米国関連

資金が溶けるボーイング、次期大統領専用機と空中給油機で約7.2億ドルの追加負担

ボーイングは29日、新型コロナウイルス(COVID-19)の影響で次期大統領専用機「VC-25B(エアフォースワン)」プログラムのコストが上昇したことを明らかにした。

参考:The new Air Force One just racked up its first cost overrun

手持ちの資金が高速で溶けていくボーイング、本当に大丈夫なのだろうか?

ボーイングはコスト上昇について「新型コロナウイルスによる混乱の影響で作業員や技術者の効率が落ちたため」と説明しているが、VC-25Bの引き渡しについては今の所予定通りだと語っている。

出典:U.S. Air Force photos/Ilka Cole VC-25

ただ同プログラムは固定価格(2機分:約39億ドル)で契約を結んでいるため上昇した追加コスト分を米空軍に請求することが不可能で、ボーイング自身が1億6,800万ドル(約180億円)の追加コストを全額負担しなければならない。

さらに同社は空中給油機KC-46Aのリモートビジョンシステムを新しく構築し直すために5億5,100万ドル(約590億円)も負担しなければならず危機的な経営状態の中で現金は溶けていくばかりだ。

ボーイングの開発した空中給油機KC-46Aは特定の条件下でフライングブームをコントロールするためのリモートビジョンシステム(RVS1.0)に問題が生じ、空中給油を受ける航空機の機体を損傷される可能性が指摘されている。この問題を解消するため米空軍とボーイングは新規に開発したハードウェアとソフトウェアで構成された「Remote vision system 2.0(RVS2.0)」に入れ替えることで最近合意に達した。

これによってボーイングは米空軍から8億8,200万ドル(約950億円)の支払いを受け取ったのだが、問題はこの資金がRVS2.0を開発するための資金ではないという点だ。

出典:U.S. Air Force Photo by John D. Parker

KC-46Aプログラムの研究開発費は約49億ドル(約5,310億円)に固定されておりプログラムの進捗具合に応じて段階的に資金が支払われる仕組みになっているのだが、米空軍はKC-46が発注時の仕様を満たしていないためボーイングに支払う資金を保留していた。

要するに今回ボーイングに支払われた8億8,200万ドルは保留分であり、RVS2.0開発のためのボーイングに追加資金を与えたという類ではないのだ。

では、仮に今回の8億8,200万ドルが純粋な追加資金であればボーイングは救われたのだろうか?

答えはNOだ。

ボーイングはKC-46Aプログラムに対し46億ドル(約4,900億円)も自社資金をつぎ込んでいるため同機の研究開発費は推定95億ドル(現時点)に達しており、8億8,200万ドル程度の追加資金を得られたとしても焼け石に水だろう。

では、米空軍向けにKC-46Aを179機製造して得られる利益で、これまでつぎ込んだ自社資金を回収できるだろうか?

これも恐らく不可能だろう。

ボーイングはKC-46Aの赤字を取り戻すためには少なくない量の「海外受注」が必要になると言われており、もはや予定されている米空軍向けの製造数だけでは46億ドルの回収が難しいのだろう。

因みに、現時点で正式に受注しているのは日本が発注した2機(約4.4億ドル)とイスラエルが発注した8機(約24億ドル)のみで、日本があと1機発注する予定とアラブ首長国連邦(UAE)が3機購入を米国に打診している以外は全て入札の結果待ちの状況なのだが、ここにも問題がある。

出典:AirbusDefence エアバス 完全自動空中給油システム(A3R)

海外市場で必ず競合するエアバスの空中給油機「A330 MRTT」は、どうやらKC-46Aよりも先にフライングブームによる完全自動空中給油システム(A3R)を実用化させる見込みで、起死回生を狙う海外市場でもKC-46Aは当面苦戦を強いられることになるだろう。

関連記事:エアバス、フライングブームによる空中給油作業の自動化に世界で初めて成功

ロッキード・マーティンもノースロップ・グラマンも新型コロナウイルスの影響を受けているが、それでも新規受注や新しく開発した防衛装備品のニュースが日々発信され続けているのに、ボーイングだけは本当に明るい話題が1つもない。

どうして、ここまで危機的な状況に陥ったのか・・・ 単に運やタイミングが悪かっただけでは説明がつかない。

 

※アイキャッチ画像の出典:wolterke / stock.adobe.com

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コメント

    • 匿名
    • 2020年 5月 01日

    旅客機の主力である737の最新鋭機が立て続けに墜落したのも影響が大きいよなあ。

    • 匿名
    • 2020年 5月 01日

    ベース機のB-767が2億ドル(2019年)、KC-46Aが研究開発費込みで2.4億ドル(開発費抜きで1.5億ドル、2015年)と言われているので、KC-46Aは儲からなさそうに見えますね。
    米軍だけで400億ドルくらいの受注としても、民間航空機はその一桁上の受注金額なので減価償却も厳しいでしょうし。

    新規のFMS契約は契約金を水増しして差額の一部をボーイングの資金援助に回さないと厳しいですが、エアバスが順調に開発を終わらせればマーケットは広げられないでしょう。
    エアバスもA380では大ゴケしたので何かしらやらかす可能性はありますが、顧客となるオーストラリア空軍やシンガポール空軍と協力してテストもしているのでエアバスの官僚主義がマイナスに機能する可能性は低そうです。

    • 匿名
    • 2020年 5月 01日

    人材が流出すれば、後任を育てなければ技術力の低下は免れない。
    もしかしてアメリカは貧しい移民、又は移民の子が増えてているだけで、実際は少子高齢化が進んでいるのでは?と疑っている。
    日本と同じように人材の空洞化が起きているように思えてならない。
    L&Mも今現在はうまくやっているように見えて、実は先は怪しいのかもしれない。

      • 匿名
      • 2020年 5月 01日

      実際、白人だけで見れば殆どの欧米諸国は完全に少子高齢化してるよ。経済発展している東アジア諸国も同様。現代化と少子高齢化は、切っても切り離せない関係と見るべき
      アメリカやフランスだとかの少子高齢化が遅れているように見えるのも、結局は合法非合法の移民が流入しているだけ。そして、それらが社会保障を食い尽くすばかりか、今回のコロナ蔓延の弱点となる大穴すら作ったように思える

      • 匿名
      • 2020年 5月 02日

      F-16の場合だけど、設計の検討資料が会社ではなく技術者個人管理でなされており、ノウハウも会社ではなく技術者個人が蓄積していく形態だとか。
      ﹙「主任設計者が明かす F-2戦闘機開発」で紹介されてるエピソードから﹚
      人材流出のダメージは日本以上だろうね。

    • 匿名
    • 2020年 5月 01日

    おかげでエンブラエルとの提携を解消せざるを得なくなったわけで先にボンバルディアのサービス網買っておいたのと合わせてマジで三菱は持ってるなと
    コロナ自体はSJ M90にも同じく痛手とは言えまだ認証中だから直接的なダメージはないしコロナ禍が過ぎ去った後はまた以前の需要(完全に回復することはなかったとしても)が戻ってくるわけで
    むしろライバルとの競争の観点で認証の遅れを帳消しにしてくれた面が大きい

      • 匿名
      • 2020年 5月 01日

      スペースジェット的にはともかく三菱自体はかなりボーイングに依存してるから痛し痒しな気もしますが…

        • 匿名
        • 2020年 5月 01日

        ボーイングは次世代機も開発断念ですか。
        B787同様に、主要部品を供給を狙ってた日本企業にも、とばっちりありそうと。

        >ボーイング、次世代機の開発断念
        >止血へ人員1割削減
        リンク

    • 匿名
    • 2020年 5月 01日

    既存の737NG(400~800)の主翼のクラックへの対応でも製造関係のリソースと取られてるでしょうね。
    (正確には主翼を胴体に固定するPickle Forkのクラック)

    • 匿名
    • 2020年 5月 01日

    欧米のCEOや経営陣と呼ばれる人達はゴーン氏みたいに目先の金しか見ない雇われ役員らしい。だから737MAXみたいな事がおきる。技術の継承とか新技術の基礎研究など短期で儲けを出せない部署は縮小して利益を上げてきた部分も多々ある。今のボーイングはそのつけを払っているのでは…。

    1
    • 匿名
    • 2020年 5月 02日

    ボーイングの凋落は本社をシカゴに移したときから始まったと思う。
    更迭された前CEOはウォール街志向が強かったそうだ。
    本社経営陣と主要な工場や開発部門らの現場との距離が離れすぎた。
    トヨタが豊田市に本社を置き続けるのとは対照的だ。

    • 匿名
    • 2020年 5月 02日

    ボーイングはコロナ特需で物凄く株価が反発してダウ指数を引き上げんだけどね。
    しかし、現実を見たら航空会社がバタバタ倒産していく状況で、
    受注していた航空機も次々とキャンセルとなって、
    工場再開しても生産量は1/3に激減でリストラを発表したばかり。
    しかも3年は覚悟する必要ありで、再びボーイングの株価が下落しているところ。

      • 匿名
      • 2020年 5月 06日

      株価的にはボーイングもエンブラエルもやべーな。他の航空宇宙産業株に比べると際立ってピンチ。当面の資金を自己調達できたおかげで政府の介入を減らすことができたというニュースを読んだが逆に介入してもらわないと厳しいんじゃないかな

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