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低コスト迎撃ミサイル実用化への動き、米陸軍は超短期調達を目指す

ウクライナ防衛企業=FIRE POINTはドイツ企業と協力してFP-7ベースの低コスト迎撃ミサイルを使用した防空システム実現に動き出し、米陸軍も「弾道ミサイル迎撃に対応した100万ドル未満の低コストミサイル計画」を正式化し、官僚的レッドテープを回避して超短期調達を目指している。

参考:Deutschland und Ukraine wollen gemeinsam Raketenabwehr entwickeln
参考:Army leadership invites innovators to shape the future of Air Defense at LCI Industry Day
参考:Army launches new low-cost interceptor program, targets fall for first live fire demo

LCIは官僚的レッドテープ=要求定義→設計→試作→評価→量産という承認手続きのラッシュを回避して超短期調達を目指している

ウクライナ防衛企業=FIRE POINTの共同創設者兼チーフデザイナーを務めるデニス・シュティレルマン氏はセルヒー・ステルネンコ氏の番組に出演した際「現在開発中の短距離弾道ミサイル=FP-9(射程850km)は戦闘機からの空中発射が可能だ」「パトリオットシステムで1発の弾道ミサイルを迎撃するには2発~3発の迎撃ミサイルが必要で、この迎撃ミサイル=PAC-3 MSEの価格は数百万ドルもする」「もし1発のコストを100万ドル未満に抑えられれば防空分野におけるゲームチェンジャーになるだろう」「我々は(独自のミサイルで)弾道ミサイルの迎撃を2027年末に実現させる計画だ」と言及。

FIRE POINTが開発を検討している低コスト弾道弾迎撃ミサイルはFP-7ベースで、これを使用した防空システムの構成要素をFIRE POINT単独で用意するのは難しいため欧州企業(シュティレルマン氏は番組内でWeibel、Hensoldt、SAAB、Thalesなどの名前を挙げている)の協力が必須となり、フランスのマクロン大統領は5月16日「フランスは弾道ミサイル防衛システムの開発においてウクライナと協力する用意がある」とゼレンスキー大統領に伝え、この構想の協議にはNATO事務総長と13カ国の加盟国代表が参加したらしい。

ウクライナのミハイロ・フェドロフ国防相は6月18日「ウクライナとドイツ企業が共同で弾道弾迎撃ミサイルを開発・製造し、両国の都市を守るための協定を締結した」と発表、ドイツのディフェンスメディアのhartpunktも「パリで開催された防衛見本市=ユーロサトリでヘンソルトと弾道弾迎撃に対応した防空システムにTRML-4D(IRIS-T SLM向けレーダー)を統合することを目的とした基本合意書に署名した」「ディール・ディフェンスとの間でも協議が進められている」と報じ、FP-9ベースの弾道弾迎撃に対応した防空システム構築は実現に向かって動き出している。

米陸軍も5月に発行した情報提供依頼書の中で「空中の脅威、巡航ミサイル、近距離弾道ミサイル、短距離弾道ミサイルを迎撃可能な迎撃ミサイルおよび射撃管制のトータルソリューションを求めている」「提案するソリューションはM903発射装置と統合防空向け指揮統制システム(IBCS)に統合可能でなければならない。FY2026第4四半期までに実射を含む能力実証に耐えうる技術的成熟度を備えていることが必須で、プロトタイプまたは量産レベルにおける迎撃ミサイルの単価は100万ドル未満でなければならない」「迎撃ミサイルに搭載するシーカーや射撃管制装置のコストもそれぞれ25万ドル以内でなければならない」と言及。

1発あたり100万ドル未満の低コスト迎撃ミサイルを実現させる秘訣は「低コスト迎撃ミサイルの全要素を主契約企業に丸投げする方法」を改め「低コスト迎撃ミサイルを構成する各要素(弾頭、ロケットモーター、シーカー、射撃管制装置など)に分解して専門サプライヤーに競争させる方法」を採用することで、最終的に各要素のモジュールはオープンシステムアプローチで迎撃ミサイルに統合される。

出典:SAM.gov An official website of the U.S. General Services Administration

つまり「開発プログラムを受注するとプログラム全体を所有できて製造、運用、維持、アップグレードに関する作業を独占できてしまう調達の習慣」で低コスト迎撃ミサイルを調達すれば、主契約企業は迎撃ミサイルを構成する各要素を垂直統合方式で管理して各サプライヤーの利益を守ろうとするため、米陸軍が新たなサプライヤーを製造に参加させて生産能力を引き上げたいと考えても、これを主契約企業は拒否する権利があるため、各構成要素を分解して直接管理して競わせる=民間企業が競争市場を通じて部品コストを削減してきた手法を取り入れるという意味だ。

さらに言えば「PAC-3 MSEと同様の迎撃ミサイル」を100万ドル未満で作るのではなく、PAC-3 MSEと補完関係になる「持続可能な防衛手段としての迎撃ミサイル」を100万ドル未満で作るという意味で、運用インフラもパトリオットシステムを、センサーもIBCSに統合して既存のセンサー資産を流用することでシステム全体の開発コストを圧縮するのだろう。

米陸軍は産業界向けに低コスト迎撃ミサイル=low-cost interceptor(LCI)の説明会を6月23日に開催し、ダン・ドリスコル陸軍長官「我々はペンタゴンでホワイトボードを囲み、恣意的な要求事項を練り上げるようなプロセスは取らない。代わりに『科学は何をしてくれるのか』『優れた開発者たちは何をしてくれるのか』と問いかける」「このLCIは既存の優れた防空システムを置き換えるものではない」「現在のシステムは素晴らしいものでもフェラーリのような製品で、これを補完する別の手段が必要だ」と言及。

Breaking Defenseも「ドリスコル長官は『複数の企業が各コンポーネントを提供する形態となるため、データ共有と知的財産(IP)の共有が極めて重要になる』と指摘した。IP共有の目的の一つは、将来的にLCIを陸軍のマーケットプレイスに登録し、国防総省や同盟国向けにLCIを販売できるようにすることにある」と指摘した。

出典:Brave1 Market

ドリスコル長官が言及したマーケットプレイスとは陸軍公式の調達ストアのようなもので「Amazon for war」と呼ばれており、これはウクライナのBrave1マーケットやDOT-Chain Defenceからヒントを得ている。要するに「前線部隊が直接オンラインでドローンや装備をマーケットプレイスの出店者に発注できる仕組み」で、ここでは前線部隊の兵士が当該装備の評価やレビューを行い、出店者は前線の兵士から素早くフィードバックを受けられ、当該装備の調達を検討している前線部隊は実戦の評価を見比べて比較検討できる。

ウクライナはドローンを中央集権的な調達で供給しようとしたが、脅威や技術が急速に進化して前線に到着することには旧式化してしまい、前線からのフィードバックも伝統的な兵士→部隊→軍→国防省→企業のパイプラインだと急速に進化に対応できず、企業が提案する解決策も同じパイプラインで流れるため時間がかかり、ウクライナは「現場の部隊が直接購入できる」「商用技術を素早く取り込む柔軟性」「フィードバックを即座に反映できる環境」を重視したマーケットプレイスを開設し、ドローンの更新サイクルを数週間に短縮することに成功するなど目覚ましい成果を挙げた。

出典:Генеральний штаб ЗСУ

米陸軍も従来の方法だとドローン調達に数ヶ月から数年かかるため、ウクライナが戦場で実証した迅速、分散、商用主導の調達モデルを採用して対ドローン・マーケットプレイスを2026年2月、無人機マーケットプレイスを2026年3月に運用開始し、このマーケットプレイスにLCIも登録して国防総省だけでなく同盟国にも解放することで「相互運用性を高めたい」「そのためには陸軍がLCIの知的財産権を所有し共有できる権利を持っている必要がある」「そうすればLCIを同盟国と共有できて同じエコシステムを使用できる」という意味になる。

ドリスコル長官も「今後の紛争における大戦略は互換性だ。フィンランドのような小国が米国のような大国と協力関係を築けるようにする。そうすれば我々はどの戦域にも展開することが可能になる。そこで必要なのは同盟国が我々と互換性のある装備を持っていることだ」「理論的に理想的な世界では誰もが同じ場所で調達するのが望ましい。必ずしも同じものを買う必要はないが互換性のあるものを買いたいと思うだろう」と述べており、国を超えたマーケットプレイスによる連携が可能かどうかは置いておいたとしても、急速に進化する脅威や技術に素早く適応する努力は我々の想像もつかないところまで来ているのが興味深い。

出典:Wild Hornets

ちなみにLCIの価格についても「我々の念頭にあるのはジェットエンジン搭載型シャヘドのコストを考えた時『現在の我々は脅威の阻止にいくら払う用意があるのか』ということだ。もちろん米国人の命がかかっているなら必要なものを使うけれども、量産規模で考えた時『それらに対処するために我々はどれだけのコストを許容できるのか?』だ。 そして我々の頭にある具体的な課題から『25万ドル』という価格が導き出されたのだが、その価格に縛られるつもりはない。もし誰かが28万ドル、42万ドル、61万ドルで適切な答えを持ち込んできたなら我々はそれを買うだろう」と述べており、情報提供依頼書で言及した数字はあくまで目安だ。

米陸軍は7月にLCIの技術提案書(回答期間は4週間)募集を開始し、120日以内に実射を含む選定や評価を完了させ、2027会計年度が始まる10月1日に合わせて新規契約の予算を執行し、仮に提案された技術成熟度が実用化レベルであれば開発フェーズをスキップして即量産へと移行することも視野に入れており、LCIは官僚的レッドテープ(要求定義→設計→試作→評価→量産という一連の承認手続きの殺到)を回避して超短期調達を目指しているのも興味深く、この点はFIRE POINTのシュティレルマン氏が言及していたことに通じるのがある。

FIRE POINTが開発した戦術弾道ミサイル=FP-7の調達コストはATACMSの約半分=50万ドル~75万ドルで、シュティレルマン氏はFP-7の調達コストを語る際「兵器の価格が高価になる大半の理由は官僚的な手続きのせいだ」「これはFIRE POINTだけではなく世界の防衛企業に共通する負担だ」「ボーイング747は構想から最初の商業飛行まで6年、エアバスA380の場合は25年もかかった」「これは全て官僚的な手続きのせいで、誰にも必要とされていない書類を作るため無数のエンジニア、弁護士、マネージャーが必要になる」「さらに手続きに必要なテストにも何年もかかり、この全てのコストが最終価格に加算されるのだ」と指摘。

ウクライナ当局は2022年9月「兵器の実用化や導入にかかる1年半〜2年の承認手続きを数週間~数ヶ月に短縮する」と、2023年3月「数ヶ月間を要する書類審査からドローン製造企業を免除する」「ドローン製造企業に対して25%の利益率を保証する」と、2023年10月「国防省は開発された製品テストを完了後『最大10日間』で部隊配備を承認する」と発表し、シュティレルマン氏は以下のように述べている。

出典:Denys Shtilierman

“政府が長距離攻撃兵器に『官僚的な手続きが極限まで簡略化されたドローン審査の枠組み』を適用したのは正しい判断だった。FIRE POINTは全ての製品をドローンとして登録している。FP-5もFP-7も書類上は全てドローン扱いだ。今の我々に古い開発手法の手続きを行っている時間的余裕はない。もし軍の官僚主義が作り出した規則に従っていたら、我々は未だにFP-1のテストを行っているだろう”

シュティレルマン氏はステルネンコ氏の番組の中でも「FP-7は書類上『弾道ミサイル』ではなく『弾道ドローン』として登録している」と強調しており、恐らく「ウクライナで開発すれば兵器の実用化にかかる官僚的な手続きを大幅に圧縮できるため、弾道ミサイル迎撃に対応したミサイルを100万ドル未満で作れるかもしれない」と言いたいのだろう。

関連記事:米陸軍、弾道ミサイル迎撃に対応した100万ドル未満のミサイルを要求
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※アイキャッチ画像の出典:Lockheed Martin

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コメント

  • コメント (17)

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    • 名無し
    • 2026年 6月 24日

    なんなんだろう、この、イランが作ったら成功するけど、アメリカが作ったら失敗する香りしかしない製法は?

    16
      • 名無し
      • 2026年 6月 24日

      イランのテクノロジー頂点は偽造テレカ

      2
    • リンゴ
    • 2026年 6月 24日

    日本が新時代の戦場環境に適応する為には、まずはその官僚主義をどうにかしないと相手の技術進化のスピードについていけなくなる
    特に仮想敵が中国なら、資金力と人海戦術で予想も付かない進化を遂げて来る可能性大だし

    13
    • ブルーピーコック
    • 2026年 6月 24日

    スカンクワークスというかベン・リッチが求めていた『官僚的で煩雑な書類の山』からようやく開放される時が来るのか。
    仮に飽和攻撃されたとして、ヤバそうなのはPAC3で、そうでもないのはレーザーや低コストミサイルで迎撃できるなら、それに越した事は無いわな。

    5
      • 名無し
      • 2026年 6月 24日

      ​「お役所の手順なんて官僚的で煩雑な書類の山を避けて、安く、迅速に作るぞ!これがデジタル世代のアメリカの作り方や!」
      「ということで、今日作るのはこれ!KC-46空中給油ブームのRVS2.0化!」

      13
        • ブルーピーコック
        • 2026年 6月 24日

        Hey,bro!デジタルエンジニアリングだって!?そいつはクールだ!
        それでコイツとT-7A配備と月への移住は、どれが最初に終わりそうなんだい!?

        14
    • たむごん
    • 2026年 6月 24日

    ウクライナの成功事例は、1つの成功事例として。

    ウクライナが戦時体制・軍事物資調達に、国民理解や政治の後押しがあるうえに、アメリカと違って物価が安い国というのもあります。

    アメリカでも、ウクライナのようにやろうという心意気は素晴らしいものですが、本当に100万ドル未満で弾道ミサイルの迎撃ミサイルを調達できるのか興味深いですね。

    10
    • まめ
    • 2026年 6月 24日

    マーケットプレイスは評価者、つまり市場が有って初めて成り立つもの。対極が米軍でユーザーが数名しかいない。
    現場に直結してるから改善要求が出るのであって、そんなに頻繁に現場が発生しない米軍に評価力があるのか?
    口うるさい顧客になる顛末しか見えない。

    メーカーと並行して、工廠でもLCIを製作しこの実証を繰り返さないと無理なのでは?
    実戦が即実践であり実験である戦場とは状況が違う。

    9
    • 58式素人
    • 2026年 6月 24日

    ”PAC-3 MSEと同様の迎撃ミサイル」を100万ドル未満で作るのではなく、
    PAC-3 MSEと補完関係になる「持続可能な防衛手段としての迎撃ミサイル”
    日本も何かしら考えた方が良いのかしら?。考えているのかな?。
    03式中距離地対空誘導弾(改善型)能力向上型、が回答なのかな?。
    安価とは思えないけれど。

    3
    • 山田さん
    • 2026年 6月 24日

    言うは易し、行うは難しの典型例に思えるけど、平時の国家が出来るものなのかね?
    官僚的な手続きだって、進捗の可視化や責任の明確化、設計段階での抜け漏れを防ぐことを目的に実施されてるわけで、その手続きを経なかった事によって起きる不祥事を、平時の国家って許容出来ないと思うんだけど。

    17
      • 一般人
      • 2026年 6月 25日

      そうなんですよね。
      軍事費ってお金の出所が税金(国民)なわけで、国民は税金が全く適切に使用されることを要求しますし、官僚はそれをを証明できなければいけません。
      誰にも必要とされていない書類というのは厳密に適切であることを証明するための書類だと思います。
      手続きや書類を省略したらそれこそ密室で決められているとの誹りを免れないでしょう。

      5
      • 名無し
      • 2026年 6月 26日

      なんで官僚的な面倒があるのかといえば、そりゃ元手は税金で、税金の使いみちは国会のネタになるからだからな
      戦時で何でも許されるとか、野党がいない独裁制とか、そういうのだから好き勝手できるだけで…

    • 名無し
    • 2026年 6月 24日

    取りまとめる側の能力が高くないと失敗する案件の様な気が

    5
    • ななし
    • 2026年 6月 25日

    >「低コスト迎撃ミサイルを構成する各要素(弾頭、ロケットモーター、シーカー、射撃管制装置など)に分解して
    >専門サプライヤーに競争させる方法」
    要するに下請けいじめと、入札が成立するといいね

    3
    • Kaeru
    • 2026年 6月 25日

    官僚的な手続き云々関係なくどんどん私腹を肥やすのが民間企業だと思うんだけど…
    アメリカの保険とか医療はまさにそうなってるじゃん
    特に軍事なんて大して競合相手がいない分野ならなおさらでしょ
    安いのは最初だけだよこんなの

    13
    • 一般人
    • 2026年 6月 25日

    >官僚的レッドテープ(要求定義→設計→試作→評価→量産という一連の承認手続きの殺到)
    さすがに違うとは思いますが、要求定義→設計→試作→評価→量産という流れ自体が官僚的だとも読めます。
    それは間違っていて、物を作るならほぼこれは必須です。
    これを官僚的だから省略するとなったらそれこそまともに動きません。
    ・要求定義を省略 →「なんに使う変わらない」
    ・設計を省略   →「なんかわからないけど動く」
    ・試作、評価を省略→「多分これで動くはず」

    6
      • 七志
      • 2026年 6月 25日

      確かにそうとも読めるけど、以降の文中に誰にも必要とされない文書を作るために云々、とあるように、そのプロセスは正当だけども、文書体裁がどーのこーの、言葉選びがどーのこーの、みたいな上司に決裁を受けるための文書を作り、各タイミングごとにいちいち縦上がり式に上がっていくことがムダってことではないでしょうか。

      5

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