ロッキード・マーティンは、ステルス戦闘機「F-35 ライトニングⅡ」の生産数が、最大4,600機に達すると予測している。
参考:Middle East demand could boost F-35 sales to 4,600 units: Lockheed
中東諸国の潜在的な需要を含めると、F-35の生産数が4,600機に?
ロッキード・マーティンは5月24日、F-35に関する最新の需要予測を発表し、F-35の生産数が4000機に達するだろうと発表した。現在、確認されているF-35の受注予想数は約3200機で、この数字には、契約が結ばれた数字だけでなく、計画上の購入予定数が含まれた数字だ。
当初、5000機以上の需要を予測していたが、開発遅延、価格高騰などの要因で、導入を表明していた国ですら、F-35の導入を取りやめたり、導入数の削減を検討するなど、逆風の強い状況下で、4000機という大台が見えてきたというのは驚きだ。
しかし、数日後には、もっと驚くような数字が出てきた。
29日、ロッキード・マーティン最高経営責任者のマリリン・ヒューソン氏は、投資家向けの会議の場で「中東諸国からの潜在的な受注への可能性が、F-35の最終的な売上高を押し上げるだろう」と述べた。
ヒューソン氏は、中東はF-35に対し興味があり、今日のF-15やF-16のように、時期が来れば、米国政府も中東への輸出を認可するだろう。そうなれば4,600機を超える生産数を誇るF-16と、同等のセールスが見込める可能性があると主張した。
更に、F-16を運用している国々は、F-35の潜在的な顧客であり、幾つかの国は、F-16の運用を、F-35導入への「ステップ」だと考えていると付け加えた。
もし、4,600機というF-35の需要予測が正しいなら、24日にロッキード・マーティンが発表した、最新の需要予測から15%も増加することになり、F-35の価格を8000万ドルとした場合、480億ドル(5兆2620億円)もの売上高上昇が見込めるため、投資家にとっては、景気のいい話に聞こえただろう。
4,600機という希望的な需要は置いておくとしても、果たして、4,000機という数字は達成できるだろうか?
可能性の高い、潜在的な需要を含めても4000機に届かない
現時点で約3,200機(米軍向け2,443機を含む)という受注数は、S-400導入問題で揺れるトルコ向けの100機と、新政権の方針転換で、F-35導入自体が怪しくなってきたイタリア向けの131機を含んだ数字だ。
では、ロッキード・マーティンが発表した最新の需要予測4000機、+800機は一体、どこからやって来たのか?
最近、新しくF-35を発注(予定)を表明した国は、日本(追加105機)、シンガポール(新規4機導入+オプション8機)、ポーランド(新規32機)、韓国(追加20機)だけだ。
しかし、F-35を導入しようと動いている国は、確かに増えている。
カナダは一度、F-18A/B更新用にF-35導入を決定したが、後に、これをキャンセルし、再び戦闘機選定を開始したが、その候補に、もう一度F-35を入れようとしている。
フィランドは、F-18C/Dの更新用戦闘機を選定中で、その候補にF-35が含まれている。
ハンガリーは、スウェーデンからリース導入したグリペンを返却し、F-16かF-35に置き換えることを検討中で、ギリシャもF-16D更新用として、スペインは空軍のF-18A/B、海軍のAV-8B+更新用にF-35導入を検討していると言う。
この他にも、ルーマニアや、スロバキアもF-35を導入する可能性がある。
新規・追加発注を表明した国や、検討中の国(カナダ(65機)、フィランド(64機)、ハンガリー(14機)、ギリシャ(25~30機)、スペイン(不明:更新対象の戦闘機数は107機))全てが、F-35を導入した場合、新たに発生するF-35の需要は、多くても約500機程度しかない。
4000機には、あと300機ほど足りない計算だが、一体どこからの受注を期待しているのだろうか?
足りない需要を、どこから捻り出すのか?
足りない300機の需要を、中東諸国抜きで、一体、どこから捻り出せば良いのか?
管理人が考えつくのは、以下の3つの需要だ。
1つ目の需要は、米海兵隊だ。
空母不足が深刻な米海軍は、その解決策として「Lightning Carrier(強襲揚陸艦の空母化)」という概念をテストしている。もしこれが具体化すれば、強襲揚陸艦に搭載する海兵隊向けのF-35Bが足りなくなる恐れがある。そのためF-35Bの追加受注があるのではないかと期待しているのかもしれない。
2つ目の需要は、オーストラリアだ。
オーストラリア海軍は、スキージャンプ台を備えたキャンベラ級強襲揚陸艦、2隻を運用中だが固定翼機を搭載していない。2004年に一度、強襲揚陸艦でF-35Bを運用したらどうかという提案があったが否定された。現在、オーストラリアは対中国牽制のために、軍備を過去最大級のレベルで増強中で、再び強襲揚陸艦にF-35Bを搭載しようと言い出しても不思議ではない。
3つ目の需要は、インドだ。
米国とインドは、オバマ政権時に締結した「米印防衛技術・貿易イニシアティブ(DTTI)」に基づき、防衛協力(F-21の提案、無人機の共同開発等)を拡大させている一方で、ロシアから徐々に距離を置き始めている。インド海軍が建造中の空母「ヴィクラント」に搭載する予定だった、国産戦闘機「テジャス」の艦載型開発に失敗し、ロシアからMiG-29Kを導入することになったが、あまり評判が良くないらしい。
そのためインド海軍の艦載機として、F-35BかF-35Cの需要が発生する可能性がある。もし艦載機として、F-35をインドへ輸出することが可能なら、空軍向けのF-35Aをインドへ輸出することも可能になるため、爆発的な需要が生まれるだろう。
これに、まだ手付かずの中東諸国の需要を考慮に入れれば、ヒューソン氏が言う「4,600機」という需要予測も、案外、的はずれな数ではないかもしれないが、現段階では、非常に希望的な数字であるというのは間違いないだろう。
※アイキャッチ画像の出典:Flickr photo by DVIDSHUB
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