カナダのカーニー首相は「防衛と安全保障上の優先事項」を発表し、Defense NewsもNew York Timesも「今回発表された資金=約9,500億円の全てがカナダと欧州の防衛産業に配分される」とショックを受けており、カナダが進めている「F-35A購入見直し」も夏までに完了するらしい。
参考:Canada dials up defense spending with an eye on bridges to Europe
参考:Canada Commits Billions in Military Spending to Meet NATO Target
Defense NewsもNew York Timesも「米防衛産業がカナダ市場へのアクセスを本当に失うかもしれない」とようやく気がついたらしい
カナダのカーニー首相は9日午前10時「防衛と安全保障上の優先事項」に関する演説を行い、この中で「カナダは冷戦時代から今日まで国際舞台で支配的な役割を果たしてきた米国と肩を並べてきたが、もはや米国の優位性は過去のものになった。現在の米国は覇権的地位を金銭獲得のため利用し始めており、米国市場へのアクセスに料金を課し、集団安全保障への相対的な貢献度も減らしつつある。世界は重大な転換点に差し掛かっており、カナダは自らの道を切り開く時が来た」「90億加ドル以上の追加投資を通じて2025会計年度内に2.0%を達成する」と発表。

出典:Mark Carney
さらにカーニー首相は「追加投資の目的は国内の防衛産業を強化することで国防投資の3/4を米防衛産業に支払わなくて済むようにすることだ」「カナダ国内の製造業とサプライチェーンを優先する」「カナダ軍への武器供給は欧州再軍備計画に参加することで『信頼できる欧州のパートナー』によって多様化されるだろう」「カナダは新型潜水艦、航空機、艦艇、戦闘車輌、大砲、海中と北極圏を監視するため新型レーダー、ドローン、センサーに投資する」と、米国とのパートナーシップについても「カナダの国益に叶う場合に限る」と述べたため、米防衛産業界はショックを受けている。
カナダのカーニー首相は選挙中「カナダ製の空中早期警戒機を取得する」と約束し、Saabも先月末「カナダにGlobal6000/6500ベースのGlobalEye提供準備が整った」「GlobalEyeシステムの中核をなすのはカナダ製のプラットホーム=Global6000/6500だ」「この実績があるプラットホームに最先端のセンサーとミッションシステムを組み合わせることで費用対効果の高いソリューションを提供できる」「SaabはBombardierとの強力なパートナーシップを通じてカナダ国内からの調達を最大化し、付加価値の高い雇用を創設し、カナダ企業をグローバルサプライチェーンに統合することで防衛産業を支援できる」と発表。

出典:U.S. Air Force photo by 2nd Lt. Mark Goss
これに対してWar Zoneは「過去にもBoeingは『Bombardierが補助金を受け取って市場価格よりも安価にCシリーズを販売し、Boeingの売上を脅かしている』と訴え、両国間で経済摩擦が発生したためカナダはF/A-18E/F調達を中止した。その痛みもP-8を選定するころには事実上忘れ去られており、今回もオタワとワシントンの関係がどうであれ入札からBoeingを排除するのは懸命ではない」と訴えていたが、今回の発表を受けてDefense Newsも「カナダは米防衛産業への依存を減らすため自国産業界に投資することを選んだ」と報じた。
“カナダは既存の国防支出627億加ドルとは別に90億加ドルを追加支出し、NATOの支出基準=2.0%を2026年3月までに達成すること約束した。41億加ドル=約4,300億円もの資金を投資して国内の防衛産業基盤を強化し、防衛装備品の調達先を米国から国内に変更する予定で、カーニー首相も演説の中で「国防投資の3/4を米防衛産業に支払うべきではない」と述べている。さらに強固な防衛パートナーシップに割り当てられた20億加ドル=約2,100億円も欧州再軍備計画に投資される見込みだ”

出典:The White House
“トランプ大統領は再三「カナダが関税から逃れる唯一の方法は合衆国51番目の州になることだけだ」と脅したが、カーニー首相はトランプ大統領の脅しに屈せず欧州諸国との新たなパートナーシップに言及している。カナダ政府関係も「米国との緊密な関係は今後も維持するが、これを活用するかどうかはカナダにとって最善の利益になる場合に限る」と述べ、カナダは米国への依存を減らす必要があると警告している。カーニー首相はF-35A購入に関しても見直しを命じており、米国との関税戦争と関連付けて「我々が法的に購入を約束しているのは最初の16機のみだ」と強調している”
“カナダ国防省の報道官はDefense Newsの質問に電子メールで「F-35A購入見直しは依然して進行中だ」「この見直しは2025年夏までに完了する予定だ」と回答し、カナダ産業界に対する新しい取り組みの詳細も来年中に発表される予定だ”

出典:U.S. Air Force photo by Airman 1st Class Matthew Arachik
New York Timesも「カーニー氏は脅しに執着するのではなく取引に集中すべきだ」「どうせトランプ大統領が脅しをかけてきたとしても冗談半分なのだから」と対カナダ関係を楽観視していたが、今回の発表を受けて「カーニー首相は今までのように防衛装備品を米国に依存しなくなだろうと述べた」「今回の発表でカナダは米国と対立を強調して『米国と距離を置く』と明言してきた」「カナダの防衛アナリストらも安全保障に対する90億加ドル=約9,500億円の追加投資について大歓迎している」と報じ、Defense NewsもNew York Timesも「米防衛産業がカナダ市場へのアクセスを本当に失うかもしれない」とようやく気がついたらしい。
カーニー首相は「F-35A購入の見直し」を関税交渉の駆け引きに使用するつもりかもしれないが、この結果がどちらに転がっても今後の防衛装備品調達の大部分から米防衛産業は排除される可能性が高く、本当にトランプ大統領は西側諸国の分断を迅速に進めている。
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※アイキャッチ画像の出典:U.S. Air Force photo by Staff Sgt. Zachary Rufus
散々カナダ人のプライドに障る発言繰り返した挙句隣国の市場を失うなんて大した外交手腕だな
カナダがだいぶ本気を見せてきた…のか交渉の一環なのか
具体的な金額を出してる時点で本気が8割だとは思います
北極海を挟んでロシアと対峙してるのにF-35を中止するって正気かいな
カナダの戦闘機調達ってただでさえ中止や見直しが重なって遅れてて、レガシーホーネットをひいこら言いながら運用してるのに、今更F-35より早く手に入る西側戦闘機なんてあるわけない。
例えばアラブ諸国に売る予定のユーロファイターの機材1式を横からかっさらうとか、そういうウルトラCを成し遂げでもしない限り、次期戦闘機導入前にカナダ空軍は老朽化で全滅するぞ
イギリスのユーロファイターのラインが暇しているから、なんとかなるでしょう。
代わりにイギリスがF-35Aを核爆弾付で買うでしょう。
売ってくれないから自作なのか、拘りなのかはわかりませんが、トライデントのwarheadは英国製ですので、自作もできるのでは。
システム開発が無理だから下手すると50年代ですね。
あおりぬきで
戦術核など、精密誘導兵器ではありませんし、トライデントに載せられる小型化さえできてれば、50年代の技術で十分ですよ。
システム統合できるのが2050年代といってるのよ。
んー、俺は「トランプがあんな発言をしたのでカナダが米国離れをした」って話はあまり信じてません。
ただ、それを公然と推し進めるトリガーにはなったと思います。
俺はスムーズに進行しすぎたロシアに対するSWIFT除外を想い出すのですね。それと同じくらいカナダの米国離れはどうやら問題なく侵攻しているみたいです。まるで前からそのような計画書が既にあったみたいに。
ただそうなると、トランプが「51番目の州になれ」って言ったのも、意味はそのままですが味わいが変わってきます。
だってね、もしも日本が同じように「日本は米国の五十一番目の州になれ」って言われたら、日本政府も与党も野党も、もっと曖昧な態度を取ると思うのですよ。そうする訳にはいかないが、米国にはもっと協力したいので、これでどうにかなりませんか、みたいに。カナダはその点思い切りが良すぎる。特に上層部が。
トランプとそのスタッフが素で馬鹿なのか。あるいは色々知った上で乱暴な動きを取っているのか。あるいは両方を混在させているのか。
俺にはこのあたりはいまだによくわかりません。
ただ、カーニー首相はイングランド銀行総裁でした。って事で、このカナダの米国離れには英国の意向が強く働いていると思います。だから、もう米国と英国は昔のような関係……、というか昔は一心同体みたいにも見えるような関係だったと思いますが、今はもうそうではないのだと思います。
そしてこれは多分不可逆の動きだと思いますので、これから米国と英国や欧州がどのような関係になっていくのかは見物だと思っています。
アメリカがカナダに侵攻するような事態になった場合
米製兵器だとロックされてしまい戦わずして敗北…という事態もあり得ますが
欧州製兵器に入れ替えたところで世界最強のアメリカ軍を相手にはできません
欧州製兵器導入で無駄に金かけるよりむしろ米製兵器の積極購入でご機嫌取るのが一番でしょう
結局のところカナダがやってる感出したいだけなのではないでしょうか?
世界的に左派政権によるグローバル化や軍事力削減による経済特化の時代から、右派政権によるローカル経済と軍事力強化による国内製造回帰が顕著になってきましたから、カナダも元々この流れだったのだと思います。
トランプ大統領の言葉は渡りに船で、丁度良い口実だったんじゃないでしょうか?
今までは多少高くともアメリカの防犯シールが付いてきた兵器も、オーナーがシールの効果を疑問視するような発言繰り返してますから、だったら国内生産したほうが雇用にも効果があって、国内世論対策にもなりますし。
日本としてはいざとなったらアメリカ単独しか助けてくれない可能性が高かったと思いますが、カナダ含めて各国がロシア対策を真面目に考えてくれたら日本とも個別に協力を考えてくれるようにならないかな?と期待しています
全く逆で単に左派がトランプ大統領に反発してるだけです
カナダが米国製兵器を排除する合理性が全くありません
軍事費を削減していたのは左派だからではなく現実の脅威が存在しないからです
欧州やカナダはこの歪みの中にいます
すみません、カナダは中道左派でした。ご指摘ありがとうございます。
国内製造の強化による雇用創出や予算の国内消化は右派左派関係なく世界的な流れだと思いますので、トランプ大統領の言葉を渡りに船と感じて動いているとは思ってます。
単なる反発だけでは無いかな、と
カナダはベトナム戦争に参加せず脱走した米兵を受け入れたりと違うところは違う国だし、紹介によってはアメリカの良心と言われるぐらい(多少の脚色はあると思うけど)近くて遠い国だからアメリカになりたくないって思いも結構強いんじゃないかな
なんだか、ロシアとウクライナみたくカナダとアメリカも一緒になって当たり前っていう前提があるような気がする(民族や宗教が同じでもお前の国になりたくないという愛国心的なものが見落とされてる)
そこはやっぱりカナダにも同族意識ってものが根底にあるから、トランプのアメリカの州になれ発言がリアリティーを持って受け入れられたのでは
それにむっちゃ仲良しではあってもそれぞれのアイデンティティーが異なるから別の国なわけで、それをかなり逆なでされたんじゃなかろうか
スーパーディール!
鉱物資源や原油等カナダから輸入していた米国の産業が関税かけたら商売が成り立たないのになと先に思いましたが
北アメリカ航空宇宙防衛司令部NORADやファイブ・アイズUKUSA協定にまで影響が及ぶかがこの案件の本気度でしょうね
フェンタニル防ぐどころか逆効果だよね。