2023年に設立された米新興企業=Aeonは「ソフトウェア定義型の兵器開発」と「シリコンバレー流のスピード開発」を掲げており、ローンチイベントでジャベリンと比較して90%以上のコスト削減を実現したモジュール式戦術兵器システム「Zeus」の試射を披露して注目を集めている。
参考:Aeon
ゼウスが米軍採用など一定の信頼性を証明できれば売れない訳がない
ランド研究所は「米諜報機関や米軍の上層部が習近平主席が2027年までに台湾統一の準備を整えるよう指示したと公に警告している」「習主席は2027年までに武力統一という選択肢を手に入れたいのだろう」「一方の国防総省は2027年もしくは以降に中国の軍事的アプローチを確実に否定できると示せていない」「2027年までに新しいアプローチや新しい調達に資金を投じるにはギリギリのラインで従来発想で問題に対処するのは時間切れだ」と指摘。

出典:China Navy
台湾海峡を舞台にしたウォーゲームでも「米軍の勝利が困難」もしくは「勝利のコストが高すぎる」と示唆されており、ランド研究所とSpecial Competitive Studies Projectは「どのようなアプローチなら問題を数年以内に改善できるか」を共同で模索し、この改善策がウォーゲームでどの程度有効だったかを2023年8月に発表して注目を集めたことがある。
これが過去のウォーゲームと異なるのは「参加したシリコンバレーの経営者や技術者が戦略家や専門家とは異なる視点とアプローチで問題改善に取り組み、提示した改善策は全て既存の技術で構成されている」という点にあり、この改善策をウォーゲームで評価した米豪台の文民・軍人は「有望である」と認めた所だろう。

出典:總統府 / CC BY 2.0
大半の改善策は「人民解放軍のキル・チェーンを如何に阻害して米軍(台湾軍)の生存率を向上させるか」に関連し、透明度の高い戦場で生き残るには「囮と欺瞞」「機動性」が重要で「戦場で静止するあらゆる資産の寿命は極めて短い」と指摘、戦場の兵士や指揮官は敵に発見され破壊されるのを防ぐため機動性を高め、これは前線部隊やロジスティクスだけでなく後方の司令部にも当てはまる。
要するに空中と海上に「価値の高い目標」を模倣させるドローンをばら撒いて人民解放軍の認識力を阻害、人民解放軍の監視下に入る味方部隊に警告を与えるアプリケーションを開発して物理的、電子的、サイバー的な偽装を行うタイミングを指示、安全性の高い通信環境で情報を共有し、分散しながら移動する部隊を統合指揮する能力が「反撃の鍵になる」という意味だ。

出典:U.S. Air Force photo by Brian G. Rhodes
17の改善策を取り入れたウォーゲームでは米軍が失う第5世代機の損失が50%削減され、逆に人民解放軍が失う戦闘機の数は70%、水陸両用部隊の損失も66%に増加したが、活用された既存技術は市場に出回っている技術なので人民解放軍も同様の改善策を取り入れることができ、ランド研究所は「米軍が取り組みを怠れば致命的なギャップを生むかもしれない」とも警告している。
Atlantic Councilが2022年に設立したディフェンス・イノベーション導入委員会も2024年1月「国防総省の時代遅れな調達プロセスが『革新的な技術の統合』や『機敏な新興企業との協力』を妨げている」「米企業は技術的優位性を発揮し続けているものの国防総省が『より速いスピード』で調達・配備しない限り、このイノベーションは戦争抑止に殆ど役立たない」「国防総省が民間ベースのイノベーション採用に苦労しているのは『柔軟性に欠ける調達計画』『それを実行するスケジュール』『新しい技術に関する知識不足』『防衛産業基盤の縮小』に関連している」と指摘。

出典:Anduril
“時代遅れの研究開発モデル:国防総省の要求要件と調達プロセスは『研究開発における世界最大の資金提供者』であった時代に合わせて設計されたものだ。現在の研究開発に占める連邦政府の割合は20%を下回り、国防総省のやり方はイノベーションを牽引する立場から追いかける立場に転落した現実に適応していない。もう重要な技術開発の大半は民間が牽引しており、非商業的な研究機関によるイノベーションは商業化や普及に結びつくことがなくなった”
“長期間のスケジュールと柔軟性のさな:もはや研究開発を牽引する資金提供者の立場は国防総省から民間企業に移り、潜在的な脅威、技術的な飛躍、戦闘概念の進歩、マクロ経済やサプライチェーンの混乱といった変化はどんどん加速しているにも関わらず、国防総省は10年以上前の要求要件で作られたシステムを調達している。ハードウェア中心の調達モデルは変化の速いソフトウェアの進歩を効果的に統合できない”

出典:Jake Paul
これを体現しているのがAndurilやShield AIといった防衛産業の新興企業で、これらに共通するのは大まかに「①アイデアを素早く形にしてみせる力」「②時代遅れの軍事技術ではなくデュアルユース技術でシステムを構築する力」「③ハードウェアではなくソフトウェアで違いを作り出す力」の3点になり、どれも伝統的な防衛企業が不得意とするものばかりだ。
2023年に設立されたばかりの新興企業=Aeonも「ソフトウェア定義型の兵器開発」と「シリコンバレー流のスピード開発」を掲げており、国防総省や中小企業庁と協力して安全保障に不可欠なクリティカル・テクノロジー(重要技術)を持つ企業に資金を供給している投資会社=Rochefort Venturesのカイル・バス最高経営責任者は20日「Aeonの新型肩撃ち式ミサイルの発射試験が成功した」「これほど短期間で大きなマイルストーンに到達したAeonのナウィード・タフマス最高経営責任者と彼のチームの功績は極めて大きく驚くべき結果だ」「このシステムはジャベリンと比較して90%以上のコスト削減を実現している」と言及。
We conducted a successful test launch of Aeon’s new shoulder-fired missile at our ranch in East Texas today. Huge credit to @naweed and the team for reaching this milestone in such a short time…an incredible effort.
The system delivers over 90% cost savings compared to Javelin. pic.twitter.com/N7uJA5T3FB
— 🇺🇸 Kyle Bass 🇹🇼 (@Jkylebass) March 20, 2026
これはAeonが開発を進めているモジュール式戦術兵器システム「Zeus(ゼウス)」のことで、ターマス氏はゼウスについて1月「ナプキンの落書きから誘導ミサイルの飛行試験、そして垂直統合=自社生産体制の確立までを9ヶ月間で成し遂げた」「現在の戦術兵器のラインナップは30年以上も前のもので時代遅れだ」「Aeonは現場の兵士と直接連携して現代的で高度な兵器システムを構築し、彼らの攻撃能力を高める」「我々は信管、推進剤、固体ロケットモーター、点火装置、制御駆動システム、各サブシステムを全部自社で内製している」「これにより安価な兵器を圧倒的な数で提供することが可能になった」と述べていたことがある。
Aeonがゼウスを「対戦車兵器」ではなく「戦術兵器システム」と呼んでいるのは「モジュール式のペイロードを工具なしで交換可能できるため」で、つまり「多目的に使用可能な肩撃ち式のミサイルプラットホーム」と呼ぶべき存在だが、他にも「自社開発したODIN=自律型ターゲティングソフトウェアの採用」と「米国製の市販品部品を使用して構築されたシステム」という特徴を備えており、ODINはハードウェアではなくソフトウェアで違いを作り出す原動力に、市販品部品の使用はデュアルユース技術の採用を意味している。
From napkin drawing to guided missile flight & vertical integration in 9 months.
The tactical arsenal is 30+ years old. @AeonIndustrial works with operators directly to make them even more lethal by building modern, advanced weapon systems.
We produce our own fuzes,… pic.twitter.com/yU1wInEUFl
— nt (@naweed) January 12, 2026
Aeonと米陸軍は昨年夏頃にゼウス開発に関する協力協定を締結し、予定よりも早く納入されたゼウスの実弾射撃テストを秋頃に行い、それ以降もゼウス試射を何回を行っているため、3月20日の発射試験が初めてというわけではない。これが大きなマイルストーンと呼ばれているのは「ゼウスのローンチイベントで披露した試射だった」という意味で、ここからゼウスがどのようにビジネスを展開していくのかは不明だが、ジャベリンは1発あたり20万ドル~25万ドル(3,000万円〜3,750万円)もするため、ゼウスの価格は約2万ドル(約310万円)程度となる。
ゼウスが米軍採用など一定の信頼性を証明できれば売れない訳がなく、イノベーションから取り残されつつある軍事技術やハードウェア依存型の兵器開発は「デュアルユース技術とソフトウェア定義型の兵器開発」に駆逐されるかもしれない。
因みにウクライナ防衛企業=FIRE POINTの共同創設者兼チーフデザイナーを務めるデニス・シュティレルマン氏は「兵器の価格が高価になる理由」について「その大半の理由は官僚的な手続きのせいだ」「これはFIRE POINTだけではなく世界の防衛企業に共通する負担だ」「ボーイング747は構想から最初の商業飛行まで6年、エアバスA380の場合は25年もかかった」「これは全て官僚的な手続きのせいで誰にも必要とされていない書類を作るため無数のエンジニア、弁護士、マネージャーが必要になる」「さらに手続きに必要なテストにも何年もかかり、この全てのコストが最終価格に加算されるのだ」と述べていたことがある。
現代の兵器開発にまつわる複雑な制度・認証の全てが無意味だとは思わないものの、ここから無駄を省くことができたなら兵器の最終価格はもっと安いのかもしれない。
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※アイキャッチ画像の出典:Aeon





















300万のミサイル!?価格破壊すぎる、何でできてるんだ
こんなので装甲車や戦車を破壊されたらたまらんなぁ
最近の戦闘車両はガンガン高価になってるし
初期ロットのレオパルド2A8が1つ50億円だし流石に高すぎるんだよね
これで別に無敵って訳でもないのだから不要論が出るのはやむなしか
300万円は確かに驚異ですが、これが安すぎると言うよりこれ以外が高すぎるのでしょう。米国の官僚的手続きによるコスト膨れ上がりの非効率さはまさに世界トップクラスですから
民生品(デュアルユース技術)を活用できるのであれば、コスト物凄い下がりますよね。
特注品(少ない生産量)になればなるほど、軍需製品の価格に固定費がドンドン乗っかり、とんでもない価格高騰に繋がります。
部品原価=『固定費』+変動費
極端な話しですが、民生品として流通している部品(規格化されているもの)を採用すれば、固定費も安くなりますし・取扱いに慣れた人を採用しやすくなるだろうなと。
既に日本には工業基盤があるんだから、同じ事が出来ると思いたい。
新興防衛企業が現れて上手くやってくれないかなぁ・・・
単に価格だけでなく、防衛の米国依存からの脱却や、継戦能力といった踏み込んだ課題に対しても非常に有効だと思われる。
ほんと仰る通りですね。
AndurilのKizunaドローン、アスター工業との提携を見ても、その点を強く感じました。
民生品の利用は数年、下手したら1、2年でモデルチャンジする可能性があるっていう致命的な問題があるんですよねぇ
軍事に限らず産業の重要な部分だと「『同じ部品』で『同じ作り方』をしろ。変更するなら再申請して評価・再認証」ってなるので結局専用部品の方が楽ってことも…
ミサイルなんか使い捨て何だから、毎年チャッチャッと作れば良い。
そういう訳にもいかんのですよ
部品とか設計変えたら再度試射をするでないにしても、前と同じ性能が担保されてるかを証明・保証しなきゃいけないので
ドローンをウクライナ並みに活用するには高度なネットワークと蓄積されたノウハウが必要だから、打ちっ放しの歩兵携行ミサイルの需要はまだまだある
どころか世界が欲してる物は正にこれだろうな
この開発方式が進んで、対空ミサイルとかにも応用できるようになれば一気に高度なミサイル不足が解消される可能性もあるかもしれない
アマゾンウエブサービスからアンソロピックのクロードなど、全企業全世代のスタートアップが決定的な戦争遂行能力となりつつあり、過去の戦争は国家において一部の人間の一部の営みから様変わりしつつあるようだ
上記記事の指摘通り過去の戦争観に留まる企業組織はいずれ圧倒される可能性が出ている
民生品で当たり前に行われていた事が兵器市場にやっと来たってとこですかね。
ドローンの登場で戦場でのコスパが重要視される中、民生品の市場原理が導入されるのは自然な流れに思います。
民生品は生産終了や仕様変更や信頼性の保証に対応する必要があるのでは?
でも数をそろえるために併用するんでしょうね
一定の長期運用が前提で部品交換等の定期的整備を必要とする装備品は、短期で仕様を変更したり民需の都合での部品生産終了は困るでしょう。軍需/民需で運用期間のサイクルが大きく異なる機材では問題も起こりえると思います。
でも元からそれらを前提とし代用部品の使用に冗長性を持たせた設計を行うことは可能なのかなと。
ゼウスのように撃って消費する前提の機材ならば問題はより少ないのでは。
防衛装備品だけあまりにも高いことに
納得が得られなくなってきましたかね
高価な物は消耗戦になったら不利なのは目に見えてますからね
だからその部品どこで作ってんの話だよね
アメリカの本当の問題はソフトウェア主導の経済成長に浮かれてハードウェアの生産基盤を喪失したことなんだからハードウェアを内製できてないなら何の意味もない
装甲車両だけでなく、これで低速ドローンぐらいは落とせるなら、最高だな。
>米国製の市販品部品
まあ、この米国製の市販品部品が何を意味してるかだな
アメリカで組み立てられた他国製の電子部品を使った電子機器なのか電子部品レベルまでアメリカ製なのか
前者なら意味がないし
というか、シリコンバレー流の開発は自由貿易で部品やらを国家間の水平分業で調達できることが前提だからね
そこがあらゆる部品のサプライチェーンが一国内あるいは一都市で完結してる深圳流のスピード開発と決定的に違う
だからアメリカで組み立てただけならこの話は部品の認証基準を下げたら民生品で早く安く作ることができましたというだけの話で以前の自由貿易が前提だったシリコンバレーの商売となにも変わらないし何の意味もない
それが不可能になるのが米中戦争なんだから
おっしゃる通りで元・政府効率化省のイーロン・マスク氏が、シリコンバレー流にテスラの車を中国で生産して日本のトヨタに勝とう、とか言ってたのに似ています。
自動車がまさにそうですが、試作車や改造車を既製品を使って手作りで何台か作るのと、量産車を何万台と作るのは全然別な話なわけです。ベトナム戦争のときにロバート・マクナマラが似たようなことを言って、戦闘機開発のコスト削減で失敗した過去の話もありましたが、全然何もそこから学んでいない、あるいはもっと悪くなっているように見えます。
「Aeonが開発したJavelin競合のZeus」と聞いた瞬間「Jusco」という単語を浮かべてしまいました。
「ナプキン=基本アイディア」から9ヶ月で具現化という開発スピードの速さは現代に求められますが、備蓄の観点では補修パーツの供給期間、パーツ互換性などCOTS由来の課題も今後出てくるのだろうと思います。
コスト削減は必要ではある…が…
「戦争が薄利多売される」時代になるのもまた困るよな…