米国関連

ボーイングの防衛部門は第3四半期に28億ドルを失う、KC-46Aの累計損失額は68億ドル

ボーイングは第3四半期の決算報告で「28億ドルもの損失が防衛部門で発生した」と発表、特にKC-46Aとエアフォース・ワンのみで19.7億ドル(12億ドルと7.7億ドル)の損失が発生しており、KC-46Aの累計損失額は68億ドル=9,980億円を突破した。

参考:Boeing reports $3.3 billion loss as KC-46, other defense programs drag

RVS2.0のリリース日は19ヶ月遅れるためKC-46Aで被るボーイングの損失が止まるのはまだまだ先の話だ

米空軍とボーイングはKC-46Aの開発契約を固定価格(49億ドル)で締結しているため、完全運用能力の獲得までに発生する開発コストを49億ドル以下に抑えることが出来ればボーイングの利益は増え、逆に開発コストが超過すれば自社資金を溶かすことになるため「自律的なコスト削減」が期待されていたのだが、調達が開始されたKC-46Aには解決しなければならない不具合が幾つも潜んでおり、ボーイングは多額の自社資金を溶かす事態に陥っている。

出典:U.S. Air Force photo by Tech. Sgt. Abigail Klein

今回の損失発表でKC-46Aの累計損失額は68億ドル=9,980億円を突破したが「空中給油能力を制限している不具合の解決は19ヶ月遅れる=RVS2.0のリリース日が2024年3月→2025年10月に変更」とアナウンスしているため、KC-46Aで被るボーイングの損失が止まるのはまだまだ先の話だ。

ボーイングの説明によれば12億ドルの損失は技術的な問題よりも「COVID‑19に影響を受けたサプライチェーン」と「労働力不足」に起因しており、エアフォース・ワン(VC-25)のコスト超過は先の問題に加えて「最高レベルの機密保持に対応した労働力の増員が非常に困難だ」と述べているのが興味深い。

出典:U.S. Air Force photo by Chustine Minoda

因みに空軍は今年9月「A-10を除く全ての航空機に給油任務を遂行することをKC-46に許可した」と発表しているが、これにはA-10を除く全ての航空機に給油任務を遂行できるのは「実戦任務を除く場合」の話で、機体の表面を傷つける可能性が解決していないため実戦任務におけるF-22、F-35A、B-2への給油制限は依然として有効だ。

米輸送軍司令部は「ボーイングが開発を進めている新型空中給油システムが完成して能力を実証するまで開放しない=制限を撤廃しない」と主張しており、米空軍は議会の圧力でブリッジタンカー(KC-Y)にKC-46Aではなくロッキード・マーティン提案のLMXT(A330MRTTの派生型)を採用する可能性が高まっている。

出典:Lockheed Martin LMXT

最近公開した新しいLMXTのイメージには第6世代戦闘機=米空軍の次期戦闘機が描かれており、本機のイメージについて米ディフェンス・メディアは「米国で盛んに目撃されている新しいステルスコーティング=鏡のような金属コーティングの採用を示唆している」と指摘している。

関連記事:また約束を破ったボーイング、KC-46Aの不具合解消は19ヶ月遅れる
関連記事:日本に引き渡されたKC-46A、欠陥修正や費用負担について口をつぐむ米空軍とボーイング

 

※アイキャッチ画像の出典:U.S. Air Force photo by Joshua J. Seybert

解体先のトルコに向け出港した空母サン・パウロがブラジルに帰郷前のページ

ロシアが旧アフガニスタン軍の特殊部隊を勧誘、既にウクライナ入りした可能性も次のページ

関連記事

  1. 米国関連

    米海軍のシーウルフ級攻撃型原潜が南シナ海で水中衝突、現在グアム基地に向け帰投中

    米海軍の太平洋艦隊司令部は7日、インド太平洋地域の国際水域を潜航中だっ…

  2. 米国関連

    米国は空母へ投資を続けるのか?ミサイルへ投資先を変更するのか?

    米国の国防総省では現在、米国の力を象徴している空母を中心とした航空戦力…

  3. 米国関連

    ウクライナが重要なゲストがやって来ると発表、バイデン大統領がキーウを訪問か

    ウクライナ外務省は20日「主要な西側諸国のパートナーがキーウを訪問する…

  4. 米国関連

    米戦争研究所、キーウ再侵攻の可能性を真剣に受け止めなければならない

    米戦争研究所は23日、ロシア軍部隊がベラルーシに移動しているという話は…

  5. 米国関連

    米AeroVironment、Mコードに対応した小型滑空爆弾の無人機投下に成功

    米国のAeroVironmentは9日「ヘリコプタータイプのVAPOR…

  6. 米国関連

    米シンクタンク、なぜ台湾のために米軍兵士は死ななければならないのか?

    バイデン大統領は「台湾が中国から攻撃されれば防衛に向かうのか?」という…

コメント

    • tofu
    • 2022年 10月 27日

    空自もこれ今からKC-46は損切りしてエアバスに乗り換えた方が良いんじゃ
    いつまで経っても出血が止まらんって、現在進行形で延焼中ってことじゃん……

    31
      • hogehoge
      • 2022年 10月 27日

      オーストラリアでの大規模多国籍演習でも、A330MRTT保有国はそれ派遣してましたが、
      空自は給油機派遣できずオーストラリア空軍のA330MRTTに支援して貰ってましたしね。

      輸送機扱いでいいなら良いんですが、現実問題として使いたい機能が使えないというのは致命的です。

      13
        • nachteule
        • 2022年 10月 28日

         空自がピッチブラック22に空中給油機を派遣出来ないって言うソースはどこに?

         現実的な問題として空自のKC-46Aは去年と今年納入されて1年以上の運用試験中で派遣するわけがない。
         KC-767Jはフライングブームのみ対応しかしてないので対応機種がF-15/F-16/F-2だけ。F-35は給油認証試験の話なんて聞かないし給油出来ないだろう。
         演習前に日本に派遣までしてF-2への給油認証試験をしてたんだしA330MRTTがメインであり、それ以外で参加した給油機はKC-130Jでプローブ アンド ドローグで給油。そもそもお呼びじゃなかったとしか。

        9
    • エア
    • 2022年 10月 27日

    コスト倍増させてまで空中給油能力って必要な能力なんだろうか?

      • 名無し
      • 2022年 10月 27日

      要るから買ってるだけじゃん。
      不良品改修の増加コスト部分を負担するのは納税者ではなくボーイングなので、ボーイングはちゃんと仕事しろ。

      32
      • tofu
      • 2022年 10月 27日

      空中給油機に空中給油してまで地球の裏側に戦略爆撃機を飛ばした国があるらしい

      という冗談はさておき
      例えば
      Q:F-35と比較して、武装や機動性、ステルス性は同等のまま戦闘行動半径を倍にした機体を開発する場合、コストはどれだけ増えるか。なお、テクノロジー水準はF-35開発当時のものとする。
      A:そもそも、その前提でそんな機体を作るのが物理的に無理なので、コストがどうとかいう次元の話じゃない
      みたいな

      17
    • 韓国製武器だけageるサイトです。
    • 2022年 10月 27日

    ここの管理人は本当、F-35とKC-46を叩くのが好きだな。そっち系の勢力から金でも貰ってるんじゃないの?

    1
      • 無無
      • 2022年 10月 27日

      何を言ってるのか根拠が判りませんが
      ボーイングのどこに擁護する材料があるのかい、それにF35は叩かれていない
      誰ですか君は

      87
      • ははは
      • 2022年 10月 27日

      そう思うなら見んな。
      金払っても見てるわけでもないのに偉そうに。

      68
      • トーリスガーリン
      • 2022年 10月 27日

      というかむしろF-35とかV-22とかC-2は叩くのにKC-46という明らかな欠陥機を2020年に4機追加発注したことを批判してるメディアが全く存在しないことの方が違和感ありません?
      まぁ給油機だし目立たないのかもしれないけど、ありもしない欠陥であーだこーだ騒ぐよりヤベェ奴掴まされたKC-46の方が自衛隊的には痛いと思うんだが

      68
      • 匿名
      • 2022年 10月 27日

      その理屈だと貴方はボーイングとロッキードマーティンから金貰ってるんですか?
      もう少し節操持って、どうぞ。

      30
      • 匿名
      • 2022年 10月 27日

      無料で海外ソースの情報をこれだけ纏めてくれているサイトは他に知りませんよ。耳触りのいいニュースだけ見ていたいなら大○巨砲主義とか他のサイトを見ていればいいのでは?

      38
      • 2022年 10月 27日

      え!?こんなことを書くだけで金が貰えるんですか!?
      というかこんなとこで書いたって世論にどんな影響を及ぼせるって言うんだ

      7
    • 無無
    • 2022年 10月 27日

    事実を知らせるのと批判は違うだろ、そんなこというのはトランプ信者並みに反知性だよ
    ボーイングに都合の悪いニュースを隠す必要こそ無いだろが、それこそ主観で事実を歪めることになる

    28
      • 2022年 10月 27日

      現実に発生した事実を伝えてるだけなのに、それを批判と捉えてしまう方々は認知が歪んでいるのでしょう。
      そういえば性犯罪者は認知が歪んでいるが故に再犯防止のため治療が必要とTVニュースで紹介されてましたね。
      まぁ自分の周りにも認知が歪んだ人が居ると困りますよね。

      18
    • ななしの
    • 2022年 10月 27日

    実際ボーイングは傾いてるからな737MAXしかりKC-46しかり
    それよりこれから増えてくF35に給油できないような欠陥機を既に6機も掴まされた空自はどうするんだろう

    21
      • 名無し
      • 2022年 10月 27日

      >欠陥機を既に6機も掴まされた空自はどうするんだろう
      市ヶ谷「早くボーイングはボーイングの私費で改修しろよ。」

      18
        • 匿名希望
        • 2022年 10月 27日

        無償でアップデート予定っていう。

          • G
          • 2022年 10月 27日

          アメリカの契約内容では問題があったらボーイングが自費でとありましたけど、日本との契約内容はそのあたりが有償か無償かは公開されていないなかったような気が

          16
      • 全てF-35B
      • 2022年 10月 28日

      因みにF-35B/Cには、給油出来ます。(幸せ感は少しだけ)

      • 匿名
      • 2022年 10月 28日

      >空自はどうするんだろう

      RVS2.0のリリース日が2025年10月に変更されたんだから、空自はそれまで待てばいいのです。

      4
    • 折口
    • 2022年 10月 27日

    軍需航空産業の従事者は特殊な技能や身辺調査を経ている人達なので一概には言えないでしょうけど、ここでもアメリカの製造業衰退の影響が出てるんですかね。

    7
    • jm
    • 2022年 10月 27日

    「塗装も維持できなくなったF-22」と一時話題になった金属光沢が、新型ステルスコーティングの可能性も高まったのはワクワクしますね(大戦末期〜冷戦中期の銀翼好き)。
    ボーイングさんには本邦の機体も含めしっかり責任を取ってもらって。

    4
    • 匿名希望
    • 2022年 10月 27日

    A330MRTT入れた場合の名称が気になる。
    KC-45になるのかって意味も含めて

    1
  1. この記事へのトラックバックはありません。

ポチって応援してくれると頑張れます!

にほんブログ村 その他趣味ブログ ミリタリーへ

最近の記事

関連コンテンツ

  1. 欧州関連

    トルコのBAYKAR、KızılelmaとAkinciによる編隊飛行を飛行を披露…
  2. 米国関連

    米空軍の2023年調達コスト、F-35Aは1.06億ドル、F-15EXは1.01…
  3. 欧州関連

    BAYKAR、TB2に搭載可能なジェットエンジン駆動の徘徊型弾薬を発表
  4. 米国関連

    米陸軍の2023年調達コスト、AMPVは1,080万ドル、MPFは1,250万ド…
  5. 日本関連

    防衛装備庁、日英が共同で進めていた新型空対空ミサイルの研究終了を発表
PAGE TOP