米国関連

ノースロップ・グラマン、TB2クラスの無人機向け精密誘導弾薬が実戦配備に近い

ノースロップ・グラマンは23日「Group3の小型無人機向け精密誘導弾薬『Hatchet』が実戦配備に近づいている」と明かしており、Group3はTB2クラスの無人機なので非常に興味深い傾向だ。

参考:Ready Now: Hatchet Completes Live Drop Testing

もしかするとTB2が切り開いた小型UCAVというジャンルに米国も進出するのかもしれない

自衛隊の試験導入が決まっているトルコ製UCAV「バイラクタルTB2」は競合する米国、欧州、中国を打ち負かしてクウェートから受注(3.7億ドル)を獲得、これでTB2の導入国は28ヶ国に増加したため海外メディアも大きな関心を寄せているが、ここまでTB2が海外市場で大きな支持を得ているのはMQ-9とほぼ同等の滞空性能を備えながら機体単価が500万ドル以下と安いためだ。

出典:Baykar

先に説明しておくとUCAVとは「武装可能な無人航空機」という意味で、特にTB2は2020年のナゴルノ・カラバフ紛争で装甲車輌を多数破壊したため「近接航空支援=対地攻撃」としての役割に注目が集まっているものの、滞空性能を生かした情報収集・監視・偵察・ターゲティング(ISRT)任務、ハードポイントにSIGINTポッドを携行すれば通信・電磁波・信号情報の収集、見通し通信による戦術通信の中継などにも使用でき、最近ではUCAVにソノブイ・ディスペンサーポッドを携行させて対潜戦や合成開口レーダー(SAR)を搭載して機雷戦に活用する国も登場している。

つまり有人機のマルチロール機と同じで「装備変更による複数任務への対応」がUCAVの魅力なのだが、なぜTB2がMQ-9よりも機体単価を抑えることに成功したかは「コンセプトの違い」に秘密があり、MQ-9は有人機が携行するヘルファイア、Paveway、JDAM弾を使用するため機体サイズもエンジン出力も大きなものを採用、一方のTB2は中高度を長時間飛行するUCAVに最も重要なのは「滞空性能」で「有人機向けの兵器運搬能力は不要」と判断して機体サイズもエンジン出力も小さなものを採用した。

出典:TÜBİTAK Savunma Sanayii Araştırma ve Geliştirme Enstitüsü Bozok TB2に搭載可能な新型レーザー誘導爆弾Bozok

ただTB2による近接航空支援を完全に捨てたわけではなく、無人機向けの小さな精密誘導兵器「MAMシリーズ(滑空式の誘導兵器で最大到達範囲は8km~14km)」を用意することで地上目標に対する十分な攻撃能力(地上建造物を破壊するといった本格的な対地攻撃能力はない)を確保しており、このコンセプトが結果的にTB2の機体価格を大きく引き下げることになったのだ。

UCAVは撃墜されるリスクの高い空域での任務にも投入しやすいというのも魅力の一つだが、4,000万ドル(2021年度の調達実績では4,940万ドル/米空軍)を超えるMQ-9を気軽に消耗できる国は少なく、TB2のコンセプトはロシア(Orion)、中国(CH-92A)、アラブ首長国連邦(Reach-S)、エジプト(Thebes-30)、パキスタン(Shahpar-2)なども取り入れており、小型UCAVというジャンルはほぼ確立されたと言って過言ではない。

出典:EDGE Reach-S

そしてノースロップ・グラマンもTB2クラスの小型無人機向け精密誘導弾薬「Hatchet」が「国防総省の演習で何度もテストされ実戦配備に近づいている」と明かした。

Hatchetは無人機を性能別に5段階に分類した無人航空機システム=Unmanned Aircraft System:UASのGroup3(重量約600kg/作動高度約5,480m/作動速度460km以下)向けで、米陸軍がRQ-7Bの後継機として採用したJump20(RQ-7Bの後継機選定はIncrement1とIncrement2に分かれていてIncrement1枠としてJump20が採用されただけでIncrement2は別の機種になる可能性もある)に統合されているらしい。

恐らくHatchetは超小型の精密誘導兵器(動画に写ったサイズは両手で持てそうなぐらい小さい)なので非装甲車輌や対人攻撃を目的にしたものかもしれないが、Group3向けの無人機に攻撃能力を持たせるというコンセプト自体はTB2の成功に影響を受けている可能性が高く「興味深い傾向」と言えるだろう。

もしかするとTB2が切り開いた小型UCAVというジャンルに米国も進出するのかもしれない。

関連記事:RQ-7B後継機選定の前哨戦にJump20が勝利、革命を起こすと評されたV-Batは敗退
関連記事:対潜戦のコスト削減が可能に? 米海軍がMQ-9を活用した潜水艦狩りをテスト
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関連記事:ドバイ航空ショー、躍進するUAEの防衛産業企業「EDGE」がUAVを発表

 

※アイキャッチ画像の出典:Northrop Grumman

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コメント

    • 鼻毛
    • 2023年 1月 24日

    そういえば最近ウクライナに新しいTB2を送りましたのニュースを聞かないですねぇ

    8
      • samo
      • 2023年 1月 24日

      ロシアの対空レーダーが、TB2等の小型ドローン向けの周波帯を発見したらしく、それに最適化されてしまって、ロシア勢力圏への侵入が困難になったって話らしい

      9
    • ぬるぽ
    • 2023年 1月 24日

    でもお高いんでしょう?

    10
    • あああ
    • 2023年 1月 24日

    これMAM-Cの半分の重量なのでちょい大きめのクアッドドローンでも投下可能な翼付き誘導爆弾でしょうか。TB2のようなMALE機より更に小型機志向です。シャドー後継の旅団偵察機レベルでの搭載を想定してるというならこんなサイズ感にもなる。
    規模が規模なので威力はさほど期待できないならコスト優先で弾数を使えて攻撃単位で自爆無人機を優越しようという試みかと思います。歩兵大隊で無人機火力を標準化するなら弾薬はこんな規模でしょう。点目標に軽迫10発分の戦果を1発で出せるなら継戦能力は向上する。FOはより近距離用の無人機でも足る。超小型無人爆撃機の爆誕ですかね。

    9
    • すっかり寒くなりました
    • 2023年 1月 24日

    こういうほぼ対個人レベルの小型誘導弾薬が当たり前に頭上行き交うとなると防空の方もブレイクスルー欲しいですよね。

    8
      • おわふ
      • 2023年 1月 24日

      最終的には歩兵も大半はロボット化するんじゃないですかね。

      1
        • 土建業
        • 2023年 1月 25日

        歩兵が人間なのは、ロボットだと、砂や泥水、隠密行動中の機械作動音や低温や高温といった気象条件によっては実用性が乏しいからでは?
        多関節ロボットなんて、泥水被ったら直ぐ不具合。
        低温で凍結すれば、固まる。
        瓦礫を乗り越えての移動は困難。
        人間は万能なロボットになる。
        歩兵になる兵士は可哀想です。

        4
          • pyr
          • 2023年 1月 26日

          ソフトアクチュエーターの発展次第ではありえる?

        • k.ziro
        • 2023年 1月 25日

        将来的にはボストンダナミクスのスポットを一回りでかくしたような地上戦闘用ロボットが出てくると思っています。
        歩哨時には変形して2足歩行できる感じでどうですかね?

        1
    • 黒丸
    • 2023年 1月 24日

    無人機に対する制空権を喪失したら地上戦で敗北する時代ですか
    部分的に無人機に対する制空権を失っても人的損害が小さくなるように
    地上も安価な無人兵器だらけになりような気が

    • 2023年 1月 24日

    日本にも中多っていうドローンに最適な小型ミサイルがあるんですけど
    肝心なプラットホームの方がお寒い現実が・・・

    3
    • 58式素人
    • 2023年 1月 24日

    JDAMのその後の話が出てこないのですが。
    素人としては、2000lbの物を持ち運んで、クリミア大橋や
    黒海に跋扈するロシア艦を攻撃できる機体を見てみたいです。
    衛星経由の誘導でJDAMを誘導できる形で。

    1
      • トーリスガーリン
      • 2023年 1月 24日

      っB-21無人ver

      2
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