米国関連

K2は優れた戦車、レオパルト2A7と決定的な違いはエコシステムの熟成度

米ディフェンスメディアは「独レオパルトは韓ブラックパンサーの侵略に対抗できるのか?」という興味深い記事を公開しており、KMWの関係者は「両者の決定的な違いは戦闘性能ではなくエコシステムの熟成度だ」と指摘している。

参考:Can Germany’s big cats resist South Korea’s Black Panther invasion?

最終的にポーランドが何輌のK2を調達するかは蓋を開けて見るまで分からない

ポーランド陸軍はドゥダ大統領やブラスザック国防相にK2やK9の実弾射撃を披露、820輌ものK2PL現地生産に関する契約に署名したが、未だに欧米では「NATO加盟国のK2導入」を衝撃的なニュースとして繰り返し報道しており、米国のForeign Policyは「韓国製戦車が欧州市場を席巻するかもしれない」と、英国のJane’sも「今回の取引でポーランドは潜在的な軍事力を強化しつつ自国の防衛産業再建に乗り出し、韓国は欧州の防衛市場で地位を高め両国の関係はWin-Winだ」と報じている。

米ディフェンスメディアのBreaking Defenseも31日「ドイツのレオパルトは韓国のブラックパンサーに対抗できるのか?韓国は欧州の戦車市場を狙っているが、ブラックパンサーはレオパルトの牙城をどう崩すのか?」という記事を掲載、中々興味深い言及が沢山あるのだが「欧州におけるレオパルト2の優位性を崩すのは現時点では難しく、需要の小さな国はK2に移行するよりもレオパルト2を維持した方が得策だが、ポーランドの製造拠点が立ち上がると欧州諸国にK2を売り込むのが容易になる」というのが結論だ。

ポーランドは技術移転に消極的なドイツの対応に直面してレオパルト2PLへのアップグレードが難航、独仏が進めている次期主力戦車プログラムへの参加も拒否(開発・製造への参加はNO/顧客としての購入はOK)されたため「現地生産」と「技術移転」を条件にK2導入が本格化、レオパルト2も選択肢の1つだったのだが「2023年から月1輌の供給しかできない」と言われ、韓国の防衛産業界に精通したエドワード・キム氏は「ポーランドのK2導入は5年以内に980輌納品が決め手になった」と同紙に明かしている。

出典:Wojsko Polskie

キム氏は「競合と比較してK2の性能は十分なもので価格も安く、迅速な納品と包括的な部品供給や技術移転を約束していた。ポーランドが国内に大規模な保守、スペアパーツ製造、物流拠点を所有するという事実は北欧、東欧、バルト三国にとって大きなセールスポイントになるだろう」と、ポーランドの防衛産業界に精通したクシシュトフ・クスカ氏も「K2導入はポーランドのニーズと韓国が能力が一致した結果で、次期主力戦車(K3)で両国が協力する可能性も高い」と述べているが、ポーランド人ジャーナリストは別の視点を同紙に提供している。

防衛問題や安全保障政策が専門のロバート・クルダ氏は「K2、K9、FA-50を含む大量の装備品調達に必要な財源を政府は明確にしておらず、既に産業界はK2の国内生産数が500輌になる可能性を示唆し始めており、仮に計画通り事をが進んでもポーランドがK2の海外輸出に乗り出せるのは何年も先の話だ」と指摘、つまり約1,000輌のK2調達に関する枠組みに両国は合意したたけで、K2調達の契約は段階的に締結(現在までに締結した契約は180輌分)されるため「最終的に何輌のK2を調達するかは蓋を開けて見るまで分からない」という意味だ。

レオパルト2A7とK2の決定的な違いは戦闘性能ではなくエコシステムの熟成度

レオパルト2A7とK2を実地テストで比較したノルウェー軍の調達部門は政府への勧告の中で「両者に大きな性能差はなかった」と言及して注目を集めたが、エドワード・キム氏も「重装甲のレオパルト2A7は防御力が優れているため、韓国はポーランド(K2PL)とノルウェー(K2NO)には装甲を強化したバージョンを提供することで相手の利点を緩和した」と明かし、独KMWのコンサルタントを務めるニコラス・ドラモンド氏も「同意見だ」と述べているのが興味深い。

出典:Wojsko Polskie

ドラモンド氏は欧州市場に食い込んできた韓国製兵器への「辛口の評価」で有名なのだが、同紙の取材に「レオパルト2のコンセプト、デザイン、操作方法を踏襲してきたK2は優れた戦車と言える。さらにK2は自動装填装置や可変サスペンションなど効果的な技術を追加してきた」と評価、両者の決定的な違いは「戦闘性能ではなくエコシステムの熟成度にある」と指摘している。

つまりレオパルト2は複数の国で開発コストを共有、多くの国が独自のサプライチェーンを構築しているため「安価なスペアパーツ」を「複数のソース」から容易に入手できるため、まだ韓国とポーランドしか採用していないK2のエコシステムは「レオパルト2に及ばない」という意味だ。

出典:Forsvaret

さらにドラモンド氏は「冷戦時代にKMWはレオパルト2を月16輌も生産していた実績があり、新しい製造技術を取り入れながら現在も同じ(工場の)床面積を確保しているので、NATO加盟国の需要に十分対応する能力がある。もし納品にスピードに問題が発生するなら製造元ではなくサプライチェーンの問題だ」と主張し、クスカ氏も「大規模な武器購入の前で能力の小さな違いなどは些細な問題に過ぎず、韓国のような遠い相手との協力より、より近い隣国との密接な繋がりの方が常に有利だ」と述べている。

但し、クスカ氏は「今直ぐK2を他のNATO加盟国に売り込むのは難しいが、ポーランドの製造拠点が立ち上がって大量運用が始まればK2の輸出先を見つけるのが容易になるかもしれない。ただ現時点でドイツの経済力は圧倒的で欧州における影響力も大きいため、まだレオパルト2はK2よりも優位な立場にあり、需要の小さな国はK2に移行するよりもレオパルト2を維持した方が得策だ」とも指摘し、欧州の戦車シェアに大きな変化が起きるとしても「当分先の話=欧州の製造拠点が軌道に乗った後の可能性」だと述べているが大変興味深い。

出典:16 Dywizja Zmechanizowana

因みにドイツ陸軍の現役将校(匿名)は同紙の取材に「K2の姿勢制御機能はパーティートリックだ。数度の高低差を変更するため技術的に戦車の構造を複雑化させる必要はなく、傾斜を利用すれば解決する話だ」とK2に批判的だが、今後のA7は「旧型からの再生産ではなく新造品が主流になる。旧型の車体は経年劣化で金属疲労を起こし、トーションバーが車体に食い込んできているため誰もA4からA7へのアップグレードを考えておらず、A6も車体がA4ベースなので状況は一緒だ」と指摘している。

つまりノルウェーが手持ちのA4をA7にアップグレードしないのは「そういうこと」なのだろう。

関連記事:ノルウェー軍の調達部門、レオパルト2A7とK2に大きな性能差はなかった
関連記事:米メディア、K2がレオパルト2を駆逐して欧州市場を席巻するかもしれない

 

※アイキャッチ画像の出典:16 Dywizja Zmechanizowana

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コメント

    • TA
    • 2023年 4月 01日

    「K2の姿勢制御機能はパーティートリックだ。数度の高低差を変更するため技術的に戦車の構造を複雑化させる必要はなく、傾斜を利用すれば解決する話だ」

    やっぱシンプルで安価で信頼性のある製品こそ正義(ジョンウィックが欲しがったゴツくて正確な奴
    売る方は差別化が難しいのだが買う方は知ったこっちゃない
    後は運用側の工夫だ

    12
      • 名無し
      • 2023年 4月 01日

      74式戦車な時代だと、アナログコンピュータの能力を補う重要な手段でもあったけど(条件を制限しないと回路が破綻しただろうから)、今日では俯角を確保するための技術って感じですね。
      俯角を小さく出来るのなら、砲塔の高さを抑制出来、
      重装甲な砲塔の高さを抑制出来るのなら、防御力を維持したまま重量軽減が期待出来る。
      俯角確保を図体のデカさで確保し、その弊害で重くなるのを許容出来るインフラなら、ただのパーティートリックでしょうが。

      各地質の1ユニットが広く分布し、断層が少なく地質構造が単調で、安定した大陸地塊を形成している地理的条件と、
      重量級車輌が運用可能なインフラを構築してくれた先人達、
      その両者に感謝すべきだと思います。 >ドイツ陸軍の現役将校(匿名)

      10
      • 名無し三等兵
      • 2023年 4月 02日

      この発言がレオパルト2原産国であるドイツ陸軍の現役将校である点は留意すべきでしょうね
      そりゃ、自国産を推したいでしょうからw
      「数度の高低差を変更するため技術的に戦車の構造を複雑化させる必要はなく、傾斜を利用
       すれば解決する話だ」
      傾斜は向こうからやって来てはくれません、戦車側にとって好ましい地形、高低差、傾斜を
      得る為には、その地形を探し移動する手間とリスクをかけなければなりません。
      もしその場の地形で車体側で望ましい姿勢が取れてすかさず射撃する事が出来れば・・これが
      姿勢制御機能の最大のメリットです。
      採用検討国にとっては、機能的な複雑化を伴っても、そこにどれだけの戦術的な価値を見い
      出せるかでしょう。

      9
    • 58式素人
    • 2023年 4月 01日

    思うのですが。
    サスペンションは、横置きトーションバーより、
    外付けのできるものの方が良いのでは。
    床下を空けることができるし、空いた床下には、
    何らかのIED対策をすることができると思います。
    例えば、複合装甲を封入するとか。
    外付けサスペンションは履帯の幅の中に収まるだろうし、
    増加装甲の代わりにもなると思います。
    足回りを破壊された時も、外部の部品の交換だけで済ませられると思います。
    チーフテンのホルストマン、ポルシェティーガーの縦置きトーションバー、
    チャレンジャーの単独油圧式などが良いのではと考えています。
    ただし、74式のそれは凝りすぎかと。

    3
      • TKT
      • 2023年 4月 01日

      K2戦車の、前後左右に車高調整可能の全軸の油気圧式懸架装置、というのを見れば、ニコラス・ドラモンドとかいうのがいう
      「レオパルト2のコンセプト、デザイン、操作方法を踏襲してきたK2」
      という見方は全く的外れで、実際は自動装填装置などを見てもわかるように、K2戦車は74式戦車や10式戦車といった日本戦車の影響を受け、近いコンセプトを持つ戦車ともいえ、またさらに日本戦車の中でも、サスペンションが簡易化された90式戦車ではなく、前後左右に車高調整が可能な74式戦車や、10式戦車に近い設計思想といえるのです。

      日本の陸上自衛隊が、90式戦車から10式戦車で、油気圧式サスペンションを前後左右車高調整可能なものに再び戻し、また韓国陸軍が、K1戦車で前後にのみ車高調整可能だったものを、K2戦車であえて74式や10式と同じ
      「前後左右に車高調整可能」
      な、懸架装置としたのは、まさに
      「数度の高低さの変更」
      が、戦車戦において、
      「決定的な有利となる」
      と判断したためなのです。

      これはもちろん韓国陸軍がドイツ陸軍やアメリカ陸軍をではなく、日本の陸上自衛隊を見本、手本とした結果です。

      11
        • 匿名
        • 2023年 4月 01日

        別に韓国はそこまで日本を意識してるとは思いませんけどね…
        こと陸上戦力に於いては明らかに韓国の方が上ですし

        ※但し空・海戦力については必要以上に意識している様ですが

        17
          • 匿名
          • 2023年 4月 01日

          訂正:
          ✕ こと陸上戦力に於いては明らかに韓国の方が上ですし

          ○ こと陸上戦力に於いては戦力・経験値共に明らかに韓国の方が上ですし

          9
        • 58式素人
        • 2023年 4月 01日

        WIKIを読むと以下の文章がありますね。
        「1995年から1997年の概念研究期において、次期戦車の機能・性能・形状、必要技術など次期戦車の概念に関する研究を行った。この際、韓国の戦車開発チームはStrv.103(Sタンク)開発者のSven Berge氏、M48、M60、M1エイブラムス開発者のPhilip W. Lett氏、メルカバ開発者のイスラエル・タル将軍、74式戦車、90式戦車開発者の林磐男氏らをセミナーに招致、このセミナーにおけるすべてのプレゼンテーションを保存し、次期戦車開発の参考として活用した。」
        日本の戦車も参考にはしたのでしょう。しかし日本だけではないでしょう。
        求めるものが日本と同じということはないと思います。

        27
        • 通行人
        • 2023年 4月 01日

        本家本元のK2なら韓国のドクトリン的に稜線なり蛸壺に身を潜めてバカスカ撃ちまくるってだけで、自衛隊とドクトリンが似通っただけの他人のそら似だ。
        K2PLは本国ほど起伏に富んでないからガチの機動戦やるつもりで装甲盛って転輪増やしてるんでしょ。ポーランド向けに改良したらレオパルドと似ましたってだけだ。

        10
      • 名無し
      • 2023年 4月 01日

      >ただし、74式のそれは凝りすぎかと。

      74式戦車の時代は、アナログ弾道計算コンピューター。
      オペアンプなどの回路の組合せで計算を再現しようとした、デジタル全盛の今日ではちょと想像するのも難しい代物。
      狭い74式戦車の砲塔内に収める必要もあるので、回路規模や能力も恐らく制限された事でしょう。

      FCSの能力を補い射撃精度を上げるため、砲耳を出来るだけ水平にしようと、74式戦車では左右方向の姿勢制御も導入したのでしょうね。
      90式戦車で左右方向の姿勢制御を止めたのは、FCSの能力向上からとして、
      10式戦車で左右方向制御を復活させたのは、(複合装甲破りの集中射撃を行うため)おかしなレベルでの射撃精度を求めたから、かな?

      6
        • TKT
        • 2023年 4月 02日

        前に
        「丸」
        の記事に書いてた、元・乗員の体験談では、要するに演習で90式戦車が74式戦車に勝てない、というか阻止できないことが多かった、ということです。

        左右に車高調整可能な、全転輪が油気圧式サスペンションの74式戦車は、前後にしか車高調整できない90式戦車では通れない、つまり走ると
        「横転」
        してしまうようなとこでも通ることができ、90式戦車はそれを追跡できないのです。もちろんただ逃げるだけでなく、先回りして待ち伏せするのも容易です。

        また地形を利用した待ち伏せ、伏撃でも、74式戦車は左右の車高を調整することにより、90式戦車では簡単に横転してしまうような場所からでもどうにか踏ん張って砲撃することができ、またそれができない90式戦車の乗員や指揮官はそれを、つまり74式戦車の伏撃位置を予想することが難しいのです。
        「ここから撃てるんだ~~!?」
        みたいな感じになるわけです。

        14
          • 名無し
          • 2023年 4月 02日

          ありがとうございます。
          紹介された事例は、10式戦車で左右方向制御を復活させた理由、って事になるのでしょうね。
          そして、90式戦車で廃止している事例から、74式戦車や90式戦車の開発時点では重要視していなかった要素でもあると。

          不具合事例って、後から考えると当然と思える事が、開発当時見落とされ製品まで流出するケースが結構あります。
          そのような失敗からの学びがノウハウとなるのですが、
          紹介された事例と「10式戦車で左右方向制御を復活」の関係は、その手の話しに通じる様に思えました。

          8
    • MAT
    • 2023年 4月 01日

    今後のA7は「旧型からの再生産ではなく新造品が主流になる。旧型の車体は経年劣化で金属疲労を起こし、トーションバーが車体に食い込んできているため誰もA4からA7へのアップグレードを考えておらず、A6も車体がA4ベースなので状況は一緒だ」

    レパルド2A4でその様な事例が出ているとは初見ですね。

    11
      • 名無し
      • 2023年 4月 01日

      それが本当ならトーションバー交換しろよ、と反射的に思っちゃいました。
      簡単に交換出来ないからこその事態なのでしょうが。

      3
        • 戦略眼
        • 2023年 4月 02日

        この話が本当なら、車櫃のサスペンション受け部がヘタっているということか。
        分厚い装甲板が簡単にヘタるとは、信じ難いが。
        この前、スペインがウクライナに提供したLeopard2A4のオーバーホール費用が、一両当たり1億円近く掛かったとのことなので、改修するより新造した方が、安いのかもしれない。

        6
    • ブルーピーコック
    • 2023年 4月 01日

    後発の強みを生かし、需要にうまいこと乗れた感じ。生産拠点を欧州に作り、味方する国を増やすことで、欧州の常套手段である域外規制も使えないだろうし。

    6
    • せい
    • 2023年 4月 01日

    取引の規模がデカいから結果が見えるのはまだまだ先になりそうだが、計画通りに進むんならレオパルドの立場は相当脅かされそう。
    個人的にはパンターも何とか実現して、多様な生態系を見てみたいが。
    宇露戦争が拮抗してる内がチャンスかなぁ。

    4
    • 折口
    • 2023年 4月 01日

    ポーランドの軍拡財源は確かに問題でしょうけど、サプライチェーンの成熟度云々は(ポーランド政府の要求した納期にKMWが難色を示した事がK2採用の遠因の一つなんだから)詭弁でしょう。有事の際には冷戦時代と同じペースで生産できるでしょうって、今は有事じゃないという事ですかね。

    勘違いしてはいけないのは、これはどちらか優れた1機種を選んですべて統一するという問いではないのです。一般論としてサプライチェーンの強靭化に最も寄与するのは調達先の多角化と分散です。K2の実力や真の供給力に関係なく、欧州で採用国が増えればそのぶん欧州の防衛力基盤は強靭になります。K2のセールスがこれ以上波及しなかったとしても、NATO最大の戦車運用国であるポーランドがレオパルト2の使用を止めたことで間接的にそれ以外のレオパルト2ユーザーはKMWからのサービスや供給に恩恵をうけているのです。なぜ域外の新興メーカーを排除する必要がありますか?

    ドイツ軍現役将校の意見もある面では正しいのですが注釈が必要だと感じます。確かにK2は山岳部で扱うために全力で仰俯角を取る設計になっています。対空射撃まで考慮して砲耳を重心より後方に付けたことでバランスが狂って安定装置の開発に難航した話は一時期話題になりました。そしてこれらの機能は平野部からなるポーランドとその周辺では必ずしも必要でないのは事実です。(ただし砲塔内部のクリアランスによらない仰俯角の確保は砲塔の低姿勢化に寄与することで重量の軽減につながるのですが、アクティブサスを使ってない国には理解されにくいのは仕方ないでしょう)

    ただ戦車の運用思想は国ごとに大きく異なっていて、比較的似通った戦車を運用している米英独でも微妙な差異があります。ポーランドがK2に増加装甲を要求したという話がなされていて、これはおそらく「K2の防護性能がレオパルト2に及ばないのでその分を補う事をポーランドが求めている」というニュアンスで交わされているのだと思いますが、これは違います。ポーランド軍は元来独特の戦車戦ドクトリンを持っていて、その一つの特徴が側面防御の重視です。一般的な第3世代MBTは真正面と左右30度程度の範囲にしか複合装甲の防護範囲を振っていませんし、それも砲塔だけだったりします。何でそう思うのかは不勉強にして自分は知らないのですが、ポーランドはこの装甲配分に不満があるらしく最近の設計の車両では車体も含めた側面の装甲化を要求する傾向があります。レオパルト2A4ベースでポーランド軍が試作したレオパルト2PLモデルは顕著な例です。そしてK2PLの改造項目にも車体および砲塔側面の増加装甲は含まれています。ポーランドにとってはレオパルト2もK2も同程度に物足りない戦車なのです。
    (むしろレオパルト2を無条件に最良の製品と見なす風潮のほうにこそ問題を感じますがこれを言うとドイツ連邦軍の悪口になってしまうのでやめましょう)

    38
      • show the flag
      • 2023年 4月 01日

      いつも読みごたえのあるコメントを興味深く拝読しています。
      差し支えなければドイツ連邦軍の悪口の部分を投稿いただけないでしょうか。(悪口が読みたいのでなく折口さまのご見解を読みたいということです)

      13
        • 折口
        • 2023年 4月 02日

        乱文を読んでいただいて恐縮です。悪口というとちょっと語弊がありますが、私見としてレオパルト2は旧態依然とした部分がどうしても出てきていると感じています。レオ2の基本的なスペックが世界最高水準にあるのは間違いないのですが、走攻守に関して言えばルクレールだって90式だってK2だって同水準なのです。開発開始年度で10~30年の開きがあるこれらの後発とレオ2で異なっているのは、同水準の機能を実現するために必要なコストやエネルギーです。

        K2がレオ2より安いという話がありましたが、それは廉価な性能だからではなく新しいぶん設計が効率的で軽量に仕上がっているからというのもあるんじゃないでしょうか(もちろん為替の影響もある)。レオ2はA4型から始まって個体ごとにアップデートを繰り返し受けてきました。繰り返しアプデやパッチをあてているソフトウェアの内部処理が重くなってしまう事があるように、レオ2も新規開発の車両に較べて車体そのものが重く大きくなってしまっています。既存A4ユーザーには新車を買う必要が無くなるのでアップグレードキットは喜ばしいですが、新車でA6を買うユーザーにとってはA4時代の設計の名残なんて知ったことではないですからね。燃料消費、足回り部品の摩耗、消耗品のユニットコスト、戦略機動時のトランスポーター等々、ユーザーからしたら戦車が過度に重くて良いことは何もないです。他に、この世代の戦車が重量級なのはNBC戦を考慮した長時間の居住性を織り込んでいる都合もあるのですが、全面核戦争が発生する可能性が低減した現代においてはどっちにしろ必要性の乏しい重量・コストです。同じNBC戦対応でも内部をそこまで広くとっていない戦車も多いですしね。

        ドイツ連邦軍は今が機甲戦デザインの転換期です。冷戦中は独ソ戦時代を参考にした縦深防御や機動防御を結合させるという明確な戦術目標があり、迫りくるソ連戦車をアウトレンジ可能な長射程高精度の火砲、長い活動時間と弾薬搭載量、高度な足回りを両立させた戦車すなわちレオ2が至高の戦車だったことは疑いありません。その後国際貢献や対テロ戦争の時代が来て、現代は将来の正規線に備える時期なのですが、ウクライナの戦訓を見るに意外と大平原での戦車決戦という感じではなく、郊外や都市部での接近戦、遭遇戦が多いように見受けます。もちろんウクライナからどんな戦訓を得るかは国ごとに変わってくるはずですが、重量があって足が制限され、ALSを持たず、シルエットの大きいレオパルトが仮にウクライナ同様の戦いに投入されたら結構大変なんじゃないかなあと思うんですよね。欧州の次世代戦車はあと10年は出て来ないですからこの状況は当面続く訳で、当事者たる欧州当局者やドイツ兵器産業界にその辺もうちょっと危機感があってもいいような気がしています。

        26
          • show the flag
          • 2023年 4月 02日

          リクエストにお応えいただきありがとうございます。
          先のコメントを補って俯瞰的な視点、示唆に富む見解は今後のウクライナ戦や戦車関連の話題を眺める良い参考になります。
          今後もコメントを読めることを楽しみにしています。

          10
    • れんちゃ
    • 2023年 4月 01日

    K2は各国の戦車のコンセプトを基本にしてあるのでそんな奇怪な車両でもない。また、こだわりも無いので各国がライセンスしてオリジナル派生型を作る事にも抵抗は少ない。
    製造面で問題があったのも韓国が作ったパワーパックとかだった。欧州側は逆にそこらへんの技術は持っているし、いざとなればドイツやトルコから仕入れれば良い。だからK2ベースの派生型+欧州産パワーパックスタイルなら、逆に他の地域で導入するよりもスムーズなのかも知れない。
    ただ、ドイツフランス間で進んでいる共通開発プランやそこからはじき出された格好のラインメタル社が目指す新戦車が控えてる所は懸念がある。そこらで綱引きあって最終的な契約数がどうなるかって感じかな。

    7
    • あばばばば
    • 2023年 4月 01日

    韓国も基本的に国外向けの戦車にはサスペンションはトーションバーでよいと考えているのでは?
    トルコのアルタイではトーションバーが採用されているし、ウ侵攻前のK2PLプランはトーションバーで提案されていた。
    ただし、それらはあくまで韓国軍仕様K2のコンポーメントを使用した新しい戦車開発するセールスで、提出までに時間がかかるが

    1
    • pukepuke
    • 2023年 4月 01日

    「K2の姿勢制御機能はパーティートリックだ。数度の高低差を変更するため技術的に戦車の構造を複雑化させる必要はなく、傾斜を利用すれば解決する話だ」

    韓国や日本の地形じゃ必須な装備だと思うのだが?

    9
    • あああ
    • 2023年 4月 02日

    今では重整備工場でないと折れたら直せないトーションバーより、現場でASSY交換できる外装アドオンの油気圧が継戦性ではむしろ優れる。外装装甲式で重量変化が10t単位で発生するなら尚更でしょう。
    戦車に拡張性を必要とする今にあえてトーションバーである意味は額面上で車両単価を低く見せる事以外には無い。それに走行性能の向上は戦場可視化時代には必須です。
    昔BAEがセミアクティブの優位性をプレゼンしてましたがCV90でこれをやると不整地走破速度が劇的に上がるわけです。行進間の射撃精度も当然上がる。タッチパネルだらけの車内では今のよりも動揺抑制をしないと誤操作の元になる。車体が揺れ続けると鮮明な映像を映し出しても意味がない。じゃあヘッドアップディスプレイですねにもなる。

    3
      • hoge
      • 2023年 4月 02日

      数十年前から何度も外装式サスペンションを試作していて、豊富な実戦経験を持ち、R&Dの費用も戦車1台あたりにかけるコストも桁違いの米陸軍が採用していないことが答えでは。
      信頼性とコストは極めて大事で、かつ戦車の戦闘能力の最もクリティカルや部分はセンサー、FCSや砲弾なのでそれらの更新、予算配分が最優先になるのは間違いないかと。

      1
        • あああ
        • 2023年 4月 02日

        その米国軍も次世代AFVでは外装油気圧式ですよ。過去の話をするならルクレルやK2ですけどこれらは低姿勢砲塔なので俯仰補助で姿勢制御が必要でした。油気圧サスだからこそ小型軽量化ができたわけです。
        レオ2もM1もこれらより前の世代です。そして人力装填式です。サス性能でジャム防止は不要です。自動装填化をするならやはり油気圧で正解です。
        なのでエイブラムスXは油気圧です。基本車重で軽量化を実現しながらもフルパッシブサスではもはやありません。サス高性能化のハード単価と中身のソフト単価で完全に逆転してる今にサスは据え置きなどありえません。

        1
          • hoge
          • 2023年 4月 02日

          >その米国軍も次世代AFVでは外装油気圧式ですよ。

          そもそもAbrams Xはメーカーが勝手に言っているだけで、予算化すらされていない件について。
          リンク
          一方で画像認識技術を使った次世代のFCS技術のATLASのほうはしっかり予算が付いていて研究開発が進んでいる。
          リンク
          >サス高性能化のハード単価と中身のソフト単価で完全に逆転してる今にサスは据え置きなどありえません。

          Altay, 提案されていた大規模改修型のK2PLもtorsion bar suspensionな件について。
          M1A2 SEPv3もLeopard2 A7Vも重量増加に合わせてsuspensionは新しいものに更新しているけれども、torsion barのまま。
          というか、外装油気圧はMBT70のころからずっと取り組んでるし、Abrams用でもいくつも試作されているけれども、結局正式採用されておらずtorsion bar suspensionのまま強化され続けているのだから、それ相応の理由があると考えるべき。

          3
    • hoge
    • 2023年 4月 02日

    ちょっとソースがすぐに出せないですが、A6MA3では車体の品質の問題から新造したと記事を見かけた記憶があります。
    加えて、KMW公式のLeopard2 A7NOのページでは「顧客の要望に応じてエンジン、トランスミッションをA4から流用可能=逆に言うとエンジン、トランスミッションに問題なく、車体、砲塔の筐体に問題があると考えて間違いなさそうですね。
    リンク

    砲塔も含めて新造なのはおそらく重量軽減(将来の拡張の余地の確保)のためではないでしょうか(40年分新しい素材、構造を適用できる)
    KMWはLeopard2の将来の改良で砲塔の筐体の刷新を提案しているそうなので、砲塔も筐体がそのままでは重量的に拡張の限界に近そうです。

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