米陸軍は歩兵旅団戦闘団の対戦車攻撃能力を機甲旅団戦闘団並に強化するため徘徊型弾薬の本格調達を2025年に開始する予定で、Switchblade600を製造するAerovironmentだけでなくCummings AerospaceやAndurilといった新顔も契約獲得を狙っている。
参考:Cummings Aerospace releases its Hellhound for Army competition
徘徊型弾薬やFPVドローンが米陸軍の標準装備として採用されるのは時間の問題
米陸軍のノーマン准将は「FPVドローンの脅威は全ての戦闘車輌にとって現実的な問題だ」「Abramsは敵戦車等の直接攻撃に対して非常に高い防御力を備えているものの、上からの攻撃を防ぐように設計されていない」「M1E3はトップアタック・プロテクションを強化する」と、第47機械化旅団の戦車指揮官も「Abramsは砲塔上部にコープゲージとERAを追加しなければ生き残るチャンスはない」「Abramsも他の戦車と同様に上部装甲が薄すぎるのでFPVドローンに対して極めて脆弱だ」と指摘したことがある。

出典:117 окрема механізована бригада
FPVドローンが対戦車ミサイルよりも優れている点はコストが恐ろしいほど安価(RPG-7の弾頭を含めた1機あたりのコストは500ドル前後)で、アンテナの高度次第では10km以上離れた目標を攻撃することができるため運用者が目標に接近する必要がなく、さらにロシアが使用する徘徊型弾薬=LancetはFPVドローンよりも奥深くの敵を攻撃することも出来るが、徘徊型弾薬の真骨頂は「目標を視認してから使用する」のではなく「戦場上空を長時間彷徨いて目標を自ら見つけて攻撃する」という点だ。
つまりFPVドローンや徘徊型弾薬は対戦車ミサイルの代替品ではなく「異なる特性をもった攻撃手段」で、米陸軍も分隊向けRQ-28Aに手榴弾を搭載・投下するキットを開発、これを2023年2月の演習でテストして注目を集めていたが、2024年3月には特殊部隊でFPVドローンの運用が始まっていること、同年5月には第101空挺師団や第3歩兵師団等でも従来の戦術にFPVドローンを取り入れるための取り組みが始まっているのが確認され、もうFPVドローンが米陸軍の標準装備になるのは時間の問題だろう。

出典:U.S. Army photo by Spc. Casey Brumbach 手榴弾を搭載して空中投下するためのキットを取り付けたRQ-28A
さらに米陸軍は歩兵旅団戦闘団の対戦車攻撃能力を機甲旅団戦闘団並に強化するため徘徊型弾薬の本格調達(Low Altitude Stalking and Strike Ordnance=LASSO)を2025年に開始する予定で、既にLASSOの先行調達=Increment1としてSwitchblade600を調達しているものの、LASSOの本格調達には複数の競合システムが提案されると予想されており、アラバマ州に拠点を置く航空宇宙企業=Cummings Aerospaceも3Dプリントで製造したターボジェットエンジンを搭載する徘徊型弾薬=Hellhoundの提案準備を進めている。
同社はDefenseNewsの取材に「オレゴン州ペンドルトンの無人機試験場にHellhoundを持ち込んでLASSOの要求要件を満たしていることを確認した」「Hellhoundはエンジンのスロットルを制御することで航続距離や滞空時間を調節できミッションに対する柔軟性を高めることが出来る」「ハーフスロットでも560km/h以上の速度で飛行できる」「搭載燃料の半分で20kmを飛行できる」「Hellhoundは強風、雪、極低温の環境でも設計通り機能した」と明かし、Hellhoundの重量は25ポンド未満とも言及しているためLancetに近いサイズ感だろう。
LASSOの本格調達にはSwitchblade600を製造するAerovironment、米海兵隊からBolt/Bolt-Mの契約を獲得したAndurilも参加すると言われており、Boltの外見はクアッドコプターだが、自爆攻撃に対応したBolt-Mは重量5kg~7kg、弾頭重量1.3kg、航続距離20km、滞空時間40分以上、自律的な目標の検出、追跡、攻撃を可能にするAI制御が組み込まれているため1人のドローンオペレーターで複数機を同時制御でき、目標を発見すると追尾するか、攻撃を行うか、攻撃する場合でも交戦アプローチを選択でき、オペレーターとの接続が失われてもターミナル誘導を維持できるらしい。
AndurilがLASSOにBolt/Bolt-Mを提案するのか、Altius-600Mあたりを持ってくるのか、新しい徘徊型弾薬を持ってくるのかは不明だが、米陸軍に徘徊型弾薬が本格導入されるのは確実で、従来のミサイルと徘徊型弾薬では実行できる戦術が異なるため「どちらが優れているか」ではなく「両方を持つことで攻撃アプローチの幅が広がる」と解釈するのが妥当だ。
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※アイキャッチ画像の出典:Hellhound
見るからに高価格帯な気がしますが台数揃えられるんですかね・・
兵器の本質を見誤り、変に高級化して失敗する近年の米国製兵器のパターン。ジェットエンジンではレシプロや電動機より明らかに高価だし、地上に隠蔽された目標を見つけるのに時速500kmは速過ぎる。徘徊型兵器は低費用・長時間飛行が肝なんだから、目標の探索時はプロペラで低速飛行して、目標を定めて確実に仕留めたいときロケットか何かで加速すれば良い。
別にHellhoundに決定したわけでも、将来の徘徊型弾薬をHellhoundに一本化するとも言っていない(LASSOプログラム開始時に複数企業から採用する可能性を示唆していた)ので、用途によって使い分ければ良いだけでは。
滞空時間40分では、彷徨くという程ではないなあ。
どうもこの辺を過剰に期待し過ぎている。
ずっと滞空させたいなら、気球にぶら下げておけば良いのに。
飛行船型ドローンでは流石に鈍重過ぎるので(低脅威度の偵察任務ならそれでも良い)、ドローンの上面にヘリウムタンクでも仕込んでおけば浮力で電力消費を減らせる。現在普及している電動ドローンはクアッドコプター型だが、これもヘリコプター型にすることで飛行効率を改善できる。
ランセットみたいな使い捨て自爆ドローンのバッテリーはリチウムイオンに拘らず、出力重量比を追求した一次電池、例えば空気電池なんかにすれば射程を伸ばせそう。
ヘリウムは今、ものっそ高価になっているんですよ。
機械冷却用のヘリウムがクエンチ事故起こすと再充填に1千万円ふっとびます。
どうせ被弾すれば落ちるんですから、水素で充分ですよ。
F22に撃墜されるかも…
ジェットエンジンではレシプロや電動機より明らかに高価ってのがよくわからん
おそらくコスト的に最も優れるのはレシプロエンジンだろうけど、電動機なんてバッテリー増からの機体規模増加で一番高くなるパターンでしょ
レシプロエンジンはジェットエンジンの回転運動と違って水平なせいで振動っていう問題もあるし
(解決する方法はあるけどその分高価になる)
FPVは確かに射程に対する安さが真骨頂ですが徘徊弾薬は安さよりも射程の長さと空中待機よる即応性の高さが安さ以上のメリットですしミサイルよりは安ければまぁ良いのでは
現に活躍している徘徊弾薬筆頭のランセットの調達コストはミサイルに比べれば安くても極端に安価と呼べるレベルではありませんし投入数も数千と消費されるFPVには遠く及びません
AI制御とか入れて高価にするのいつもの米国無能ムーブ。
まあ、低価格や調達数の限界に挑戦してもチャイナドローンに遠く及ばないでしょうから、高付加価値とアピール動画の出来で誤魔化すしか無いという残酷な状況を露呈しているように思えます。
それに、格安兵器は当然利益が期待出来ないので参入すらしたくないでしょう。
“FPVドローンが対戦車ミサイルよりも優れている点はコストが恐ろしいほど安価(RPG-7の弾頭を含めた1機あたりのコストは500ドル前後)”
と、記事中にもありますが、この”超“格安兵器に対して、まだまだ厳しいようにも思えますね。今回の新型ドローンにしても、消耗戦になった途端に調達数や価格という大デメリットが露呈しそうです。
開発中の指向性エネルギー兵器や従来の対空兵器の活用の記事を見ても、一発の価格は安くても本体価格の減価償却を考慮すれば遠く及ばない兵器ばかりとしか思えません。
メリットをアピールして売込むのが商売ではありますが…
こういった記事が出てくる度に、素人の妄想として網の活用を書き込んでいる私ですが、実際、その位既存の兵器体系とかけ離れた対策でなければ対抗出来ないのではないか?そして現代の資本主義国家の軍需産業では不可能ではないか?悲観しています。
Xチャレンジみたいに
「急募!1000ドルで作れる対空ミサイル!賞金100万ドル」
とかやればいいのに。
賞金という方式は、個人レベルの知恵や工夫を呼び起こすには有効でしょうが、“対空ミサイル”という高水準の要求レベルを“1000ドル”という大規模生産無しではあり得ない低価格で実現するには向いていないでしょう。
それはそれとして、光ファイバードローンを霞網が無力化して、秘匿された自走砲の守備に成功した動画が既に登場しています。
低価格DIY路線は強力だと実感しました。
「アパーム!弾もってこい弾!」だった世界が「アパーム!ドローンもってこいドローン!」になっていく
>航続距離20km、滞空時間40分以上、自律的な目標の検出、追跡、攻撃を可能にするAI制御が組み込まれているため1人のドローンオペレーターで複数機を同時制御でき、目標を発見すると追尾するか、攻撃を行うか、攻撃する場合でも交戦アプローチを選択でき、オペレーターとの接続が失われてもターミナル誘導を維持できる
AI制御とドローンの組み合わせは強すぎる
ただ、ソフトウェアのテストは長引きそうな
AndurilはBolt/Bolt-Mを開発済みで即時納品(受注した数量の6ヶ月以内納品)するらしいですよ。
完全受注生産とはこれまたおったまげましたね……
もう既にソフトは完成していて、ハードを量産する体制ですか……
後は実戦を経てどうアップグレードしていくか、ですねぇ
Andurilすごい企業ですね。公開されてる動画見てるとゲームのUIから影響受けてそうに感じたんですが、創業者は元々Oculusも創業した人とのことで納得。
アメリカの技術エリートはほんとにすごくてソフトウェア開発力はあるんじゃないかな。そもそもAI入れるみたいなことは(密輸したNVIDIA Jetson積んでる)Lancetもやってるはずで、全くやらないことはあり得ない。高すぎる目標を立てたり、管理できないところと相互接続しようとしたりするといくら優秀でも苦しむことにはなりますが、官僚を無視して突き進んで動くものを作ることで黙らせる気質がありそうです。(イーロンにも共通しますね)
ただ疑問があるとしたら製造ですね。民生品と違って海外でやればいいってわけではないのでどうするんでしょう。考えてはいるはずで工場も作るそうですが、トランプのせいで上等な鉄が高いとかなったら洒落ならんぞ。
ロシア軍の徘徊型兵器ZALA Lancetが、最高速度300km/h、最大航続距離40kmということを考えると、Hellhoundは既にハード面でLancetと同等以上の性能を有していることになるね。特に速度性能は非常に優秀。
あとはソフト面をどこまで盛るのか。コスト的には最低限で抑えたほうがいいんだろうけど、アメリカらしくワガママボディになって「思ってたのと違う…」になりそうな気もする。特に今は戦訓多すぎて、何でも詰め込みたくなっちゃうからね。
いつもの適正なコストに出来ない奴
ドロップやカミカゼによるトップアタックなんかスタックした戦車に対する最後のトドメなのにそこ強化してもねえ
求められてるのは有線の観測ドローンなのに
陸自の多目的誘導弾搭載車両みたいな奴に有線ドローンを乗っけて索敵に使い、目標を補足したら車両からミサイルを発射する。これで貧乏人の対戦車ヘリコプターの出来上がりだ。
何となく鵜飼いを連想しちゃった。
確認せずに名前を端折ったので、枝元の人と被ってしまいました。
ごめんなさい。
無理して、クアッドコプターにHEAT弾頭を載せてヨタヨタ飛ばせるのではなく、ドローンで目標選定して、弾道軌道でトップアタックする専用の対戦車ミサイルを誘導させるようなシステムはできそう。
自前でポップアップしてトップアタックする高級な対戦車ミサイルより安く済みそうですし。
「Hellhound」
機能を見たら、ピッタリな名前
スイッチブレード600君は何故失敗したのか…
FPV自爆型は、製造コストを更に下げないとですね。
”3Dプリントで製造したターボジェットエンジン”
今はこんなことができるのですね。機体フレームもきっとそうなのでしょう。
とにかく、砲弾くらいの数は必要でしょうから。
複数回使用型は、大きさは小さくてもペイロードを大きくしないとですね。
例えば、ロシアの対戦車地雷は7kgだそうですが、これを2〜3個運びたいですね。
ペイロードが大きければ、他の物も運べますし。ひょっとすると人でも・・・?。
中国軍も同じ方向に向かっているかと。
そして中国軍のほうがドローン開発と利用の点で有利な位置にいるのが厄介です。
第2次大戦から冷戦にかけてアメリカが大型爆撃機や輸送機の分野と民間旅客機で
民需と軍需がうまく組み合わさり覇権を握ったようなことがドローンの世界でもおこりそうです。
ウクライナで使われている500ドルのドローンは作ってすぐ使用されるから安い部品使っても本来の性能を発揮できるけど
米軍の場合は何年も倉庫に保管されたりするから、長期保管しても動作することが求められるからね
ウクライナに供与されたジャベリンの不良品が多かったのも長期間保管されてたのが原因だと思われるし
(特に大容量バッテリーは長期保管に向いてなくて定期的に交換するか、使用前に新品を用意するようにしないといけない)
安いドローンの場合は、備蓄するんじゃなくて必要に応じて短期に大量生産できる仕組みを作っておく方が良いかも
でもなぜか高価なんでしょ?
テストする相手だけは豊富。
倉庫代もタダじゃないから黎明期が過ぎたら何かしら部品が共通化されたりするんだろあけど、ドローン熱はいつまで続くかな。