米国関連

米陸軍の次期歩兵戦闘車プログラムに韓国企業のハンファディフェンスが挑戦

米陸軍の次期歩兵戦闘車プログラム(OMFV)にアジアからハンファディフェンス(韓国)とSTキネティックス(シンガポール)が挑戦すると報じられている。

参考:Hanwha, Oshkosh team for U.S. Army’s future ground combat vehicle competition
参考:Army gets BAE, GD Designs For Bradley Replacement

いよいよ4度目となるM2ブラッドレーの後継車開発が始まる、アジアからは韓国とシンガポールが挑戦か

米陸軍は1980年代に運用を開始した歩兵戦闘車「M2ブラッドレー」の後継車輌開発に3度チャレンジしたが1度目は国防予算削減の影響を受けて中止、2度目は議会が調達コスト高騰を問題視して開発予算の確保が難しくなり中止、3度目は陸軍の過剰要求や不明瞭な選定プロセスの影響でプロトタイプ提出期限に1社しか間に合わず競争開発の枠組みが崩壊、これを受けて陸軍は一度計画を白紙に戻して次期歩兵戦闘車の開発をやり直すことになった。

出典:Rheinmetall MAN / CC BY-SA 4.0 歩兵戦闘車「リンクス KF41」

過去3度の失敗を踏まえて米陸軍は昨年12月に新たな次期歩兵戦闘車プログラム(OMFV)に関する提案依頼書を発行、今月14日に入札が締め切られ単独で入札に応じたジェネラル・ダイナミクス、イスラエルのエルビット・システムズと組んだ英国のBAEシステムズは独自の次期歩兵戦闘車案を提出、ドイツのラインメタルは米企業のレイセオン、L3ハリス、テキストロン、アリソンと組んでリンクスベースの次期歩兵戦闘車案を提出、米企業のオシュコシュと組んだ韓国のハンファディフェンスはレッドバックベースの次期歩兵戦闘車案を提出したらしい。

補足:ラインメタルのリンクスとハンファディフェンのレッドバックはオーストラリ軍の次世代歩兵戦闘車選定プログラム「Land 400」でも競合している。

ただOMFVプログラムにはシンガポールの防衛産業企業のSTキネティックスも参加が濃厚だと言われている。

因みに陸軍は過去3度の教訓を踏まえて細かい仕様や技術的な機能を指定するの止め大まかなコンセプト(自律的な無人運用能力+オプションで有人運用も可能、十分な生存性、M1エイブラムスと並走できるだけの機動性、敵の歩兵戦闘車を打ち破るのに必要な火力、欧州の主要兵站ルートを走行可能な重量等)のみを提示して、これを実現するのに必要なアイデアや技術については企業に任せる内容となっているのが特徴だ。

OMFVプログラムを主導している米陸軍将来コマンド(AFC)のロス・コフマン准将は「企業が提案するアイデアさえ優れていれば15輌で編成された歩兵戦闘車小隊を検討してもいい」と言っており、要するに現在の歩兵戦闘車小隊は4輌編成で約30名の兵員輸送が可能だが提案されたアイデアさえ優れていれば「1輌あたりの兵員輸送能力が2名でも30名で構わない」という意味で「それだけ陸軍は斬新なアイデアを求めている」と言いたいのだろう。

あと注目すべき点は米国に製造拠点や現地法人を持っていない企業はみな米企業と組んでいる点でジェネラル・ダイナミクスは米企業なので単独、英国のBAEシステムズは現地法人と製造拠点を米国に持っているため米企業と組む必要がなくイスラエルのエルビット・システムズと提携、逆に現地法人も製造拠点も持たないドイツのラインメタルや韓国のハンファディフェンスは米企業と組んでいる。

ハンファディフェンスが提携したオシュコシュは自動車関連と軍事車輌製造を手掛ける大手企業で陸軍や海兵隊が使用していた高機動多用途装輪車両ハンヴィーの後継車輌「JLTV」を開発して受注、2040年までに約5万輌以上(陸軍:約4.9万輌/海兵隊:約5,500輌)の調達が見込まれており重高機動戦術トラック「HEMTT」も同社が手掛けるなど米軍への納入実績も製造拠点しての能力も十分で、オシュコシュと組むことで陸軍からの受けも良いとハンファディフェンスは判断したのかもしれない。

果たして誰がM2ブラッドレーの後継需要を受注するのかは不明だが、アジア企業2社(ハンファディフェンスとSTキネティックス)が米陸軍の主要装備であるOMFVプログラムに挑戦していること自体が驚異的なことで、もし次に機会があるなら日本企業にも是非挑戦して欲しいところだ。

米陸軍は各社が提出した案を検討して予備設計フェーズに進む企業を年内に選定、幾つかの審査段階を経てプロトタイプ製造フェーズに進む企業を絞り込み2027年までに最終的な勝者を決定する予定だ。

関連記事:米陸軍、歩兵戦闘車「M2ブラッドレー」の後継に無人戦闘車を要求か
関連記事:米陸軍、韓国企業ハンファと共同で兵器の開発研究を行う協定に署名
関連記事:契約総額57億ドルの行方、豪州の歩兵戦闘車と自走砲を巡ってドイツと韓国が激突

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※アイキャッチ画像の出典:U.S. Army photo by Sgt. Eric M. Garland II/Released

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コメント

    • 匿名
    • 2021年 4月 20日

    アメリカの兵器開発計画です
    P:plan(計画する)
    D:delay(遅延する)
    C:Cancel(中止する)
    A:Aging (老朽化する)

    48
    • 匿名
    • 2021年 4月 20日

    こういうチャレンジ精神でも、日本は韓国に置いて行かれてるんだよな

    13
      • 匿名
      • 2021年 4月 20日

      兵器関連はしょうがない
      開発に金がかかる割には儲からんし、武器輸出三原則があるから販売先が制限されるし
      なにより日本ではイメージを落とすことに躍起になる市民団体や政治家がいるからな

      36
      • 匿名
      • 2021年 4月 20日

      まあ競合しない分野ならいくら頑張ってもらっても問題無いですよ。

      5
      • 匿名
      • 2021年 4月 20日

      勘違いしてるみたいだけど、日本語でのチャレンジ精神とは、手当たり次第とかそういう意味ではないからね?
      韓国だって、当選する見込みもない事には手を出さないじゃない?
      例えばFFG(X)…コンステレーション級の時の提案依頼の時に、韓国企業は手を挙げてないけどチャレンジ精神に欠ける?
      あ、手を挙げたけど候補に残れなかったの?
      まあ日本語には身の程知らずって言葉もあるんだよ。

      ただ『今回の』韓国のチャレンジが巧く行く可能性があるのも確かだけどね。

      21
        • 匿名
        • 2021年 4月 20日

        つ ライセンス生産の機関銃

        5
        • 匿名
        • 2021年 4月 20日

        いやぁ、可能性0でしょ。性能もアレやけど韓国はもはや米国の友好国じゃない。当て馬につかわれてしゅーりょー。

      • 匿名
      • 2021年 4月 20日

      例として出す国が間違ってる。やり直し。

      10
      • 匿名
      • 2021年 4月 20日

      チャレンジ精神でK2やK11を作ってたデウが財閥ごと消滅ね。なるほど。
      今、工場は自動車企業所有になったけど、新しく銃火器作るんだろうか?

      3
    • 匿名
    • 2021年 4月 20日

    大まかな要求出して、あとは企業のアイデアに丸投げという言葉通りとは思えないけど。
    全世界展開を要求される米軍仕様を充たすとなると、おのずと実際のテストにはいろいろ厳しい採点がされるだろうな。
    とりあえず各企業のアイデア出揃いを待つ

    7
      • 匿名
      • 2021年 4月 20日

      EFV失敗に対するACV計画と全く同じでハイエンド開発が盛大にお亡くなりになって
      再度、開発費要求しても議会が許可しないので既製品採用するだけの話。
      ACVのスーパーAVがテレックスに勝った点は単価だったという話だからこれも最後の決め手は単価だろうな。

      5
    • 匿名
    • 2021年 4月 20日

    外国企業の参画には米(自国)の企業と組ませるのはいいアイデア

    7
    • 匿名
    • 2021年 4月 20日

    物質的な装甲材に進化が起きるほど期間が空いてないし、ソフト的な進化を拾い上げたいんだろう。
    イスラエルか今回もキャンセルかな。

    6
      • 匿名
      • 2021年 4月 20日

      アイデアだけ米軍に盗られて、今回は新規導入見直しのオチ?

      5
    • 匿名
    • 2021年 4月 20日

    どうせまた予算云々開発期間云々透明性云々とか言って計画キャンセルになって、ブラッドレーの延命になるんやろ。

    14
    • 匿名
    • 2021年 4月 20日

    シンガポールのはハンターだろうけど砲塔はラファエル製でレッドバックと同じで一体どうすんだろ?
    ACVでのテレックスに続きいい勝負してくるんだろうなココ。

    1
    • 匿名
    • 2021年 4月 20日

    日本企業で海外に売れそうな技術ってパワーパック位じゃないだろうか、あんまり性能とか価格面で勝負が出来そうなのはない感じ。

    ハンファに関してはK21ベースにして最低限を米軍に合わせる感じで行くのかオシュコシュの実践データに基づいた防御面の改良を中に施した米軍仕様作るのかだな。オシュコシュと組んで無効のデータを何かしら得られるなら選定漏れしても最低限技術だけは貰えるって狙いはあるんじゃないかな。

    11
    • 匿名
    • 2021年 4月 20日

    どの車両も結構な重さなんだよな
    一時の異様に軽量化にこだわってたのは何だったのか

    3
      • 匿名
      • 2021年 4月 20日

      ひとえに生存性確保のため。
      ゲリラでもタンデム弾頭ぶっぱなしてくる、テロリストが遠隔操作で巨大w地雷を炸裂させる厳しい時代には、軽さによる機動性よりも重装甲、進んだセンサー類が必要なのです
      そういうとこを解決するアイデアこそ米軍の求めるところなんだろうけど

      7
      • 匿名
      • 2021年 4月 20日

      それだけ生存性に力を注いでいるんじゃないですかね。
      「地雷やUAVに対して無力だけど、これに乗って頑張ってね♡」なんて車両に兵士は乗りたくないだろうし、上層部も人命軽視の責任とりたくないだろうし。

      8
    • 匿名
    • 2021年 4月 20日

    自国内製造が条件とはいえ
    米軍は結構外国企業に開放的だな

    1
      • 匿名
      • 2021年 4月 20日

      単純に国内メーカーにもう開発能力が無いのでは?
      ドローンとかのソフト関係はベンチャーで賄えてるけど
      設計やノウハウで地力の必要な分野になると陸海共に失敗作連発してるじゃん…

      17
      • 匿名
      • 2021年 4月 21日

      多分「自国内生産」すらも怪しい
      製造施設まで採用企業に作らせないと米国内で生産できる拠点すらないのが今のアメリカだから

      3
    • 匿名
    • 2021年 4月 20日

    何かが違う。コテコテの武装が、これからの歩兵支援戦闘車両ではない気がする。

    • 匿名
    • 2021年 4月 20日

    あんまり歩兵戦闘車の価値が分かんないんだけど、素直に機能分離して戦車と装甲強化バージョンの歩兵輸送者じゃだめなの?

    1
      • 匿名
      • 2021年 4月 20日

      効率的に敵歩兵を倒すのに、戦車と歩兵戦闘車と歩兵がいる方が良いんだよ。戦車(大砲)と歩兵戦闘車(機関砲)が敵歩兵と戦うのに、歩兵というファンネルをばら撒いて視界確保する感じかな。

      2
      • 匿名
      • 2021年 4月 20日

      弾も爆風も防ぎつつ最前線に行って、歩兵を降ろした後は盾になり、更には搭載したミサイルや機関砲で支援してくれる。それがIFV。
      盾にはしにくい歩兵輸送車両なら、既にストライカーくんが居るよ。

      6
      • 匿名
      • 2021年 4月 20日

      その2つを合体させて安価にしたのが歩兵戦闘車

      • 匿名
      • 2021年 4月 21日

      非武装の輸送車だと歩兵の援護にはちょっと物足りないからやっぱり何かしら武装が要る

      2
    • 匿名
    • 2021年 4月 21日

    これまではRWSが未熟だったから戦車を守るために随伴歩兵が必要だっただけで、小型ドローンに火炎放射器取り付ければ建物内に隠れてる連中は制圧できるしUGVで犠牲覚悟で偵察もできる。兵科自体が無くなるのが順当なのでは。

      • 匿名
      • 2021年 4月 21日

      何を書いているか良く分からない。RWS=ドローンみたいな風に取れるけど、どうななの?普通のRWSが戦車の死角全てカバーしてくれる訳でもない。自立的に警戒進めて建物内部をスムーズに制圧する訳でもないし、地下道とかも探索する訳でも無い。

      それに小型ドローンに火炎放射器を付ける意味もよく分からない。数m射程とか威力ある奴は小型ドローンで使うレベルのモノじゃ無いでしょ。そんなに有効なら戦術として使われると思うけどそう言う情報あるなら教えて欲しい。建物や人を燃やしたいなら 焼夷手榴弾/白リン​手榴弾使うだけじゃないの?下手に燃やせば消火の必要もあるし視界も遮られて何一つ良い事がない。

      なんだかんだで訓練された人間は耐久性は別として冗長性が高くて現状は消える感じはしないから、それを補助するモノ作る方に力を入れている感じ。理想は人間型ロボットな気がするけど、中型犬サイズでアサルトぐらいの重量が持てる万能なマニピュレーターを持つ4足歩行ロボットとか補助や攻撃目的で作っても面白いかも。

      2
    • 匿名
    • 2021年 4月 21日

    STキネティックスは何処の米企業と組むんだろう。結構な大手と組まないとブラットレーの後継なんて造りきれないと思うけど。

    1
      • 匿名
      • 2021年 4月 22日

      Science Applications International Corporation

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