米国関連

米軍にとってもFPVドローンは主要な攻撃手段、海兵隊が専門部隊を創設

米陸軍がFPVドローンを取り入れていると2024年3月に確認されていたが、米海兵隊も「戦場で一人称視点のFPVドローンが急速に普及していることに対応するため専門部隊を創設した」「FPVドローンは5,000ドル以下で約20kmの範囲に分隊レベルの殺傷力を提供できる」と発表した。

参考:Marine Corps Launches Attack Drone Team
参考:Neros Wins Contract To Send 6,000 American-made Drones To Ukraine

最低でも月5,000機の供給能力がなければドローン供給者として役に立たない

ウクライナ軍は侵攻初期から小型ドローンを偵察だけでなく攻撃にも活用、運搬した手榴弾で物陰や塹壕に隠れる敵兵士、上部ハッチが開いたままの装甲車輌を攻撃して西側諸国を驚かせたが、ロシア軍も直ぐ同じ方法を採用してきたため「小型ドローンと手榴弾の組み合わせには軽視できない効果や利点がある」と認知され、米陸軍も分隊向けに採用したRQ-28Aに手榴弾を搭載・投下するキットを開発、2023年2月の演習でテストして注目を集めたが、既に戦場では一人称視点のFPVドローンを使用した攻撃に移行している。

出典:U.S. Army photo by Sgt. David Cordova 米陸軍特殊部隊群・第10特殊部隊グループの兵士がFPVドローンを運用する様子

供給量が限定的だった投入当初、FPVドローンは装甲車輌の攻撃に優先使用されていたが、供給量の増加に伴い敵兵士1人であってもFPVドローンの攻撃対象に、さらには榴弾砲や重迫撃がカバーしていた任務の一部(前線の後方地域における攻撃)をFPVドローンが担うようになり、ウクライナ人ジャーナリストのブトゥソフ氏も「歩兵の死傷者を減らすには1機でも多くのFPVドローンが必要だ」と訴えるほどで、前線を形成する塹壕戦の様相は大きく様変わりしてしまった。

米陸軍もFPVドローンを取り入れていることが2024年3月の演習で確認されていたが、米海兵隊も3月末「戦場で一人称視点のFPVドローンが急速に普及していることに対応するため専門部隊=Marine Corps Attack Drone Team(MCADT)を創設した」「MCADTは迅速にFPVドローンをFMF=艦隊海兵軍に統合し、部隊の攻撃効率を強化し、現在の兵士に欠けている有機的な能力を提供することだ」「FPVドローンは5,000ドル以下で約20kmの範囲に分隊レベルの殺傷力を提供できる」と発表。

出典:U.S. Marine Corps photo by Cpl. Joshua Barker 米海兵隊の兵士がFPVドローンを運用する様子

米軍の正式な攻撃手段にFPVドローンが採用(現時点で正式採用されている機種はNeros製のN1 Archerのみ)されため「戦場でのドローン使用は不足する対戦車兵器を補うための一時的な措置という見方」を否定した格好で、次に聞こえてくるのは「光ファイバー制御のFPVドローンを導入する」というニュースになるだろう。

因みにウクライナ軍が使用するFPVドローンの調達コストは300ドル前後で、光ファイバー制御のFPVドローンには「光ファイバーと信号伝送用のマイクロ回路を備えたコイル」が必要になるため1,500ドルから2,000ドルもしていたが、ニーズと調達の拡大によって700ドル前後で調達できるようになっている。

出典:U.S. Marine Corps photo by Cpl. Joshua Barker N1 Archer

追記:Nerosは今年2月「半年で6,000機のFPVドローンをウクライナに納入する契約を獲得した」「我々が会社を設立して最初にやったことはウクライナに行くことだった」「そこで『最低でも月5,000機の供給能力がなければ役に立たない』と言われた」「2年間でたった3,000機しか調達しない国防総省の取り組みとは対照的だ」と述べており、Nerosは既にドローンの生産能力を月1,000機以上に拡張し、月10,000機以上の生産能力を目指しているらしい。

関連記事:ウクライナとロシアが戦場で使用するFPVドローン、米陸軍も演習でテスト
関連記事:ウクライナで実証されたドローンと手榴弾の組み合わせ、米陸軍も演習でテスト中

 

※アイキャッチ画像の出典:U.S. Marine Corps photo by Lance Cpl. Saige Steiber

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コメント

  • コメント (15)

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    • 無印
    • 2025年 4月 08日

    月1万機っても、使わなきゃ在庫が積みあがるだけだけど、使う状況なんて無い方が良いし、難しいよね
    こういうドローンって、倉庫で保管して10何年後、いざ使うって時に使える物なんですかね?

    6
      • らっく
      • 2025年 4月 08日

      まず無理。電池を取り外しできるようにしておいたとしても、プラスチックの加水分解や紫外線劣化で完全な作動を期待できるものではない。また、出始めの兵器であることによる著しく早い陳腐化を考えると、備蓄は良い手ではなく、いざという時の迅速な生産力拡大の方に手を尽くすべきだけど、先進国にとってはそれは難題だよな。

      23
      • T.T
      • 2025年 4月 08日

      古いパソコンいじってると、まずコンデンサがやられますしね。半導体だって寿命が無いわけじゃ無いし。期待寿命としてはもって2,30年くらいだったはず。
      普段は数要らないけど、有事になったら月産10万機ってのは営利企業の自主的な取り組みではほぼ不可能だから、やっぱ国が金出すか国営工廠を維持するしか無いんじゃないかな。

      12
      • Authentic
      • 2025年 4月 08日

      十数年くらいならちゃんと保管してれば大丈夫でしょ
      普通の家電ですらそれくらいは持つからね

      2
      • ネコ歩き
      • 2025年 4月 09日

      10数年程度の保管なら、相応のコストを掛け対策を取ることで若干の即応可動率低下ぐらいで収まると思いますよ。
      その点以外は「らっく」さんに概ね同意です。
      今後10年数年の間に無人装備とその対応手段は飛躍的に進化する可能性が高いです。有用・低コストかつ大量生産に即応可能な無人兵器の研究開発はその中の一ジャンルとして成長していきそうに思います。

      • fuyu
      • 2025年 4月 10日

      日常においては、過疎地における荷物の配達などに使ってほしいなと思っております
      まったくもって効率が良くないと思いますが、国家としての有事に対する訓練と思えば許容できるのではと・・・

      また、基地や港湾の低高度の防空のために大量のドローンを運用したりしてほしいなと思います
      常にそういうことをやっていれば、ドローンの運用を洗練させて行けるのではないかなと思います

      とにかく大量に生産して、使い始めてほしいなと思います
      経年劣化等での故障も織り込んで、どんどんやってほしいです

    • kitty
    • 2025年 4月 08日

    現場では、300ドル・700ドルのドローンで戦争やってんのに、5000ドルで分隊規模の攻撃能力とか言ってるところが、国防総省のお役所たる所以が遺憾なく発揮されていますな。

    13
      • Whiskey Dick
      • 2025年 4月 08日

      電動ドローンの半分程度はジャミングでやられるらしく、但し1機当たり10万円弱(因みにジャベリンは1発1,000万円)なので「数撃てば当たる」の感覚で複数同時攻撃は必須でしょう。また人件費や後方支援に掛かる費用を考えるとどんぶり勘定で5,000ドルぐらいなのでは。

      8
    • たむごん
    • 2025年 4月 08日

    弾薬155mm砲の価格と比較すれば、大砲・砲身もいらないですから、価格面では問題ない気もするんですよね。

    1台70万円・年間調達数1万機・70億円程度ですから、他装備の価格高騰を見ると、なんだかんだ安いのかなと。

    訓練・紛争などで使っていくのであれば消耗していくでしょうから、もっと調達しても問題ないでしょうね。

    9
      • nachteule
      • 2025年 4月 08日

       155mmと比較するとしたら1発当たりの威力、砲弾の多様さ、飛翔速度、量産のしやすさ投射出来る距離とかトータルで見ない事にはフェアじゃないでしょう。
       価格面だけ見て兵器の性能を推し量るよりは適材適所で上手く運用する方が正解でしょう。そうでなければドローン先進国のウクライナに各種榴弾砲や弾薬を送るのは無駄な訳ですが、そうではないでしょう。

      5
        • たむごん
        • 2025年 4月 09日

        記事の内容に、榴弾砲・重迫撃の代替としてのニュアンスがあったので、単純に比較を考えてみました。

        ウクライナ戦争の戦訓は、消耗品の価格面かなり重要であり、安いから調達しやすいというのもあると思うんですよね。
        1発1000万円エクスカリバーなんかも多様な砲弾の一つかと思いますが、高価すぎて数が少なく妨害電波により命中精度も低下したのも、ウクライナ戦争の戦訓だなと。

        榴弾砲のメリットを否定するつもりはないですが、大砲がない部隊でも代替の役割を果たせる武器、20km以内の射程があるというのは非常に頼もしいと思いますよ。

        >さらには榴弾砲や重迫撃がカバーしていた任務の一部(前線の後方地域における攻撃)をFPVドローンが担うようになり…

        2
    • 理想はこの翼では届かない
    • 2025年 4月 08日

    ちょっと前の装甲車両の記事でも似たようなコメントをしましたが、軍需産業としては参入・採用してもらえればウハウハな状況ですね
    $700の調達コストという事は儲けを当然乗せてるので製造原価的には$300~500ぐらいでしょうか
    これが月10,000機の納入が約束されるなら、かなり利益を少なく見積もって$100/機の利益だとしても100万ドル/月の利益になるのですから、金を出さない米国防総省の相手なんてしてられるか!って感じでしょうね

    1
      • hoge
      • 2025年 4月 08日

      ちなみに一般的な製造業だと粗利が4割ほどあればとりあえず潰れません……5割あれば優等生ですね
      AIでイケイケのNVIDIAみたいな粗利75%は設計専門で設備投資から逃げるファブレス方式じゃないと無理です

      しかしこの構図、典型的な戦争ケインジアン……
      アメリカはいつまで続ける気なのか

      2
    • daishi
    • 2025年 4月 08日

    クルスクでは多数のドローンで兵士の排泄などの生理現象すらままならない状況になったため、FPVドローンが与える影響はより重大になりました。
    FPVドローンへの対処だけでなく、兵站、兵士の士気維持などさまざまな課題が考えられ、これらをシステムや戦術としてどうまとめるかが次のステップだと思います。

    3
    • メロン
    • 2025年 4月 08日

    寧ろ今のアメリカ向きだと思ってたぐらい

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