米国関連

米国がパトリオットに続きTHAAD迎撃弾も増産、年96発から年400発へ

Lockheed Martinは1月6日「国防総省とPAC-3MSEの年間生産能力を約600発から2,000発に増強する枠組みで合意した」と発表したが、29日「国防総省とTHAADミサイルの年間生産能力を年96発から年400発に増強する枠組みで合意した」と発表した。

参考:Lockheed Martin and U.S. Department of War Sign Framework Agreement to Quadruple THAAD Interceptor Production Capacity
参考:Lockheed, Pentagon ink plan to boost THAAD interceptor production

従来とは異なり「サプライヤーが増産を見込んで先行投資する環境」が考慮されているため、米防衛産業にとって明るいニュースだ

弾道ミサイルは射程距離によって大陸間弾道ミサイル(ICBM)、中距離弾道ミサイル(IRBM)、中距離弾道ミサイル(MRBM)、短距離弾道ミサイル(SRBM)、戦術弾道ミサイル(TBM)に分類されるものの、発射から着弾までの弾道軌道をどのように選択するかでペイロード、弾道までの時間、迎撃の難易度が変化し、現時点で迎撃可能なのは弾道ミサイルが宇宙空間を慣性飛行している中間段階、弾道ミサイルが目標に向けて大気圏に再突入している終末段階のどちらかしかない。

出典:Photo by U.S. Navy Lt. Amy Forsythe, Public Affairs Officer, Naval Support Facility Deveselu

米国のミサイル防衛は大陸間弾道ミサイルを中間段階で迎撃するGBI、弾道ミサイルを中間段階で迎撃するSM-3、弾道ミサイルを終末段階の上層で迎撃するTHAAD、終末段階の下層で迎撃するPatriot PAC-3で構成され、SM-3、THAAD、Patriot PAC-3は実践で弾道ミサイルを迎撃した実績を備えており、米国は2025年のイラン・イスラエル戦争でもTHAADを2セット配備してイランの弾道ミサイル迎撃に参加したが、イスラエルのArrowと並行運用されたTHAADは猛烈な勢いで迎撃弾を消耗し、Wall Street Journalは2025年7月「これまで調達したTHAADミサイルのほぼ1/4(150発以上)を消耗した」と報じた。

“ある国防当局者は「あまりにもTHAADミサイルの需要が膨大だったため、国防総省はサウジアラビアが購入した分の転用計画すら検討していた」「サウジアラビアの都市や石油施設も危険に晒されていたため、この協議は非常にデリケートな問題だった」と明かした。国防総省の予算文書によればTHAADミサイルの価格は1発1,300万ドル前後、2010年以降に約650発を調達し、2026年度には37発の購入を予定している。国防総省の予算とミサイル調達を研究しているCSISのアナリストは「対イラン戦争中に消耗したTHAADミサイルを補充するには1年以上かかり、15億ドル~20億ドルの費用がかかるだろう」と指摘した”

出典:Photo by Army Capt. Adan Cazarez

War ZoneもWSJの報道を引用して「6月に公開された2026会計年度予算案によれば、これまでにミサイル防衛局は646発分のTHAADミサイル調達資金を受け取っているが、この資金で発注しているTHAADミサイルを全て受け取っているわけではない」「さらに迎撃弾のテストや部隊の訓練で取得したTHAADミサイルの一部を消耗している」と指摘し、仮に150発以上のTHAADミサイルを中東で発射していた場合、実際の備蓄減少は1/4を越えると示唆。

さらに「米軍は150発以上のTHAADミサイル補充資金を確保するだけでも4年かかる可能性がある上、発注から納品まで数年かかることも留意する必要がある。ミサイル防衛局が発注したTHAADミサイルのLot13の納品は契約締結から5年後の2027年初頭を予定している」「WSJはTHAADミサイルの増産を米軍とLockheed Martinが協議していると報じているが、これも実行するのに時間がかかるだろう」「米軍が今後どのような措置を講じるにせよ、WSJの報道内容は『THAADミサイルの備蓄量が懸念されるほど持続不可能である』と指摘している」と指摘。

出典:Lockheed Martin

Lockheed Martinは29日「国防総省とTHAADミサイルの年間生産能力を4倍に強化する枠組みで合意した」「THAADミサイルの生産量は今後7年間で年96発から年400発に増加する」と発表、これはPAC-3MSE増産の合意と同じで「今後7年間で迎撃ミサイルの生産量を増加させると合意しただけ」で、この枠組みが効力を発揮するのは議会が2026年度予算を承認後の話で、まだ具体的な7年間に渡る複数年の調達契約を締結したわけではない。

それでもPAC-3MSE増産やTHAADミサイル増産の枠組みは「国防総省が約束した複数年契約から離脱した場合、枠組みで定められた増産への投資=非反復的費用をLockheed Martinに払い戻す条項」が含まれおり、Lockheed Martinも「我々が増産にかかる非反復的費用を負担する」「キャッシュフローのタイミングを調整することで主要サプライヤーの今後数年間のキャッシュフロー計画が相殺されるようにする」「つまり増産に参加するいかなる企業にも資金面でマイナスの影響を与えない」と述べている。

出典:Lockheed Martin

要するに「生産能力の増強にかかる設備投資を如何なる場合でも補填する」という意味で、従来とは異なり「サプライヤーが死の谷を恐れず増産への先行投資に取り組む環境」が用意されているため、PAC-3MSE増産やTHAADミサイル増産の枠組みは米防衛産業にとって明るいニュースだ。

因みにSM-3の生産量についても言及しておくと「SM-3はBlock IBとBlock IIAの並行生産が行われている」「Block IBの年間生産数は30.6発前後」「Block IIAの年間生産数は12発」「THAADミサイルは1発19億円、SM-3 Block IBは1発18億円、Block IIAは1発54億円」で、Block IIAを10発購入するコストはF-35Aを5機購入するのとほぼ同額、20発購入するコストはもがみ型護衛艦の能力向上型=新型FFMの建造費用とほぼ同額になり、弾道ミサイルを使用した攻撃の被害を緩和するには「高価な迎撃ミサイルの増産」だけではく「シェルター建設」や「避難訓練」といったアプローチも組み合わせるべきだろう。

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※アイキャッチ画像の出典:Missile Defense Agency

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コメント

  • コメント (11)

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    • たむごん
    • 2026年 1月 31日

    アメリカ軍基地だけでなく、潜在的に利用可能な同盟国の拠点(空港・港)も考えれば、世界中に膨大な数があります。

    攻撃側と防御側で見たときに、防御側の方が防衛コストが高く・生産性が低い事を考えれば、とても頭の痛い問題ですね。

    6
    • AKI
    • 2026年 1月 31日

    電子機器の生産は間に合うのだろうか。
    日本が生産を請け負うパトリオットも電子機器が納入遅れになっているようだし、F-15JSIもそう。
    言うはやすしにならないでしょうか。

    2
      • ネコ歩き
      • 2026年 2月 01日

      この増産計画枠組みでは
      >増産に参加するいかなる企業にも資金面でマイナスの影響を与えない
      が国防総省及びLMによって約束されるので、必要な電子機器のサプライヤー企業も安心して設備投資できるわけです。生産数は段階的に増加させるので、ボトルネックになるサプライ機器はあるでしょうが時間と共に解消されるかと。

      2
    • MK
    • 2026年 1月 31日

    流石に値段高すぎて売れると確約されるまでは作らないですねこれ。ここまで費用対効果悪いと防衛より攻撃ってなるのも解ります、高額な上数が揃わないこの手の迎撃云々より弾道ミサイル等の長距離兵器整備して、そもそも相手からの攻撃を躊躇させる方が良いのでは?と少し思います。

    5
      • 神田明(仮名)
      • 2026年 2月 01日

      >流石に値段高すぎて売れると確約されるまでは作らないですねこれ。

      兵器は通常、受注生産です。

      4
    • kitty
    • 2026年 1月 31日

    THAADミサイル数機を配備するのを大騒ぎしていた時代が懐かしい。

    12
    • 撃つ側有利
    • 2026年 1月 31日

    弾道ミサイルの物量攻撃は制空権をいくら握ろうが防げてないし、撃つ側の有利はまだ覆らないんだろうな。特殊工作員も分散して隠匿、移動しているミサイルランチャーの全ては捕捉できないだろうし。

    • pow
    • 2026年 2月 01日

    大幅増産はありがたいですが、輸入している国々が恩恵に預かれるのが何時位からでしょうか気になる所。

    2
      • ネコ歩き
      • 2026年 2月 01日

      ゴールデンドーム構想に関わる増産計画ですかね。アメリカファーストですから、海外提供は所定の備蓄量を確保した後でしょう。早くてトランプ退任後か。

    • SB
    • 2026年 2月 01日

    ところで記事にも出てくるSM-3のBlockⅡBはどうなったんだろうか

    • daishi
    • 2026年 2月 01日

    防衛装備ベンチャーのように大手防衛装備企業もアメリカ連邦政府からの檄入れで投資に前向きになったようですね。
    とはいえ「ちゃんと買ってくれる」事が大前提のため、ここでハシゴを外すような政策をアメリカがやると各国の調達にも影響するので、日本など現地生産組にも効果が出ると良いのですが

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