ドリスコル陸軍長官は「請負企業から装備品の修理権を取り戻す」と述べて注目を集めたが、出演したTBPNのポッドキャストで「改革に適応出来ず主要企業が防衛分野から撤退しても構わない」「トランプ政権は改革のための痛みを容認している」「変化を始めなければ死が待っている」と述べた。
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陸軍の改革は戦車大隊廃止を含む海兵隊の部隊再編計画=Force Design 2030より大胆なものになるかもしれない
ヘグセス国防長官は今月1日「包括的な改革」を陸軍長官に命じ、ハンヴィー、JLTV、M10 Booker、ストライカーの調達中止、AMPVの調達削減、AH-64DとGray Eagleなどの旧式機材の廃止、無人戦闘車輌=RCV計画の中止、新型自走砲を巡る競争の一時停止などを発表もしくは噂されているが、米シンクタンク=American Enterprise Instituteは8日「2027年に向けた陸軍の大改革が始まった」「現在の陸軍と2027年の陸軍は全く異なる構造になる」「今後の投資はミサイル防衛、長距離攻撃能力、電子戦、AIが優先される」「既存の契約も全て見直され内容が書き換えられる」と指摘。

出典:U.S. Army photo by Bernardo Fuller
既存の契約を見直す最大の理由は「修理に関する自由裁量権」の獲得で、陸軍は企業と締結した契約によって「現場で対応可能な部品の修理や整備問題も全て製造元に依頼する」と義務付けられており、ドリスコル陸軍長官も「農家がトラクターを勝手に修理できなくて苦労しているが陸軍にも同じことが当てはまる」「修理に必要な部品を3Dプリントで安価に作成できると知っているし、そのための3Dプリントも持っているが、その権利を自ら放棄してしまった。私はもう同問題で民間企業に譲歩するつもりはない」と述べた。
M10 Bookerが調達中止になる要因の1つにも「修理に関する自由裁量権」が挙げられ、ドリスコル陸軍長官は「修理権が制限されると請負企業の利益は増大するが、国防総省の負担額も上昇し、装備を修理して任務に備える必要がある兵士の待ち時間も長くなる」と指摘し、この問題を長年訴え続けてきたウォーレン上院議員も修理権獲得への動きについて「何十億ドルもの資金を節約出来るようになる」「我々は現場で対応可能な修理に100倍の料金を支払っている」「修理するため本土に装備品を送り返して何ヶ月も時間を無駄にする時代は終わった」と歓迎し、海軍長官と軍事海上輸送司令官にも同様の措置を講じるよう求めている。

出典:U.S. Army photo by Cpl. David Poleski
さらにTBPNのポッドキャストに登場したドリスコル陸軍長官は「今後2年間の改革中に主要企業の1つが防衛分野から撤退しても、残りの企業が強化されるなら成功と見なす」と述べた。
“現在の状況について伝統的な防衛産業企業が誤解しているのは、トランプ大統領やヘグセス国防長官が改革のため一時的な痛みを容認してる点だ。私の予想では(伝統的な防衛産業企業は)今後数日、数週間、数ヶ月以内に新しい状況へ対応し、変化を始めなければ死が待っていることをに気づき始めるだろう。我々は国家として彼らを救済するつもりは全くなく自らの力で成功して欲しい。数年以内に陸軍へ販売できるシステムは素晴らしいものだけしか残らない。なぜなら、そうでないシステムを購入するつもりはないからだ”

出典:U.S. Army photo by Markus Rauchenberger
Breaking Defenseは「もう大手元請企業は救済されない」「効率的な運営が出来ないなら撤退しても構わないと考えている」「大手元請企業も改革の嵐をやり過ごしたり、ロビイストを動員して議員を動かすことで乗り切ることが出来ないと気づき始めている」と、American Enterprise Instituteで上級研究員を務めるフェラーリ元陸軍少将も「今回の改革で印象的なのは米本土防衛と中国への対応に最適化された状態の追求、特に伝統的な武器システムからドローンとAIに軸足を移していること」と指摘し、陸軍の改革は戦車大隊廃止を含む海兵隊の部隊再編計画=Force Design 2030より大胆なものになるかもしれないと予想している。
因みにドリスコル陸軍長官はRCVについても「これは素晴らしい無人車輌だ。でも800ドルのドローンで300万ドルの無人車輌を破壊することができるのか? これでは計算が合わない」と述べており、陸軍は新たに新型ヘリ用エンジン=T901の開発、RQ-7Bの後継機調達計画=FTUASへの投資を中止すると発表し、新しいビジョンに適合しない計画や「2027年」という目標設定に合致しない計画をどんどん切り捨てていくつもりだ。
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※アイキャッチ画像の出典:US Army Photo by Joseph Cooper
今回の改革が上手く行ったらアメリカの防衛産業の強化や軍隊の強靭化に繋がるかもしれませんが、正直トランプ大統領の動きを見ていると失敗しそうで不安ですね。
生き残った企業は迷走してアウトプットできず、評価はどうであれアウトプットできていた企業は撤退するという最悪なシナリオを想像してしまいます。
陸軍長官、管理人様の一連の記事を見ていると、サンクコストを恐れずに大胆に切り込んでいますね。
ドローン・無人機による破壊に言及しているようですが、ある程度壊れる前提で割り切って考えるのか少し気になるところです。
今は米陸軍の話だが、これが空軍もとなったとき、ボーイング社は大丈夫なのかな?
トランプ政権は妙にボーイングだけ甘い所がありますからね……
米国総務省が航空機の部品に関税かけようとする動きがあるし、軍事関係なしに収益悪化でドボンしてもおかしくない
>「変化を始めなければ死が待っている」
>「これは素晴らしい無人車輌だ。でも800ドルのドローンで300万ドルの無人車輌を破壊することができるのか? これでは計算が合わない」
ブラウン米統合参謀本部議長をクビにしても、やってることは彼の名言「Accelerate Change or Lose(変化を加速せよ、さもなければ負ける)」を地で行くところが、なんとも面白い。
久しぶりに、アメリカが頼もしく感じられます。
アメリカさんは昔から、一度負けたと認めたらその後の改革と巻き返しが凄まじいもんね。
実際に成功するかはともかく、現状に不満がある者たちからすると頼もしく見える…革命家…
この件は企業から兵器を軍管理に戻すという100年以来の革命で、成功を期待してしまいます。
数年後、海外からの購入が増えて
トランプが勝手にブチ切れてるアホ展開しか見えない…
「大半の企業が適応できずに米軍需産業が崩壊」
という未来までは見えた
潰れる企業は兵器廠として国が飲み込むつもりだったりして
それってどこのボーイング?
まさに「破壊と再生」を地で行く改革だ
しかし失敗したらぺんぺん草も生えない事になるけど、そんな事を考えてるうちは改革は出来ないんだろう…
空中給油機と練習機も廃止しろ
投資用資金をAIとドローンにぶっ放すつもりだろう
戦争の形が変わりつつある
30年までには実用的なAIを積んだ無人機が当たり前になりそう
車の自動運転だって安全性の確保で遅れているだけで、走って曲がって止まるだけならもう実用性は十分だろうし
上手く行けば本当にMake Army Great Againになるかもしれない
失敗すれば5年単位で摩耗・陳腐化した戦力が手元に残り途方に暮れることになりますが果たして
アメリカは利益が望めるなら新興企業がバンバン参入してくるので可能性はゼロじゃない…筈
300万ドルの無人車両…
やっぱ無人兵器は低コストで数揃えれないとね
本邦が無人地上兵器を量産するなら安くて銃で打たれても壊れないカブをベースにすればいいと思います
トラクターに代表される農機の修理権に絡めているのが面白い。
修理権、特に農機の修理権についてはバイデン政権時代に取り組まれた問題であり、第二期トランプ政権での軍備調達の理屈付けが接続しているのは興味深い。
軍事・防衛装備についてトラクターの修理権と同列に論じていいのか議論があるとは思うが、メーカー側にとってメンテナンスサービスの効率化を迫られるという文脈で見るとそれなりに合理的な気もする。
メンテナンスコストを下げた分を新規調達やアップグレードに再配分するなら好循環に繋がるかもしれないですね
そもそも修理権の獲得で実際にコスト削減出来ればの話ですが
電動歯ブラシを愛用してますが、毎日使うと考えると本体はかなり安いんですが、ブラシがめちゃくちゃ高いんです。なので、安いサードパーティのものを使っていますが、これをやられるとメーカーは
①本体を高くして本体でしっかり利益を出す
②諦めて他の商品を作る
になる可能性が高くなると思うんです。
気が付いたら本体を作れるメーカーが脱退して、ブラシしか作れないメーカーが残る…て事にならないか心配します。
革新的な兵器を作ろうと思ったら、やっぱり投資は必要ですけど、躊躇するメーカーが出て来てもおかしくは無いんじゃないでしょうか?
とはいえ、車メーカーやボーイングみたいに守りすぎると技術の停滞や、短期的に儲かればいいと言う株主向けにアピールが上手い経営層で技術者ないがしろ、にもなるんで匙加減が難しいですよね…
ウクライナやロシアのように眼の前の現実に創意工夫でとりあえず対応する必要があったり、そもそも人命が安い国ならばともかく、人命の値段が高く、はじめから高度なものが要求されるアメリカだと失敗が許されないので、改革も何もはじめから高度な要求の実現のために膨大な時間とコストをかける以外にないのでは…
トランプはとにかく軍事予算を削りたいんでしょうね
今後は近代化をしつつ軍隊の規模を削っていくと思います
日本でもこれ位出来れば理想的だけど無理だろうね。自体隊こそ禄なアップデートもしないような正面装備ばかり揃えるべきじゃないと思うし。
米軍に関しては仮想的であるロシアがウクライナとの戦争で戦い方も新兵器開発のレベルアップしているように実戦を経ずにレベルアップする為にはこれ位の荒療治は必要だろう。そしてロシアを通じて戦訓や提供した部品や装備のフィードバックを受けられる中国の事を考えるのなら尚更足踏みをしている暇はない。
懸念点が有るとすれば旧来兵器の過剰と思われる部分を削減する流れが正解であるのかだと思う。少なくとも調達廃止対象のハンヴィは米軍だけで20万両を超え、JLTVだって既に米陸軍だけで12000両を超え、ストライカーシリーズはトータルで2500両ある以上はロシア並の無謀な運用による損耗をしない限りすぐに機能不全を起こすとは思えない状態ではある。
数を減らす事で1両あたりの装甲強化なりAPSやRWS装備による質の向上を図れる可能性はあると思うし、浮いた予算で別の新たなニーズに沿った新型車両の開発も有り得るかも知れないので悪い話ではないと思う。
安価で費用対効果の高いUAVの使用や高価であろうが命中率や殺傷能力が高いスマート弾薬等の推進をして無誘導は減らし現状より更なる量より質の流れになりそうな感じを受ける。露宇戦争では質より量も戦訓としてあるからこの試みがどうなるかは気になる所ではある。
仮にこの野心的な試みが失敗したとしても、世界有数の兵器保有数があるのだから過去の資産を食い潰す事で時間稼ぎをする余地は有ると思う。
関税以外は産業政策はやらないねトランプ政権も
防衛産業の経営が腐ってるのはたしかだけど指導行政による綱紀粛正じゃなく企業ごと放り投げるのはアメリカらしいな
バンス副大統領やルビオ国務長官とかのリフォーモコンは市場原理に否定的で産業政策の導入を唱えてるけどトランプ大統領はやっぱ関税以外は自由競争主義者だな
けど製造業の地力が失われてる状態でレッセフェールがはたして上手くいくかね
そして誰もいなくなったとならなければいいけど
トランプ大統領お気に入り投資銀行の出身の陸軍長官で、海軍長官や海上輸送司令官が特に反応してないあたり色々と察せられるものがある
というか陸軍の一番のお得意さんであるジェネラル・ダイナミクスって、実は米海軍の方が取引額がデカい(陸軍の3倍)だから、海軍長官説得しないとろくに相手してもらえないんだろうな
米陸軍は新しいドクトリンは決まったのかな。できれば、公開して欲しいものです。
現在進行形で(ウクライナで)変化が起こっているから、まだ、体系化されてないかな。
軍人ではないメーカーに、ドクトリンの開発を押付けているようにも見えるけれど。
別に、長年の慣習と既得権益の否定というならば、それはそうとも思いますが。
ある意味、責任転嫁にも見える。暫定でも、明確な開発指針は必要なのでは?。
安い物ではないのだし。
空軍については聖域の企業は残るんですね。他の人も言ってますが
スタバッティ社:いよいよ俺達の時代だな!😤
まずはストラマを正式採用、いずれはSM-39も…
企業の儲けと、軍の運用の効率性という観点、どちらを優先するべきか、という問題が出てきた感じですね。
軍の運用を優先して修理とかの金を軍内で完結すると、企業の収益が落ちるから、技術開発が遅れる可能性もある。
企業の収益を優先すると、ロビー活動とかで軍が必要としないものを利益優先で入れられる可能性もある。
しかし、中国を見ていると汚職、停滞の可能性はあっても、国営企業で利益をある程度考えないで開発や生産を進めたほうが効率的な気がする。
ただ、それをすると国防費が跳ね上がる(企業が今までやっていた生産コスト等が直撃する)から、民主主義国家では到底できない気がする。
本邦では到底できないだろうなぁ。
完成品作る三菱重工とかの工場を国営工廠に組み込むのはコストが掛かりすぎるから、先端兵器に必要な小規模部品メーカーを国営工廠にして、最終組立のメーカーに安く納品できるようにして、メーカーの部品納入コストを下げて低価格でもメーカーの利益を確保してあげる、とか?
原資が無いな…………