米国関連

PrSM生産拡大のためATACMS生産中止が現実味、独企業は生産移管を希望

Lockheed Martinが製造する2種類の戦術弾道ミサイル=ATACMSとPrSMは生産は同じ施設と人員を共有しており、米陸軍はPrSM調達を拡大・加速するためATACMSの生産終了を望んでいる。早ければATACMSの生産は24ヶ月後に中止され、PrSMの生産能力は年400発台に増加する可能性がある。

参考:Army accelerates PrSM output as ATACMS nears sunset

どのアプローチが正解なのかは想定する条件や結果論でしかないが、考え方は置かれた立場や環境によって様々

米陸軍がMLRSやHIMARSで使用する戦術弾道ミサイルの調達はATACMSからPrSMに切り替わっているものの、Lockheed Martinは同盟国からの発注を処理するためATACMSの生産も続けており、現在は台湾発注分を処理している最中なのだが、ATACMSとPrSMの生産は同じ施設と人員を共有しているため、米陸軍はPrSM調達を拡大・加速するためATACMSの生産終了を望んでいる。

出典:Lockheed Martin

米陸軍の担当者はDefense Newsの取材に「Lockheed MartinとPrSMの追加調達(400発前後)契約を締結するつもりだ」「この契約に先立ち生産能力の増強にも取り組んできた」「陸軍は最初の契約に基づき2025年までに計100発のPrSMを受け取る」「ATACMSの生産を中止することでPrSMの生産能力は2028年までに年400発台に増加するだろう」「ATACMSの代わりにPrSMを同盟国へ提供するため輸出バージョンを仕様を早急に策定している」と述べ、ATACMSの生産を24ヶ月後に中止することを予定しているらしい。

ATACMSの射程300kmはミサイル技術管理レジーム(MTCR)の規制に引っかからないため輸出条件が厳しくないものの、トランプ政権は中距離核戦力全廃条約からの脱退を実行に移したため、開発途中だったPrSMの射程は条約の制限(500km)を越えて拡張されることになり、オリジナルのPrSMをMLRSやHIMARSの運用国に提供するには輸出条件を厳しくするか、MTCR規制に引っかからないよう射程を300kmまで短くしなければならない。

出典:Photo by John Hamilton

さらに同盟国とも共有不可能な技術が採用されているケースも想定されるため、PrSMの輸出バージョンはオリジナルと異なる可能性が高い上、MLRSやHIMARSでPrSMを使用するにはプラットフォームのアップグレードが必要で、PrSMではなくATACMSの継続供給を望む国(オーストラリア、バーレーン、エストニア、ラトビア、リトアニア、ギリシャ、韓国、ルーマニア、ポーランド、トルコ、カタール、アラブ首長国連邦、台湾、モロッコ)が出てきても不思議ではなく、RheinmetallはATACMSの生産を引き継ぎたいと申し出ている。

Rheinmetallのパッパーガー最高経営責任者は「HIMARSやM270を運用する同盟国や友好国からのATACMS需要が続いている」「そのためATACMSの生産をドイツに移転させ、米国の生産ラインをATACMSからPrSMに切り替えることが目標(将来的にはPrSMの製造も請け負いたいのかもしれない)だ」と述べており、この取り組みが承認されればATACMSの供給は2028年以降も続くかもしれない。

出典:Rheinmetall

因みにRheinmetallは米防衛産業(特にLockheed Martin)との積極的な提携を通じて「欧州における米国製システムの生産拠点化」を目指しており、この動きが非常に活発化しているため他の欧州企業から「Rheinmetallは米防衛産業の代理人」と認識され快く思われていないものの、パッパーガー最高経営責任者は「短期的なニーズを満たすためには米国製システムの現地生産が現実的なアプローチだ」と説明している。

どのアプローチが正解なのかは想定する条件や結果論でしかないが、考え方は置かれた立場や環境によって様々で、Rheinmetallの主張には当然「ビジネス上の思惑」も絡んでいる。

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※アイキャッチ画像の出典:Lockheed Martin

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コメント

  • コメント (6)

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    • SB
    • 2025年 10月 14日

    しかしまあ、陸でも空でも海でも射程数百kmが当たり前になるとはちょっと前だと考えられないな
    弾頭重量が全然違うとは言え、スカッドクラスの射程の小型ミサイルがCEP1/100で突っ込んでくるんだもん、とんでもない時代だ

    29
    • hogehoge
    • 2025年 10月 14日

    同様の先行事例で米国はAIM260生産に舵を切り、日本はAIM120D3/C8の生産予定でコレも輸出が出来れば大きなビジネスチャンスになる
    必ずしも最新弾薬が売れる訳じゃなく、ベストセラー品にベストセラー品で継続的な需要がある
    この辺りのことはどうなっているんだろうか

    12
    • たむごん
    • 2025年 10月 14日

    日本だと自動車が有名ですが、政治外交面からも、現地生産されるというのはよくある話しですね。

    アメリカ国防産業は、上院議員・下院議員が各州工場リストラに政治問題になりやすいものですが、EUのスキームを通じて生産移転に繋がるような動きを興味深く感じています。

    4
    • せい
    • 2025年 10月 14日

    アップグレードしたMLRSを割安でATACMS運用国に供給するくらいはしないと、高性能兵器の更新なんて付き合わないんじゃないかな?
    仮にもATACMSの後継としてPrSM作ってるんなら、顧客のことも考えて、射程300kmバージョンや互換性ある物に作ればよかったのにって思う

    4
    • daishi
    • 2025年 10月 16日

    ミサイル技術管理レジームは、弾道ミサイル開発の過熱を防ぐための国際間協定・射程300km制限といえますが、公称280馬力とかの過去の国産自動車の自主制限的なものをイメージしてしまいますね。

    射程300kmのミサイルには需要があり、既存ランチャーをアップグレードなしに利用可能、となればATACMSのライセンス生産も合理的ではありますが、現在のミサイルもそれ単独でシステムなので「すべての部品をライセンス生産できる生産ラインを作る」となると現実的ではないかもしれないですね。
    もちろんPrSMとATACMSで共通の部品もあるでしょうから、その辺で融通がきけばお互いにメリットのある話だと思います。

    • 名無し
    • 2025年 10月 17日

    2年後ならそんなに驚くようなもんじゃないかな
    クラスターやBAT搭載型は射程が短いからかだいぶ前から作ってないようだし、単弾頭も弾体の大きさで射程延伸の見込みは薄かったし
    生産が移管されない場合、K239に似たような規模のミサイルがあるからこのクラスがほしい国はそっちを買うことになるかもね

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