米国関連

F-35スペアパーツ問題に米議会が激怒、5年間で3億ドルの追加コスト発生

米下院監視・政府改革委員会の議員達はロッキード・マーティンに書簡を送り、F-35のスペアパーツ問題に関する失敗について説明責任を果たせと要求している。

参考:The Pentagon spent $300 million on defective and missing F-35 parts over the last five years, and lawmakers are furious

F-35のスペアパーツ問題を人海戦術で対応するために掛かった費用は5年間で320億円

F-35は飛行の安全性やミッション達成を阻害する「カテゴリー1」に分類された欠陥が計111件(2018年1月時点)報告されていたが現在は8件にまで減っている。しかもパイロットの生命を危険に晒すカテゴリー1Aに分類された欠陥は全て修正が完了した状態で、残る8件は安全性ではなくミッション達成に重大な影響を与える「カテゴリー1B」に分類された欠陥だ。

F-35ジョイント・プログラム・オフィス(JPO)によればカテゴリー1Bに分類された残り8件の欠陥のうち5件については今年中に修正が完了する見込みで、残り3件(コックピット内の気圧変化、特定条件下で暗視装置の画像がぼやける、搭載レーダーの海面探索能力の制限)は2024年までに修正が完了するところまで来たのだが、F-35の運用を支える部分に関しては未だ問題が多い。

米下院監視・政府改革委員会の議員達は昨年末からF-35のスペアパーツ問題について調査を行った結果「軍はF-35を運用可能な状態に保つため多くの人員を投入して、本来なら必要のない膨大な作業を処理しなければならず、この問題が如何に無駄なコストを発生させているのかを学んだ」と語り、ロッキード・マーティンに対して「F-35のスペアパーツ問題に関する失敗について説明せよ」と要求している。

出典:U.S. Air Force photo by J.M. Eddins Jr.

この問題の根本的な原因はロッキード・マーティンが軍に納入したF-35のスペアパーツの電子ログに不備があったせいで、この問題をカバーするため軍は過去5年間で約3億ドル(約320億円:2015年~2018年に発生した追加の人件費)もの費用を費やしており、議員達はロッキード・マーティンに「なぜ問題を修正できないのか」怒っているのだ。

もう少し分かりやすく説明するとF-35のパーツには1つづつ固有の電子ログが紐付けられていて、いつ製造されさたのか、どの機体に使用されたのか、このパーツの耐用年数の残りは何年なのか、どこの倉庫に保管しているのかを直ぐに確認できるようになっているのだが、ロッキード・マーティンが軍に納入したスペアパーツは電子ログが不正確だったり破損していて使い物にならないといった不備が多発、これを1つづ確認して修正するのに多くの人手はかかっているらしい。

特に困るのは納入されたスペアパーツが「どこの倉庫に保管されているのか」分からなくなり行方不明になることで、これを探し出して電子ログの情報を修正する作業に軍の整備担当者が忙殺され、これ支援するため追加の人員が必要になり、過去5年間で約320億円もの人件費が余分に発生したのだ。

因みにF-35を最も多く運用しているアリゾナ州ルーク空軍基地の司令官によれば、2019年6月から11月までにロッキード・マーティンから納品されたスペアパーツの約60%で電子ログの情報に不備があったと証言しており、国防総省はスペアパーツ問題が解決しなければ毎年5,500万ドル(約58億円)の追加費用が発生し続けると言っている。

出典:ロッキードマーティン 物流情報システム「ALIS」

恐らくだが、この問題はF-35物流情報システム「ALIS」に関連してる可能性が高いと管理人は見ている。

軍とロッキード・マーティンは問題の多いF-35物流情報システムALISの修正を諦めて新規に開発している「ODIN」でALISを置き換えることを決定、ロッキード・マーティンは2022年12月末までにODINを稼働させると軍に約束しているため開発に掛かりっきりなのだろう。

そのため既存のALIS修正に手が回らない=意図的に放置してきた可能性が高く、もはやスペアパーツ問題はODINに移行しない限り解決は不可能なのかもしれない。

関連記事:F-35はいよいよ成熟段階に突入か? 米国、カテゴリー1Aの欠陥を全て修正完了
関連記事:さよならアリス! 戦闘機「F-35」稼働率低下の原因「ALIS」システム廃止へ

 

※アイキャッチ画像の出典:U.S. Air Force photo by Airman 1st Class Heather Leveille

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コメント

    • 匿名
    • 2020年 6月 24日

    小包や郵便物のバーコード管理で毎日数万もの国際配達物がバーコードで管理されていつどのルートで移動し、どこでどのくらい保管されてたのかパソコンからも見れるのに
    なぜそれと同じことができないんだろう?
    既に広く採用され実績のあるシステムじゃなく同じ物を自前で作る車輪の再発明でもやってんのかね
    軍事用だからセキュリティの点から汎用ソフトは使いたくないんだろうけどさ

    1
      • 匿名
      • 2020年 6月 24日

      ALISシステムの設計思想と末端での運用が噛み合ってないんじゃないかな

    • 匿名
    • 2020年 6月 24日

    データが不正確なのは兎も角、破損するって何処にデータを保存しているのだろう?
    ALISが、ストレージ上のデータを破損したのなら、ちょっと酷い出来かと。

    • 匿名
    • 2020年 6月 24日

    車でも、部品点数は数十万、現在は戦闘機でもそれぐらいなのかもしれない
    ただ、部品も無駄に電子部品を使い過ぎて、ゲームのスティックで空を飛ぶようじゃな
    さらにセンサーによる多大な情報も費用掛け過ぎて、逆にゲームソフトのほうがメジャーーーに

    • 匿名
    • 2020年 6月 24日

    こんな民間で管理出来る事がスムーズに出来ないのは
    他国の妨害のにおいがする気が・・・。

    • 匿名
    • 2020年 6月 24日

    アメリカの軍需産業も非効率化が酷い状態なんだろうなあ
    ロケット市場がスペースXに一気に食われたように
    軍需でも新興勢力が既存企業をあっという間に追い出すような事態になるかも

    • 匿名
    • 2020年 6月 24日

    ソフト開発に5次くらいのろくにデータベースの知識もない下請けが開発してるんでは、費用の9割は中抜きされていたりして。
    そういえば最近オラクルの名前を聞かないな。

      • 匿名
      • 2020年 6月 24日

      ボーイングがALIS開発をサムスンに依頼していれば、こんなアホな事にはならなかったのにな

        • 匿名
        • 2020年 6月 24日

        ボーイング?
        釣りなのか素で間違えたのか単なるアホなのか

        2
        • 匿名
        • 2020年 6月 25日

        ロッキードマーチンだしF-35の凄さを知らないからそんなアホ丸出しなこと書けるんだな
        日本も韓国もマジにあいつらの足元にも及ばない開発力の持ち主なのに

    • 匿名
    • 2020年 6月 24日

    湖面を優雅に進む白鳥(プログラム)も水面下ではIT土方がモガイてるのはどこでも一緒か…
    効率化って表向きスマートになったように見えるけど
    その実ワリ食って血反吐吐く人間もどっかで発生してるよなぁ

    1
      • 匿名
      • 2020年 6月 24日

      効率化は、余力を奪う事に繋がり易いですよね。
      橋下さんが、コロナ感染を疑い外出を自粛していた頃、効率化で大鉈振るい医療関連の余力を奪った過去を反省していました。

      1
    • 匿名
    • 2020年 6月 24日

    人件費で何百億ドルってもうスケールが桁違いですね
    非効率さに驚くと同時に軍ってやっぱり金持ってるなぁ

    • 匿名
    • 2020年 6月 24日

    ここ数ヶ月のアメリカを見てるとコイツら馬鹿じゃないんかな?と思いだしたよ・・・

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