米国関連

130億ドルの価値を示せるか? 順調なら2023年頃に空母「ジェラルド・R・フォード」戦力化

海軍長官代理のトーマス・モドリー氏は6日、動力部の欠陥を解消し海へ戻ってきた空母「ジェラルド・R・フォード」の戦力化について「最優先事項」であると語った。

参考:For the US Navy, it’s ‘all hands on deck’ to fix the Ford

これ以上問題が起きなければ、空母「ジェラルド・R・フォード」の戦力化は2023年頃

空母「ジェラルド・R・フォード」は、新しく採用した航空支援装備(電磁式カタパルトや新型アレスティング・ワイヤー、電磁式の兵器用エレベーター等)が設計通り作動せず、未だにフライトデッキ(飛行甲板)が設計通り機能するのかを確認するための認証テストに合格していない。

しかも動力部の欠陥により予定外の修理が発生、1年以上も海に出られない状況が続いていたが、今年の10月に動力部の修理を確認するための「シェイクダウン・クルーズ(海上試験)」を無事クリアして、ようやくフライトデッキ認証テストへ復帰できる状態が整った。

出典:U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 3rd Class Connor Loessin/Released

海軍は空母「ジェラルド・R・フォード」のテストと乗組員の訓練を行い、2020年3月頃からフライトデッキ認証テストに取り掛かる予定で、改良された電磁式カタパルトや新型アレスティング・ワイヤーを使用し、F/A-18E/Fや、F-35C、E-2Dなど艦載機を実際に発着艦させ、海軍が求める基準を満たしているのかチェックを行う。

さらに空母「ジェラルド・R・フォード」の船体近くで爆薬を水中爆発させ、ジェラルド・R・フォード級空母の船体がどれだけの衝撃に耐えられるのかテストを行えば、戦力化に必要な全てのテストが終了する。

この一連のテストには最大で18ヶ月掛かる見込みなので、空母「ジェラルド・R・フォード」が海外展開の事前準備に取り掛かるのは2022年後半、平均7.5月の海外派遣へ投入されるのは2023年の中頃と予想されているが、これは一連の承認テストが全て順調に消化出来た場合の話だ。

これまで抱えていた問題が解決できるのか保証はない

空母「ジェラルド・R・フォード」の戦力化を最も阻害しているのは、艦の奥深くに保管されいる弾薬やミサイルをフライトデッキまで運ぶための兵器用エレベーターの不具合で、10基の兵器用エレベーターの内、現時点で正常に動くのは4基しかない。

この艦を建造したハンティントン・インガルス・インダストリーズ社は、2020年中には正常化すると言っているが、本来なら今年の7月までに問題を解決すると約束していたにも関わらず、何度も約束を破る(7月→10月→来年)結果となり、海軍や議会の怒りを買っている。

出典:U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 3rd Class Connor D. Loessin/Released空母ジェラルド・R・フォードの先進型兵器エレベーター

11月まで海軍長官を務めたリチャード・スペンサー氏は当時、インダストリーズ社に対し「海軍の同社に対する信頼は地に落ちた」と語り、同社の修理スケジュール遅延を批判しながら、議会に対しては「無償では何も手に入らないが、かと言って費用を掛けても品質が向上するとは限らない」と語り、コスト管理についての考え方を変えなければならないと主張した。

これはインダストリーズ社が建造費を抑えるため、新たに採用した「先進型兵器エレベーター」の陸上テストを省略し、一発勝負で空母「ジェラルド・R・フォード」に設置したが、この方法は結果から言うと建造費の削減ではなく増加に繋がり、戦力化遅延はさらなる建造費上昇へと繋がっている。

結局、コスト管理という名の元に「適切な費用」まで削減すれば、削減した以上の「追加費用」が発生するという意味で、コスト管理の方法をもう一度よく考え直す必要があると語った。

空母「ジェラルド・R・フォード」が期待を裏切れば空母廃止すらありえる?

このような空母「ジェラルド・R・フォード」の問題は、中国の極超音速ミサイルが引き起こす脅威と相まって、巨額の投資が必要となる海軍の空母戦力に疑問を投げかけている。

空母「ジェラルド・R・フォード」について議会は、中国やロシアの極超音速ミサイルに対抗策がない状況では、130億ドルの的に過ぎないと懸念を表明し、トランプ大統領は130億ドルも費用を掛けているにも関わらず、未だに兵器エレベーターすら正常に動かないという結果は「到底受け入れられない」と批判した。

出典:U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 3rd Class Adam Ferrero/Released 空母「ジョン・F・ケネディ」が横たわる乾ドックに海水が流れ込み始めた様子

果たして空母というシステムが「時代遅れ」なのかについては判断しかねるが、艦載機による攻撃の多様性や柔軟性を追求した結果、空母は複雑化してしまい、あまりにも「高価」になりすぎてしまったのは事実であり、世界最大の国防費を支出する米国でさえ負担するのが厳しくなってきている。

海軍としては空母「ジェラルド・R・フォード」の存在意義を示すためにも、2023年の中頃と予想されている戦力化スケジュールを厳守し、前級ニミッツ級と比較して運用コストが1隻あたり40億ドル(約4,400億円)削減できるところを実際に証明しなければならない。

それが出来なければ、米国は空母という巨大なシステムを切り捨てるかもしれない。

 

※アイキャッチ画像の出典:U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 3rd Class Connor Loessin

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コメント

    • 匿名
    • 2019年 12月 11日

    2017年に竣工して戦力になるのが2023年か…。

    • 匿名
    • 2019年 12月 11日

    戦艦プリンス・オブ・ウェールズがビスマルク追撃に出港した時は、工事が完了しておらず、多数の工員が作業をしながら戦闘に突入したというが、現代の艦船は電子化、複雑化が桁違いで、戦力化まで時間がかかるのでしょうね。

      • 匿名
      • 2019年 12月 11日

      ヨークタウンは珊瑚海海戦で受けた損傷を3日で直して出てきたけどそんな無茶も無理だろうなぁ…

    • 匿名
    • 2019年 12月 11日

    研究竣工就役の間に世界情勢ガラリと変わったからな~
    レッドチームの極超音速ミサイルがあいつらの言うスペックとうりとは思わないがかなりの脅威だというのはたしかだし、
    こんな状況ならフォード級を打ち切って新規に強襲揚陸艦ベースの中規模の空母開発をしたほうがいいかもしれない

    • 匿名
    • 2019年 12月 11日

    もしかすると、3番艦エンタープライズで大型原子力空母というモノは終わってしまうのかもしれませんなぁ。

    1
      • 匿名
      • 2019年 12月 11日

      一応、エンタープライズと4番艦は30年ぶりの一括契約なので、4番艦までは大丈夫かと。

      1
    • 匿名
    • 2019年 12月 11日

    3番艦で打ち切っても莫大な開発費が回収出来ないだろうが、
    それよりも中型空母量産した方がいいのかな?

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