米国関連

F-35Block4のエンジン問題、AETPとF135EEPのどちらが正解か

GEはF-35AだけでなくF-35CへのXA100搭載も問題なく対応でき「F-35Bへの搭載も技術的な統合調査が完了した」と明かし、F-35A、F-35B、F-35CへのAETP(アダプティブエンジン)搭載が可能であると示唆して注目を集めている。

参考:XA100 Next Generation Adaptive Engine Could Now Power F-35B, Too

まもなくF-35のエンジン問題に関する方針が決まる予定だが、F-35BへのAETP搭載が可能だとアピールするGE

Block4と呼ばれるF-35のアップグレードプログラムは66の機能追加、ウェポンベイに搭載可能な空対空ミサイルの量を4発→6発に増加させるサイドキックへの対応、搭載アビオニクスの物理的な刷新を行うTech Refresh3など幾つもの要素で構成されており、Block4→Block4.1→Block4.2のように分割実装していくため「Block4に完全対応したF-35がいつ完成するのか?」という質問に誰も答えることは出来ない。

出典:U.S. Air Force photo by Brian G. Rhodes

噂では「Block4に完全対応したF-35は2020年後半になる」と言われているが、一つだけハッキリしていることはBlock4で追加される機能を動かすためには「F135が提供する発電能力や大電力を必要とするアビオニクスを冷やすための冷却能力が足りない」という点で、ここに台湾問題まで絡んでくるためF-35のエンジン問題は中々複雑だ。

F-35のエンジン問題に絡んでいくる台湾問題とは「現行のF-35では中国本土に近い台湾海峡周辺での航空作戦に航続距離が不足する」という点で、米空軍や議会は「F135が提供する発電能力、冷却能力、燃料消費の3点を改善する必要がある」という認識で一致しているが、このアプローチは米空軍、議会、GE、P&Wなどの思惑や利害が絡むため問題を複雑化している。

出典:Pratt&Whitney F135EEP

現時点で実現性のあるアプローチは2つあり、1つ目のアプローチはP&W提案の「F135EEP(F135の改良型)」で対応する方法だが、議会はF-35のエンジン供給がP&Wのみという体制に不満で、米空軍の一部も既存の技術の延長線上でしかないレガシーエンジンに投資すれば「先進的なエンジン技術の開発基盤が失われる」と考えており、F135EEPへの支持はそれほど高くない。

2つ目のアプローチは次世代戦闘機向けのエンジン技術として研究・開発を進めていた「Adaptive Engine Transition Program=AETP(アダプティブエンジン)」の採用で、試作されたGE製のXA100かP&W製のXA101をF-35に搭載する方法だ。

出典:GE XA100が採用した3ストリーム・アーキテクチャー

AETPは加速力や高マッハ性能で優れた2ストリームの戦闘機向けエンジンに商用エンジンの燃費性能を合体させ、熱管理用のヒートシンクとして機能する「3つ目の空気の流れ」を追加して3ストリーム化したもので、先にテストが完了したXA100はF135と比較して燃費が25%向上、熱管理能力が50%向上、推力が10%~20%向上しているのが確認されており、GEは「F-35AにXA100を搭載すると航続距離が30%、加速度が20%以上するはずだ」と主張している。

さらにXA100もXA101もF135と同サイズで機体側の変更なしに搭載できるよう設計されており、大雑把に言えば「ソフトウェアのパラメーター調整のみF-35Aに搭載できる」と表現されているが、F-35CにAETPを搭載するためには艦内の限られたスペースと設備に適合したメンテナンス要件を満たさなければならず、F-35BにAETPを搭載するため側面にロールポスト、エンジン後部に回転可能な排気ノズルを追加しなければならない。

出典:Duch.seb/CC BY-SA 3.0 F135-PW-600

そのためAETPの搭載は空軍のF-35Aのみで、海軍と海兵隊のF-35CとF-35BはF135EEPで対応すると言われていたが、GEはF-35CへのXA100搭載は問題なく対応でき「F-35BへのXA100搭載も技術的な統合調査が完了した」と明かしており、航続距離が最も不足するF-35BにこそAETPが必要だと主張している。

F-35Aは燃料を1万8,500ポンド、F-35Cは燃料を1万9,500ポンドも搭載できるが、リフトファンを装備するF-35Bは1万3,500ポンドしか搭載できないため戦闘半径は400海里(最も燃料搭載量の多いF-35Cは675海里)しかなく、海兵隊はF-35Bの戦闘半径を改善するため外部燃料タンクの使用も視野にいれているほどで、仮にXA100を搭載して戦闘半径が改善すればステルス性能を損なう外部燃料タンクの使用が避けれるだろう。

出典:GE Aviation XA100

最も興味深いのはGEが「XA100をプログラムパートナーやFMSで購入した顧客にも提供できる」と主張している点で、額面通り受け取ればFMSでF-35AやF-35Bを導入中の日本もAETPの恩恵にあやかれるという意味だが、AETP統合費用を誰が負担するのか、次世代戦闘機向けのエンジン技術を輸出するのかなどの点から「AETPを採用しても搭載は米軍向けの機体限定になる」と言われている。

そもそもF-35プログラムにはAETP開発や統合も含まれていないため、仮にAETPを採用して米国以外の国にも提供することになればF-35の価格には約100億ドル(AETP開発費用44億ドル以上+AETP統合費用55億ドル以上)が上乗せれることになり、米空軍長官も「AETP採用のためF-35Aの調達を70機減らす覚悟があるのか?」と訴えているほどだ。

出典:Lockheed Martin

以上の話を踏まえF-35のエンジン問題を整理すると、各勢力の立ち位置は以下のようになる。

  • 議会はF-35へのAETP搭載に賛成、エンジン供給の2社体制を希望
  • 空軍はF135EEPを支持する勢力とAETPを支持する勢力に分かれる
  • ロッキード・マーティンはどちらでも対応可能
  • P&WはF135EEPが採用されてエンジン供給の独占を維持したい
  • GEはAETP搭載に賛成で、F-35へのエンジン供給に割り込みたい
  • 海軍と海兵隊は状況を静観
  • プログラムパートナーやFMSのF-35導入国は蚊帳の外

因みにF135EEPは航続距離、推力、熱管理能力のパラメータを「二桁」向上させることができるとP&Wが主張しているが、AETPと比較してどうなのかは謎だ。

関連記事:P&W、F-35Block4に対応した強化エンジンパッケージ「F135EEP」を発表
関連記事:米空軍、F-35Aへ統合する新型エンジンの低率生産を2028年までに開始
関連記事:米空軍長官、AETP採用のためF-35Aの調達を70機減らす覚悟があるのか?

 

※アイキャッチ画像の出典:Marine Corps photo by Cpl. Brandon Salas

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コメント

    • ブルーピーコック
    • 2022年 9月 23日

    いっそ新しくAETP搭載のF-35DスーパーライトニングⅡでも作ってしまえと言いたくなる。

    30
      • 匿名
      • 2022年 9月 24日

      あれだけさんざん罵られ「太ましい」と蔑まれたデザインを持ってしても、まだ燃料を積みたいとかね…

      1
    • hogehoge
    • 2022年 9月 23日

    三菱重工のMRO&Uもだし、特にIHIの瑞穂工場とか米軍分も想定してるんだろうけど、こっちにも影響大きそうだよなぁ。

    10
    • 名無し
    • 2022年 9月 23日

    米国独自仕様のAETP搭載F-35がその他のF-35より優れた機体になる事自体は仕方ない事だけど、今後のソフトウェア開発がAETP搭載を前提にしたものになったり、米国以外の国が選択する事になるF135EEPの扱いが雑になったりは勘弁してほしいな

    30
    • 全てF-35B
    • 2022年 9月 23日

    F135EEP一択だろうな。
    XA100がBに対応出来るか未知数だし、特に機数の多い日本やオーストリアに提供されないと、コスト問題に跳ね返る。
    ここが解決しないとXA100の採用はないな。
    まして、台湾問題が絡むなら、空自のF-35に搭載しないということはあり得ない。

    6
      • 名無し
      • 2022年 9月 23日

      それはただの日本の都合やないかい

      24
        • バーナーキング
        • 2022年 9月 23日

        コスト問題も台湾問題も日本だけの都合じゃないでしょ。

        6
          • 名無し
          • 2022年 9月 23日

          リンク
          少なくとも米空軍はアダプディブエンジンを国外に輸出するつもりはなさそーなんで整備がどうの、台湾問題があるからどうので日本には売るべきだとかこっちの都合で楽観視しても仕方ないのでは。

          10
            • バーナーキング
            • 2022年 9月 24日

            輸出はしない、という「つもり」と
            そうするとコストに跳ね返る、台湾有事で自衛隊機の航続距離が足りない、という「都合」は別問題です。
            少なくとも輸出・技術移転をしない限り、何より在外米軍がF-35整備のコストと稼働率の維持に苦労するのは確実でしょう。
            当然ですが苦労してでも貫く、と言う選択肢はありますので元コメの「一択」「あり得ない」には同意し兼ねますが。

            11
    • けい2020
    • 2022年 9月 23日

    そもそも議会がエンジン2種類は無駄だと切ったことも遠因だし、
    その議会がAETPエンジン2種類にしろってすでになってるから、AETPになることは可能性高いだろうし

    AETPをわざわざ米軍独占にするメリットより、量産効果を出すためにF-35採用国にも提供することになるでしょう
    メンテナンスを複雑にする必要もないし、稼働率を上げたほうが得だし

    26
    • ミリ猫
    • 2022年 9月 23日

    本題からは外れるのですが、米国の戦闘機のニュースを読んでいたら
    めったに見られないであろう写真を見つけました。
    リンク
    昨年ミズーリ州での着陸時の事故により破損したB-2が一時的な修理を施した上で
    修理工場のあるカリフォルニア州に戻ってきたそうです。

    飛行中のB-2を見上げた写真ですが、素人目には修復箇所がダクトテープで貼り付けたようにしか見えない。
    調べてみたら当然のことながらダクトテープじゃなく、
    航空機専用の応急修理スピードテープと言うものがあるのですね。

    世の中まだまだ知らないことだらけ。

    19
      • 匿名
      • 2022年 9月 24日

      「飛行機がガムテーム(ダクトテープ)で応急修理されてるっ!」という客が撮った旅客機写真とともに一般サイトで記事になっているのを見た記憶があります。その際に航空機用のテープだと説明があったなぁ。

      むしろ海外ではメジャーなダクトテープ(ガムテープより強力)すら日本では一般で見かけないのは何故なんですかね。(やっつけ修理文化が無いから?

      4
        • ミリ猫
        • 2022年 9月 24日

        欧州に引っ越す前、四半世紀ほど住んでいたカナダじゃ
        ダクトテープで窓や車体を応急修理した車を何度も見たことがあります。

        ダクトテープで何でもかんでも修理してしまうメンタリティは
        カナダ人も自認していて、テレビのお笑い番組で
        『プロが教えるダクトテープ修理のヒント』
        と題し、ダクトテープでぐるぐる巻きにしたガーデンファニチャーが出てきて笑い転げた記憶あり。

        5
    • hoge
    • 2022年 9月 23日

    AETPは必要性は理解されても、いきなり全面的に切り替えるのは大惨事の可能性が高いので、F135EEPと並行して調達して熟成させながら徐々に置き換えていく、でよいのでは。

    4
      • コスト
      • 2022年 9月 24日

      コストの問題も有るんじゃないですかね?

      1
    • 匿名希望
    • 2022年 9月 24日

    F135EEPでないと困る海兵隊がいるから統一のためにF135EEPのほうがいいとはおもうよ。
    GE社にはオプションとしてAETPの開発はしてもらうのは良いとしても

    2
    • k
    • 2022年 9月 24日

    エンジン開発製造メーカーが1社独占状態よりはF-35AにGE、F-35B/CにはP&Wと分けられると良いのになと素人考えで思いますが、F136の開発でもGEは順調に進まなかっただけにGE製AETPエンジンに期待しての空軍F-35用開発予算全振りといかないでしょうし、どんな選択を空海軍が選択するのか注視したいですね。

    10
    • daishi
    • 2022年 9月 24日

    F-15やF-16も最初はF100-PWエンジンで就役しましたが、F-16の機数が増えてエンジン起因の飛行停止対策などの理由からF110-GEエンジンを追加しましたからね。
    F136-GEエンジンをキャンセルしなければ問題も少なかった「はず」ですが、電力・冷却問題は発生していたはずなのでF135,F136それぞれのEEP相当のアップグレードが行われたかもしれません

    4
      • バーナーキング
      • 2022年 9月 24日

      最初から競合させて結局片方中止させるくらいなら、早期配備型と能力向上型を両社に割り振れば良いのにね。んで次の機種では先代機の能力向上型をベースにフィッティングついでの微改修だけした早期配備型とまた新基軸取り入れた能力向上型を両社の役割入れ替えて…というかF119/120の時点ではそんな感じのプランに見えたんだけどなぁ。

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