米国関連

バイデン政権、弾薬の種類を制限する方向でMLRSをウクライナに提供か

バイデン大統領が「ロシア領に届くようなロケットシステムをウクライナに提供しない」と明かして注目を集めているが、MLRSやHIMARSで使用するロケット弾の種類を制限する方向で多連装ロケットシステムの提供を行う可能性が浮上している。

参考:Biden has not ruled out sending Ukraine rocket systems, U.S. official says
参考:US President Biden says he won’t send rockets to Ukraine that could reach Russia

ロシア領に届かないロケットシステムなら問題がないというコンセンサスが成立か

ウクライナのゼレンスキー大統領はロシア軍を追い出すため多連装ロケットシステムの提供、特に米国製のM270/MLRSかM142/HIMARSの提供を強く望んできたが、このランチャーで使用できる地対地ミサイル「ATACMS(最大射程300km)」はロシア領に届くため使い方次第では戦いのエスカレーションを招く=戦術核兵器使用の引き金となる可能性も「0」ではなく、この点を憂慮したバイデン政権は米国製の多連装ロケットシステムではなく同盟国が保有するBM-21やRM-70の供給に協力してきた。

出典:Public Domain ウクライナに提供されたRM-70

しかしロシア軍の砲兵戦力を打ち破るにはまとまった数の多連装ロケットシステムが必要で、ニューヨーク・タイムズ紙などは関係筋の話という体で「多連装ロケットシステムのウクライナ提供をバイデン大統領を決断した」と何度も報じきたが、国防総省は一貫して「MLRSやHIMARSのウクライナ提供は決定事項ではない」と否定、さらにバイデン大統領も「ロシア領に届くようなロケットシステムをウクライナに提供しない」と30日に発言したため注目を集めている。

バイデン大統領の発言にロシア側も「妥当な決定だ」と評価しており、ロシア領に届かないロケットシステムなら問題がないというコンセンサスが成立したと言っても過言ではない。

出典:Public Domain ATACMSを発射するMLRS

米メディアも「MLRSやHIMARSで使用するロケット弾の種類を制限する方向で多連装ロケットシステムの提供を行う可能性が浮上している」と報じ始めており、提供弾薬を通常の227mmロケット弾(M26やM30)に制限すると明言した上で「MLRSやHIMARSの提供」に踏み切る可能性は十分ありえる。

ウクライナメディアも米国やNATOと提供兵器の運用制限について協議が行われたと報じており、戦いを戦術核兵器の使用にまでエスカレーションさせないための努力が見ないところで続いているのだろう。

関連記事:バイデン大統領、ロシア領に届くロケットシステムはウクライナに提供しない
関連記事:バイデン政権は米国製MLRSのウクライナ提供を躊躇、戦いの拡大を懸念

 

※アイキャッチ画像の出典:U.S. Marine Corps photo by Pfc. Sarah Pysher

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コメント

    • や、やめろー
    • 2022年 5月 31日

    サムネのクレーンはどんなのだろう?MLRSとセットでついてる弾薬運搬車かな?

    射程30キロのMLRSなら大丈夫でしょ。クリミア大橋壊せないし。というかウクライナ軍が保持してるチーチカでいつでも壊せる気が…

    2
      • あばばばば
      • 2022年 5月 31日

      よーく見てみ。
      MLRSの後継車両であるHIMLASが弾薬コンテナを積み替えてるシーンだよ

      MLRSの上部についているあの突起は、カバーでも放熱板でもなく、クレーンだったのか

      7
        • や、やめろー
        • 2022年 5月 31日

        後継車は、クレーがついてるのか。ありがとうございます。風が強い日にやると弾薬空中でブラブラして人に当たりと考えてしまった。

        2
          • 戦略眼
          • 2022年 5月 31日

          MLRSもクレーンがついているよ。

          3
      • 無印
      • 2022年 5月 31日

      YouTubeで「MLRS 再装填」とかで検索したら動画出てくるよ

      5
      • Yanti
      • 2022年 5月 31日

      ごめん、荒らすつもりは全く無い。
      でも「サムネ」って表現が気になってなぁ。
      どんだけ親指がデカいんだ? と一人突っ込みをしてしまう。

      2
    • アクアス
    • 2022年 5月 31日

    まあハルキウの方に持ってけばどんな種類のでもロシア領に届いてしまいそうなんだが。

    12
    • 折口
    • 2022年 5月 31日

    本命ATACSMは残念でしたが、無誘導弾でも155ミリ榴弾砲の3倍近い射程がある訳ですから、戦い方は変わっていくんでしょうね。あとは車体と予備弾薬がどれくらい供与されるかですが…

    7
    • K(大文字)
    • 2022年 5月 31日

    >ロシア領に届かないロケットシステムなら問題がないというコンセンサスが成立したと言っても過言ではない

    まぁ、たとい戦争の最中であってもエスカレーション防止の話し合いと合意形成の努力は欠かせないものでしょう。それは認めた上で。

    ウクライナ領内では国際法そっちのけで無差別攻撃の蛮行を繰り返してる癖して、テメェらの領内に攻撃が及びそうになったらせっせと“話し合い”と“合意形成”に励むロシアに嫌悪感を禁じ得ない。
    ロシアがそうする理由はもちろん分かるが、筋はカケラも通っていない。報いを受けて欲しいと本当に思う。

    43
      • STIH
      • 2022年 5月 31日

      ほんとそう。そっちから殴りかかっておいて、領内に飛んでこない兵器の供給を評価するって、何様のつもりなんだと。どうせ負けそうになったらラインを下げてくるんじゃないか?
      しかし逆にいえば、ロシア領内まで届かない兵器であれば、多少ウクライナ軍に供与された程度では、大した影響は無いという自信の現れなのかもしれない。
      6月以降に投入されるというNATO兵器が配備されたウクライナ軍が、どの程度の規模と威力を発揮するか次第何でしょうけど、現状ロシアの物資が尽きる気配がない以上、ウクライナ不利は当面続きそう。

      18
      • 白髪鬼
      • 2022年 5月 31日

      民間人虐殺や略奪を平気でやらかす野蛮人に、正々堂々だの軍人としてのモラルだの期待できる訳ない。
      何が情け無いって、それが兵卒どころか大統領レベルまで同様のメンタリティなんだから救い様が無い。民族・文化ごと、一回リセットしなけりゃならないレベル。

      14
        • 匿名
        • 2022年 5月 31日

        プーチンが全部悪いことにして憎しみの連鎖を広げないという理屈は理解できるけど、
        プーチンが戦争やるたびに支持率上がってたらしいし、
        ロシア人がZグッズを身に着けて侵略戦争と虐殺を応援してたのを俺は絶対に忘れないわ
        いまだに支持率も高いみたいだし

        5
      • 2022年 5月 31日

      「ロシアは核兵器を使用するな! その代わり通常戦力ならウクライナ領をどれだけ滅茶苦茶にしても黙認!」
      「ウクライナは通常兵器でも、ロシア領を攻撃するな!」

      これってまったくバーターになっておらず、実質的にロシアの核恫喝『撃つ撃つ詐欺』に屈しているだろ。
      ウクライナ軍にATACMSを渡してロシア領にブチ込ませるべきだったと思うよ。
      どうせやったところで高価な対地ミサイルによるロシアへの攻撃では火力の少量投射しか出来ず、
      ロシア軍の安価な砲爆撃によるウクライナ領への火力の大量投射とは釣り合いが取れないだろうし。

      10
        • 名無し
        • 2022年 5月 31日

        少なくとも、アメリカ合衆国は、そういう判断をしていないようですよ。

        3
        • きっど
        • 2022年 6月 01日

        そういう立場なら、そりゃ何処の国だって核武装を模索しますよ
        勿論、日本だってね

    • NATTO
    • 2022年 5月 31日

    逆にクラスター式の弾を与えるんだな。
    こっちの方が取り敢えず必要とは思う。

    2
    • 2022年 5月 31日

    これは日本も他人事じゃないよね
    「JASSMの輸出は戦火の拡大を招く恐れがある」
    とか言って有事には供給が止まる可能性があるのだ

    14
      • きっど
      • 2022年 6月 01日

      だからこそ、JASSMやLRASMよりも長射程な12式改(まずは900km、次に1500km)とか島嶼防衛新対艦誘導弾(2000km級とか)とかを開発している訳です
      それはそれとして、有事の弾薬不足とかにも対応出来る様に、可能な範囲での米国製ほかの弾薬が運用可能な能力も必要と

      8
    • 四凶
    • 2022年 5月 31日

     そう言えばアメリカってクラスター弾を実質的に廃止していると思ったが、広域制圧力微妙じゃないかな。

    4
    • 鈴木和一
    • 2023年 5月 14日

    イギリスは、すでにウクライナへ250Km到達のロケットシステムを提供している
    バフムトの ロシア軍司令部への攻撃など成果をあげている アメリカに頼らなくてもヨーロッパのNATOが提供してくれる

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