米国関連

移動目標を弾道ミサイルで攻撃可能、PrSMが海上を移動する目標に命中

米陸軍は「Exercise Valiant Shieldに参加した第3多領域任務部隊と第181砲兵連隊は高高度に長時間滞在できる観測気球とドローンと連携し、海上を移動する目標にPrSMを命中させた」と発表、弾道ミサイルは移動目標にも命中させることが可能だと実証された。

参考:US Army’s new precision missile hit moving target in Pacific exercise
参考:Army’s New PRsM Ballistic Missile Hits Moving Ship For The First Time In Pacific Test

弾道ミサイルは移動目標にも命中させることが可能だと実証された格好だ

米陸軍は中距離核戦力全廃条約(INF)失効を受けて射程500km以上の攻撃能力を開発に着手、この能力はDark Eagleを運用する「Long-Range Hypersonic Weapon=LRHW」、トマホークとSM-6を運用する「Typhon Weapon System=別名:Mid-Range Capability long-range launcher」、HIMARSで運用する「Precision Strike Missile=PrSM」の3つで構成され、Tomahawk、SM-6、K.41を流用するTyphon Weapon Systemは最も技術的ハードルが低く、インド太平洋地域への2024年配備が決まっている。

出典:Lockheed Martin PrSM

初期運用能力を獲得したPrSMの取得も2023年末に始まっており、ATACMSの後継ミサイルと開発されたPrSM Increment1は射程500km以上の弾道ミサイルで、Increment2は改良型シーカーを搭載して海上の移動目標にも対応した「対艦弾道ミサイル」に進化する予定だったが、シーカー開発が遅れているため調達時期に遅れが生じているらしい。

つまり現行のPrSMは静止目標のみを攻撃できるIncrement1だけなのだが、米陸軍は「Exercise Valiant Shieldに参加した第3多領域任務部隊と第181砲兵連隊(第1大隊)は高高度に長時間滞在できる観測気球とドローンと連携し、海上を移動する目標にPrSMを命中させた」と発表して注目を集めている。

出典:U.S. Air Force photo by Senior Airman Natalie Doan 高高度に長時間滞在できる観測気球

使用したPrSMのバージョンがIncrement1なのかIncrement2なのかは不明だが、米陸軍が弾道ミサイルで海上を移動する目標を攻撃したのは恐らく初めてで、弾道ミサイルは移動目標にも命中させることが可能だと(西側で)実証された格好だ。

因みにIsrael Aerospace Industriesはベルリン国際航空宇宙ショーで空中発射式の戦術弾道ミサイル「AIR LORA」を公開、米国のWAR ZONEは「厳重に守られた地域にアクセスしなければならない航空機の生存性を劇的に向上させる」「米空軍もPrSMの空中発射バージョンを検討すべきだ」と述べたことがある。

関連記事:HIMARSで500km先の目標を攻撃可能、米陸軍へのPrSM納入が始まる
関連記事:米陸軍のタイフォン・システム、訓練目的で一時的に日本へ移送される可能性
関連記事:米陸軍、2024年にタイフォン・システムをインド太平洋地域に配備予定
関連記事:LM、米陸軍にMK.41を流用したタイフォン・ウェポン・システムを納品
関連記事:米陸軍、トマホークとSM-6を流用してロングレンジウェポン開発に着手
関連記事:ロッキード・マーティン、精密ストライクミサイル射程延長版のイメージを公開
関連記事:豪州がHIMARSとNSMの購入契約を締結、将来的に1,000km先の目標を攻撃可能
関連記事:米陸軍の極超音速兵器「LRHW」は2,776km先の目標と交戦可能、日本配備も視野に

 

※アイキャッチ画像の出典:U.S. Marine Corps photo by Cpl. Kyle Chan

米SandboxAQ、妨害を受けない地磁気ナビゲーションシステムを発表前のページ

欧州の多連装ロケットシステム調達、GMARS、EuroPULS、Chunmooが競合次のページ

関連記事

  1. 米国関連

    SPY-6やベースライン10を採用したアーレイ・バーク級駆逐艦、戦力化は最速でも2024年後半

    米議会調査局は今月17日、議会へ提出した報告書の中でAN/SPY-6や…

  2. 米国関連

    F-35のエンジン問題、米国防総省は最大380億ドルを追加負担する可能性

    米政府説明責任局(GAO)は30日「国防総省はF-35の冷却要件とエン…

  3. 米国関連

    米海軍はワスプ級強襲揚陸艦の火災を放火と判断、容疑者を取調べ中

    今年7月にサンディエゴ海軍基地で近代改修工事を受けていたワスプ級強襲揚…

  4. 米国関連

    米空軍のブラウン参謀総長、A-10を2028年までに完全退役させると発言

    米海軍は議会に新規調達を強制されてきたF/A-18E/Fと手を切ること…

  5. 米国関連

    性能向上が約束されているF-35ブロック4、兵器搭載量も航続距離も大幅に増加

    F-35にとって重要なブロック4へのアップグレードは開始されており、予…

  6. 米国関連

    米シンクタンク、欧州は米国を助けるため中国とは戦わないだろうと主張

    米国のシンクタンク「ケイトー研究所」でシニアフェローを務めるダグ・バン…

コメント

    • 航空太郎
    • 2024年 6月 26日

    中国の対艦弾道ミサイルも、同様に何らかの手段で作戦行動中の空母打撃群の位置を、観測気球+ドローンで行うような精度で提供できるなら、命中弾を出してくる可能性がある、ってことですね。衛星からの探査では空母打撃群の大まかな位置までしかわからないでしょうし、空母打撃群側がのんびり観測するような中国軍機を放置するとも思えないので、今回の実験は現段階では可能性レベルの示唆に過ぎませんが、空母打撃群の優位性が脅かされつつあるのは確かでしょう。

    24
      • 外弁慶
      • 2024年 6月 26日

      逆に考えれば、沿岸に近付く事無く、海上から遠距離対艦攻撃が出来る。また空中発射バージョンが実用化すれば、当然空母打撃群の前方に戦闘機展開するので、より広い遠方・後方領域から攻撃出来る筈です。対中国に関しては言えば、A2/AD戦略の領域外(広い太平洋の色々な遠方地域や角度)から対艦攻撃出来るのは、空母打撃群の優位性が上がる様に感じるのですが…。
      勿論、中国側のミサイルも当たると立証された。との考えも理解出来ますが。

      15
      • ljg23
      • 2024年 6月 26日

      中国軍は各種人工衛星、OTHレーダー、超音速無人偵察機が収集した情報に基づいて、米空母打撃群の位置を常時探知しておりますな。
      長時間滞在できる観測気球とドローンでは中国軍に撃墜される可能性が高いので、米軍も中国軍と同様な探知手段を構築するかと。

      18
    • たむごん
    • 2024年 6月 26日

    台湾海峡問題にとって、由々しき事態なのかもしれませんね。
    中国が、A2/ADに力を入れており、DF21・DF26を宣伝してきました。

    台湾本島周辺は、中国本土の距離が近い上に、ドローン空母を建造中と言われています。
    中国の造船能力、建艦能力を考えれば、充分に現実的ですね。

    ドローン空母が、台湾東部・南シナ海・沖縄東部の公海を遊弋するだけでも、アメリカ艦隊に対する強烈な牽制になりそうですね。

    (2024年5月20日 世界初「ドローン空母」を中国が建造中?台湾侵攻でドローン多用する前提か…アメリカの識者が衛星画像から分析 FNN)

    6
    • 58式素人
    • 2024年 6月 26日

    米陸軍が色々と?追いついて?来たような気がします。
    これで、SRBMが、洋上の艦船に攻撃ができることが証明されたわけですし。
    中共の物の証拠画像は、まだ、世に出たことがないそうですし。
    あちこち読むと、フーシ派のそれは、AISのデータを基に公算射撃をしているようだし。
    (西側の船はAISを切って航行するようだし、中共/ロシアの船は切らずに、逆に、
    自分の身元と行動予定を放送しながら運行するそうな。そのせいで中共/ロシアの
    船舶の被害が多発する、との記事を何処かで読みました。)
    これからば、対艦SSMにもSRBMが仲間入りでしょうか。
    この記事以前にも、ウクライナ紛争の緒戦で、ウクライナがトーチカUを、停泊中とは言え、
    マリウポリの港でロシアのLSTに命中させていますね。これの詳細を読んだことはないです。
    もう一つ、ATACMSがロシアの哨戒艦に命中していますね。これも詳細がなかったと思います。
    ひょっとすると、なんらかの、後付けの誘導装置が既に開発されているのか、と疑います。

    3
    • jimama
    • 2024年 6月 26日

    今まで西側がコレを出来てなかったほうが驚きというか
    中国とかができるようになったのって何年前だっけか?
    何が足りてなかったんだろう?
    原理としては弾道飛行させてるものを当てるだけだから砲撃と大差はないはずなんだけど

    6
      • 765
      • 2024年 6月 26日

      原型ならアメリカが40年前にパーシングⅡでやってますね。その時は移動目標ではなく固定目標ですが

      13
      • あるまじろ
      • 2024年 6月 26日

      出来なかった、というか需要が無かっただけではないでしょうか?

      中露は米国のエアカバーを突破しての、米国空母撃沈を目標としてますが
      米国には、エアカバーを突破して撃破しないといけない移動目標がなかった。

      その為必要としてなかったのかと。
      (固定目標相手なら通常の弾道ミサイル+巡行ミサイルで十分)

      20
      • 外弁慶
      • 2024年 6月 26日

      中国はDF21とDF26で、2021年に自動操縦の商船へ2発同時着弾で命中させたらしいです。
      但し、1000km以上離れた大海を30㌩近くで回避行動とる艦船に本当に命中するんでしょうか?
      まぁ核搭載可能なので、万が一の至近弾も危険。と考えられるのですが…。

      8
        • ljg23
        • 2024年 6月 26日

        中国の対艦弾頭ミサイルは弾頭がMaRVなので、終末段階に水平(巡航)弾道に移行して軌道修正しながら弾着しますね。
        米空母打撃群は回避や防空に専念せざるを得ないので、命中しなくても米空母打撃群の戦闘力を低下させることができます。

        8
          • 外弁慶
          • 2024年 6月 26日

          なるほど。ありがとうございます。
          確かに、一発だけでなく複数の飽和攻撃を掛けるでしょうし、命中せず共、無力化は出来ると言う事ですね。

          3
            • kitty
            • 2024年 6月 26日

            ん?MIRVと混同されていませんか?

            3
            • 765
            • 2024年 6月 26日

            MIRV(複数個別誘導再突入体)ではなく、MaRV(機動式再突入体)ですね
            単に複数の弾頭にするのだとまた別の名前がついてたような…

            6
            • 外弁慶
            • 2024年 6月 26日

            kitty様、765様ありがとうございます。
            弾頭の種類ではなく、単純に数十発レベルの対艦弾道ミサイルを撃ち込む飽和攻撃を指してます。

            >2021年に自動操縦の商船へ2発同時着弾で命中
            2020年8月の間違いです。適当にてすみません。訂正致します。
            ※航空万能論GF 2020.11.14 「対艦弾道ミサイルの脅威、中国軍のDF-21とDF-26が航行中の艦艇に命中」

            私信の様になり訂正含め、重ねて失礼致しました。

            2
        • バーナーキング
        • 2024年 6月 26日

        下でも書きましたが船というのは速度は速くとも基本的に平面上を前進して左右に旋回することしか出来ませんし、特に大型艦の場合は加速力も限られます。
        急旋回や急減速は可能ですが速度を失ってしまいます。ご自身でも飽和攻撃に触れてますが弾道弾まで使って攻撃しようってのに単発って事はないでしょうから速度を大きく失う回避行動は取りにくいでしょう。MaRVであれば速度もどうとでも調整できるし冷却の時間も取れますし、何なら減速後にフェアリング外す事もできるのでので命中させるのは十分に可能かと思います。
        ただ速度を失い過ぎれば今度は迎撃が容易になりますので(超音速巡航ミサイルと違って推力がないので比較的予測し易い軌道しか取れないし、長距離のシースキミングとかもできない)「迎撃困難な速度・軌道で命中させられるのかどうか」は分かりませんが。

        4
        • T.T
        • 2024年 6月 26日

        30ノットなんて止まってるのと一緒ですよ。

        0
          • バーナーキング
          • 2024年 6月 27日

          ミサイル側がまともに誘導できるなら回避するのは難しい、って話なら同意だけど、
          元コメは砲弾と比較してるので「砲弾同様の素の弾道軌道(=バーンアウト後は無制御)」で当てるとなると「到達までの数分間最大30ノットで動き回る」ってのはほとんど絶望的なハードルになると思いますよ。

          3
      • バーナーキング
      • 2024年 6月 26日

      砲弾と何が違うか、といえば到達に要する時間とコスト(≒弾数)でしょう。
      船ってのは図体の割に速度は速いものの細かい機動の自由度は高くありませんので数十秒後の位置はかなり絞り込めますが、速度を維持して180回頭して航走して、が可能な数分後の位置となると移動可能な範囲は劇的に広がります。
      ましてや元々三連装四連装で着弾観測して修正射して、を繰り返して挟み込んだり追い込んだりしてようやく当たる砲撃と同じ事を弾道弾ではやれんでしょう。

      4
      • nachteule
      • 2024年 6月 26日

       コスト、運用プラットフォーム、ミサイル条約的な物とか色々あるでしょ。砲撃と大差ないと言うが弾道弾の速度が速くても遠距離でなら着弾までに相当な時間が掛かる訳で、マッハ3で1000km離れた20ノットで移動するターゲット狙うとしたら着弾時には最初の位置から3km位は移動すると思うが。高速で搭載センサーで探知して確実に作動して軌道修正出来る手段を使って初めて命中。それをして砲撃と大差ないとか言うのか。

       砲撃ならGPS誘導でゴールが決まっているからある程度緩やかに目標に向かって修正だし、仮に砲弾自体で移動目標狙うなら終末レーザー誘導ぐらいか数打ちゃ当たるみたいな感じだろう、状況が違うと思うけど。

      5
    • 765
    • 2024年 6月 26日

    ところで某軍事ライターの方が指摘されておりましたが、参考記事の『Army’s New PRsM Ballistic Missile Hits Moving Ship For The First Time In Pacific Test』によると、観測気球の発射は6月10日にグアムで(稼働時間不明、予定では18日までらしい)、ドローンの打ち上げは6月13日に同じくグアムで(稼働時間27時間)、ミサイルの発射は6月16日にパラオで行われているので、別に連携して命中させたのではないのでは?

    陸軍の公式発表の『3d MDTF demonstrates ability to operate in the Indo-Pacific』を見ると一応「engage a moving maritime target in conjunction with other Joint assets.」とは書いてあるんですけど

    2
    • 765
    • 2024年 6月 26日

    ところで某軍事ライターさんが指摘されておりましたが、記事には気球の打ち上げが6月10日にグアムで、ドローンの打ち上げは6月13日に同じくグアムで(稼働時間27時間)、PrSMの発射は6月16日にパラオで行われているので、本当に連携してたんでしょうかね?

    陸軍の発表(3d MDTF demonstrates ability to operate in the Indo-Pacific)だと『他のアセットと連携した』とは書いているんですが、個人的には気球やドローンではなく、パラオに配置された別のレーダーやセンサだったのでは無いかと思います

    4
    • イーロンマスク
    • 2024年 6月 26日

    今更かよ
    弾道ミサイル技術は東側の方が先行しているのは本当かもしれん
    RD-180置き換えれたの最近だし

    6
      • jimama
      • 2024年 6月 26日

      ロケットの発射場が西側組よりかなり北寄りだからそのあたりで制御技術が磨かれてきたという側面はあるかもです
      バイコヌールとかはフロリダやギアナと違って、一旦南に打ってから東に向けるとか打ち上げ条件ではかなり不利なことをしないといけないので

      1
    • nnm
    • 2024年 6月 26日

    PrSMの空中発射版のプラットフォームとしてはB-52とF-15EXが候補になりそう

      • 2024年 6月 26日

      そこはB-21でステルス飽和攻撃でしょ

      1
        • kitty
        • 2024年 6月 27日

        B-21ちゃん「うそ!こんな大きいのがワタシのナカ(ウェポンベイ)に入っちゃうの?!」

        2
    • nachteule
    • 2024年 6月 27日

     これが20ノットぐらいで航行するフリゲートの中心に命中とかなら恐るべしなんだけど、分かっているのは10000tクラスの大型標的艦に2発命中した事だけ。中味が分からない事には判断が難しいな。

    3
  1. この記事へのトラックバックはありません。

  1. 欧州関連

    トルコのBAYKAR、KızılelmaとAkinciによる編隊飛行を飛行を披露…
  2. 中東アフリカ関連

    アラブ首長国連邦のEDGE、IDEX2023で無人戦闘機「Jeniah」を披露
  3. 軍事的雑学

    サプライズ過ぎた? 仏戦闘機ラファールが民間人を空中に射出した事故の真相
  4. 米国関連

    F-35の設計は根本的に冷却要件を見誤り、エンジン寿命に問題を抱えている
  5. 米国関連

    米陸軍の2023年調達コスト、AMPVは1,080万ドル、MPFは1,250万ド…
PAGE TOP