米陸軍参謀総長のジョージ大将は「従来の調達計画を根本的に覆す大改革が進められている」と述べたため防衛産業界はパニックに陥っていたが、ヘグセス国防長官が本当に「包括的な改革」を陸軍長官に命じ、ハンヴィーとJLTVの調達が中止され、さらにM10 Bookerも調達中止が命じられるらしい。
参考:Hegseth orders ‘comprehensive transformation’ of US Army, merging offices and cutting weapons
参考:SecDef wields axe to brass, HQs, formations to fashion leaner Army
今後投資が期待できる重点分野は「(長距離攻撃能力を除く)伝統的なポートフォリオ群とは異なる」と言いたいのだろう。
2025会計年度の国防調達はトランプ政権による大幅な安全保障政策の変更、Golden Dome for Americaの実現、ヘグセス国防長官による主要プログラムの見直し、ウクライナでの教訓を反映した国防総省の方針変更などによって予測不可能なものになり、米陸軍参謀総長のジョージ大将も「戦闘車輌を含む大規模調達計画を根本的に覆す大改革が進められている。この数年でテクノロジーがどれだけ変化したかを考えれば、今まで伝統的に購入してきた種類の装備を買わなくなるのは当然のことだ」と述べため、米防衛産業界はパニックに近い状況だ。

出典:U.S. Army Photo by 1st Sgt. Luisito Brooks
特にMarathon Initiativeが2023年に発表した報告書=拒否戦略への資金供給(従来装備品の調達削減など調達改革を提案した内容)を書いた人物がトランプ政権下で国防次官に抜擢されており、米防衛産業界の関係者も「2026会計年度が始まるまで身動きが取れない」「何も信じられないので新しいものに投資できない」「誰が勝利して誰が退場することになるのか誰も分からない」「国防総省から資金を確保できたと思った途端に全てが変わる」「ただ嵐が過ぎ去るまで耐えることしかできない」と述べていたが、本当に調達改革の暴風が防衛産業界を揺るがすことになった。
ヘグセス国防長官は1日「特定の組織解体や統合、将官の削減、従来システムの調達中止などを通じた改革」を陸軍長官に命じ、これには北方軍司令部と南方軍司令部、戦闘能力開発司令部と陸軍訓練教義司令部の統合による司令部人員の削減、有人攻撃ヘリ部隊部隊の再編・削減、敵を圧倒する安価なドローン群の増強、陸軍全体で装甲部隊や航空部隊含む時代遅れの編成削減が含まれ、陸軍当局者はハンヴィーとJLTVの調達中止を確認、さらにM10 Bookerも調達中止が命じられるらしい。

出典:U.S. Army photo by Bernardo Fuller
ドリスコル陸軍長官はM10 Bookerについて「このプログラムは典型的な埋没費用に対する誤謬で陸軍は間違った決定を下した」「我々は空中投下に対応した小型戦車を開発しよとしたのに出来上がったのは重戦車だ」と述べ、計画されていた500輌全ての調達がキャンセルされる見通しで、AH-64DやGray Eagleも削減対象に挙がっているものの、ジョージ大将は「これは陸軍改革の第1弾に過ぎず、数ヶ月以内に改革の第2弾に取り掛かる予定だ」と述べているため、従来装備品の犠牲者はもっと増える見込みだ。
さらにヘグセス国防長官は今後投資が期待できる重点分野やプログラムについて「Precision Strike Missileの能力向上型=Increment2~Increment5」「スペクトラム領域とAir littoralでの優位性に関する分野」「全旅団に地上や空中で使用できる新しい投射効果の導入」「機動力と経済性を向上させた対無人機能力の機動小隊・中隊への統合」など挙げており、遂に米軍の公式な言及にも「Air littoral」が登場した。

出典:117 окрема механізована бригада
制空権や航空優勢と言われると「戦闘機によって確保される空域支配」を思い浮かべるが、米シンクタンクのAtlantic Councilは「ハイエンドの有人機が制空権を確保できても有人機が飛行する高度と地上の間に広がる“Air littoral”の戦いは別ものだ」と指摘、このAir littoralとはドローンが主戦場とする低空域の戦いを指し、ドイツ連邦軍総監のカルステン・ブロイアー大将も「ウクライナとロシアの戦いは特にドローンの重要性が非常に高く、このレベルでの制空権が将来の戦場で重要になると学んだ」と言及。
米空軍のスライフ副参謀総長もミッチェル航空宇宙研究所のイベントで「制空権とは実際にどうようなものかという疑問が湧いてくる。1953年の鴨緑江上空3万フィートを飛行しているように見えるのか、それとも手榴弾をぶら下げたクアッドコプターが3,000フィート以下を飛行しているように見えるのか、答えはその両方だ。手榴弾を搭載したDJI製のドローンを見つけるためF-22を出撃させるわけにはいかない。実際の航空優勢がどの様なものなのか、それをどうやって達成するのか、より広範な定義について考えなければならない」と指摘。

出典:U.S. Army National Guard photo by Sgt. 1st Class Brandon Nelson
要するに「敵戦闘機や防空システムを圧倒すれば制空権や航空優勢が確保でき、友軍は頭上の心配をすることなく作戦を実施できる」というシンプルな時代は「ドローンによる低空域の活用」によって事実上崩壊し、対抗技術の開発も進められているものの現実的には対処が難しく「米軍も頭上の安全が確保された制空権下での戦いは二度と期待できない」と示唆しているのだが、米海兵隊訓練・教育コマンドのワトソン司令官も今年4月「海兵隊が伝統的な制空権下で戦うことは二度とないかもしれない」「兵士が敵航空機の接近阻止や救急ヘリの要請以外で頭上の心配をしなければならないのは第二次大戦以来かもしれない」と述べた。
恐らく「地上や空中で使用できる新しい投射効果」もFPVドローン、徘徊型弾薬、自爆型無人機を指している可能性が高く、今後投資が期待できる重点分野は「(長距離攻撃能力を除く)伝統的なポートフォリオ群とは異なる」と言いたいのだろう。

出典:Минобороны России
管理人はウクライナ侵攻以前から無人化技術に注目してきたものの、それでもドローンや無人機が軍事常識をここまで書き換えるとは予想しておらず、ウクライナでの教訓を迅速に取り入れないまま「旧概念による防衛装備品の調達や開発」を続ければ酷い目に合うかもしれない。
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※アイキャッチ画像の出典:U.S. Army photo by Bernardo Fuller
埋没費用(サンクコスト)に言及できるとは、陸軍長官は優秀な方かもしれませんね。
米軍の陸海空それぞれ、新兵器のポートフォリオを広げ過ぎて雁字搦めになっていて、海空は整備・更新にすら大きく影響が出ています。
戦争が兵器の進歩を速めるのは歴史の常ですが、ウクライナ戦争により低空域の概念が生まれたことは、米軍にとってかなり高くつくかもしれませんね。
代わりになにを使うんでしょうね
間に合うのかな
M10はともかく汎用軽車両のハンヴィーやJLTVまで調達停止する理由とは…?
あれ別に最前線で殴り合わせる車両じゃないでしょ。
将来の発展性も含めた Air littoral への対応を考える場合、前線後方も戦術的安全地帯ではないという結論じゃないですかね。ハンヴィーやJLTVの改良では不足で、根本的な発想の転換が必要となったのかも。
前記事にあったように、大量の徘徊型ドローンが後方拠点一帯を襲撃することが可能になるかもなので。
中途半端な装甲は無駄!とか言って、高速軽量の高機動歩兵運搬車を新たに作るんですかね。
「戦場のタクシー」が「戦場のUber」みたいなのになるのか。
ぱっと浮かぶのは補給物資輸送のUGVやUAV化とかですかね。
直接戦闘支援車両も無人化計画があるわけで、M10キャンセルは順当にも思います。
当分、ハンビィのオーバーホールで凌ぐかな。
M10 Bookerは、要らんな。中途半端過ぎる。
JLTVの要求仕様みたらやり過ぎ感はありますね、そら凄まじい調達価格になるわ。人命を尊重しだすとそうなるのでしょうがある意味命の値段が安い国とはこの先戦えないというか負けますね。安全対策ガチガチにしてまで人を送る必要あるのか?無人でいいのでは?てどんどんなっていくのでしょうね。
JLTVに限らず高価格高機能高付加価値を追求しすぎて市場にそっぽ向かれた日本の白物家電業界の先例がありますからね。その上で先例のように技術的優位を誇り続けてローエンドミドルエンド市場をすべて奪われた挙句技術で追いつかれ追い抜かれてから慌ててももう遅いわけで。先例に比べればまだ引き返せる段階でローエンド市場へ引き返す判断を下したのは賢いと思いますよ。
言う程引き返せる状態かな
引き返したところでどうにもならないように見えるが
だれも予想できていなかった新しい戦争の形が見えた以上、
計画の見直しが必要なのはわかるけど、今から練り直して、設計して、生産して、間に合うのだろうか?
多少問題があってもある程度形になっている物に、プラスする位の方が安牌だと思うのだが・・・。
(まるで毎年3カ年計画を修正している弊社の様だ…)
でも早くやらないといけないし、抜本的にやらないと意味が無いですからね
段階的にやろうとしてgdgdになるよりはマシだと思います
物の見事に歴史を繰り返しましたな
プーチンパパ買って買って〜とおねだりレポート書かれたT-15も同じ運命か
M8「ウェルカムウェルカーム」
ウクライナ行。
ドローン相手じゃエイブラムスでも危ないのに、ブッカーはもっと危ないよ
使い方もイマイチよく分からなかったし、調達中止は仕方ないかな
試作段階での中止はましだけれど、生産ラインまで作って調達中止案件が続くとアメリカの兵器産業の倒産・整理再編で雇用が減りまくりそう
トランプさんアメリカ人の雇用減りますがな
>「我々は空中投下に対応した小型戦車を開発しよとしたのに出来上がったのは重戦車だ」
何で中国の15式軽戦車より重い戦闘車両(38〜42トン)を開発したのだろうか。
乗員の生存性を重視した結果じゃないですかね。
旧ソ連製戦闘車両が「車両撃破≒乗員全滅」なのは知られた事実と思います。一方ウクライナ戦の実績として、レオ2、エイブラムスやブラッドレーは車両が撃破されても乗員の生存率がかなり高いんだそうです。
突き詰めれば「無人化」になるわけですが、米陸軍も政権の性急な意向に押されてその方向に本腰を入れる舵を切ったのかもしれません。
「我々は空中投下に対応した小型戦車を開発しよとしたのに出来上がったのは重戦車だ」
前線で歩兵を支援するための装甲車両を作るんだと思っていたのに、実際の要求がソレだとしたらまるで意思疎通が出来てないってことじゃんよ。現場猫ですら電話投げるわ
海軍のコンステレーションと同様に当初計画では仕様通りだったのが「追加でコレつけて」「あれも必要」ってやってたらアラ不思議、重量超過の38トン(42ショートトン)に♪ ってパターンじゃないのかな~と。
この考え方を根本的に改めないと次も同じ失敗をするでしょうね。
それにしても開発段階での中止ならまだしも正式採用決まってから中止は凄いな・・・。
準備してた関連会社潰れるんじゃないの?
顧客が本当に求めていたものって、シェリダンとブッカーの中間ぐらいのだったんでしょうかね・・・あれ?それならM10ブッカーの対抗馬だったM8 AGSを採用するべきだったんじゃ?
少なくとも顧客が求めていた条件を満たしていたからこそ正式採用となった訳で本当に求め目ていた物は何かって蒸し返すのはどうかと思いますよ。
求められていたのはエイブラムスよりも軽量で直射が出来る戦車砲を持ち歩兵の障害となる物を取り除けて防御力は歩兵戦闘車以上でRPG-7に耐えられ歩兵の盾にも活用出来る車両だと思うし。
幾ら軽量だろうがM8 AGSなんていつの時代の遺産だって代物だし、M1128 ストライカーMGS体液の原因になったようなオートローダー採用、被弾時の安全性にも疑問が残るような構造していた気がするし軽量化と冗長性/命どれが大切ですかみたいな物だった感じはする。
勿論重量に関しては大いにデメリットになったとは思うよ、昨今の環境を考えるにまともな対策すれば素の10式ぐらいになると思うし、軽量(M1よりは)だからね。
M8 AGSはモジュール式のレベル3アーマーパッケージを付ければ30ミリ機関砲やRPGも防げるそうですが(wikiの日本語と英語記事)、C-130では輸送できなくなるとのこと。レベル2なら運べるらしいですが。
不採用にした理由もコンプライアンス違反としか見つからないので、BAEよりGDLSを選んだんじゃないかと思っちゃうんですよね。
まあ、仰るとおり部外者が蒸し返す話ではありませんが。
アレコレ足していくとどうしても高価で重くて使いずらいものが出来上がる
ジョブズは偉大だったなと再確認
でも凡人は口を出さずにはいられない
存在価値を問われるから
中国みたいに兵器産業がほぼ国営なら急な方針転換による損失も許容できるんでしょうが、民営のアメリカではひたすら企業にダメージを与えるだけでは?
重たい装備はダメ、ですか。
ドローンなどに狙われるのなら、小さくて素早く動けた方が良いですね。
これは、普通の射撃で狙われる時にも同じ、と想像しますが。
前にも書いたけれど、必要なのは、」英国のCVR(T)や
ドイツのウィーゼル2くらいの大きさでしょうか。
戦車も米国のM24くらいの大きさ(18.4t)では?。
75mm砲ではさすがに不足でしょうから、M551の砲塔に換装して。
ターレットの径は一緒と聞いたことがあります。
そう見ると装甲防御を半ば諦めて速度でなんとかする!(ならなかった)第二世代主力戦車を思い出しますね。
安価で強力な対戦車兵器が出てきてどうにもならない状況がそっくり。
ストックのM3ブラッドレイに105mm砲塔を積んだ方が良い。
JLTVでダメなら、オーストラリア版JLTVのハウケイや、冷戦時代に生まれ、対テロ戦で性能を研いたイーグルⅴとかもダメなのだろうか?
この2車種をテストしている、陸自の次期軽装甲機動車計画にはこの決定影響しますかね?
自衛隊もさっさと古臭い冷戦式の装備を破棄してドローン戦争に適応しないと
アルメニア軍の二の舞になってしまいますよ
装甲車両よりもバイクや小型バギーで散開して進軍した方が
広い意味での防御力や生存性で高いってことなんでしょうね
これは軍事工業力が低い日本にとって朗報だと思う
カッコいい兵器が好きなミリオタさん達は嫌がりそうだけど
正しく投資をしないと国が滅ぶので仕方がないし、よくやったと思うのですが
企業と労働者がついてこれるのかは心配ですね
造船業がここまで衰退したのも雇用が不安定というのが一つの大きな問題としてあるわけでして
M10 BookerはM1A2 SEPv3よりも軽量なだけではなく調達価格もだいぶ安値で燃費もよく、ICBT向けとはいえ、ドローンが跋扈する戦場ではM1よりもM10 + APSのほうが安値で生存性も高そうな気がするのですが、米陸軍のAFVはどうしたいのですかね…
この調子では、XM30やM1E3も中止されるのでは。
我々はドレッドノートショック並みの転換期を見ているんだなあ。
で、M10中止は妥当としてちゃんと変わりの使える奴を作れるんですかね今の米軍製造業?
MRAPぐらいの車体にNEMOを搭載したものがM10の代替に良さそう。
あれなら直接・間接射撃両方に対応できるし、作業人数も少ないから。
ストックのM3ブラッドレイにチェンタウロ2の砲塔を載せた方が良い。
変化ってのは段階的に行うものであって、急進的に過ぎるの許容できないレベルの空白期間が発生して、逆にリスクだと思うんだけど。
そもそもM10が思ってたのと違うって、悪いのは仕様書書いた軍の方だろうに。
アメリカのメーカーが可哀想だわ
無人車両率いる有人車両の案もありますけど、空中と違って地形対応が難しそうなんで先は長そう…
車両は全方位重装甲は諦めて、安価な対空車両を大量随伴しか無いような?空母の周りを駆逐艦が囲うように…
今回は空挺部隊の話なのでしょうが。
空挺部隊なら、将来的には、全てドローンで運ばれる
”ヘリボーン”ならぬ”ドローンボーン?”部隊ができたりするのかな。
ドローンにぶら下がって、自律的に飛ぶわけです。
パラグライダーよりは良いと思います。静かだろうし。
今時点でも、人一人を完全装備で運べるドローンはあるでしょう。
英国製のマロイT-400というヘクタコプター(見た目はクアッドコプター)
は180kgを運搬できますから。
ロートルのハンヴィーや問題だらけのM10はわかるが、既に結構な数が配備されてるJLTVを中止って…