ウクライナ戦争は「安価で生産効率の良い兵器」の重要性を思い出させ、米軍も低コストで大量生産が可能な巡航ミサイルの取得を模索中だが、空軍と海軍が資金供給しているRAACM=迅速適応型低価格巡航ミサイルの主契約者も「量が高価な巡航ミサイルにはない独自の能力を生み出す」と指摘した。
参考:CoAspire Tests RAACM Rapidly Adaptable Affordable Cruise Missile
参考:RAPIDLY ADAPTABLE AFFORDABLE CRUISE MISSILE
特性の異なる「高価な巡航ミサイル」と「安価な巡航ミサイル」は補完関係で、どちらか一方だけでは効果は半減してしまう
米空軍研究所は2024年1月「イノベーションを促進する空軍プログラム=AFWERXが先端兵器の技術開発を目的にしたデザインスプリント・アンド・チャレンジイニシアチブを開始した」「最初の目標は将来の低コスト巡航ミサイルに関するプロトタイプ設計(射程926km、亜音速飛行、目標コスト15万ドル)だ」「このチャレンジに参加するチームは兵器能力の強化と同時に手頃な価格での大量供給も考慮しなければならず、この課題に対する解決策は拡張可能でパートナー国や同盟国が利用出来るものでなければならない」と発表。

出典:Defense Innovation Unit
この取り組みがどうなったかは不明だが、米空軍と防衛イノベーションユニット(DIU)は2024年6月「既存の入手可能な部品や材料を使用し、迅速かつ高効率で生産可能なエンタープライズ試験機= Enterprise Test Vehicleを開発する」「2024年後半の飛行試験向けプロトタイプソリューションの開発契約をAnduril、IS4S、Dynetics、Zone 5 Technologiesが獲得した」「この4社は100を超える応募の中から選ばれた」と発表。
DIUはETV契約授与の発表に際し、IS4S、Dynetics、Zone 5 TechnologiesのETVイメージを公開、さらにAndurilも2024年9月に大規模生産と大量使用を前提にしたBarracudaを発表しているため、ETVが低コスト巡航ミサイルに関連しているのは明白なものの、空軍と海軍はETVと趣旨が良く似たRapidly Adaptable Affordable Cruise Missile=RAACM(迅速適応型低価格巡航ミサイル)にも資金供給を開始している。
このプロジェクトの主契約者=CoAspireはSea Air Space2025で「RAACMは手頃な価格で長距離兵器を提供するのが目的だ」「Divergent Technologiesの積層造形技術を活用してコストを削減し、巡航ミサイルとしての性能を最適化した」「(高価な巡航ミサイルに比べて能力は限定的だが)最近の戦争で見られたように、安価な兵器でも一部が目標に到達している」「これこそが独自の能力を生み出す」と言及し、3月に実施したRAACMの空中投下テスト(母機はA-4)も公開した。
RAACMはGBU-38やMk.82と同寸法で、空軍はF-15Eなどの戦闘機と、海軍は艦載機との互換性を確保するため資金供給を行っており、CoAspireも「F-35やF/A-18E/Fによる空母運用を想定して設計している」「RAACMは輸出可能な技術で構成されているため対外有償軍事援助(FMS)や直接商業売却(DCS)経由での販売可能だ」「手頃な価格のミサイルは海軍だけでなく世界中の空軍にとって非常に重要だ」と述べ、空中発射型以外にも地上発射型、艦艇発射型、Rapid Dragonによる空中投下型の開発も検討しているらしい。

出典:CoAspire
要するにRAACMは「敵の防衛を最新のテクノロジーで克服して目標に到達する高価な巡航ミサイル」ではなく「敵の防衛を量と戦術的工夫(目標へのアプローチが異なる無人機や弾道ミサイル、敵のセンサーを混乱させる安価なデコイとの併用など)で目標到達の可能性を高める安価な巡航ミサイル」で、この戦術の有効性はウクライナ軍側でもロシア軍側も確認されており、目標を破壊するという以外にも「敵の防空能力を消耗させる」という効果も期待でき、米軍は質のみの追求から「質と量」をカバーする方針に転換したのは明らかだ。
こうなってくると対応する側=防空システムも量を増やす必要があり、これまでのような高価なシステムではなく「安価でシンプルな迎撃手段=理想的には低空域を保護する対空機銃の大量配備」が現実味を帯びてくる。

出典:Lockheed Martin AGM-158 Xtreme Range
因みに本話題は「高価な巡航ミサイルと安価な巡航ミサイルのどちらが優れているか」「優れている方だけを持っていればいい」という話ではなく、特性の異なる「高価な巡航ミサイル」と「安価な巡航ミサイル」は補完関係にあると認識しておかなければならない。
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※アイキャッチ画像の出典:CoAspire
量があるから、できる作戦がありますからね。
防衛側は選択肢が増えれば、備える場所・備える事が増えて、防衛密度が低下することにも繋がります。
ロシア攻撃アプローチを見ていると、複数種類のミサイル・無人機・陸海空のプラットフォーム・複数方向・変則起動の飛行コースをとっていまして防空側は大変だなと感じました。
アメリカ・ウクライナ(世界の防空システムを集積)以外では、いわゆる西側そもそも対応すらできないのではないかなと。
軍需企業がアニメを使ってるのも特徴的だが中国だとミサイル足りねえ!って堂々と書いてるのも中々だな。
しかしそれを平時に維持できるのかね
調達した弾薬は平時だと演習で消費しないといけないけどそれだけで一苦労なような
ロシアが戦時増産に成功してるのは国営の工廠や当局の強い影響化にある企業に平時でも余剰の生産設備を維持させてるからだけど、アメリカでそれは無理だろう
だから昨今発表されるローコスト兵器を見ると「安い民生品を利用した簡単に組み立てられる兵器」なんて方法論のものが多いけど、サプライチェーンを考えればこれを戦時増産するのはやっぱり不可能だから大量消費への対応を考えればコンスタントに大量調達し続ける必要がある
でもそれは現実的じゃないよね
いや民生品は軍需での平時の必要量の何十倍、何百倍も流通してるんだから戦時に慌てて増産しなくても調達できるだろうし、民需分を徴発することも、場合によっては使用中の民生品からかっぱぐことだってできます。
規格品のリサイクルなら鍋釜や釣鐘集めて鋳潰すよりゃなんぼかマシでしょう。
いや、コメ主が問題にしているのはサプライチェーンでは。
もちろん民生品は軍需とは違って生産量はけた違いですが、そもそも生産地が遠方にあったり、貿易になんらかの障害があった場合に流通がストップして部品が「手に入らない」といったことが起こりうるということでは。
結局、これからの時代の安全保障は生産できる体制を国内で確保できるのか?という問題をはらんでいるということだと思います。
米空軍とDIUの当該事業は、必要に応じ安価で迅速に大量生産移行可能かつ一定の要求性能を満たす試験機(ETV)の実証が目的なのでしょうね。段階的に実用機開発に進展する可能性はあるかもですが。
求められている迅速性を考慮すればサプライチェーンは国内完結が前提じゃないでしょうか。本件では米本土が直接攻撃される状況は当面想定外かと思います。
一昔のアメリカ兵器には「Joint」や「統合」みたいな言葉がいっぱい付いてましたが、最近は「迅速」「低価格」が名前に入るのが流行しそう
そしてその名前を体現しているものはごく少数、みたいな
”量が独自の能力を生み出す”正しいと思いますが、それならば、防衛側も準備が必要では?。
欧州ではウクライナの次はバルト三国というのが大方の見方であるようだし。
アジアでは、米国の予想する、2027年の台湾戦役?が近づいている?し。
大量のミサイル/ドローンによる日本の防衛拠点/民間インフラへの
先制攻撃に対する防御を急いで対策/実施する必要があるのでは?。
攻撃目標の座標が知られている以上、これは避けられないように思えます。
日本海と東シナ海には、島嶼にはフラックタワー、海上には防空艦が必要では?。
などと思ったり。
防空システムの増強は急務ですが、それは事実上無理なことがハッキリしてるので、諦めてるのではないでしょうか?
結果、抑止力に全振りしているということだと思います。
明言すると、色々と面倒な突っ込みが入るのでぼかして言ってますけど。
困ったことですね。
そうなると、知られていない座標に移動しないと、でしょうか。
先島諸島の避難計画は、ほぼ、出来ているようですが、
沖縄本島から先も計画を出して欲しいものですね。
ミサイル/ドローンの発射場所と目標が判れば、
手持ちの防空兵器も有効に使えるかも、でしょうか。
>特性の異なる「高価な巡航ミサイル」と「安価な巡航ミサイル」は補完関係にあると認識しておかなければならない。
同意ですが安価な方が15万ドルを目指すって・・桁が一つ多すぎでは。ホントにウクライナ戦見てるのかと。高価な方が現行のままな以上安価な方は最低でも2桁は下げないと結局使われないのでは。そのコンセプトなら他国に安いの作られて終わりそう。
ウクライナでも、安価で行動範囲が数十kmのFPVドローンはともかく。プロペラ式の民間機のA-22フォックスバットが約9万ドル、D-80、E-300では25万ドルから45万ドルと言われてるのでそこまで高いものでは無いんじゃ無いでしょうか?
シャヘド136ですら1機13万ドルするのに、亜音速の巡航ミサイルを1桁安く作れなんて無茶言うな。
むしろこれがホントに15万ドルで出来たら拍手喝采もんだわ。
桁を二つ下げたミサイルを真面目に考えてみました
カーセンサーで20年落ちの中古ジムニーが本体価格15万円で売っているのでこれをリフトアップして爆弾を積み自動運転を付けてプリウスミサイルならぬジムニーミサイルと名付けます
空は飛べませんが500km以上巡航出来てそこら辺の整備工場で1万ドル以下で作れるのでこれでよければ大量に納入出来ると思います
Divergent Technologiesの3Dプリンタでの生産って本当にコストを削減できるのかね。
小ロットとか試作の段階での金型制作費を節約できるって言うのは理解出来るけど射出成形の方が普通は安いはず。
「民生品調達」だとまんま同じものが調達できると限らない、それにこだわると高コスト化するので、そこの差異をAM部品で納品された現物合わせで柔軟に吸収できたりすればトータルコストは下がるかも。
Divergent Technologiesの3Dプリンタ成形は金属製品が主です。
2023年8月に創業者でCEOの Kevin Czinger氏がメディアインタビューに答えているのですが、自動車メーカー(世界的OEMメーカー6社)や航空宇宙・防衛企業(米国4社、スウェーデン1社)に対し部品を供給しているとのことです。
同社は設計から始まる製造のあらゆるプロセスを変革(デジタル化)し最終製品を作りあげてると語っています。結果として同社のシステムは、どこよりも早くかつ25〜30%安価に製品を提供可能だそうです。
鋳造・鍛造では実現が難しい、積層技術でしか作れない複雑な部品をと言うのは理解出来るんですけどね。
昔、黎明期に研究で光造形技術を使用したことがありますが、ランニングコストが半端なかった。
今は金属でも安くなったのかな。
私も似たような認識だったので改めて調べてみました。
恐らく Divergent Technologies社が採用している金属3D造形方式は「DED(Directed Energy Deposition)」と思われます。
DEDの特徴として
・高い構造強度と耐久性を持つ製品の造形が可能。
・代表的なパウダーベッド方式に比べ、造形時間が圧倒的に早い。
・造形サイズは設備に依存するが、比較的大物部品の造形が可能。
・キャスト製品等既存部品に積層し、形状付加することが可能。
・造形途中に粉末を切り替え、異種金属(バイメタル)の造形が可能。
・異種金属(バイメタル)技術を応用して、傾斜機能材料の造形が可能。
造形速度はレーザー光源の出力に依存しますが、「独・フラウンホーファー研究機構」では 9㎏/時 の造形装置を開発中(2019年時点)で、さらに向上可能だそうです。
今年に入ってからロシア軍はGeran-2のロケットエンジン搭載版(Shahed-238?)の投入量が激増しているそうですが、これまでのShahed-136が最高速度200km弱だったのに対して、ロケットエンジン版は最高速度500kmだと言われています
安価、高速で対空兵器では迎撃しにくく高価な対空ミサイルを使わざるを得ない、それでいてペイロードが30~50kgで威力もある
これが記事における「安価な巡航ミサイル」の現状での最適解なのかなとは思いますね
低価格にするには同盟国にも広く販売しないと駄目ですが、現在のアメリカはトップが逆セールスを仕掛けており昔のように買ってくれる国があるか疑問ですね。
米帝様の兵器は中途半端にスマートで経済合理性が無いのよな、あと打撃力も微妙
GBU-53とか250ポンドクラスの滑空爆弾を20万ドルにしてしまうし
露のFAB1500なんかは見た目不細工だけど安そう
落とされる歩兵からしたら質量×運動量+炸薬量でたとえ妨害で多少逸れたとしても怖さが桁違い
素人考えだけどJDAMやペイブウェイに展開翼後付けでERではだめなんかな
GBU-53は航空機1機あたりの搭載量が多く、遠距離から移動目標を正確に破壊するための兵器でコンセプトがFAB-1500とは根本的に異なるので比べるのは不適当かと。
?JDAM-ERは既に開発終わってて軍に普通に納品されてて、オーストラリアがウクライナに提供して実践で使われてますよね?調べると普通にMiG-29から投下される動画有りますし。
今は更に発展型の、通常爆弾を巡航ミサイル化するPowered JDAMの開発中だった筈ですけど?
今の米国に安価で大量な兵器作れるんですかね?