米国関連

米国が中国に勝利する条件、新技術開発のためレガシーウェポンの破棄

超党派の連邦議会議員で構成された「Future of Defense Task Force:未来の国防タスクフォース」が国防に関する将来のビジョンについて報告書を発表、米国が中国に追いつくためには「国防総省がレガシーな兵器システムを破棄する必要がある」と主張して注目を集めている。

参考:Lawmakers Argue U.S. Must Divest Legacy Systems to Keep Up With China’s Technology Growth
参考:Future of Defense Task Force Releases Final Report

超党派の連邦議会議員で構成されたタスクフォースの提言を受けて議会と国防総省はレガシー兵器の削減に乗り出すか?

この報告書は米国がロシアと中国の脅威にどの様に立ち向かうのかを示す指針であり、内容を端的に要約するとタスクフォースは21世紀のマンハッタンプロジェクトとしてAI、バイオテクノロジー、クラウドコンピューティングの3点挙げ、この分野に投資を行うため資金を捻出するため国防総省にレガシーな兵器システムを破棄して捻出した資金を3つの分野に再投資しろと言っており、この分野への投資が遅れれば中国との技術開発競争に敗北すると警告している。

タスクフォースの共同議長を務めた元海兵隊員のセス・モールトン議員(民主党)は「大統領選挙で誰が勝利しても新型コロナウイルスの影響で今後数年間は国防予算が増加することはない」と言っており「この内容を実行しなければ世界秩序は民主主義ではなく権威主義好みなもの変化するだろう」と指摘した。

補足:タスクフォースの共同議長を務めているセス・モールトン議員とジム・バンクス議員は2人とも下院軍事委員会のメンバー

さらに彼は国防総省や軍の新技術への取り組みについても批判して改善を提言しているのが興味深い。

出典:public domain ズムウォルト級ミサイル駆逐艦

国防総省や軍は冷戦終結後に大胆なチャレンジを行ったが、そのほとんどが失敗に終わったため新技術採用のリスクを恐れている点を取り上げたモールトン議員は「軍の新技術に対する取り組みは不十分もしくは恐ろしいほど慎重」と指摘、これは軍だけに責任があるのではなく軍がリスクを犯して失敗する度に議会が彼らを叩きのめしてきたことにも原因があると言って「議会や国防総省はシリコンバレーのアプローチを採用する必要がある」と主張した。

因みに、この内容は民主党と共和党が合意済みで大統領選挙の結果に関係なく実行に移されるものなので注目すべきなのだが、あまりに広範囲過ぎて流石に理解するのが難しい。

ただ空軍も海軍もレガシーな兵器システム維持に予算の大半を持っていかれる状況では「新しい技術や兵器への投資が難しい」という認識で一致しており、空軍はB-1Bランサーを17機、A-10サンダーボルトIIを44機、旧型のRQ-4グローバルホーク(Block20/Block30)24機と無人戦域通信中継機EQ-4を3機、空中給油機KC-135を13機、KC-10を16機、MQ-9リーパーを10機、輸送機C-130Hは24機を退役させて将来の空軍を支えるプログラムに投資すると発表。

出典:public domain B-1Bランサー

海軍もF/A-18E/F BlockⅢの新規調達(BlockⅡからBlockⅢへのアップグレードは継続)を2021会計年度予算以降に打ち切り、捻出した予算を次期戦闘機「F/A-XX」開発に回すことを計画している。

ただ、このような計画は今まで議会が戦力低下を理由に容認しない可能性が高いと言われていたので実現の可能性は低いと見られていたが、今回の報告書によって議会の態度に変化が起これば一時的な戦力低下と引き換えに大掛かりな部隊再編が可能になるかもしれない。

しかしタスクフォースの提言は空軍や海軍が主張している以上のレガシー兵器削減を求めている可能性が高いため、もっと踏み込んだ削減案が浮上する可能性もある。

例えば2030年以降の運用継続のためアップグレードが予定されている空軍のB-52Hなどはレガシー兵器の代表例で、海軍は調達と維持に大金を注ぎ込んでいる原子力空母の削減に乗り出しても不思議ではない。果たして提言を受けた国防総省はレガシー兵器の削減にどこまで踏み込むのか注目される。

因みに米陸軍に関しては、これまでレガシー兵器の削減話が無かったので今回の提言を受けてどうするのか全く読めない。

関連記事:米空軍、正式に「B-1Bランサー」や「A-10サンダーボルトII」など7機種の退役計画を発表
関連記事:2050年まで飛行可能に! 米空軍、爆撃機「B-52H」エンジン換装プログラム始動
関連記事:鶏が先か、卵が先か、米海軍の次期戦闘機F/A-XXのジレンマ

 

※アイキャッチ画像の出典:U.S. Air Force photo/Staff Sgt. Trevor T. McBride

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コメント

    • 匿名
    • 2020年 11月 04日

    お金が足りないということが如何に切実か
    軍事力を背景に秩序を作り、自国に有利な世界ルールを定めて、そこから経済的利益を吸い上げる米国モデルの限界なのか

    9
      • 匿名
      • 2020年 11月 04日

      覇権国家はその覇権を維持する費用が必要であるが故に、時間と共に支出が増大する。
      アメリカに限った話ではないよね。ローマ然り、モンゴル然り、中国歴代王朝も。

      9
    • 匿名
    • 2020年 11月 04日

    A-10はコスト安いから別に良いんじゃないの?
    F-35でCASなんていくらかかるんだよ

    1
      • 匿名
      • 2020年 11月 04日

      陸軍の奴らのために専用機を維持するなるのは気に入らない@米空軍
      なお、A-10の元となったA-X計画は元々陸軍主導だったんだけど、
      陸軍に固定翼機(連絡機は除く)を持たせたくない空軍が難癖つけて計画を掻っ攫った過去があったり

      8
        • 匿名
        • 2020年 11月 04日

        なあ、空軍さんは後になってにA-10は陸軍が維持しろと逆ギレしてたり
        今後、無人機を管轄を巡ってもいろいろやらかしそう

          • 匿名
          • 2020年 11月 04日

          空を飛ぶなら紙飛行機でも空軍のもンや!byふとっちょ元帥

      • 匿名
      • 2020年 11月 04日

      A-10が安いのはその通りなんだけど、F-35の運用コストって順調に下がってるんだよね
      2019年度時点でF-35AはF-15E並(F-22の半分)になってて、このまま増産が続けばF-16並みになると考えられてる
      (他にもポンコツALICEの問題とかが解決するほど安くなる)
      そこまで行くとA-10との差は言うほど大きくなくなってくる
      となるとA-10用のパイロット訓練とか専用部品調達を丸ごと削ってF-35に統合した方が効率的になる可能性があるのでは

      13
      • 匿名
      • 2020年 11月 04日

      これまでの実績でA-10が有能なのは分かるけど制空権が確保できない空域ではA-10自体の出番がなく、逆に制空権が確保できるような戦場ではMQ-9のようなUAVで近接航空支援ができるので、もうA-10は絶対的じゃないんだよ。

      この辺りを踏まえるとA-10を廃止してF-35とUAVに予算を集中させたほうが効率的なんだろうね。

      15
        • 匿名
        • 2020年 11月 04日

        そのMQ-9も中露とのハイエンド紛争には対応出来ないという評価ですからね。
        A-10は最早定数250機の作戦機枠と年間数億ドルの運用費を占めるに値しない機材

        1
        • 匿名
        • 2020年 11月 04日

        中露等先進的軍事大国対応兵器体系と地域紛争等介入対応兵器体系の切り分けは行いそう。
        前者には先端的技術体系を積極的に応用した革新性を追及し効率的に具現化していかないと優位性を保持できなくなる。米製兵器の常な豪華主義を見直しスマートな合理主義への切替が必要になるのかも。
        大枠としての空母必要保有数と運用技術の見直しとか、F-35の運用維持システムをスタンダード化するとか、レガシーの延長上にあるムダを省き研究開発に予算を振り向けることは必須なのかと思います。
        後者へはUAV等の積極的活用と運用体系の確立でしょうね。
        相手次第ですが航空優勢の有無に関わらずUAVが活躍できる可能性はアフガニスタンやナゴルノ・カラバフ紛争で示されています。米の持つ衛星ネットワークはもっと活用されるべきでしょう。

        1
    • 匿名
    • 2020年 11月 04日

    バイオテクノロジーに投資してどうすんだよ
    ネオ新型コロナでも作るの?まともに感染管理もできないくせにw

    3
      • 匿名
      • 2020年 11月 04日

      もっと踏み込んで、将来は兵士の肉体を改造とか
      ビッグXだのスターウォーズの帝国軍兵士のイメージまで持ってたら怖いね

      1
        • 匿名
        • 2020年 11月 04日

        弾なんか はねかえせ
        ジェット機だって 手づかみだ

        軍艦なんか ふんづけろ
        戦車だって 手づかみだ

        陸海空に敵無し。
        もう無敵っす。

          • 匿名
          • 2020年 11月 04日

          マジマジ反乱とか太平天国の乱みたいなんやな

      • 匿名
      • 2020年 11月 04日

      コーディネーターを作るんやぞ

      2
    • 匿名
    • 2020年 11月 04日

    M2重機関銃「もうすぐ採用から90年になるレガシー兵器だから引退してもいいかな?流石にもう後継の新型重機関銃あるでしょwww」

    12
      • 匿名
      • 2020年 11月 04日

      XM806「本当に申し訳ございません」

      3
    • 匿名
    • 2020年 11月 04日

    まだまだいけますよ
    単純にして剛健、そして完全
    あなたは戦場の伝説です

    3
    • 匿名
    • 2020年 11月 04日

    >これは軍だけに責任があるのではなく軍がリスクを犯して
    >失敗する度に議会が彼らを叩きのめしてきたことにも原因がある

    このセリフを議員自身が超党派で、メディアを気にせず言える環境
    それこそが、アメリカの何よりの強さの秘訣のような気がするよ。

    17
    • 匿名
    • 2020年 11月 04日

    レガシー兵器を無くせ、か
    理屈はわかるけど、最前線の現場兵士にとってはそういうレガシー兵器こそ信頼できる面もあるしなぁ

    8
      • 匿名
      • 2020年 11月 04日

      未だに銃剣突撃の例があるというのに極端すぎると思いますねえ。
      ただ、果敢に投資しないといけないのは事実なんですけどね。

      4
        • 匿名
        • 2020年 11月 04日

        米軍はこの数十年、銃剣突撃してないはずだし訓練も廃止してる。
        紅茶決めた連中が突撃してるって?そりゃL85は鈍器だからね仕方ないね。

        5
      • 匿名
      • 2020年 11月 04日

      その通りで、例えばISとの戦いだとレガシー兵器が有用なわけです。
      中国とのサイバー戦とか宇宙での争いとかに最先端も必要ですし。
      撤廃とか極端な事は止めるべきですよね。

      4
    • 匿名
    • 2020年 11月 04日

    (将来のモノ、開発中のモノを)左手で掴んでから、(持ってる)右手のモノを離す・・・
    維持費を考えるとそうもいかないか。

      • 匿名
      • 2020年 11月 04日

      本当ならそれがベストなんだろうけど、それだと投資速度で中国に負けてしまうんでしょうね。

      2
      • 匿名
      • 2020年 11月 04日

      今の中国は以前の米国のようにムダを許容する投資ができるんですよね。
      兵器が高度化と同時に高価格化したため規模の大きな軍を抱える米はそれを許容できなくなった。
      同じことは将来的に中国軍にもおこるかもしれませんが、政治体制が一定の無理を利かすでしょう。
      それを覆すには簡単には追従できない思い切った改革が必要になるんだろうとは思います。

      5
    • 匿名
    • 2020年 11月 04日

    そうだ! B-1Bランサーを10機ほど日本で買おう! 置く場所が無いからオーストラリアに置かせてもらって、と。

    1
    • 匿名
    • 2020年 11月 04日

    トランプさんに決まりそうだな。よかったよかった。
    B-1B、B-52は最後に●●●を空爆して花道を飾ってほしいw

      • 匿名
      • 2020年 11月 04日

      ヤフーの選挙速報ではずーっとバイデン氏がリードしてるんですが
      何処でそう言った報道がされてるんですか?

      1
        • 匿名
        • 2020年 11月 04日

        米メディアですね。
        酷いもんです。

          • 匿名
          • 2020年 11月 04日

          成る程あちらのメディアは見てませんでした
          テレビでもネットでも媒体によって速報結果はブレますものね
          有り難うございます

          • 匿名
          • 2020年 11月 04日

          アメリカのメディアの報道内容ちゃんと見てないでしょ
          激戦州で表面上トランプがリードしても郵便投票が残ってるから最終的にバイデンが勝ちますよ
          トランプ上げてバイデン叩いてる人多いけどアメリカ最強利権圧力集団の軍や諜報機関が中国を思いっきり警戒しているので古い調整型の政治家のバイデンは軍や諜報機関の意見をトランプ以上に重視するのでトランプ率いるアメリカよりも日米同盟は安定すると思うけどな

        • 匿名
        • 2020年 11月 04日

        州ごとに数字が決まっていて270を超えた方が勝ち。
        数字の大きい州は有権者数が多いから開票に時間がかかる。
        そして数字の大きい州はトランプ氏が優勢。

        これでバイデン氏が最初リードしていて、トランプ氏が優勢なのか分かるだろう。

        1
          • 匿名
          • 2020年 11月 04日

          おぉ成る程
          そういう仕組みでしたか
          日本の様な単純な得票数では無いんですものね
          有り難うございます

            • 匿名
            • 2020年 11月 04日

            例えば、サンフランシスコで勝つと、270中の55票が獲得できる。という感じ。
            ハワイで勝っても3票とか。

              • 匿名
              • 2020年 11月 04日

              奇妙な選挙人制度でなく、直接投票に切り替えたほうが後腐れなくていいのに
              アメリカって変なとこが後進国

              1
                • 匿名
                • 2020年 11月 04日

                考え方が直接民主制じゃないんだよ。個別の州(国)が推す代表者を決める。人口差は選挙人の差で吸収と考えると納得できない?

                2
                  • 匿名
                  • 2020年 11月 05日

                  あまりここでそのような話をすべきではない。

                  2
    • 匿名
    • 2020年 11月 05日

    ここのコメ欄ってこんな↑に多重返信できる仕様でしたっけ?

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