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F-35の冷却システムを巡る戦い、HoneywellとCollins Aerospaceが競合

F-35 Block4が要求する冷却能力を達成するにはエンジンと電力・冷却システムのアップグレードが必要で、エンジンはF135EEPに決定したが、Lockheed Martinは電力・冷却システムについてHoneywellとCollins Aerospaceを競い合わせる予定だ。

参考:EXCLUSIVE: Lockheed launching competition to replace F-35 cooling system

Lockheed MartinはHoneywellとCollins Aerospaceを競い合わせるつもりなので「不要なリスク」を抱え込まないか心配される

F-35 Block4はAN/APG-85への換装、AN/ASQ-239、EOTS、DASの強化、サイドキックによるウェポンベイ内のミサイル携行量増、各種ミサイルの統合など66の新機能追加が予定され、これを実現するにはソフトウェア、システムインフラストラクチャー(TR3)、エンジン(ECU)、電力・冷却システム(PTMS)をアップグレードする必要があり、どれか1つでも欠けると予定されている能力を完全に引き出すのが難しくなる。

出典:U.S. Air Force photo by Brian G. Rhodes

特に問題なのはBlock4が要求するサブシステムの冷却能力で、ヘリテージ財団は「15kwに設定されていたサブシステムの冷却能力は30kwに迫っており、エンジンから抜き取るブリードエアを増やすことで冷却要件をカバーしているためF135の推力が低下している。Block4が要求する冷却能力は47kw、レーザー兵器などの追加要素が実装されれば60kwに達するため、要求される冷却能力は現在の2倍以上だ」と指摘していたが、F-35JPOも昨年4月「エンジン関連の要求要件を過小評価していたためF135の設計寿命に当初から問題を抱えていた」と明かして注目を集めた。

F-35JPOのマイケル・シュミット中将は公聴会で「開発の初期段階で電子機器が要求する冷却要件はF135から抜き取るブリードエアの量を超えてしまった」と明かし、過小評価したサブシステムの冷却要件に基づいてブリードエアの量を設定し、冷却能力が足りなくなるとブリードエアを増やすことで対応したため推力が低下、これをカバーするため燃料消費が増加して高温運転が続き「F135のメンテナンスサイクルが短くなってライフサイクルコストに無視できない影響が出始めた」と意味だ。

出典:PHOTO BY Senior Airman Zachary Rufus

どれだけメンテナンスサイクルが短くなったかは「1,600時間」という具体的な数値が公聴会で開示されており、つまりF135のメンテナンスサイクルは2,000時間毎に設定されていたが、ブリードエアの抜き取り量が増えた現在は設計時の75%強しか稼働できないことになる。

この問題を解決するにはエンジンと電力・冷却システムのアップグレードが必要で、Block4向けのエンジンはAETPではなくF135EEPに決定し、P&Wの親会社=RTXは今月15日「改良型エンジン=Engine Core Upgradeの予備設計レビューを完了し、設計が想定された以上のものであると確認された」と発表したが、電力・冷却システムについては噂された通りHoneywellとCollins Aerospaceの競争になるらしい。

出典:Honeywell 現行のPTMS

Breaking Defenseの取材に応じたF-35JPOは「Power and Thermal Management Unit=PTMUの製造権を巡る競争をLockheed Martinが計画している」「PTMUの次期フェーズに関する契約は2024年秋になる」と回答、Honeywellは「現行のPTMSを改良することで80kwの冷却能力を達成した」「改良型PTMSが冷却能力80kwを達成するのに新たなブリードエアを必要としない」「冷却液を循環させるパイプを太くする必要があるだけで機体側の変更を殆ど必要としない」「使用された全技術は技術成熟度レベル(Technology readiness levels)7以上を達成している」と発表済だ。

F135を独占供給しているP&Wの子会社=Collins Aerospaceも現行のPTMSと完全に異なるEnhanced Power and Cooling System=EPACSへの換装を提案しており、こちらもEPACSのプロトタイプで80kwの冷却能力を達成しているが、Honeywellは「P&Wがエンジン供給の立場を利用してCollins Aerospaceの電力・冷却システム採用を働きかけているのではないか」と疑って物議を醸している。

出典:Collins Aerospace Enhanced Power and Cooling System

Honeywellの電力・冷却システムは「現行システムの改良」なので技術的リスクが低く、Collins Aerospaceのシステムも「実証済の技術で構築されているため技術的リスクが低い」と主張しているが、F-35で使用された実績という点でHoneywellの方が手堅いものの、EPACSの冷却能力はプロトタイプのテストで83kwという数値を叩き出しており、設計自体の将来的な余裕という点ではCollins Aerospaceの方に軍配が上がるのかもしれない。

個人的に「必要以上の変更は問題を増やすだけ」と考えているため、Block4が要求する冷却能力を満たしているのなら改良型PTMSで良いのではないかと思うが、Lockheed MartinはHoneywellとCollins Aerospaceを競い合わせるつもりなので「不要なリスク」を抱え込まないか心配される。

関連記事:F-35 Block4の要件を満たした改良型エンジン、予備設計レビューを完了
関連記事:Honeywellの改良型PTMS、Block4の冷却要件を満たす80kwを達成

 

※アイキャッチ画像の出典:U.S. Air Force photo by Staff Sgt. Zachary Rufus

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コメント

    • 58式素人
    • 2024年 7月 25日

    F-35はBlock4で終わりではないのでしょう。
    今の予想では不足がなくても、再び予想を超える事態が発生するのでは。
    であれば、時間もないことだし、両社を順に採用しては、などと思います。
    新技術で一発を狙うのはリスクがあるのでは。
    熟成の時間が必要でしょう、などと思ったり。
    いずれ、レーザーガンまでは予想されているのでしょうから。

    4
      • ブルーピーコック
      • 2024年 7月 25日

      今のアメリカ軍にとって、両方テストさせてみるのが面倒に見えて解決の近道かもしれませんね。首無し飛燕ならぬ修正パッチ無しTR3を転がしとくような事態の再来を避けるためにも。

      5
    • kitty
    • 2024年 7月 25日

    どちらを選ぶにせよ、最近の米国の運気だと、選択した方がハズレだと思う。

    しかし、Honeywell PTMSと「新しいPTMSであるCollins AerospaceのEPACS!」じゃ売り方は後者の方が上手い。

    11
    • ふむ
    • 2024年 7月 25日

    うーん
    やっぱり実物完成してから競わせてた昔のコンペの方が合理的だったのでは…
    AETPとF135EEP競ってた時でもそうでしたけど、実際作ってしまえば詳細に長所短所把握できて想定外も遠ざけられ、知見も蓄積できるような

    23
      • 2024年 7月 25日

      技術の進歩が時短に繋がるのは自明であります。
      技術競争の最たる軍事分野で最速を狙うのはある種当然と言えましょう。

      並走する競争相手がいる時、突き放す技術に魅力を感じるのは誰しも当然であり、トップを独創していたオブジェクトがその状態に陥ったのなら、それ(技術)により一層縋るのも必然です。

      完成品同士を競わせるような時代感覚では、時代遅れの老害発想と指摘されかね無いのでは無いでしょうか。

      2
        • 名無し
        • 2024年 7月 25日

        さすがにそれは出てくる物が軒並み失敗作もしくは、遅延に遅延を重ねていつ完成するねん!状態の米軍の現状が理解できていないかと

        33
        •  さ
        • 2024年 7月 25日

        そのご高説の結果が今のアメリカ軍だと思うけども

        20
        • nachteule
        • 2024年 7月 26日

         すごい事書くね。
         完成品同士を競わせるのが老害発想ならば、車の衝突試験や何かしらの設計して実物でトライするのも老害発想と言う事で良いよね?実際に物が出来て不具合とかあぶり出されるのにめちゃくちゃだよ。

        23
        • イーロンマスク
        • 2024年 7月 27日

        イージス艦の父と呼ばれるウェイン・E・マイヤー少将の「少しだけ作り、少しづつテストを行い、多くを学べ」という格言

        軍事はもちろん民間でもコレ無視して炎上してるプロジェクト結構あるで

        6
        • daishi
        • 2024年 7月 28日

        F-35もX-32とX-35の競争試作で選定してるので試作して選定する、という手法は誤りではないでしょう。
        ただ、F-35は試作から後の工程が長すぎたのが敗因ですね。
        特にソフトウェア開発工数が膨大になった上にセンサーシステム、電子戦システム、センサーフュージョンなど電気を大量に食う機材も積み上げられた結果、今の有様なので「小さく作って小さく失敗する」ができなかったのが痛いです。

        F-35に求める能力が過剰になった理由はさまざまありそうですが、TR3機でブロック3Fのミッションがこなせるようになったら総括してもらいたいですね。

    • ナノ猫
    • 2024年 7月 25日

    >>ヘリテージ財団は「15kwに設定されていたサブシステムの冷却能力は

    『ヘリテージ財団』というパワーワードで
    プロジェクト2025を思い起こし、
    記事の内容が頭に入らない。。。

    4
    • 匿名
    • 2024年 7月 25日

    現計画でブロック5以降で何を追加するつもりかは分からんけどブロック4が完成したらもう作らなくていいんじゃない?
    ソフトウェアとシステムインフラ周りの新開発をするたびにそれまで出来てた事がまた1からやり直しになって飛行ソフトの安定性すら無くなるとか、非効率的過ぎ時間と金の無駄過ぎ

    8
    • ブルーピーコック
    • 2024年 7月 25日

    ブロック4までをレガシーF-35、以後をスーパーF-35として開発したら良いんじゃないの。

    しかしまあ第3世代や第4世代機と違って、第5世代機はあんまり増えないまま第6世代機に移行しそうだな。冷戦終了や開発費の高騰があったとはいえ、不謹慎ながら寂しい気持ちがある。

    2
    • あばばばば
    • 2024年 7月 25日

    エンジンの供給量を増やして、使い捨てエンジンにすればよいのでは(脳筋)
    捨てたエンジンは使える部分を再利用してリユースされるだろう。
    財務省と会計が発狂しそう

    6
      • イーロンマスク
      • 2024年 7月 25日

      B-29で実際にやったしなぁ
      やれない事はない
      なお軍事費/GDP比がとんでもない事に

      15
      • 名無し
      • 2024年 7月 26日

      ロシアや中国が、そんな感じみたいですね

      4
    • 森保ジャパン
    • 2024年 7月 25日

    海外行くとHoneywellのエアコンよくあるけど猛暑だとすぐ故障するんだよなあ。

    3
    • 匿名希望係
    • 2024年 7月 26日

    正直F-35Bと並行して双発機開発していた方が良かったんじゃあ?

    1
      • 戦闘機
      • 2024年 7月 26日

      F-35が運用されたのがここ10年以内だから勘違いするけど、試作機が飛んだのが24年前、A型が飛んだのが20年近く前やったから、今の状況は想定してなかったんや。
      block4超えたら、他の戦闘機と同じく機体そのものを再設計するかもな、約15.7mの全長も伸ばすと、エンジンとかウェポンベイの幅が大きくなるしな。

      10
    • バーナーキング
    • 2024年 7月 26日

    >「必要以上の変更は問題を増やすだけ」
    「基礎設計段階で全然要求能力が足りてなかった」つまり「元々致命的な問題を抱え込んでる」訳で、それを小手先の対応で(数倍の能力が求められる将来まで)どうにかしようとする方が後でまた問題になりそうだと思いますが。
    「冷却パイプ径とやらが唯一絶対の致命的なボトルネックでそこさえ直せば他は余裕綽々」ってならともかくそんな訳ゃないので。

    3
      • kitty
      • 2024年 7月 26日

      それでもF-35はコンコルド効果で、ロング・ベストセラー機になりますよ。傑作機と呼ばれるかどうかはわかりませんが。

      1
        • バーナーキング
        • 2024年 7月 26日


        レスミスですか?

          • kitty
          • 2024年 7月 26日

          一つ上のツリーへのアンカーミスです。
          すみません。

      • daishi
      • 2024年 7月 26日

      F135EEPも構成技術が揃ってない、という状況なのでAETPよりは確実性があっても難しそうですね。
      TR3ハードウェアも完全体ではないし、レーダーも新型センサーもまだ開発中の状況だと今と同じで予測より上振れすることはあり得そうですし「現在できる最善の策」を取る必要がありますよね。
      こういう時こそ公平な実機テストを行い企業のロビー活動や政治力があってもテスト結果に基づき採用することが望まれるのですが、なかなか難しそうです。

      1
        • バーナーキング
        • 2024年 7月 27日

        同感です。あっちもこっちも未確定で苦戦中、つまりいつどこでまた要求性能が跳ね上がるか分からない状況ですからね。逆にどこかで劇的に余裕が生まれる可能性はほぼないですし。
        Honeywellや管理人さんが主張する「新規開発はリスク」というのは確かにそうなんですが、「初期設計の段階で破綻してエンジンにシワ寄せてる(=必要を満たす性能を発揮したことがない)冷却系」の中核であるPTMSを「現行の実績」を根拠に信頼するのもこれまたちょっと危ういんじゃないかな、と思いますね。

        2
    • ネコ歩き
    • 2024年 7月 26日

    冷却パイプ径増大は重整備の折にでも改修可能なだけの空間余裕があるんでしょうね。
    パイプ断面が円形で流速同じで流量を2倍にすると仮定した場合は内径を概略140%にすればよく、既設配管スペース内で取り回せないことはないのかな。
    同じ冷却空気量で問題なく2倍の冷却能力を得るには、熱交換部の仕様変更だけでなく、抽出高圧エアのエネルギーを事前活用することで冷却空気のラジエータ部流入温度を下げるのが有効で、何らかの事前工程(発電利用等)を組み込んでいるのかもしれません。
    それで既存スペース内に全てが収まるなら、Block3以前のタイプでも新冷却システムに換装することで現状の問題緩和ないし解決が可能になるかも。

    2
      • バーナーキング
      • 2024年 7月 26日

      40%も空間的余裕あるとは思えない上に、要求能力2倍だから流量2倍で済むとも限らないかと。
      むしろ全箇所の冷却能力をポンと2倍にする、なんて事が小規模改修で簡単にできるとは思えないのでむしろ流量がっつり上げてぶん回して誤魔化すだったりするんじゃないかなぁ、とか(もちろん全面的な能力不足はそれじゃ補えないけど部分的なボトルネックはある程度誤魔化せる。エアコンの能力不足を扇風機で誤魔化す様な物ですね)。

      2
    • 名無し
    • 2024年 7月 26日

    F35は明るいニュース聞かないなあ
    構造的な欠陥でもあるのかと思うくらい

      • kitty
      • 2024年 7月 26日

      構想的な欠陥はあったと思いますよ。

      4
    • 七面鳥
    • 2024年 7月 26日

    ライトニングの名にふさわしい「お腹のふくらみ」を新設して、そこにサーモキングの冷凍機を詰め込んでですね……

    なんて、第二次大戦機みたいな事が出来れば楽なんでしょうけれど。
    電力と熱の問題は、これを他山の石として、GCAPは上手いことやってほしいものです。

    1
      • バーナーキング
      • 2024年 7月 26日

      熱については戦闘機用小型熱移送システムの研究は済んで妥当の評価を得てるし、RRもエンジンの熱管理能力や「高度な熱交換器」については度々言及してきてるし(詳細不明)電力はRRの組込式SGがありそれがコケてもIHIのテールコーン内蔵型電動機の技術を転用できそうだし、最悪でもXF9-1の一体型SGを2基ずつ積んでもいいので、とりあえず当面は問題ないんじゃないですかね。
      2040年過ぎて本気で光学兵器とか積み始める事になったら分かりませんが。

      3
      • 戦闘機
      • 2024年 7月 26日

      F-35の試作機の飛んだのが2000年、F-35Aの初飛行が2005年のなんだかんだで20年近く前の機体で、大きさも全長約15.7mで、GCAPの機体がF-111並みの全長(22〜23m)の予定だからかなり違うんですよね。F-35も先では他の戦闘機みたいに再設計するかもですね。

      2
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