米国関連

年平均2,000億ドルの資金が流れ込む防衛市場、今後の成長は欧州とアジアが主導

ウクライナ侵攻を受けて欧州やアジアの主要パートナーや同盟国は劇的な国防支出の増額を約束、これを集計した米シンクタンクは「増額分の合計は1兆ドル(5年間分)を超える」と指摘し、目を疑うような額だと述べている。

参考:$1T in New Defense Spending Pledged by Key US Partners in 1 Year: Analysis

防衛産業界には年平均2,000億ドル=約26兆円の資金が新たに流れこむことになり、これは米国が装備調達に費やしている金額よりも多い

米国のAmerican Enterprise Institute(AEI)は23日「ロシアのウクライナ侵攻は民主主義国家を怯えさせ、中国の脅威とも相まって欧州やアジアの主要パートナーや同盟国は劇的な国防支出の増額を約束した。37ヶ国が今後5年間で1兆ドル以上も国防支出を増額させる」と指摘している。

国名20232024202520262027
英国719.9億ドル814.3億ドル850.7億ドル933.9億ドル1017.0億ドル
フランス542.5億ドル576.5億ドル611.4億ドル635.9億ドル659.9億ドル
ドイツ618.0億ドル759.0億ドル909.3億ドル948.1億ドル985.0億ドル
イタリア298.7億ドル329.5億ドル362.6億ドル398.5億ドル435.1億ドル
スペイン160.6億ドル184.9億ドル210.5億ドル236.4億ドル263.0億ドル
オランダ171.3億ドル218.6億ドル226.2億ドル235.9億ドル245.9億ドル
デンマーク59.1億ドル64.0億ドル69.2億ドル74.7億ドル80.1億ドル
ベルギー73.0億ドル78.2億ドル83.7億ドル89.5億ドル95.5億ドル
ギリシャ85.1億ドル88.5億ドル92.0億ドル95.7億ドル98.9億ドル
トルコ153.5億ドル188.4億ドル226.8億ドル247.8億ドル270.9億ドル
フィンランド63.8億ドル65.8億ドル68.3億ドル71.0億ドル73.8億ドル
スウェーデン103.3億ドル119.6億ドル136.5億ドル154.0億ドル161.7億ドル
ノルウェー80.2億ドル85.4億ドル90.5億ドル95.5億ドル101.8億ドル
ポーランド163.0億ドル324.5億ドル350.1億ドル369.9億ドル391.7億ドル
ハンガリー39.1億ドル42.3億ドル45.3億ドル48.2億ドル51.3億ドル
ルーマニア77.9億ドル80.9億ドル83.6億ドル89.5億ドル95.6億ドル
スロバキア24.4億ドル26.4億ドル28.1億ドル28.8億ドル31.4億ドル
チェコ47.8億ドル67.6億ドル72.0億ドル76.1億ドル80.1億ドル
ブルガリア16.5億ドル19.0億ドル20.1億ドル21.3億ドル22.5億ドル
アルバニア3.5億ドル4.2億ドル4.7億ドル5.0億ドル5.3億ドル
クロアチア14.9億ドル16.0億ドル17.0億ドル17.9億ドル18.8億ドル
モンテネグロ1.3億ドル1.4億ドル1.5億ドル1.6億ドル1.7億ドル
北マケドニア2.8億ドル3.2億ドル3.5億ドル3.7億ドル4.0億ドル
エストニア11.8億ドル14.5億ドル15.5億ドル16.5億ドル17.5億ドル
ラトビア8.9億ドル11.0億ドル12.1億ドル12.9億ドル13.8億ドル
リトアニア18.3億ドル23.4億ドル25.0億ドル26.5億ドル28.0億ドル
ルクセンブルク6.0億ドル6.9億ドル7.2億ドル7.6億ドル8.0億ドル
カナダ339.7億ドル365.5億ドル382.2億ドル397.2億ドル412.0億ドル
日本506.5億ドル625.9億ドル760.2億ドル896.8億ドル1034.4億ドル
韓国519.8億ドル544.9億ドル568.9億ドル594.1億ドル619.8億ドル
台湾194.1億ドル203.8億ドル214.4億ドル225.3億ドル236.2億ドル
フィリピン42.8億ドル46.0億ドル49.6億ドル53.4億ドル57.6億ドル
タイ69.7億ドル71.7億ドル76.8億ドル80.8億ドル87.9億ドル
シンガポール128.4億ドル134.9億ドル141.0億ドル147.4億ドル154.1億ドル
インド719.9億ドル871.6億ドル950.4億ドル1034.0億ドル1121.4億ドル

AEIは「冷戦終結によって大規模な通常戦は過去の遺物とみなされ『軍事費は無駄で不要だ』という考えが広まったが、ウクライナでの目の当たりにする塹壕戦や戦車戦はこの考えが間違ったものであったと証明している。過去、国防支出の増額を約束して実行に移さなかったこともあったが、今回の約束は本物かもしれない。ワシントンはプーチン大統領と習主席に感謝状を送るべきだ」と述べており、防衛市場の今後の成長は米国ではなく「欧州とアジアが主導することになる」と述べているのが興味深い。

つまり防衛産業界には年平均2,000億ドル=約26兆円の資金が新たに流れこむことになり、これは米国が装備調達に費やしている金額よりも多く、規模が縮小してしまった防衛産業界の基盤を立て直すのに役立つという意味だ。

出典:Turkish Aerospace Industries, Inc

この資金を狙って熾烈な競争が起こるのは目に見えており、防衛装備市場の新規プレーヤーである韓国、トルコ、UAE辺りがさらなる飛躍を遂げるかもしれない。

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※アイキャッチ画像の出典:EDGE

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コメント

    • 灰色の猫
    • 2023年 3月 24日

    日本の2027がガタ落ちしてるのはどういうことなのでしょうか。

    3
      • hiroさん
      • 2023年 3月 24日

      ん?
      管理人さんが誤記を修正したのかな?

      5
        • 2023年 3月 24日

        一桁位が上がりましたね。

        2
    • 折口
    • 2023年 3月 24日

    これまでも「防衛産業を育成して外貨産業にします」という事を標榜してきた国はありましたけど、その傍らで欧米の老舗兵器メーカーが何もないのに突然倒産するような事が普通にあったし、必ずしもビジネスとして美味しい業種では無かったんですよね。図の安全保障関連費の増額推移にしても全部が調達費にあてられる訳ではないのでしょうけど、世界規模で増額基調ができてしまうと本当に潮目の変化を感じます。

    これらの資金は何もなければ社会保障や投資に回っていただろうという意味で複雑な気持ちにもなりますが、工業国としての日本がゆくゆくそういった産業に噛んでいける未来もあるんですかね。既に造船企業などにはいろんな引き合いがあるらしいですが…

    17
      • general
      • 2023年 3月 24日

      >これらの資金は何もなければ社会保障や投資に回っていただろうという意味で複雑な気持ちにもなりますが
      今日の文春の記事でも本来は設備の更新や職員の待遇改善に充当されるはずだった国立病院機構の積立金422億円が防衛費増額の財源として没収されるとありましたね。
      真偽の程はさておきこういう話が漏れ聞こえてくると暗澹たる気分になります。

      25
      • ホテルラウンジ
      • 2023年 3月 25日

      無いでしょうね。それを目指した場合大失敗するでしょう。
      軍需産業は必須産業ですが、それそのものは収益を決して上げる事は出来ません。
      理由は需要が読めないからです。戦争は始まれば今のウクライナのように無限に需要が湧きますが
      和平が行われて収束すると一気になくなりますので生産業として必須の需要の平準化が出来ません。
      つまり、武器輸出国として成功する為に必須の条件は国が戦争をコントロールできるようになる事です。
      軍産複合体の事情でいつもアメリカは戦争をしてるという陰謀論は、生産業的にはあり得る話で、
      民間の消耗品の場合、CMやインフルエンサーを動員してブーム、話題という需要を計画的に作り出して
      大量生産して市場に送り込みます。これと同じように、この国とあの国を戦争させる、または自国が
      あの国にいついつまでに侵攻する、というものを順次計画し、それを実施すれば予めそのスケジュールに合わせた
      生産が行われて軍に納入するので収益を上げる事が出来ます。
      日本国政府が国際部隊で暗躍し、戦争をスケジュールして順次起こす事が出来るのであれば日本の軍需産業はそれにタイミングを合わせて生産出来るのでそれだけで収益を立てるレベルまで成功できるでしょうが、日本国にその意思は無い筈です。
      日本の軍需産業が成功するには、軍需産業単体では無理で、国が主体的に戦争版の電通・博報堂のようなプロモーターになっていかないといけません。
      韓国が今回馬鹿みたいに受注していますが、これはたまたま機会が巡ってきただけで、これに味を占めて軍需産業を国の収益の柱にするどーとやりだしたら需要の波に合わせる事が出来ず失敗する筈です。
      繰り返しますが軍需産業は必須です。ただこれで収益を上げる事は不可能です。
      軍需産業の育成は軍需産業は実効性のある最先端技術を磨く場所であり、そこで開発した技術を民間製品に展開する事で投資回収するサイクルで考えていくべきです。
      また強力な兵器を持つ事で中国の政権内部のハト派を助ける効果もあり、それは戦争を抑止するというダムや護岸工事のような防災的な観点で戦争被害額の発生抑止に貢献している事で回収していると考えるべきですね。

      11
    • ポーランド機甲師団
    • 2023年 3月 24日

    次に巻き込まれそうなポーランドや日本の増額が額でも伸び率でも顕著だけど、アジア方面なら直接侵攻を受けそうな台湾がさほどでもないのはなぜ?
    可能性をさほど高く見積もっていないのか、経済的に増額が厳しい、あるいは元から上限いっぱいに支出していて伸び代が少ない?

    2
      • あまつ
      • 2023年 3月 24日

      台湾のGDPは日本の6分の1くらいなのでかなり頑張ってる数字なのではないかと。
      それと台湾の場合は武器を売ってくれる国が居なくて苦労してるので無暗に予算増やしても使い処がないのかも。

      13
      • ネコ歩き
      • 2023年 3月 24日

      台湾の2022年国防予算は3726憶台湾元(約1兆3600億円)、GDP比で約1.65%です。因みに歳出ベースでは約17%でした。
      今後4年間の平均成長率が5%と仮定すると、2027年のGDPは約1.22倍になります。
      194.1億ドル(2023年)×1.22=236.8億ドル≒236.2億ドル(2027年)
      つまり、台湾政府は今後の経済成長率を平均5%と見込んでいて現在の国防予算対GDP比を維持する政策なのでは、という解釈ができます。

      中国政府は、独立の動きがあれば武力制圧すると台湾政府に圧力を掛けています。これを受けてか蔡英文政権は現状維持が台湾の望むものだと表明しています。防衛力の強化に可能な範囲で努めていますが、大幅な軍事費増によって中国を過度に刺激したくないのでしょう。
      昨年3月の世論調査では、中国の武力侵攻事態に米国が救援派兵すると信じるとの回答は30%に止まり、信じないとの回答は55%に及びました。

      昨年7月にマーク・エスパー「元」国防長官が台湾を訪問した際、国防予算の対GDP比を3.2%に倍増するよう要請しました。台湾では非現実的で横暴な内政干渉発言として反発が起きています。

      11
        • hiroさん
        • 2023年 3月 25日

        2023年度の台湾の防衛費はGDP比2.4%になるとの観測があります。
        米·中·ロと比べれば少ないかも知れませんが、西側諸国の中では頑張っているのでは。
        購入したい装備のハードルが高いことも考慮に入れないといけないでしょうし。

        2
    • 運輸省 海運総局
    • 2023年 3月 24日

    GDP比2%の防衛予算を目指すだったけど海上保安庁分が入っているんでしたね?
    自衛隊も増員すると人件費がさらに上がりと正面装備等の調達も大変ですね・・・

    • 名無し
    • 2023年 3月 24日

    変な感想なんだけどこの特需の原因であるロシア中国はこの市場拡大の恩恵には預かれないんかな なんか皮肉だな

    6
      • 戦略眼
      • 2023年 3月 24日

      資源関連で儲かるでしょ。
      中華は両方に何かしら売っているのでは?

      4
      • HY
      • 2023年 3月 24日

       自分たちを「脅威」と定めた上での軍拡だから市場もへったくれもない。

      • nachteule
      • 2023年 3月 26日

       そこら辺は素人には分からない。火薬原料は中国からとかあったよね?最近だとF -35の米国担当部分が中国製のマグネット排除の為に生産遅れてた感じがするから米国がかなりの主導権持つ兵器に関しては中露のパーツは無理だろうね。後は米国を除く各方面がどんな対応するかで変わるだろう。

       世界的な軍拡にある中で皆が皆、どこの兵器だろうが選び放題であるわけでも無し隣国の軍拡に対応する形で中露の兵器導入の選択肢しかない国だって有るだろう。

       トルコとかだってロシア産石油の輸入している訳だし資源に関しては依存はあり得る。

      1
    • ななし
    • 2023年 3月 24日

    兵器産業って金額は天文学的数字になるぐらいデカいんだけど、開発費も相応にかかるし競争も激しく顧客が限定され
    さらに、政治的な思惑も絡んでくるからブルーオーシャンだと思ったら実はレッドオーシャンでしたってオチになっちゃう
    それでもやらなきゃいけない分野だから、これ血を吐いて続けるマラソンだよね

    3
      • ななし2
      • 2023年 3月 24日

      現代科学基礎技術の最大の出資者なんだけどね(震声)

      7
      • HY
      • 2023年 3月 24日

       それはハイエンドな兵器(戦闘機や軍艦)の場合であって、銃弾や砲弾、自爆系の無人機はそうでもないと思う。

      2
        • 匿名希望係
        • 2023年 3月 24日

        あとはレーダー系だね

    • パセリ
    • 2023年 3月 25日

    防衛費の増大は軍事畑の人間からしたら嬉しいだろうけど(特に自衛隊なんて今まで金額で全く足りんかったし)、赤字財政が大きくなるのは間違いないし素直に喜べんな

      • バーナーキング
      • 2023年 3月 25日

      >赤字財政が大きくなるのは間違いないし

      「間違いなく」はないなぁ。
      輸入兵器ばっか買いまくればそうなるだろうけど、国産装備導入分は防衛産業はもちろん、それ以外を含めた製造業全体を活性化する。
      経済波及効果や先端技術の国際競争力強化を考えればトータルではプラスになる可能性すら十分ある。

      2
    • 七面鳥
    • 2023年 3月 26日

    写真のanka-3は買って研究してほしいな
    中国は有事に虹彩7を使うだろうし、
    それを捕捉できないとまずい気がするから

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