米国関連

米揚陸艦の火災は12時間後に鎮火、即応性が41%低下している水陸両用艦艇に打撃

米海軍のサン・アントニオ級ドック型輸送揚陸艦2番艦で発生した火災は12時間後に鎮火したものの、Defense Newsは「海兵隊の展開に不可欠な水陸両用艦艇の即応性は41%まで低下している」「今回の火災は水陸両用艦艇の即応性をさらに悪化させるかしれない」と報じた。

参考:沖縄 うるま市沖 アメリカ軍の艦船で火災 海保など活動
参考:Fire extinguished aboard USS New Orleans
参考:Fire Aboard USS New Orleans Burned For 12 Hours Before Being Extinguished
参考:Navy: 12-hour Fire Aboard USS New Orleans Extinguished, 2 Sailors with Minor Injuries
参考:Exclusive: The US Navy is building a drone fleet to take on China. It’s not going well.

今回の火災は水陸両用艦艇の即応性をさらに悪化させるかしれない

NHKは20日夜「沖縄県うるま市にあるホワイトビーチ沖でサン・アントニオ級ドック型輸送揚陸艦2番艦=ニューオーリンズが火災を起こした」「米軍は海上保安庁に消火活動を要請した」「自衛隊と海上保安庁の船舶が消火活動を行った」「現地住民は船体の中央付近から上がる真っ黒い煙を見たと、船の高さの1.5倍くらいまで上がっていたと、炎は見えなかったと、タグボートみたいな船がニューオーリンズの船首に放水をかけっぱなしにしていたと話している」と報じた。

このニュースは米国でも速報という形で報じられ、米第7艦隊は21日「ホワイトビーチ沖に停泊中のニューオーリンズで20日午後4時頃に火災が発生した」「火災発生から約12時間後の21日午前4時頃に火災を鎮火した」「出火原因は現在調査中だ」「この火災で乗組員2名が艦内で治療を受けたが負傷の程度は不明だ」「ニューオーリンズの消火活動には海上自衛隊、海上保安庁、米海軍が参加した」「ニューオーリンズの乗組員は艦上に留まる」と発表。

Defense Newsは「匿名の国防当局者によればニューオーリンズでの火災は船首付近の中間デッキに限定されているらしい」「この火災によって複数のデッキが影響を受けたと付け加えた」「火災で消失したデッキ数については明かさなかった」「海軍は艦艇の即応態勢に問題を抱えており、特に海兵隊の展開に不可欠な水陸両用艦艇の即応性は41%まで低下している」「水陸両用艦艇の不足で2025年に予定されていた海兵遠征部隊の展開は5ヶ月以上も中断された」「政府説明責任局の調査で揚陸艦32隻のうち半数が劣悪な状態にあると判明した」「今回の火災は水陸両用艦艇の即応性をさらに悪化させるかしれない」と報じた。

海兵隊は海兵遠征部隊と水陸両用戦隊を統合した水陸両用即応集団(ARG–MEU)を東海岸、西海岸、沖縄に1つづつ配備するため「80%以上の即応性を備えた31隻の水陸両用艦艇」を必要としているものの、実際の即応性は50%台で、海兵隊のスミス総司令官は「艦艇の維持と新造船の建造に充てられるべき資金がイラクとアフガニスタンの戦費に回されたのが原因」「3つの即応集団は最低限のプレゼンスで本当は5つ以上の即応集団が必要」と訴えたことがある。

政府説明責任局も2024年に発表した報告書の中で「水陸両用艦艇の稼働率は平均46%(2011年~2020年)だった」「この低稼働率は艦艇の準備問題が原因でボクサーとアメリカの即応集団は2024年の訓練に参加出来なかった」「ある艦艇はメンテナンス問題で12年間も実戦配備されていない」「少なくとも水陸両用艦艇31隻の要件を維持するためには艦艇全体が耐用年数を越えて任務に就く必要がある」と指摘し、これは「後継艦建造を怠ったため設計寿命を越えて現行の水陸両用艦艇を運用しなければならない」という意味で、これにメンテナンス問題も加わるため艦艇の信頼性は非常に疑問視されている。

出典:U.S. Navy Photo by Seaman Trevor Welsh

最も信頼性が疑問視されているのは40年間の耐用年数に近づきつつあるワスプ級で、これを更新するためインガルス造船所で建造されているのがアメリカ級だが、Defense Newsは「即応集団の展開計画はおなじみの難題に直面している」「主な障害は水陸両用艦艇の運用状況がニーズを満たしていないため」「これを正常な展開スケジュールに戻すには助けが必要になるだろう」「インガルス造船所が韓国の現代重工業と提携して艦艇建造を強化することで合意した」「インガルス造船所は提携発表に際し『現代重工業とベストプラクティスを共有することで高品質な船舶納入を加速させる真の可能性をもたらすと信じている』と述べた」と指摘。

要するに現代重工業がインガルス造船所に持ち込むデジタル造船技術に期待がかかっているという意味で、頼みの綱だった自律型無人艦艇で構成するゴースト・フリート(幽霊艦隊)も問題に直面しており、兎に角に「新たな艦艇の建造スピード引き上げ」と「既存艦艇に対するメンテナンス問題」を何とかしないと米海軍は艦艇戦力は「増強」や「現状維持」ではなく「減少」に転じるだろう。

出典:U.S. Navy photo by Mass Communications Specialist 1st Class Joe J. Cardona Gonzalez

因みにロイターは20日「国防総省は7月に最新鋭の自律型無人艦艇を披露するテストをカリフォルニア沖で実施したが、ソフトウェアの不具合でSaronic製とBlackSea製の自律型無人艦が衝突し、別のテストでもBlackSea製の自律型無人艦が突然加速して支援艦艇が転覆した。この事故は搭載されたシステムと自律型ソフトウェア間の通信障害を含むソフトウェア障害と人為的ミスが重なったものだが、自律型無人艦艇の実用化に取り組んでいた司令官がトランプ政権によって突然解任され、国防総省も自律型無人艦艇プログラムに懸念を抱き始めている」と報じている。

どのタイプの自律型無人艦が衝突したのかなど事故の詳細は一切不明だが、一連の失敗を受けて海軍の自律型無人艦調達部門=PEO USCは見直しを受けている最中で、ロイターは「最悪の場合PEO USCは閉鎖される可能性がある」と報じているが、この状況に対して自律型兵器の専門家らは「決断を下すだけでも数年を要し、巨大なものを構築するのに慣れ親しんできた業界に突然『早く行動しろ』と求めている」と述べ、海軍は未知の領域において急速なブレークスルーを求めすぎていると批判した。

関連記事:米海兵隊の海外展開が困難、艦艇の維持・建造費用を戦費に転用したのが原因
関連記事:インガルス造船所と現代重工業が提携を発表、米海軍の艦艇建造加速で協力
関連記事:米シンクタンク、大規模な投資がなければ老朽化した戦闘機戦力は破綻する
関連記事:米空軍が保有する戦闘機の在庫は過去最低水準、老朽化は過去最高水準
関連記事:米海軍作戦部長、フォード級空母に未検証の技術を詰め込み過ぎたと失敗を認める
関連記事:米海軍が中国海軍に追いつかれた原因、奇妙なアイデアに時間と資金を浪費したため
関連記事:何もかも遅れる米海軍の計画、コンステレーション級は最大3年遅れる可能性
関連記事:コンステレーション級が計画外の重量増に直面、耐用年数が短くなる可能性
関連記事:米海軍の不満が爆発、発注したバージニア級原潜は何処に消えたのか?
関連記事:米海軍のボクサーが故障続きでノックアウト、復帰は2026年秋になる見込み
関連記事:故障続きの米強襲揚陸艦ボクサー、乾ドックに空きがなく水中修理を選択
関連記事:また米強襲揚陸艦ボクサーが故障、予定されていた作戦や演習が台無し
関連記事:オーバーホールが完了した米強襲揚陸艦、相次ぐ故障で海に戻れず

 

※アイキャッチ画像の出典:U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 1st Class Darryl Wood/Released

韓国メディア、韓米首脳会談でAH-64、F-35、KC-46の購入要求を予想前のページ

米軍が享受する太平洋の縦深さ、これを生かした後退戦術を採用すべき次のページ

関連記事

  1. 米国関連

    米GA、米空軍のMQ-9後継機に全翼機デザインの無人航空機を提案

    米空軍の無人航空機「MQ-9リーパー」の後継機にジェネラル・アトミック…

  2. 米国関連

    米政府、武器の準備が整うまで攻勢を控えるようウクライナに助言

    ロイターは20日「米政府高官が兵器の供給と訓練が終わるまで大規模な攻撃…

  3. 米国関連

    ボーイング、ロシアの航空会社にスペアパーツ供給を停止

    ボーイングは1日、ロシアの航空会社に対するスペアパーツ供給、メンテナン…

  4. 米国関連

    米陸軍、エイブラムスは2040年までにハイエンドの戦場で無力になる

    米陸軍長官に助言を行う陸軍科学委員会は「エイブラムスの将来性」に関する…

  5. 米国関連

    極超音速兵器開発で先行する露中への回答、米国、極超音速兵器「AGM-183A」のイメージを初公開

    米国のロッキード・マーティンは最近、極超音速兵器開発プログラム「AGM…

  6. 米国関連

    トランプ次期政権も動員年齢引き下げを要求、ウクライナも全力を尽くせ

    トランプ次期政権の安全保障問題担当補佐官に指名されているウォルツ下院議…

コメント

  • コメント (24)

  • トラックバックは利用できません。

    •  
    • 2025年 8月 21日

    限界海軍極まってきましたね…本邦も掃海艇火災があったばかりなので人の事は言えないけれど、それにしても揚陸艦を次々に失っては同盟にも影響が出かねないのでは。まだニューオリンズを失ったと決まったわけではないけども…

    16
      • k.ziro
      • 2025年 8月 22日

      旧海軍の戦艦も何度も砲塔爆発させているんだから大目に見てあげてね。

      2
    • arvante
    • 2025年 8月 21日

    中国製の冷温庫でもCICに持ち込んだか?

    9
      • kitty
      • 2025年 8月 21日

      そんな馬鹿なことをする海軍なんかあるわけないじゃないですか、ハハハ。

      15
    • たむごん
    • 2025年 8月 21日

    インガルス造船所(ハンティントンインガルス)は、単独ならば期待しない方が無難ですかね。

    ハンティントンインガルスは、米国上場企業として分析されていますが、独占型の企業であり競争が働きにくくなっています。
    過去に自社株買いを大幅に進めていて、設備・ドッグなどへの投資よりも、フリーキャッシュフローの使い道が株主還元に優先してきたのも弱体化の遠因でしょうね。

    韓国が、アメリカ造船業界への支援を発表していますが、改善していくのかどうか注目しています。

    日本目線で見ていると、アメリカ軍がウクライナ・中東などに手をとられて備蓄などが消耗してるわけですが、極東の安全保障大丈夫なのか心配になりますね…

    29
    • p-tra
    • 2025年 8月 21日

    LawやLSMを肯定する理由がまた増えたましたね。
    しょーもない火災ですら10億ドルの揚陸艦を失わせる
    可能性があるのだから、もっと小型にすべき。
    正直ウェルドックすらいらないでしょう。
    現代の対艦SSMに強襲揚陸とかそもそも無理だと思う。
    ビーチングできる小型揚陸艦を中心に多用途に発展した
    方が良いと思います。

    7
    • ななしのシロウト
    • 2025年 8月 21日

    造船業:韓国
    鉄鋼業:日本
    半導体:台湾、韓国、日本(製造装置や素材)
    米国の強大な軍事力を維持するためには、東アジア3ヶ国の協力が必要な状況だと思います

    17
      • 特盛
      • 2025年 8月 21日

      超大国だったはずが、かつて打ち負かした国とかつて作った傀儡国を頼らなければならないという…

      7
    • もへもへ
    • 2025年 8月 21日

    最近アメリカの揚陸艦燃えすぎじゃ。。。。
    要求された稼働率が80%なのに実際は46%ですとか、もはや破綻してるとしか言いようがないし、米国の造船所は様々な理由から整備も建造も遅すぎる。

    そして期待の星だった無人艦艇もトラブってるとなると、今までの前科が多過ぎて海軍は議会に睨まれてますが、直に議会がブチギレて艦艇開発が更に難しくなるのではないか。

    自業自得ではありますけど。

    19
      • もへもへ
      • 2025年 8月 21日

      46%じゃなくて41%でしたね
      失礼

      4
    • ゴモラ
    • 2025年 8月 21日

    これが、斜陽の帝国の姿か…

    10
    • PAC3
    • 2025年 8月 21日

    アメリカ海軍の現状(惨状)を報じる記事がこのサイトの記事でたびたび報じられえていますが、トランプ政権に替わって米軍の方針転換を色々図る計画に舵を切りましたが、アメリカ海軍はハワイまで撤退しないと維持できないのでは?と素人にも思わせてしまいます。
    仮想敵国も外交や経済政策の反動による混乱が来るであろうトランプ政権末期にも行動を起こしてしまうのではないかという悲観した未来しか想像できないのが悲しいですね。

    3
    • 2025年 8月 21日

    いやはや、まさかこれほどまでに衰退しているとは…

    同盟国という名の隷属国(日本等)がいなければ、アメリカ大陸沿岸を警備するのがいいところなんでしょうねもはや…

    8
      • kitty
      • 2025年 8月 21日

      いちいち

      >同盟国という名の隷属国(日本等)がいなければ

      を入れるビョーキ。

      47
        • 2025年 8月 21日

        日本が米国に隷属している、なんて公然の事実であり、いちいち突っかかってくる意味がわかりません。

        自国のこととなれば、ちょっとした言及でも殊更ナイーブになる姿は、何ともみっともなく見えますね。自信のなさの裏返しでしょうか。

        5
          • もん
          • 2025年 8月 21日

          >いちいち突っかかってくる意味がわかりません。
          本心は絡まれて嬉しいのに隠さなくてもいいんですよ。
          傍から見るとあまりに哀れですが。

          25
          • kitty
          • 2025年 8月 21日

          さすがにこの開き直りは、「確信犯の荒らし」のそれだと思うのですがね。

          18
          • 特盛
          • 2025年 8月 21日

          日本叩きbotいい加減しつこい
          荒らしは帰れ

          15
      • 山田さん
      • 2025年 8月 21日

      こういう表現って事実だと思って書き込んでるんですか?
      それともそう言う指示がどこからから来てるんですか?
      ちょっと気になるので教えて下さい!

      19
        • あまつ
        • 2025年 8月 21日

        これやると必ず噛みつかれてレスが付く、要は承認欲求が満たされるんだよ。
        ただ、ここまであからさまに誹謗を垂れ流してると放置してる管理人氏の方に問題を感じるけどね。

        29
          • マサキ
          • 2025年 8月 22日

          いやいや、今僕たちが見ているのは、100個くらい投稿した内の唯一消されなかった1個なのかも。

          1
          • 特盛
          • 2025年 8月 23日

          自分もこの荒らしにはウンザリだけど管理人さんはよく対処してると思うし、言論統制ともとられかねないことはしたくなくて慎重なのかもしれない。
          ここで管理人氏叩きには持って行きたくない。

          2
    • 神田明(仮名)
    • 2025年 8月 21日

    火災を起こした艦艇の損害状況を早く知りたいですね。

    5
    • 朴秀
    • 2025年 8月 21日

    幽霊艦隊…帳簿上でだけ存在してたりして

    1

ポチって応援してくれると頑張れます!

にほんブログ村 その他趣味ブログ ミリタリーへ

最近の記事

関連コンテンツ

  1. 米国関連

    米空軍の2023年調達コスト、F-35Aは1.06億ドル、F-15EXは1.01…
  2. 欧州関連

    オーストリア空軍、お荷物状態だったタイフーンへのアップグレードを検討
  3. 欧州関連

    アルメニア首相、ナゴルノ・カラバフはアゼル領と認識しながら口を噤んだ
  4. 北米/南米関連

    カナダ海軍は最大12隻の新型潜水艦を調達したい、乗組員はどうするの?
  5. インド太平洋関連

    米英豪が豪州の原潜取得に関する合意を発表、米戦闘システムを採用するAUKUS級を…
PAGE TOP