るなどです。
中国やインドの影響増加は仰る通りで、格安エネルギーを調達した彼らと、日本の民間企業は競争しなければなりません…
日本は、とても厳しい競争環境だと感じています。
F-14もオイルショックのインフレで原価割れしてイランが採用するまでピンチだったらしいので「過去見た風景」なのかもしれませんが、現在のようにグローバルサプライチェーンが構築された状況で世界情勢不安定になるとインフレの影響が大きすぎますね。
仰る通りです。
アメリカですら、自国内で全て、完結する訳ではないですよね。
平和の配当が言われてきましたが、ひとたび狂うと難しいものを感じます。
世知辛過ぎる
軍オタは、兵士の給料とかに無関心になりがちで、定数無視して、旧式兵器の部隊を、まだ使えるから維持しろとか言うんだよなあ。
そのくせ新しいもの試験的なものはどんどん導入しろと仰る
上司に、そういうタイプがいたら、大変だろうなと感じる時があります。
2024年防衛関係費では、全体の28.9%が人件費と糧食費。
31.7%が燃料やメンテナンス費用。
米軍が確か人件費と福利厚生(年金とか)で4割超。
×まだ使えるから
⚪︎カッコいいから
A-10とかの退役に反対している議員って軍オタだったのか。何処の国か国問わずのオタを対象としているかは分からないが素人でもない(元)中の人だってそんな事言うんだよなぁ。
使えるから維持は真っ当な戦力で費用対効果に優れるならそうすべきだと思うし、その定数の求め方が適切なのかもあるんだよな。ロシアとかだって戦力減に反対した人達ってガチの総力戦想定していたからでしかないし想定する事態によって定数なんて変るしあんまり適当な事言わない方がいいよ。
世界最強の空軍でも金には勝てんわな
海軍みたいにそもそも造船業界自体が死んで遅延みたいな理由じゃないのは救いだが
仰る通りです。
日本も、国・海上自衛隊(案件は大して儲かりません)が、造船業界のために20年くらいは知る範囲で特に役立ってないんですよね。
日本は、造船会社・傭船会社・関連企業など、海事セクターが頑張ってくれて基盤が残ったのはラッキーでした。
フレーム的には新造したB-1に更新した方が安くなりそう
装備もあれですけど、イスラエル支援が若者に超絶不人気で、志願者大幅減すると思いますよ
米軍の不人気凋落ぶりは日本メディアを通すとなかなか入ってこないですね
最初の計画時点で資金や時間に余裕が無さ過ぎるんだよな、それで軍にしろメーカーにしろ数年の遅延と資金追加が常態化してる
プロジェクトの進め方が下手なのか、計画時点であまりにもコストを意識し過ぎてるのか
流石にこの記録的なインフレを見込んで予算建てたら予算自体が通りませんがな
アイゼンハワーが言った通り軍産が国を食い尽くす。国は貧しく荒れ果て多数の民が貧窮するなかで一部の金持ちは無制限の富貴を謳歌する。アメリカ型の「自由と民主主義」の姿だ。
聞いた話だがアメリカでは虫垂炎の手術で500万円くらい取られるそうだ。在米日本人は痛みを我慢して飛行機に乗って日本で手術を受ける人が多いそうだ。それを考えると開業医が金持ちすぎるなど一部に歪はあるものの日本の国民皆保険制度は何と進んでいる事か。くれぐれも新自由主義者の口車に乗ってアメリカをまねてはならない。
医療ツーリズムですな。日本だと1万円から1万五千円のインスリンがアメリカだと10万円、20万円するとかの噂があった。当然、医療メーカーは大儲け。軍産複合体を上回る医療会社、保険会社、薬局の医療複合体。
日本の医療費は2019年、少子高齢化だけどGDPの11%。アメリカは17%。公的出費も14%。軍事費が3.5%から4%であることを考えると異常なレベル。しかも、平均寿命はアメリカの方が大幅に短く、伸び率も鈍化している。
膨大な医療費の伸びが、教育費・インフラ費などを食いつぶしている。 またGDPの多くも金融系が多いので社会構造がかなり微妙になっている一方で、戦争状態になった時に、兵器を増産できる余力の少なさになっている。、
>日本だと1万円から1万五千円のインスリン
その目の前にある機械で「インスリン 薬価」って調べてみてくださいよ…。
そのファクトチェックの意識感覚で軍事を語るのは片腹痛いですよ。
だったら自分も数字出してよ。
たまにいる「自分で調べろ」としか言わない方だとアレだけど、この方みたいに検索キーワードまで出してくれてる場合はそのまんまググって上の方に出てきたそれらしい数字をこの方の主張だと認識すればいいかと。
個人的には検索エンジンやネット上のソースに責任丸投げできる度胸すげー、と思いますけどね。生成AIやら何やらで雑音まみれの昨今では特に。
いや、日本の薬価なんてのはお上の決めた公定価格なんですから嘘のつきようがありません。
Wikipedia情報となりますが、アメリカ合衆国政府の軍事支出はこんな感じのようです。
・1945年度:政府支出の89.5%、GDP比36.6%
・1953年度:政府支出の69.4%、GDP比13.8%
・1960年度:政府支出の52.2%、GDP比9.0%
・1978年度:政府支出の28.8%、GDP比4.6%
・1988年度:政府支出の27.3%、GDP比5.7%
・2000年度:政府支出の16.5%、GDP比2.9%
・2021年度:政府支出の11.1%、GDP比3.4%
という感じの推移ですが、1960年代までが異常すぎる支出で1970年代と80年代は冷戦末期でも様々な支出があり、それなりに開発も進んでたのが、冷戦終了後は大幅に減ってますね。
もちろんイラク戦争やISILとの戦争で上昇した年度もありますし、オイルショックなどの外部要因で上がるため一概には言えませんが、政府支出の10%以上あっても現行装備を維持できない、アップデートや新規開発に困る状況で中国・ロシアとやり合うだけの支出を確保するのはかなり厳しいです。
条件面で多少不利になっても同盟国で共同負担したい、というのはあるでしょうね。
ネットでは中国はGDPを水増ししてるみたいな話をよく聞きますが
アメリカだって金融やITのような産業でGDPを水増ししてると思います
(インフラ、文化、公共サービスは中堅発展途上国レベルに・・・)
だから軍事支出のGDP比なんてあてにならないのではないかと
アメリカ地方は軍事基地、軍需工場、大学(軍事)とかでなんとか雇用を維持してるような悲惨な状況です
他に産業ないの?とかいっちゃいけない ほとんど衰退したので
なんだか北朝鮮みたいな話です
中国のGDP水増しってのは文字通り数字を誤魔化しているって意味だぞ
なんか勘違いしていませんか
在米日本人でくくらんで欲しいな。
バックパッカーはそうかもしれんが、まともな企業の駐在ならまともな保険入ってるで?
正規料金で緊急帰国なんてしたらいくらかかることやら。。。
開業医が金持ちなんてのも何十年前のステレオタイプですか。
ちなみに虫垂炎の手術の費用は、日本の保険診療体系では比較的優遇されて高額に設定されています。なぜなら開業医の外科を救済するためです。
それでも米国の1/10の価格設定なのに開業医が金持ちになれるわけがない。
ところで米軍さんは台湾危機はいつごろ起きると予想してたんでしたっけ?
米海軍は言わずもがなで、米陸軍も陸軍へリFARA計画やM1戦車後継(改修)計画が
やれ中止だ見直しだで、すっかり迷走してますから
何をやっても上手く行かない米海軍
何をやっても遅れるばかりの米空軍
何をやっても迷走入りさせる米陸軍
今はこんな感じですか