米国防総省は8月24日「ボーイングがF-15プログラムを支援するF-15イーグル・クレスト(米空軍が発注したF-15全体の長期的な枠組み契約)向けに1,312億3,000万ドル=約20兆円相当の不定期納入・不定量契約を受注した」と通知したが、この金額に驚いても現時点は特別な反応を示す必要はない。
参考:U.S. Department of War Contracts for Aug. 24, 2026
オプションを行使して発注期限を2036年8月まで延長した10年間に1,312億3,000万ドル分もの受注をボーイングが獲得できるとは思えない
国防総省は4月21日に発表した2027会計年度(FY2027)国防予算案の中で「新たな航空機としてF-35A/B/C×85機、F-15EX×24機、KC-46A×15機、E-2D×6機、UH-60×1機、MQ-25A×3機、MQ-9×5機、OA-1K×2機を購入する」と言及し、空軍の報道官はBreaking Defenseの取材に「空軍は今後数年間でボーイング製戦闘機をさらに数十機購入してF-15EX部隊を編成する」「同時に老朽化したF-15E部隊の近代化に着手する」と述べた。

出典:U.S. Air Force photo by Tech Sgt. Jacob Stephens
Breaking Defenseは「空軍は計129機購入する予定だったF-15EXの大幅増強を検討している」「F-15EXの生産ラインは当初予定よりも長く維持される可能性が高い」と、Air&Space Forcesも4月23日「空軍はF-15EXの保有数を従来計画の129機から267機へと倍以上に増やす計画だ」「本誌の取材に対して空軍は新たなF-15EXの購入計画を認めた」「F-15EXは老朽化したF-15C/DとA-10の後継機として取得されていたが、新たに138機調達することで旧型F-15Eを退役させる」と報じたが、上院の超党派議員=テッド・バッド共和党議員とジーン・シャヒーン民主党議員がFY2027国防権限法に組み込むことを目標にした国防パッケージを提出。
米国の国防予算は歳出法案(12本の歳出法案の中の国防歳出法案)と国防権限法案で構成され、国防支出の金額は歳出法で決まるものの、国防予算に分配される資金の具体的な使い道や各計画の上限額などは国防権限法案で決められ、これは議会が国防政策の方向性を毎年確認して政策を盛り込むための法案であり、この両方が揃わないと国防予算は成立しない。

出典:U.S. Air Force photo by William R. Lewis
この超党派パッケージに含まれるAirpower Acceleration Actは「複数年契約を通じたF-15EXとF-35の購入、両機の主要部品を経済的発注数量で先行調達することを認める」「戦闘任務用戦闘機(実戦に投入可能な状態の戦闘機)についても2030年12月末までに1,369機以上、2035年12月末までに1,558機以上、総戦闘機在庫(米空軍が保有する訓練機、テスト機、長期メンテナンス中の機体、予備役所属機なども含む戦闘機の総数)も2035年10月1日まで1,800機以上を維持することを義務化する」「空軍長官に対してF-15EX調達数を129機から329機まで増やす権限も付与する」という内容だ。
Airpower Acceleration Actを含む上院バージョンのFY2027国防権限法案は上院軍事委員会(SASC)で可決されたものの、上院本会議(定数100議席)は無限の討論(フィリバスター)が認められているため、過半数を占める共和党(53議席)は民主党(45議席)によるフィリバスターが続く限り実質的な審議や最終採決=過半数51票による法案可決に持ち込めず、これを阻止するには討論打ち切り手続き(クロージャー)を発動しなければならないのに無所属2議席を足しても発動に必要な60票以上に足りないため膠着状態に陥っている。

出典:Boeing
下院本会議は下院バージョンのFY2027国防権限法案を7月22日に可決しているため、上院バージョンのFY2027国防権限法案が可決されれば両案を1本化した両院協議会報告書(カンファレンス・レポート)を作成し、これを両院の本会議で採決して可決し、これに大統領が署名すれば国防権限法が成立する仕組みで、歳出法も合わせて成立すれば国防予算を使うための権限と予算が揃う状態となり、仮に権限の国防権限法が成立しないで歳出法だけ成立すると「前年度の国防権限法で成立した権限」にしか資金を支出できず、今年の国防権限法で成立した権限で資金を支出することは許されない。
仮にFY2027の歳出法が成立しても国防権限法が成立しないと「FY2027の歳出法で分配された資金があってもAirpower Acceleration Actに支出する権限がない」という意味で、上院本会議で上院バージョンのFY2027国防権限法案が可決されないと全ての手続きが止まってしまい、民主党はトランプ政権が要求する1兆5,000億ドル(裁量予算=1兆1,500億ドルと義務的支出=3,500億ドル)もの国防予算額に反対しているため、11月の中間選挙後でないと歳出法案と国防権限法案は動かない可能性が高く、特に無人機分野、宇宙分野、ゴールデンドーム、F-35関連資金、弾薬調達の大部分は義務的支出に依存しているため本当にリスキーだ。

出典:Lockheed Martin
国防総省は2026年1月から3月までにPAC-3 MSE、THAAD、トマホーク、AMRAAM、SM-3 Block IB/IIA、SM-6の生産能力増強(各ミサイルで3倍~4倍)に関する7年間の枠組みを発表し、8月には7年間の枠組みでPAC-3 MSEを増産するためロッキード・マーティンに586億2,000万ドル、トマホークを増産するためRTXに229億ドルの契約を授与したが、これは契約条件が最終確定していない状態で企業に作業を開始させるための未確定契約措置(UCA)であり、586億2,000万ドルや229億ドルといった金額は「7年間で支払う上限額」に過ぎず、これは企業が一番欲しい複数年契約(MYP)ではない。
7年間の枠組みには法的拘束力がなく、UCAも「契約に基づいて作業を行わせる義務」と「作業が実施された分に対する支払義務」が生じるだけで、依然として単年予算や単年発注によって発生する作業量が左右されるためUCAの発表は「長期的な需要の見通し」でしかなく、しかもPAC-3 MSE、THAAD、トマホーク、AMRAAM、SM-3 Block IB/IIA、SM-6の生産能力増強に関する7年間の枠組みに供給するための資金、特に初年度の支払いも義務的支出に大きく依存しているため、現時点では「必ず発注して支払う」という保証がなく義務的支出が飛べば地獄絵図になる。

出典:Anduril
義務的支出が飛ぶと無人機分野のCCA開発及び調達、各種無人機プラットフォームの大量調達、対無人機システム調達、自律型システム全体の産業基盤強化といった全資金=1,025億ドル、宇宙分野の空中移動目標指示装置(SB-AMTI)や宇宙データネットワーク基幹に投資する資金の大部分=約118億ドル、ゴールデンドームに投資する資金の大部分=約175億ドル、F-35関連資金ではF-35調達資金の大部分=85機中53機分、F-35 Block4開発資金、エンジンアップグレード資金、F-35のスペアパーツ購入、整備・修理支援、整備員の訓練、大規模修理工場の整備、即応性の向上に投資する資金を失う。
弾薬調達でもPAC-3 MSE×3,203発の内2,936発分、THAAD×857発の内830発分、トマホーク TLAM/MST×785発の内727発分、AMRAAM×1,811発の内1,006発分、JATM調達資金のほぼ全額、JASSM-ER×821発の内330発分、SM-3 Block IIA×136発の内78発分、PrSM×1,134発の内454発分の資金を失うことになり、エミル・マイケル国防次官はハドソン研究所のイベントで「もし議会が義務的支出=3,500億ドルを可決しない場合、裁量予算=1兆1,500億ドルに含まれる高額な従来型兵器を削減して無人機分野の資金を守るだろう」と警告している。

出典:U.S. Air Force photo by Staff Sgt. Nicholas Rupiper
マイケル国防次官の発言は「議会が義務的支出を承認しなかった場合、裁量予算から資金供給される高額な従来型兵器を犠牲にして守るのは弾薬調達ではなく無人機分野だ」というシグナルで、FY2027の歳出法案と国防権限法案が成立する前に「米国がPAC-3 MSE増産や調達に586億2,000万ドル=約9.3兆円も、トマホーク増産や調達に229億ドル=約3.6兆円も投資するぞ」と信じるのは相当な勇み足だ。
国防総省は8月24日「ボーイングがF-15プログラムを支援するF-15イーグル・クレスト(米空軍が発注したF-15全体の長期的な枠組み契約)向けに1,312億3,000万ドルの不定期納入・不定量契約を受注した。この契約は航空機の生産、システム統合、近代化、アップグレード、改修、維持・整備、独自のデポ整備能力確立を対象とし、空軍、空軍州兵、その他の国防総省顧客向けに重要なF-15システムの能力を提供・維持するものだ。本契約には日本、イスラエル、サウジアラビア、韓国、シンガポール、インドネシア、ポーランド向けの対外有償軍事援助が含まれる」と通知したが、この金額に驚いても特別な反応を示す必要はない。

出典:U.S. Department of War
ボーイングは今回の契約で1,312億3,000万ドル=約20兆円分の受注を獲得したのではなく、FY2026のRDT&E予算から34万3,740ドルの支払いを受けてF-15イーグル・クレスト向けの不定期納入・不定量契約(発注期限は2031年8月で発注作業の完了は2037年8月)を受注したに過ぎず、米空軍がF-15EXをどれだけ発注するのかも不明で、インドネシアのF-15EX調達は白紙化された可能性が高く、ポーランドのF-15EX調達は相当可能性が低いため、この契約の上限=1,312億3,000万ドルまで支払われる可能性はゼロに近く、もしボーイングが1,312億3,000万ドルもの契約を獲得したぞと吹き込んでるメディアがあれば嘘っぱちだ。
現時点でF-15EX導入がほぼ確定しているのは米空軍の129機とイスラエル空軍の50機だけで、日本と韓国はアップグレード需要、残りはインドネシアとポーランドを除く運用国の維持・整備やサポート需要ぐらいしかなく、仮に米空軍が329機で調達数を増やし、インドネシアとポーランドがF-15EXを導入し、サウジアラビアやシンガポールが保有機をF-15EX仕様にアップグレードしても受注額が1,312億3,000万ドルに到達するかは非常に怪しく、そもそも2031年8月までの4年間、オプションを行使して発注期限を2036年8月まで延長した10年間に1,312億3,000万ドル分もの受注を獲得できるとは思えない。

出典:The White House
米国の来年度の予算や国防権限法が会計年度末=9月30日までに成立することはほぼない上、今年は11月に中間選挙があるので予算関連の動きは鈍く、特に上院はフィリバスターで身動きがとれないため、FY2027の歳出法と国防権限法が成立するまでは何も確定的な話はしないほうがいい。
いずれにせよ権限と予算が成立しないと何事も前に進まないし、PAC-3 MSE、THAAD、トマホーク、AMRAAM、SM-3 Block IB/IIA、SM-6の生産能力増強が実現するかどうかも現時点では何とも言えず、もし共和党が中間選挙に負けて義務的支出=3,500億ドルが飛んでしまえば、裁量予算=1兆1,500億ドルの使い道も再編しなければならないのでFY2027の歳出法と国防権限法は本当にダイナミックなものになるだろう。
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※アイキャッチ画像の出典:U.S. Air Force photo by Airman 1st Class Gracelyn Hess





















>日本と韓国はアップグレード需要
日本のアップグレード需要は「F-15JSI」なのでしょうが、いつ納品されるのでしょうね?
ここの記事でも2028年度の納入は微妙ってなってますからねF-15JSI。イラン攻撃の影響でさらに遅れる可能性もあります。開発費高騰でF-15EXを買った方が良かったんじゃないかと思いますが、これはあまりに後知恵過ぎますかね。願わくばGCAP納入前に部隊運用出来るぐらいなスケジュール感で納入して欲しいですね。
ネックになっているアビオやレーダー周りはEXと同じだから
普通にEXと大差ないと思われ
「ライ国しろ!」とか言う人が出てきそう。
それができねえから、JSIがこんなことになってるんだが…。
F-15EX製造が遅延しないなら一つの選択肢ではあるでしょうが、現状の納入確定枠で月産2機なら31年一杯までラインは埋まっているだろうし、そこから日本のJSI分68機の完納まで2.8年ほど。後はJSI改修費用と新造費用がどんな物になるかの問題で単純な話では無いと思う。
改修もだが、流石に使い物にならなそうなpreの取り扱いはどうなるのか…
どう言う意味でしょうか?Pre-MSIP機は宙ぶらりんの扱いでは無くそのままF-35A/Bで代替する流れなのに取り扱いはどうなるのか懸念する必要がありますか?
Pre-MSIP機は流石にコスパが悪く勿体ないから何とかすべきレベルではありません。ガチの戦力にするならイスラエルのF-15改修レベルの対応するしか有りませんが流石に現実的では無いでしょう。せいぜいが外層ポッド+タブレット操作のお手軽改修で電子戦機かスタンドオフ兵器運用能力付与する事は出来るかもしれませんが流石に最新AAMが使えない機体を現役にしておく理由にはならないでしょう。
F-15シリーズは、安定して稼働出来るうえに、投射力もある名機だなあと。
米国11月の中間選挙、共和党ボロボロになりそうなわけですから、政策は何が止まって・(妥協して)何が進むのか気になるところですね。
米国は製造業がズタボロであり、
既成の契約も遅延続きなので、
絵に描いた餅に終わらなければよいですが・・・
一度廃止に向かったものを引き戻す?のは大変でしょうね。
仕方ないでしょうが、F35が今の体たらくでは、必要では?。
ついでにF/A18-E/FとAV-8Bも復活しないかな?、と思ったり。
どちらも直近の脅威に対し、有効と思えるし。
F-15シリーズ、冷戦期に設計された大型制空戦闘機だけあって、単純な飛行性能で勝てるのは化物の戦闘機のF-22くらいなんだよね
F-16もF-18もF-35も高高度のエネルギー戦じゃヘロヘロになるから、なんだかんだまだまだ使い道はありそう
そういえばF/A-XXの発表が8月中だったけどどうなるんだろうか…。
アメリカ受注分の忙しさが空自のf-15改造に関わってきそうだが、こっちはいつぐらいに改修がおわるやら
F-15JSI用のスケジュールが遅れまくっているだけに、賠償とは言わないまでも政治的交渉なりをして以前ボーイングに拒否されたPre機の日本独自回収を認めてもらいましょう。
台湾がF-16Vの引き渡しスケジュール無視に我慢できず訴訟する手続きを初めようやくMD社が仕事をし出した事が有りましたが、日本政府も台湾政府と同じ事をしろとは言わないまでももう少しがんばってほしいかな。
FMS購入についての納期待ちが多すぎ事案について、米国政府に対してお伺いした事は知ってはいますが。